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カゴノトリ ―Another Sky―  作者: 灯夜 雪
第五章 運河の街コロラータ

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第46話 アース・ドラゴン

「おお!アース・ドラゴンっぽいの発見!」


僕は白い木の上に登り、少し開けた場所を見渡していた。

よく見ると周りと雰囲気が少し違う箇所がある。


魔石の結晶が地面から生え、草花も茂っているけど、周囲とは土の色や質感が違う。

土の隙間から覗く宝石のような何かが、太陽光を反射してキラリと輝いている。

大きさや範囲的にもアース・ドラゴンと合致しているように感じる。


「近付いてみるか」


僕は身体強化と風魔法で一気に地面まで飛び降り、軽々と着地する。

先ほど確認した場所まで、風魔法と防音魔法を使いながら、極力気配を殺して近付いていく。


徐々に近寄り、大きな岩場の影まで辿り着いた。

岩場の先には、木の上から確認したアース・ドラゴンの擬態した甲羅が見える。


──さて、これからどうする?


鱗を取るためには地面に埋もれた本体を出さなくてはいけない。

そうなると、少なからず表に引き摺り出すために刺激を与える必要がある。

となれば、確実に敵と見なされ、戦闘になるだろう。


聖明ならともかく、僕の魔法では甲羅の魔法を打ち破ることは難しい。

だからと言って物理攻撃も跳ね返されるだろう。


そう考えるとトレントのように倒すことを目的にせず、目標の鱗だけを奪い、逃げることを考えたほうがいい。


地面から出し、どうにか懐に入り、脚の鱗を引き千切って逃げる。

それが僕が可能な手段だろう。


しかし、温厚な部類とはいえ、相手は魔法生物の中でも上位種に該当するドラゴン。

簡単にはいかないだろうな。


「僕……覚悟決めろ……」


僕は小さく呟くと、気合を入れて魔力を練る。

身体強化、防御力強化、風魔法による見えない鎧──できる限りの魔法で自身を強化する。


「よし!!!」


僕は高く宙に飛び上がり、アース・ドラゴンの近くに拳を振り下ろす。


「おりゃああああ!」


地面が割れ、アース・ドラゴンの顔が地中から出てくる。


「ガアアアアアアア!」


ドラゴンは突然の攻撃に咆哮し、地面から這い出てきた。

そして、鋭い眼光で僕を捉えると口を開ける。


「え!?」


口に魔力が集まり、そのエネルギーが光線となって飛んでくる。


「マジか!!!」


僕は風魔法で宙を蹴り、身体強化で素早く避ける。

光線が放たれた先にあった岩や木々は円を描いて消えており、プスプスと焦げたような煙を放っている。


げっ!あれは一撃でも当たったら大怪我だ!

というか、死ぬ!


僕は態勢を立て直し、大きく深呼吸をする。

相手の動きは遅い。


首の向きだけ気を付けて、一気に懐に入る!

そうしよう!


僕は勢いよくドラゴンに駆け寄る。

すると先程の光線が次から次へと飛んでくる。


思ったより連射速度が早い。

僕は全身を使いながら避けつつ、どんどん近寄っていく。

たまに光線が髪や服をチリッと掠め、そのたびに冷や汗が出る。

しかし、ここで狼狽えたら、それこそ死ぬかもしれない。


僕は自身の前に風の防御壁をいくつも展開しつつ、更に進んでいく。

ドラゴンが光線を蓄え始めたタイミングで、短い足の下にスルリと入り込み足を掴む。


「ごめん!」


僕は持っていたナイフで大きな鱗を一枚剥ぐことに成功する。

痛かったのか、アース・ドラゴンが激しい咆哮を上げる。


僕は急いでドラゴンから距離を取るため、慌てて逃げの姿勢に切り替える。


するとドラゴンは大きな雄叫びを上げ、ドスンと音を立てながらその場に倒れ込んだので、もしかして!?と思い振り返る。


「やったか!?」


手には鱗があり、透明感ある赤色が宝石のようにキラッと輝いている。

ちゃんと手に入れたことに少し安心する。


「ガアアアアアアアッ!」

「なっ!?」


急な咆哮に驚いていると、アース・ドラゴンは更に大きな声を上げ、甲羅の上に乗っていた魔石や草花が弾け飛び、甲羅が激しく光る。


「え、何!?」


光が収まると、身体から力が抜け、付与していた魔法が全て解除されていることに気付く。


「げっ!?魔法無効化!?」


とんでもない隠し玉に、僕は一瞬にして血の気が引く。


慌てる僕に対し、アース・ドラゴンのギロッとした目が僕の方を向く。


僕は慌てて身体強化を掛け直そうとするが、魔法を阻害されているのか上手くいかない。


──あ、これ、全力で逃げたほうがいいやつだ。


再び光線が容赦なく、飛んでくる。

僕は必死になって光線を避けながら走り逃げる。


「うわああああっ!ごめんってばあああ!!!」


マズイマズイマズイ!!!

