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カゴノトリ ―Another Sky―  作者: 灯夜 雪
第四章 エクソシスト

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第36話 深夜の討滅任務

エクソシスト南東支部から出ると、空はすっかり暗くなり夜になっていた。

吹き抜ける風がほんのり冷たい。


僕たちは討滅任務が行われる現場へ向かうため、歩いていた──はずなのだけど、僕は少し困っている。

支部から離れた場所で、聖明が急に背後から抱き着いて来たと思ったら無言のまま動かなくなってしまった。


因みに案内役だったはずのダルカス少佐と言う人物の案内は聖明が断っていた。


「聖明……どうしたんだよ……。

そろそろ行かないと不味いんじゃない?」


僕は左肩に顔を埋めている聖明の頭を撫でてみる。

すると聖明が凄く小さな声でポツリと呟いた。


「……帰りたい」


その声は今にも泣きそうだった。

先ほどのムーアとか言う男が嫌だったのかもしれない。

あの腹立たしい態度だけじゃなく、聖明はセクハラもされてたわけだし……。


あれだけ凛として、僕でさえ怖くなってしまうような態度でやり合うことができるのに……聖明は僕が思う以上に泣き虫みたいだ。


こんなすぐ泣きそうになるような人なのに、よくあんなふうに立ち回れるなと感心する。


僕は困り果てながらも聖明の頭を撫でていると、聖明の影から女性のリリーが出てきた。

そして、僕の肩からそっと聖明に手を差し伸べる。


「聖明、もう大丈夫ですよ」

「リリー……」


聖明は僕からやっと離れ、代わりにリリーを抱き締める。

リリーは優しく微笑みながら、大きな子供のような聖明の背中を擦る。


「次にあの豚さんが触ってきたら私がブチのめしてあげますからね」

「……うん」


何気にリリーの言うことが過激で、僕は何とも言えない視線を送ってしまう。

そんな僕の視線に気付くこともなく、リリーは聖明の頬を包むように両手を添えて、聖明と額をつけて話す。


「聖明、大丈夫。私が影から守っていますから」

「……うん。分かったよ、リリー。もう少し、頑張ってくるね」


まるで母親に諭される子供のようだと思った。

聖明は自身を落ち着けるように深呼吸すると、先ほどの様子が嘘みたいにいつもの穏やかな笑顔を見せる。


「ごめんね、風真。行こうか」

「う、うん」


切り替えの落差に、聖明って多面的だよなぁ……とか思ってしまう。

聖明の笑顔を確認するとリリーは再び聖明の影に沈み、隠れてしまった。


僕たちは気を取り直し、森の中を歩いていく。

森は魔導ランタンと呼ばれる照明器具が、所々の木に吊るされ、足元を照らしていた。


聖明は迷うことなく森の中を歩き進め、そして少し空が開けて見える場所に到着した。


「……お待ちしておりました。聖明様。

改めまして、エクソシスト南東支部第二部隊所属、討滅部隊隊長・少佐ダルカス・オルネです」


白い軍服を身に纏ったダルカス少佐は、僕たちを出迎えるように一歩出てから、そう挨拶をする。

しかし、支部内にいた時に比べ、気の抜けたような声と、崩れたような姿勢での敬礼は明らかに僕たちを小馬鹿にするような表情を見せていた。


その様子に、聖明も思うところがあったのだろう。

対抗するように無駄に妖艶な笑みを浮かべて応じる。


「今日はよろしく頼むよ。

ああ、言い忘れていた。この少年は私のパートナーだ。

間違えてでも攻撃を当てるなよ」


紹介を受け、僕も形だけではあるけど会釈する。

何となく分かってきたけど、聖明って嫌なことがあると、無駄に色気のある笑みを見せるんだよな。

今だって多分、ダルカス少佐に苛ついたんだと思う。


聖明は妖艶な笑みを見せたまま、艷やかな男性の色気を出したような声で話し続ける。


「あなたたちが討滅を終えるまで後方支援をさせていただく。

内容は──闇の影響軽減及び、闇による負傷への干渉・回復です」


そして、聖明は一呼吸を置き、意味ありげな含みのある言葉を続ける。


