↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カゴノトリ ―Another Sky―  作者: 灯夜 雪
第五章 運河の街コロラータ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/95

第48話 「ただいま」

「マジで……ここ、どこだよ……」


僕は精霊の森を何時間も歩き続けていた。

日はすっかり落ち、森は静寂に包まれている。


不幸中の幸いか──マナが豊富なこの森では、苔が緑に淡く光り、魔石や魔石化した木々や草花からも細かな青色の粒子が発せられていた。


お陰で足元は見やすく、周囲も昼間ほどでないにしてもよく見える。

光魔法を使って照らす必要もなさそうだ。


僕は脚を引きずりながら、杖をついて、一歩、また一歩前へと進む。

しかし、普通に歩くのとは全然違い、一歩が小さ過ぎる。

これでは夜明けまで掛かってしまう。


その上、完全な迷子だ。

この森は思った以上に広いみたいだ。


僕は一度止まり、呼吸を整える。


「クソ……こうなることを想定して、何かしろの準備もしておくべきだった……」


実際に怪我をし、遭難して、初めて己の準備不足や、読みの甘さを思い知らされる。

そう思うと、やっぱり聖明は凄い人だったんだな、と改めて感じる。


旅路でどれだけ遠くの町や小さな村でも迷うことなく歩いていた。

しかも、地図を見たとしても出発する時だけだった。

方向感覚が優れているのか、それとも何かの魔法を使っていたのか、どれだけ深い森や山でもちゃんと目的地まで着く。


想定外の天候不良や、道中の道が無くなったとしても、適切に対処をし、迂回路も決めて進んでいた。


「……そう言えば聖明ってやたらサバイバル得意だよな……」


僕より体力ないくせに、自然の中で生きる術をやたら知っている印象だ。

野宿が続いて食材が心許無くなっても、川で魚を獲り、森に入れば果実や木の実を見つけ、草が生えていれば食べれる野草や花を採取する。

食べれる動物がいれば、魔法で捕まえ、手際よく捌き調理までする。


……あれ?聖明って医者だよな?


「んっ!?」


聖明のことを考えていたら、ふとした違和感が僕の背筋を撫でた。

嫌な予感がして、僕はゆっくりと後ろを振り返る。

すると、僕が落下した時にぶつかった岩がそこにあった。


「……え?嘘でしょ……?」


歩き続けていたはずなのに戻ってきてきた……?


でも、それにしては変だ。

足を引き摺って歩いていた分、周辺を警戒し、景色をよく意識して見ていたし、戻ってきたのなら流石にすぐ気付くはずだ。


─一体、何が起きてるんだ?


僕は更に警戒して、辺りを見回す。

すると──森を漂うマナの粒子の中に、一際大きく光る存在が幾つも漂っているのに気付く。


「げ……まさか……ウィル・オ・ウィスプ……?」


聖明が言っていた。

夜の森や沼地、墓場などに現れ、道に迷わせたり、底なし沼に誘い込んだりする厄介な存在だと。

ピクシーと違って交渉はできず、悪意の塊でもあると聞いた。

もし、見かけてしまったら全力で逃げろとも言っていた。


聖明がそう言うほどの存在だ。


ウィル・オ・ウィスプが目前にいるということは、僕は“危険な場所”に誘われたの……?


その可能性を感じた瞬間、一気に冷や汗が身体全身から出るような思いだった。

そして──背筋に冷気を感じゾクリと身体が跳ねる。


──女の啜り泣くような声が、僕の背後から聞こえてきた。


僕は恐る恐る振り返る。


そこには──乱れた長い髪、白い肌。

白いローブのようなワンピースに身を包んだ“女性のような”何かが佇んでいた。

しかしそれは、幽霊のように足がなく、全身が透けていて、向こう側が見えていた。


その周囲には青白く光るウィル・オ・ウィスプたちがふわふわと漂っている。


──何だこれ……精霊の類か?

いや、それにしては気味が悪過ぎる。


泣き声が聞こえているのに、口元は酷く歪んで笑っている。


逃げたほうがいい!

でも、今の足では到底逃げ切れない。


倒す……?

いや、倒すにしても知識がない。

どう対処するべきか検討さえつかない。


頭の中が混乱していると、その存在がゆっくりと天を仰いだ。

そして──幽霊のような女性の背後に現れたのは、大きな時計のような魔法陣。


「は!?魔法!?」


秒針がカチッと音を立てて動いた。

僕は思わず息を呑む。


……まさか、タイムリミット系の魔法?