魔法もなしで攻撃が当たれば確実に死ぬ!


僕は死ぬ物狂いで走っていると、楽しそうな声が聞こえる。


『この前の人間だ!』

『楽しそうな遊びしてる!』

『またお菓子持ってないかな?』

『今日はキャンディーがいいわね!』


声でわかる。ピクシーが傍にいる。

ここは一か八か──僕は交渉を持ちかける。


「君たち!キャンディーをあげるから、僕を安全な場所に連れていって!」


今日は念のためポーチにキャンディーを忍ばせている。


姿が見えないし、交渉としてはお粗末なものだけど──死ぬよりはマシ!

悪戯ぐらいなら甘んじて受け入れてやる!


するとピクシー達の笑い声が響く。


『やった!』

『キャンディー大好き!』

『この人間を違う場所に持っていけばいいんだね!』

『適当に飛ばしちゃえ!』


とんでもない言葉に驚いて声を上げようとした瞬間──急に足が宙に浮き、勢いよく空に吹っ飛ぶ。


「うわあああ!?」


とんでもない上空まで打ち上げられ、一瞬何が起きているか分からなかった。


『キャンディーありがと!』

『またね!』

『次はスコーンがいいわ!』

『チョコもいいなあ』


そんな賑やかな声が響いたと思うと気配が消える。

そして──僕の身体は高い空の上で自然落下を始める。


まさかの空中で手放されたらしい。


「ちょ、それは、死ぬってええええ!」


僕は叫びながらも必死に魔力を練る。

アース・ドラゴンから離れたお陰か、今度はちゃんと魔力が応えてくれた。

地面に激突する寸前、風魔法を全力で打ち出し、落下速度を相殺する。


しかし、あまりの勢いに身体は地面へ投げ出され、ゴロゴロと転がり、最後には大きな岩に全身を打ち、やっと止まる。


「──いったああああ!!」


僕は思わず痛みで叫んだ。

でも、意識もあるし、死んでもいない。


「あ!鱗!」


当初の目的を思い出し、手に持っていた鱗を確認する。

本能的に庇うように持っていたようで、鱗は奇跡的に無傷。

僕は思わず安堵の息を吐く。


「はああ……よかった……」


そう思ったのもつかぬ間。

全身を強く打ってしまい、鈍い痛みが全身を襲う。

思ったよりも身体が上手く動かせない。


「しくったなあ……」


呑気にそんな言葉を漏らし、とりあえず鱗をポーチに押し込む。

同時にポーチ内にあったはずのキャンディー袋を確認すると、中身は見事にカラ。


どうやらしっかり持っていたようだ。


「ピクシーと交渉する時はもう少し気をつけよ……」


聖明から忠告を受けていたのに、このザマだ。

咄嗟とは言え、やはりピクシーは怖い存在だな、と身をもって実感する。


僕は痛みが少しでも引くのを待った。

徐々に打撲の痛みにも慣れ、動けるかと思い立ち上がろうとする。


「うっ!」


しかし──右足を地面に着いた瞬間、足首に激痛が走った。

どうやら激しく捻ったようだ。


「クソ……ここから帰るのは……大変だな……」


空に打ち上げられたのもあり、現在地が分からない。

転移魔法を使いたくても魔力が少ないから発動は無理だ。


僕は現実的な手段として、木の棒を添え木にして、持っていた紐で足首を固定する。


物理的な手段だけど、何もしないよりマシだ。


治癒魔法が使えればよかったんだけど、現在練習中でまだ使えない。

こんなことであれば、もっと早く会得しておくべきだった。


僕はそんな後悔を胸に、大きな木の枝を棒代わりに掴み、覚束ない足取りで歩き始める。

念のため、周囲に風魔法による探知魔法を張り巡らせ歩くことにした。

こんな状態で凶悪な魔法生物と遭遇したら、それこそおしまいだ。


「はあ……これは聖明に心配かけちゃうな……」


そんな罪悪感を抱きながら、僕はヨタヨタと棒を支えにし、精霊の森を進み始めた。


夜までに帰れると良いな……。

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