「通常の外傷については、そちらの医療班にて対応をお願いします」


ダルカス少佐は眉間をピクリと動かし、目を細めながら口を開いた。


「……承知した。

通常医療はこちらで受け持とう。だが、こちらも人手不足だ。

貴殿も自身の安全は自ら守っていただきたい」


聖明が言っていたように、ここは聖明を守ってくれる人はいなさそうだ。

それに──どう見ても歓迎されていない。

ダルカス少佐の背後に控えるエクソシストたちは聖明を睨むような視線を向け、支部の中同様に、ヒソヒソと噂話をし、隠そうともしない。


本当に腹が立つ。

聖明が堕天使だからこんな不当な態度をとってもいいとか思っているんだろうか。


先程まで泣きそうな声で僕に抱き着いていたんだ……。

僕は心配になって聖明を見上げる。


しかし、彼はそんな弱い心を一切感じさせない妖艶な笑みで「承知していますよ」なんて答えている。


そんな聖明の言葉に、ダルカス少佐は形だけの敬礼をし、部隊の列へと戻っていった。

その背を見送りながら、僕は小さな声で聖明を呼ぶ。


「聖明……」

「大丈夫だ」


聖明はそう言って僕の頭をクシャリと撫で、笑った。

さっきまで抱き着いてたくせに……急に子供扱いだ。


聖明は気分を切り替えるように深呼吸をすると表情が一変する。

凛とした真剣な眼差しで前方を見据えた。


「……来たな」

「え!?もう!?」


確かに聖明は会議室で説明は不要と言ったけど、現場に来てから何の打ち合わせもしていなければ、何の情報も貰っていない。


僕は慌てて聖明の前に立ち、周囲を警戒する。

すると──


「魔物が現れました!」

「総員、配置につけ!!」


ダルカス少佐の声が響き渡り、エクソシストたちは整列する。

前衛はそれぞれ武器を手に持ち、戦いに備え構える。


「……魔法武具による戦闘か。まあいい。風真、守りは頼む」

「うん!」


聖明に頼まれ、緊張で喉が鳴る。

不穏な沈黙の中、聖明が静かに呟いた。


「──我、ここの支配者なり」


その声が響いた瞬間、空気が凍りついた。

風が止まり、世界から聖明以外の音が消えた気がした。


「我が声は絶対の支配。我が闇は絶対の力」


赤黒い魔法陣が辺りを包むように出現し、淡い光が森を照らし始める。


「従え──《絶対服従領域アブソルートリー・オビディエンス・エリア》!」


赤黒い魔法陣が一際光り輝き、赤い粒子が辺りを包み込む。

この魔法はジャンヌさんの夢の中でも見たことがある。

けれど、具体的な効果は僕はまだ知らない。


エクソシストたちも、やはり何の魔法か分からないようで、ザワザワと驚きの声を上げ、明らかに動揺していた。


そんな落ち着きのない様子を見て、聖明は呆れたように呟く。


「まったく……本当にエクソシストか……?」


次の瞬間、聖明が手元に小さな魔法陣を展開したと思ったら、空気を吸い込み大きな声を上げた。


「私は闇魔法医療科カゴノトリ所属の堕天使、聖明・紅だ!

お前たちが受ける闇は、全て私が引き受ける!

お前らエクソシストなら、迅速に討滅してみせろ!」


凛とした声が空気を震わせ、全体に轟いているようだった。

聖明の声に驚いたエクソシストたちはざわめくのも忘れ、静まり返る。


しかし、ダルカス少佐は、こちらを一瞥し、大きな舌打ちを放つ。

聖明の言葉が気に食わなかったんだろう。

対抗するように声を張る。


「堕天使に構うな!我々の目的は変わらん!総員、掛かれ!」


次の瞬間、暗闇から一斉に魔物──ダークウルフが次々に現れ、鋭い牙と爪でエクソシストたちに襲い掛かる。


──戦闘が始まった!


周辺を見ていて僕はあることに気付く。

会議室では小さいと言われていたダークウルフは、どう見ても二メートル越えの大きさを誇っている。

その禍々しさに僕は内心ギョッとする。


聖明も気付いているのか、いないのか……顔色一つ変えないまま、僕に指示を出す。


「……風真、私たちに防御魔法を」

「わかった!」


僕は地面に手をつき、意識を集中する。

今の僕が展開できる得意属性での防御魔法。


「鉄壁の守り、来る者を拒む、切り裂け、守れ!