秒針が一つ動いた。

あと三回動けば秒針は真上を向く。


本能的に危機感を感じ、僕は声を出していた。


「マズい!これは本気でヤバい!

《風よ、切り裂け!風の刃(グラディウス・ウェンティ)》!」


慌てて詠唱する。

普段なら無詠唱で出せる魔法さえ、今は声にしないと落ち着かなかった。


けれど──風の刃は勢いよく飛び出ても、その存在をすり抜け、向こう側の木々を倒しただけだった。


まったく通じない。

そして、更に秒針が一つ進む。


「……勘弁してよ!」


僕が叫んだ時だった。


「風真!!!」

「え……?」


聖明の声が聞こえ、空から光り輝く剣が三本、目の前の幽霊に突き刺さる。

それが効いたのか、幽霊は激しく泣き叫び始めた。


「風真、無事!?」


目の前に降り立ったのは、見慣れた背中──聖明だった。

その声色から今は男性姿だとわかる。


「えっ、聖明!?なんで……?」

「帰りが遅いから心配で来ちゃった」


そう言いながら、彼は空中に光の剣をさらに五本も展開する。

見たことない魔法の僕は驚いて声を漏らす。


「えっ……聖明、光魔法……使えたの?」


「うん、使えるよ。闇以外でも全属性使える。

光魔法が使えないと回復魔法も使えないでしょ?

幾ら闇魔法医療医師でも、回復魔法が一切使えないのは問題だ。


まあ……今は『闇魔法は使うな』って言われてるのもあるけどね。


それに、相手は『バンシー』だからね。

光属性じゃないと通らない」


バンシー!?

それを聞いた瞬間、背筋が凍る。


バンシーは『死を予告する妖精』だ。

闇魔法を扱える存在で『死の宣告』を与え、魂を奪っていく存在だ。


さっきの時計は……僕に“死の予告”をしていたのか……。

恐怖に腰が抜け、地面に座り込む。


「風真は休んでて。さっとやっつけちゃうから」


呑気に微笑む聖明。

しかし、バンシーは秒針を進めて聖明を指差す。


「あっ、聖明!秒針が……!」


ちょうど秒針が真上を向いた瞬間、何かが聖明に向かって貫通した。


「聖明!!!」


堕天使でも死ぬことってあるの!?

僕はそんなことを頭に浮かべながら焦って聖明の名を叫んだ。


「ん?何か当たった?」


よかった……。

どうやら無事だったらしく平然と首を傾げるだけ。

バンシーも指先と聖明を見比べ、何やら焦っている。


「あ、もしかして 死の宣告した?


はは!効かないよ!

寿命ある者にしか通じない魔法だからね。


そもそも死の宣告とは、精神干渉系の闇魔法の一種だ。

脳に直接『死んだ』という暗示を掛けることで肉体に影響を与え死に至らしめるという魔法だ。


私たち堕天使は不老不死の上に精神干渉は基本的に効きにくいからね!

バンシーは敵じゃないんだよ」


ニヤリと歪んだ笑みを浮かべる聖明。

慌てたバンシーが幾つものも時計を出して、聖明に向けて魔法を放つ。


「だから効かないよ」


聖明は宙に浮き、更に光の剣を展開し、宙に浮かせる。

その際に聖明は呟くように言葉を漏らした。

その表情は少し悲しそうだった。


「……やっぱり“君”ほどの数は出せないね……」

「……聖明?」


聖明は呟いたあと、剣を一斉に振り下ろす。

剣が次々とバンシーに突き刺さり、ただでさえ半透明の姿は歪み、崩れていく。


「──これで終わり!」


最後の一撃で、バンシーは空気に溶けるように消え、完全に消滅した。

周辺を見渡すと、ウィル・オ・ウィスプも姿が消えているようだった。


目の前の彼は闇魔法を使わずとも、圧倒的な力で敵を制してしまった。


……やっぱり聖明は凄い。


聖明は静かに地面に着地すると、僕の元に駆け寄る。

僕の足を見て、慌ててしゃがんだ。


「風真。足を怪我してるね。見せて」

「あ、うん……」


僕はその場に座り、添えていた木の枝を外す。

太腿まであるブーツのジッパーを下げて足を出すと──足首全体が赤黒く腫れ上がっていた。

自身の足ながら痛々しい見た目に思わず引く。


「少し触るよ?」

「いっ!?」


少し触れられただけで激痛が走り、声にならない悲鳴を上げる。

聖明は僕の足首を確認するように触ったあと、小さく唸りながらも冷静な様子で、魔法陣を展開した。


「……折れてはいないね。

風真、体力に自信あるなら治癒魔法で無理やり治せるけど……どうする?


