第15話 新たなる世界へ
聖明のパートナーになると約束した日から一ヶ月が経った。
臨時とはいえ、彼の横に立つ身だ。
少しでも役に立てるようにと、更に勉学に力を入れ、可能な限り魔法も練習を続けた。
その甲斐もあり、高等部で学ぶべき魔法の知識と実技だけは履修した。
一般教養や社会のことはまだ追いついていないけど、それに関しては今後、旅をしながら学べばいいと聖明は言う。
──僕は聖明と各地を回る旅に出るんだ!
彼の仕事に付いていく形にはなるけど、僕が知らない世界へ行くことになる。
もちろん、その最終目標は魔法都市に行き、僕や瑠璃が助かる術を探ることにある。
運が良ければ、旅の途中で何か進展があるかもしれない。
そういう意味でも僕は期待を胸に膨らませている。
僕は部屋で最後の確認をしていた。
聖明に準備してもらった旅用の装い。
襟元に長い布がついたブラウスは首元で蝶々結びにし、上着は少しシックな黒い上着。
下は上着と同じ質感で作られたショートパンツ。
上下共に作りが丈夫で、どう見ても上等な生地だ。
足を隠すよう太腿まである黒のロングブーツのファスナーを上げる。
僕はどうやら身体を動かすことに才能があったらしく、戦闘スタイルは肉体強化を施した足技とそれに合わせた属性魔法を複合したものになる。
そのため、足は変にダボッとした服装より、足のラインにピッタリした装いのほうが動きやすいことに気付いた。
そのため、下半身はこのような装いになっている。
有難いことに服自体にも魔法が付与されており、ちょっとしたことでは怪我をしないそうだ。
因みに、この服も聖明のお古だ。
恐ろしいぐらいサイズがピッタリなのが、ちょっと怖い。
聖明が言うには高等部へ上がる前ぐらいの服で、その頃からカゴノトリの仕事を請け負うことがあったらしい。
この服は、その時に着ていた戦闘服でもあるんだとか。
ということは、今の僕より幼い頃の聖明が着ていた服なんだな。
……僕、当時の聖明より小さいのか。
成長したら聖明みたいに大きくなれるかな?
そんなことを考えてしまう。
「うん!やっぱり動きやすいね!」
僕はその場で軽くジャンプする。
余計な摩擦がなく、身軽に動けそうだ。
まあ……男でこの下半身のラインは正直、恥ずかしさもあるけど……幸いなことに僕の顔立ちは瑠璃そっくりだし!?
自分で言うのもなんだけど、割と可愛いし!?
まだ見れる……はず!
「いや……ないわ」
急に冷静になって、そんな言葉を漏らしてしまう。
……成長したら、この装いは卒業しよう。
僕、可愛くなりたいわけではないし、寧ろ筋肉ムキムキのかっこいい男になりたいんだ!
全身鏡の前で僕は自身のラインの細さに、勝手に落ち込んでしまう。
筋トレ続けたらムキムキになれるだろうか。
すると──。
「風真〜準備できた?そろそろ行くよ〜?」
一階から聖明の声が響く。
僕は部屋の扉を開け、大きな声で返答した。
「待って!すぐ行くから!」
荷物は既に聖明の魔法のトランクに収納済み。
革製のトランクで、見た目は手持ちできるぐらいの大きさなのに、中はどれだけでも入る優れ物。
そのトランクの中に聖明の仕事道具や日用品、全員分の衣類など何でも入っている。
僕は最後に部屋を見た。
聖明に助けられてから目を覚ました部屋もここだった。
三ヶ月ほどしかいなかったけど、少しばかり名残惜しい。
「……いってきます」
僕は小さな声で部屋と別れるように挨拶をした。
僕はそっと扉を閉め、階段を降りる。
すると玄関には聖明がリリーを肩に乗せて佇んでいた。
彼が僕の気配に気付き、穏やかな表情で振り返った。
彼の装いも僕と同じような色合いで、黒のロングコートに黒いズボン、黒いブーツ。
長い後ろ髪はいつもの青色の髪紐でキュッと結ばれている。
眼鏡から覗き見える赤い瞳は相変わらず宝石のようで印象的だ。
