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カゴノトリ ―Another Sky―  作者: 灯夜 雪
第二章 旅立ち

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第12話 それぞれができること

僕が初めて魔法を使った日から、勉強と魔法を練習する日々が始まった。


午前中は、魔法や社会についての学問を学び、午後は学んだ魔法を実践する。

日常生活で使う魔法は、家事全般を手伝うことで経験を積み、徐々に身に付けていく。


基本的に聖明が付きっきりで教えてくれた。

付きっ切りと言っても、聖明も聖明で仕事があるのか、僕が実戦練習をしている午後は書類と格闘している姿が当たり前となっていた。


多分だけど、僕のことを心配してくれて、書類仕事の最中でも自室に籠るようなことはせず、僕の様子が見られるリビングのテーブルを使用していた。

そこからであれば、僕が庭で練習していても掃き出し窓から見ることもできるし、僕が行き詰まっても、すぐに聖明に聞きやすくて正直、助かっている。


それに、聖明は不思議なぐらい教え方が上手で、分からないことがあっても丁寧に教えてくれる。


お医者さんというより学校の先生みたいだと思った。


と言っても学校という場所がどういうところなのか、詳しくは分からないけどね。

瑠璃の知識なのか、子供が勉強する場所、というのは分かる。

僕は人工天使だから……きっと縁はない場所だろうな。


──あ、そうそう!

一緒に暮らしているうちに驚いたことが一つあったんだった!


朝、いつものように起きて廊下を出たら、見知らぬ女性を見かけたんだ。

最初は女性姿の聖明かな?って思った。

だって、後ろ姿が黒髪だったから。


でも、よくよく考えるとその女性は聖明より随分低く、僕より高い。

僕は慌てて後を追いかけたら、当然のような顔で洗濯物を外で干している女性がいたんだ。


振り返った女性の顔はやはり聖明じゃなく、紫色のアメジストのような瞳をしている人だった。

服装も全身黒色で上品なレースが特徴的な膝ぐらいまでのスカートを履いていた。


あまりに驚いて言葉を失っていたら──。


「風真様、おはようございます」

「へ!?リリー!?」


突然、リリーの声で喋るんだ。

余計にビックリしたよね。


どうやらリリーは人の姿になれるみたい。

しかも、聖明同様に男女どちらにも変身可能らしい。


聖明曰く、リリーは警戒心が強いらしく、聖明以外には人の姿を早々見せないようにしていたそうだ。

今回、リリーが人の姿を見せてくれたのは、それなりに僕を信用してくれた証でもあるみたい。


それを聞いて、心を許された気がして、ちょっぴり嬉しくなった。


「風真様、そろそろ午後の練習のお時間ですよ」


リビングのソファ前に座り、テーブルで日記を書いているとリリーに声を掛けられた。


「あ!時間!」


僕はハッとして、顔を上げると人の姿のリリーが上品そうに佇んでいる。

その背景には聖明がいつものようにダイニングテーブルで書類を広げ、黙々と書類にペンを走らせていた。


……今更だけど、聖明ってお医者さんなんだよね?

一度も外に出掛けず、家に居続けていることに疑問を持ち始めている。


それに……この家は特殊な場所に建っているのは聞いたけど、周辺は驚くほど自然だらけで、家以外の人工物を見たこともなければ、他の人に会ったこともない。


そのため、食材などの調達をどうしているのかさっぱり分からなかったりする。

気付けばリリーが食材をどこからか買ってきて、家に補充している感じだ。


「風真様、不束者ではありますが、本日も魔法の練習のお相手をさせていただきますね」


「──うん!よろしくお願いします!」


僕は日記を閉じ、立ち上がるとばっと一礼する。


「聖明!練習してくるね!」

「うん、頑張ってね。リリー、よろしくね」

「畏まりました」


聖明は書類を見たまま、生返事をしつつも手だけはしっかり振ってくれる。

その様子を見終えると僕たちは掃き出し窓から庭に移動する。


そして、庭で僕たちは向き合って立った。


「先ずは昨日の復習をしましょう。

次に本日、主が教えてくださった魔法の練習を行います」


「はい!」


リリーが人の姿を見せてくれた辺りからは、聖明に代わってリリーが実践練習の講師をしてくれることが増えた。

聖明が言うには、魔法の基礎基本であればリリーのほうが丁寧だとか。


まあ、実際のところ、聖明自身が忙しいのもあるんだと思う。

家の中を見ると、聖明は難しそうな顔をして書類と格闘している。


──僕も頑張ろう!