《風の防御 (ウェントゥス・デフェンシオ)》!」


風が渦を巻き、僕たちを包み込む。

僕は魔力が揺らがないように細心の注意を払い、できるだけ強固に維持する。

すると──聖明がふっと微笑んだ。


「上出来だ」


その表情に、思わず彼の赤い瞳から目を離せなくなる。

やっぱり、聖明の目って凄い綺麗なんだよな。


そんな僕の思考を遮るように叫び声が周辺を包む。


「うあああああっ!」


前方でエクソシストの隊列が崩れ、一人──また一人と噛まれて倒れていく。

噛まれた人の身体には赤黒い茨のような模様が浮かぶ。

あれは──闇の刻印だ。


「何をやってるんだ……っ」


聖明の舌打ちと、地を這うような低い声に、僕は思わず肩を震わせた。


あ……聖明、真面目にキレてそう……。

まあ、キレたところなんて見たことないけどさ。

何となくそんな気がした。


「……仕方ない」


小さく呟くと、聖明の魔法陣が一際強く、赤黒く輝く。

すると驚くことに噛まれた人の身体から、闇の刻印が粒子となって消えていった。


「刻印が……!? 消えていく……!」


エクソシストたちは目を見張り、ざわついた。

僕でさえ驚き、言葉を失った。


「油断してる暇があったら隊列を組み直せ!!

怪我人は後方に下がり、医療班の治療を受けろ!!」


怒号を飛ばす聖明に、エクソシストたちはビクッと反応しながらも、素早く動き始める。


そんな光景が気に食わなかったのか、今回の討滅任務の隊長でもあるダルカス少佐が苛立った表情で、こちらに近付いてくる。


「堕天使!どういうつもりだ!?

今回の指揮権は隊長である私にある!何を勝手に……!」


聖明はわざとらしく大きな溜息をついた。


「ならば、さっさと指示を出せ。

お前の判断が遅れれば、割を食うのは部下たちだ。

実際に隊は乱れ、怪我人も出始めている。


私は最初に言ったはずだ。

“通常の怪我はそちらで対処していただきたい”と。


私は“闇”は引き受けるが、“怪我”までは治せない。

死ぬ前に対処するんだな」


僕は黙って聖明の隣に立つけれど……正直、今の聖明は怖い。


ダルカス少佐は怒りを抑えきれず、わなわなと拳を握りしめていた。


「お前は──っ!」

「……後ろから来るぞ」


ダルカス少佐が反論しようとしたその瞬間、僕たちの背後からダークウルフが三体、同時にこちらへ飛び掛かってきた。


僕はすぐに防御魔法に意識を集中し、風の壁を強化する。

接触したダークウルフは、その風に裂かれ、血を撒き散らしながら後方へ吹き飛ばされた。


ダルカス少佐は僕の防御結界の外にいたため、自ら剣を抜き、雷を纏わせて応戦する。


ダークウルフの一体と刃を交え、隙を突いて蹴り飛ばし、斬りつけた。

しかし、傷は浅かったらしく──ダークウルフは赤く光る目を輝かせながら再び牙を剥く。


「クソ!……なぜ後方から現れるんだ!?確かに前方に誘導したはずだ!」


……なんて、ご丁寧に説明してくれる。

それに対して、聖明はシレッと言い放つ。


「……堕天使である私がいるんだ。回り込んでくるに決まっているだろ」


聖明は呆れたように溜め息を重ねる。


「魔物相手にこの程度とは……怠いな……」


そう漏らした瞬間、聖明の足元から黒い影が茨のように広がる。

その影は瞬く間に形を変え、僕たちを囲んでいたダークウルフをまとめて串刺しにした。


「な……っ!?」


ダークウルフたちは苦悶の声も上げられず、粒子となって崩れ落ちていく。

それを目の当たりにしたダルカス少佐は、尻餅をつき、青褪めながらも聖明を睨む。


「……気持ち悪い。まるで悪魔じゃないか……っ」


あまりに酷い言葉に、一瞬にして僕の感情が爆ぜた。


「助けてもらっておいて何言ってんだよっ!」

「……風真」


聖明に肩を掴まれ、制止される。

僕は握り締めた拳を振り上げないよう、どうにか留まった。


「いいんだ。これが“普通”の反応だ」

「でも……!」


こんなのが“普通”なんて、僕はどうしても納得できなかった。

助けてもらった相手に、こんな目を向けるなんて──こんなこと!


「た、隊長!数が多過ぎます!」


隊員の一人が負傷した腕を押さえながら駆け寄ってくる。

左肩からは血が滲み、顔色も悪い。


「くっ……!何をしている!小隊規模なら問題ないはずだろう!