いつもの私服とは違って、カッチリしている装いのせいか、背筋がすっと伸びて見える。
それに、服装が軍服のようなデザインで、余計にカッコよく見える。
そんな彼の足元には例の革製トランクが置いてある。
「聖明!お待たせ!何か、聖明の服装、軍服みたいだね」
僕が率直な感想を述べると彼は少し憂いのある表情で、胸に手を当てる。
「これは軍服で間違いないよ。カゴノトリの軍服だ。
久々に袖を通したよ」
その言葉に聖明が服を着るだけでどんな思いだったのか、僕は考えてしまう。
きっと複雑な心境があっただろう。
そう思った矢先に、呑気な口調でこんなことを続ける。
「他にも医療用の制服があるけど……旅をする時は軍服のほうが良いかな。
制服は白色で汚れやすいからね。
その点、黒い軍服は便利だよ〜血の色も隠せるからね!」
「だから!洒落にならない堕天使ジョークやめてよね!」
僕はついついツッコミを入れてしまう。
聖明って時々、こうやって洒落にならないジョークを言うんだよな。
しかも、凄い軽いノリで。
そのお陰でこの三ヶ月で僕のツッコミスキルも半自動的にレベルアップしているよ。
「あ、因みに軍服はモデルチェンジしたみたいでデザインが変わってるらしいんだ。
新しい制服は魔法都市に行かないと支給されないから……まあ、一応仕事だし、古い軍服でもないよりマシだと思う。
風真の服同様に防御魔法が付与されているし、この服を着ていることで「カゴノトリの人間です!」てわかりやすいからね。
古い軍服でもエクソシストの人であれば一目でわかると思うよ。
まあ……服を着なくても私の場合は赤い目で一発でバレるけどね」
聖明の目から光が失せ、表情も暗くなってしまう。
そう言えば聖明って自身の目が嫌いだったんだっけ!?
僕は思い出して、少し慌てて話を振ってみた。
「エクソシストも同じ軍服なの?」
「いや……エクソシストは白色なんだ。
黒だとイメージが悪いとか言ってさ。汚れるからやめればいいのに」
聖明が少し愚痴っぽく言う。
内心「どれだけ汚れを気にしてんだよ」と思う反面、エクソシスト相手だと信用できない的なことを言っていたような記憶も脳裏に過る。
もしかして、聖明はエクソシストが嫌いだったりするのかな……。
──パン。
聖明が気を取り直すように両手を叩く。
「お話はここまで!そろそろ行くとしよう!」
「うん!」
彼は軽く笑い、トランクを持ち上げると扉を開けた。
「ここは……!」
扉を開けた先は見知らぬ景色だった。
レンガ作りの建物と道が印象的で、道の先には人々が息交う姿が見受けられる。
「ここは家の位置から一番近い少し大きめな街だ。
私の家の玄関と、この街の路地裏の廃墟の扉を繋げていたんだ。
この扉は私か、リリーが使わないと家に通じない」
その言葉でようやく腑に落ちた。
聖明の家周辺は民家なんて見受けられず、少し冒険したけど自然ばかりだった。
それなのに、リリーは時折、どこからか買い物をしてきて日用生活品や食材を買い込んできていた。
そして、聖明は家から出ないことを徹底していたようにも思える。
三年もの間、そうして過ごしてきたのであれば──見つかることなく隠居できていた理由も納得がいく。
聖明の立場がどれだけ重要で、どれだけ凄いのか、今の僕ではまだ分からない。
でも、聖明を大切に想っている人は必死で探したはずだ。
それを思うと、少しやるせない気持ちになった。
僕が探す側だったら、きっと今でも探していると思う。
「風真」
聖明の声が優しく響く。
彼は僕に手を差し伸べて笑った。
「行こう」
「──うん!」
僕は彼の手を掴み、真っ直ぐ外へと足を踏み出した。
聖明を大切な人たちのもとに届けるためにも、旅に出よう!
そして──ここから僕たちの冒険が始まるんだ!
右手に彼の温もりを感じながら、希望と不安を胸に街の中へと歩き出した。
──きっと未来があると信じて。




