第29話 魔女の処刑
──どうしてこんなことになってしまったのだろう。
大きな街の中央広場。
所狭しと六階建てほどの集合住宅が立ち並び、広場には黒いタキシード姿の人々が不自然なほど整然と列をなしている。
彼らは処刑台を取り囲み、沈黙したまま一点を見つめる。
処刑台中央には石造りの十字架に縛り付けられた金髪の女性。
彼女の目は黒いマスクで覆われ、声が出せないように口枷が括り付けられている。
そして──彼女の足元には薪が積まれていた。
「私はエクソシスト軍部・第六部隊所属──シャルル・ロワール!」
白い軍服を身に纏った男性が松明を片手に大きな声を上げる。
印象的なミントグリーンのボブヘアーと左目を覆う眼帯が目を引く。
その後ろに茶髪の頼りなさそうな男性がソワソワとした様子で佇んでいる。
「この悪しき魔女──ジャンヌ・ダルクは、悪魔と契約をした魔女であり、無垢な魂を狩り、悪魔に献上した!
よって、エクソシストである私がこの魔女を法に従い、火炙りの刑に処す!」
広場に集まった人々は無言のまま、大きな拍手を響かせる。
まさに異様な光景だった。
だが、そんな空間を壊すように、別の声が広場に響き渡る。
「──判決に異議あり!」
人々のざわめきの中、俺は周辺を見渡す。
この声は──聞き覚えがある。
「先輩!あの建物の上です!」
茶髪の後輩が、とある集合住宅の屋根の上を指さした。
俺は彼の指の先を視線で追う。
そこには──
「我ら闇魔法医療科カゴノトリの権限により、魔女を患者として引き渡すよう要求する!」
漆黒の長い髪を靡かせ、血のような赤い瞳を細めて微笑む男。
あいつは──知っている。
闇魔法医療科カゴノトリの総指揮官──聖明・紅!
三年以上も姿を消していると噂されている人物が、何故こんなところにいる!?
「魔女が患者だと?ふざけるな!何人死んだと思ってる!?」
俺は堕天使であるあいつが嫌いだ!
天使のくせに悪魔と同じように闇を自在に操る。
何故、あのような異端者がエクソシストに在籍しているのか理解ができない。
あいつこそ、我々エクソシストに討滅されるべき存在だ!
「聖明、話すだけ無駄だと思うよ」
紅の後方で控えていたであろう銀髪の少年が声を上げる。
……あの少年は誰だ?
紅のパートナーは総指揮官代理のはずだ。
「ん〜それもそっか。
風真、私が飛ばすから彼女を連れてきて。
私が傍に行くと危なそうだからさ」
「うん、そうだね。僕が行ってくるよ」
屋根の上にいる二人組は、俺のことなんて眼中にない様子で呑気に会話をしている。
「おい!話を聞け!」
俺は苛立ちのあまりに二人に怒鳴るように叫ぶ。
刹那──少年の姿が消えた。
そして、驚くと同時に俺の背後から少年の声が聞こえる。
「よいしょっと!」
「な、に……っ!?」
俺が驚いて振り返ると、銀髪の少年が魔女を十字架から下ろし、抱きかかえていた。
「流石、風真♪そのまま動かないでね」
建物の上からは、あの堕天使のふざけたような呑気な声。
何だ!?こいつらは……!
俺は警戒するように腰に携えていた二丁拳銃を取り出し、構える。
しかし──少年の足元に赤黒い魔法陣が浮かび上がり、淡い光を放ったと思ったら瞬時に姿が消えてしまった。
「なっ!?転移魔法だと!?」
屋上にいたはずの堕天使に視線を向けると、そこには誰もいない。
まさか、この短時間に──しかも、無詠唱で転移魔法をやりのけたというのか!?
どんなふざけた魔力量をしてやがる!?
俺の焦りを馬鹿にするように広場に堕天使の声が響く。
『シャルル、東の丘で待ってるよ』
あまりの苛立ちに十字架を殴り割る。
ガラガラと音を立て壊れる十字架を見ながら悪態をついた。
「──クソ!!!」
広場に集まった人々は動くことなく、堕天使がいた屋根を見上げている。
そして、俺のパートナーである後輩は──驚いたのか尻餅をついた姿で固まっていた。
思わず舌打ちが出る。
「あの……シャルル先輩……あの人たちは?」
後輩の声にさえ苛立ちを覚えながらも、拳銃をしまい、彼に手を差し伸べ立たせる。
「お前はまだカゴノトリと一緒に任務をしたことがなかったな。
あいつは闇魔法医療科カゴノトリに所属している堕天使だ。
そして──堕天使のトップであり、総指揮官の地位に立つ男だ。
クソ……何であんな大物が出てくるんだよ」
久しく表舞台から姿を消していたが……まさか、こんなところでお目に掛かるとは。
最後に姿を見たのは、およそ三年前の合同討滅任務の時だ。
「──新人。あいつらを追うぞ。堕天使に先を越されてたまるか」
「は、はい!」
あの魔女は明確な処刑対象だ。
悪魔に味方するような人間は──全員敵だ!
俺は後輩を連れ、奴が言っていた東の丘へと向かい始める。
魔女を取り返し、必ず処刑する。
そして──あの堕天使も適当な罪状を突き付け、封印してやる!
それこそが正義だ!