魔物五十体程度に何を手間取っているんだ!!」


「し、しかし想定よりも大きく、しかも素早くて!」


「言い訳はいい! 隊列を立て直せ!!」


混乱する現場に、聖明は額に指を当てて頭痛を抑えるように頭を軽く振る。

僕も周囲を見渡して、隊員たちのまとまりのなさに不安を感じ始める。


……エクソシスト討滅任務ってこんなもんなの?


僕の疑問に答えるように聖明が言葉を漏らす。


「……これは駄目だな。基礎基本すらできていない」

「なにっ!?堕天使風情が何を分かったように!」


聞こえていたのか、ダルカス少佐が怒鳴りつけてくる。

聖明は表情ひとつ変えずに彼に問う。


「エクソシストはパートナー制が基本だろう。

なのに、なぜパートナーと共に動かない?

なぜ背を預け合わない?


隊長であるダルカス少佐も、碌な指示を出さず、周囲を把握することもせず、私に怒鳴り散らすだけの無能だ。

……死にたいのか?」


思ったより辛辣な言葉の数々に「うわぁ」と心の声が漏れそうになる。


「な、何っ!?わ、私たちには私たちのやり方が──」

「黙れ!!!」


聖明の怒号が空間を震わせ、辺りの空気を一変させる。


「これは“義務”であり“規定”だ。

パートナー制度を無視している時点で論外。

この件はカゴノトリ総指揮官として、正式に国に報告させていただく」


冷たい視線で睨みつける聖明に、ダルカス少佐はようやく不味いと感じたらしく、黙り込んだ。


「……風真」

「な、何?」


聖明は少し困ったような顔で僕を見た。


「……必ず守ってね?」


その一言に僕の鼓動が高鳴るのを感じた。


一瞬、何のことか分らなかった──でも、聖明の言葉に応えなきゃ!


そんな気持ちで僕は力強く頷いた。

彼は再び凛とした雰囲気を纏い、前を向いて声を張り上げる。


「今から魔物を一掃する!総員、怪我人を迅速に運び出せ!

退避優先だ!巻き込まれても、知らんぞ!」


そう叫ぶように告げた後、聖明は空を仰いだ。


刹那──夜空が赤く染まり始める。

黒雲が渦巻くように立ち込め、空気そのものが震えだす。

そして──聖明の表情が狂気の色に変わる。


「あははは!消え失せろ!──《血のブラッド・レイン》!」


空に魔法陣が一瞬輝き、雷が鳴り響く。

そして──ぽつり、ぽつりと赤い水が降り注ぎ始めた。

その血のように赤い雨は、大地で暴れるダークウルフたちを狙うように素早く降り注ぎ、触れた瞬間に貫いたと思ったら、身体を腐蝕させていく。


湯気と共に肉が溶け、焼きただれ、ダークウルフは次々に崩れていく。


その凄惨な光景に、エクソシストたちは怯え、叫び声を上げながら逃げ惑う。

見ている僕も、口元を押さえてしまうぐらいにはグロテスクな光景だった。


……暫くお肉が食べられなさそう。


「……あまり歩き回るな。これは操作が難しい。当たっても、知らないぞ?」


そう警告した直後、更に激しさを増した血の雨が広範囲に降り注ぐ。

その中を逃げ惑っていたエクソシストの一人にも、赤い雨が降り注いだ。


「あああああああっ!!」


雨が降り注いだ足は、血に染まり、肉が焼けただれて崩れ落ちる。

その壮絶な光景に、僕は思わず吐きそうになり、遂にえずいてしまった。

鼻を刺す、血と焼け焦げた肉の混ざった匂いが周辺に充満している。


「だから言ったのに」


冷ややかに呟く聖明の声は、まるで感情を切り捨てた氷の刃のようだった。


これが──闇魔法医療科カゴノトリ総指揮官、聖明・紅の姿。


やがてダークウルフたちは一体また一体と姿を失い、最後の一匹が崩れ落ちたその瞬間──。



──パチン!