治癒魔法は、身体の自己再生能力を無理矢理高めて、即座に治す魔法になる。

この場合、一次的な体力の消耗が激しい。

多分、明日丸一日は怠くて動けなくなると思う。


普通に治そうと思うと……この怪我だと全治一ヶ月前後かな。

もう少し掛かるかも」


「い、一ヶ月……!?」


そんなに……!?

流石にそんな長い期間、使い物にならないのは困る!

ただでさえ、入院中の聖明が、僕を助けに来ているんだ。

さっさと直して、聖明が気がれなく休めるようにしたい。


「聖明、お願い!治しちゃって!」

「わかった。結構痛いけど……我慢してね」


聖明の手元の魔法陣が強く輝き、同時に足に激痛が走る。


「ひぃいいっ!!」


変な声が出るし、涙まで出る。

それでも、しばらく耐えると痛みが和らぎ、聖明の顔が見えた。


「もう少しだからね」


聖明は真剣な表情で、魔法を展開し続けてくれる。

淡い緑色の粒子が仄かに輝き、足を包み込み続ける。

じんわりと熱く感じる。


「……聖明。その、助けてくれてありがとう……。

入院中なのに、無理させて……ごめん……」


僕は申し訳なくなり、聖明に謝る。

聖明のためにと思って頑張ったのに、結局、手を煩わせてしまった。

もう少し色々できると過信してたせいもある。


まだまだだな……。


「大丈夫。無理なんてしてないよ。

風真が無事でいてくれたことの方が、ずっと大事だからね。


……さ、立ってみて。

もう歩けると思うよ」


言われるがままに立ち上がると、嘘のように痛みが消えていた。


「おお……ちゃんと治ってる」

「うん、よかった」


僕は足を確認しながら靴を履き、装備を整える。

身体は怠いけど、動けそうだ。


「よし、聖明。もう大丈夫!ありがとう!」


「うん、でも無理はしないで。

治癒魔法は体力も削るから。それに足以外も怪我をしてそうだ。

帰ったら改めて全身チェックしようね」


「うっ……よろしくお願い致します……」


全身打っているから、服を脱いだらあちこち痣になってそうだ。

きっと聖明だけでなく、シルロ先生もビックリしちゃうだろうな。


そんな未来を予想し、僕は申し訳なくなる。


「風真、私の近くにおいで。

今日は転移魔法で診療所に帰ろう」


そう言って、聖明は唐突に僕を抱き寄せる。

男性姿の聖明は身長が高いせいで、僕の頭なんてすっぽり彼の胸に収まってしまう。


「聖明!?近いってば!」

「良いから、離れないで」


そう言うとギュッと腕に力を入れられ、逃げられそうにない。

僕は恥ずかしさを感じながら仕方なく抵抗をやめる。


前から思ってたけど、聖明って本当に人との距離感おかしいと思う……っ!


「聖明……家族でも距離感ってあると思うんだ……」

「じゃあ飛ぶよー」

「ちょっと!話を聞いて!」


そんなやり取りの最中に聖明は転移魔法を軽々と使い、僕の視界が歪む。

目眩のような錯覚を覚えたあと空気が変わり、気付けば診療所の出入り口前。


……とんでもない魔力量だ。


一気に二人も転移させてしまうなんて。

しかも、無詠唱で魔法の精度が僕とは段違いだ。


僕の思考なんてお構いなしに、聖明は僕から離れると手を握り、引っ張るように歩くと、扉を開ける。


「シルロ先生。ただいま戻りました」


聖明は一言そう告げると振り返って安心したように微笑んだ。


──まったく、聖明には敵わない。


僕も聖明に続き、無事を告げるように大きな声を上げた。


「シルロ先生!ただいま!」


奥からシルロ先生が出てきて「おかえりよの!」と元気に返事してくれた。


──今日は色々あったけど、帰ってこれて良かった。


僕は聖明の手をギュッと握りしめたまま、心からそう思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。