聖明が指を鳴らすと、地面に広がっていた魔法陣がパリンと砕ける。

黒雲は瞬時に晴れ、夜だったはずの空は朝焼けへと変わり始めていた。

どうやら、想像以上に時間が経過していたらしい。


僕も聖明を守っていた防御魔法を解き、周囲を確認する。

周辺では、ボロボロになったエクソシスト達が、どうにか肩を寄せ合い立ち上がっている。


「ひっ……ば、化け物!」


そう叫ぶエクソシストの視線の先には、淡い朝日の光に照らされた聖明の姿だった。

漆黒の髪が風に揺られ、どこか現実離れした雰囲気が、不思議と目を引く。

エクソシストたちは怯えながら、畏怖と怒りの入り混じった目で聖明を睨み付ける。


僕は咄嗟に聖明の前に立つ。

でも、聖明は嘲笑うかのように笑い声を上げると冷ややかな声で言い放つ。


「……化け物で結構。さっさと治療でもしてろ」


威圧的な声に、彼らは青褪め、逃げるように退き始めた。

ダルカス少佐も一言物申したそうに口を開きかけたが、聖明の眼光に押され、無言のまま視線を逸らして去っていった。


僕は思わず感情的になって言葉を発していた。


「なんだよ、あいつら!」


まあ、確かに聖明も無茶苦茶やったとは思う。

でも──誰がどう見たって聖明がやらなきゃ、全員魔物にやられていた!


──ドサッ。


僕の背後で何かが倒れるような音がした。

僕はハッとして振り返ると、聖明が地面に膝をついた。


「聖明!?」

「……ごめん、風真……少しの間、周囲の警戒を……」


苦しそうに呼吸をする彼の顔には、闇の刻印が浮かび上がっていた。


──まさか、闇が暴走しかけてる!?


「聖明!発作が……っ!」

「くっ……闇魔法を使い過ぎた……」


顔を歪めながらも、聖明は僕を安心させようと無理に笑おうとする。

その痛々しい姿に胸が締めつけられた。


「聖明!移動しよう!」


そう告げた瞬間、聖明の影からリリーが女性姿で現れる。


「手伝います」

「うん!お願い!」


僕は彼の手を取り、リリーと一緒に左右で肩を貸して、近くの木陰まで運ぶ。

触れた身体は異様に熱く、明らかに発熱している。


木の幹に背を預けるように座らせる。

その時には聖明の身体は女性になってしまっていた。

しっかりとした造りの軍服というのもあって、少しは胸の膨らみが隠せているけど……あまり他者に見せては不味いと思い、僕は上着を脱ぎ、聖明の胸元に掛けると、視界を遮るように立つ。


そして、リリーは聖明の額や首を触り、熱を確認しているようだった。


「僕に……僕にできることは……!?」

「……私の腰のポーチに、薬がある。それを……」


僕は慌ててしゃがみ、聖明の腰にあったポーチを開く。

その中には、試験管のような容器に入った二種の液体があった。

キラキラと光る液体と、青く澄んだ液体があった。


それぞれ一本ずつ手に取り、聖明に渡す。

聖明は黙ってそれらを受け取ると、順に口に含み、ゆっくりと飲み込む。


「は……暫くすれば、落ち着く……。

風真、リリー。ありがとう……」


そう言って、聖明はいつもの優しい笑顔を見せた。

その瞬間、僕は聖明の言っていたことにやっと気付く。


『必ず守ってね?』


あの言葉は魔物から守ってくれという意味だけじゃなかったんだ。

きっと、あの人たち……人間そのものから、守ってほしかったんだ。


だって、エクソシストたちはずっと聖明に敵意を向けていた。

きっとあんなんでは何を言っても逆効果だ。


だから──聖明はわざと悪役をするように立ち回ったんじゃないだろうか?


僕は──聖明を守れたんだろうか?


「風真」


僕の不安を見透かしたようなタイミングで、聖明が名を呼ぶ。

彼女は、どこか困ったような──それでも穏やかな笑みを浮かべて言った。


「もう少しだけ、付き合ってくれる?」

「え、でも……討滅は終わったんじゃ……?」

「……ちょっとした報告が残ってるんだ」


苦しそうにしながらも、どこか企んでいるような表情。

何を考えているか見当もつかないけど、僕は素直に頷いた。

僕はどんなことでも最後まで付き合うつもりだ。


「僕にできることなら、頑張るよ!」


「うん。引き続き……護衛を頼みたい。

できればリリーもお願い。私一人では怖いんだ……」


僕とリリーは顔を見合わせた後、二人で頷いた。


次こそは、あいつらから──ちゃんと守ってみせる。

僕は心の中で、強く、そう誓った。

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