僕は視線をリリーに戻し、深呼吸をする。


まずは復習からだ。

昨日は今まで学んだ五大要素を全て使用する練習をしていた。

今日はもっとスムーズに展開できるように心掛けて五大要素の魔法を順番に披露していく。


先ずは──土魔法。

土魔法は大地の力を借りることが多く、土を魔力で豊かにしたり、植物に直接魔力を宿し、急成長させたり、自然を操ることが基本となる。

応用すれば砂を岩のように硬くしたり、逆に岩を砂に変えることもできる。


今回はよく燃えそうな植物を成長させる。


次に、火魔法。

僕の魔力で空気に直接、炎を灯らせる。

その炎で植物を燃やし、大きな炎にする。

これは日常生活──特に調理に使用する事が多く、小さな火から大きな火を自在に操ることが最初の基本。


そして、次に風魔法。

炎を消さないように炎を巻き上げ、炎の柱を作る。

風は様々な魔法との相性が良く、火であればこうやって強めることもできるし、植物の成長の助けにもなれば、水魔法も同じように風で動かすこともできる。

ただし、風の風圧の調整は少し難しくて、慣れるまで少し時間が掛かった。

でも、沢山練習したお陰で、日常生活では髪を乾かしたり、洗濯物を乾かす助けをできるようになった。


今度は、水魔法。

炎の柱を消すように水魔法で包み込む。

炎は徐々に消え、今度は風魔法で巻き上げられた水の柱が出来上がる。

水魔法とは相性がとても良く感じる。

聖明が適性があるとは言っていたけど、一番想像しやすいのもあってか思い通りに動かしやすい。


きっと聖明が最初に見せてくれたのが水魔法というのもあって、実は好きだったりする。


最後に──光魔法!

水を大きな球体に変え、上空で弾け飛ばす。

水は細かい霧のように分散し、空気が少ししっとりする。

僕は辺り一面に小さな光を散りばめ、空気中の水を反射させる。

すると辺りがキラキラ輝き、一瞬にして幻想的な世界になる。


今の僕が使える光魔法は、辺りを照らす程度の基礎基本しか使えないけど、闇夜を照らしてくれるこの輝きが好きだ!


「風真様。すっかり基礎基本はマスターなさいましたね。

どの属性もコントロールができており、日常生活でも普通に扱えるようになっています。

主も風真様のお早い成長に大層驚かれていますよ」


リリーが優しく微笑んで褒めてくれる。

僕は嬉しくなって、思わず照れてしまう。


家の中をふと見ると、見ていてくれたみたいで優しく微笑んでくれた。

何だか見守られてる感じが嬉しい。


「一般的に闇属性を除く全属性の基礎基本をマスターするまでが学校でいう初等部の学問に該当します。

主から教わった基礎基本は、効率を考慮し、一部の魔法は中等部から高等部の応用を織り込んでおります。


それにも関わらず、二週間ほどでマスターしたことは大変素晴らしいことだと思います」


「聖明とリリーの教え方が上手だったからだよ!ありがとう!」


僕は素直にお礼を述べた。


自身でも分かる。

教えてもらったことがすんなり中に入って、それがどんどん力になっていく。

知らないことを学ぶっていうことはこんなにも楽しいことなんだって教えてもらった。


──もっともっと、色んなことを知りたい!


「いいえ。風真様努力の賜物です。

それに風真様は飲み込みがとても早いお方です。

このペースで進めば、風真様の肉体年齢──恐らく十六歳前後で履修するはずの学問まで到達するのに、そこまで時間を要さないかもしれませんね」


「──うん!

僕、知ること全部が楽しくてさ!

もっと色んな事が知りたいんだ!

どこまでできるかは分からないけど、頑張ってみるよ!」


僕が返事をするとリリーが優しく微笑む。

その表情は、どこか聖明と似ている気がした。


僕は思わず家の中の聖明を見る。

彼は『通信魔法』で誰かと話しているようだった。

いつも穏やかな顔をしている彼が珍しく眉間に皺を寄せながら、何か話している。


時折、あんなふうに通話している時は大抵機嫌が悪そうな顔をして、険しい声を上げているので少し心配になる。


「ねえ、リリー」

「何でしょうか?」


「聖明ってお医者さんだよね?

いつも家で事務仕事をしてるように感じるけど……実際は何やってるの?」


僕の知識だけでは聖明が行っていることが何なのかいまいち分からない。

闇属性医療って特殊みたいだし、僕の知らない方法で医者として活躍している可能性だってある。


しかし──疑問を口にした途端、笑顔でリリーが固まったのに気付いて僕はギョッとする。


聞いてはまずかったのだろうか。


「……主は……妹君の一件があり、心を病んだ主は三年前より姿をくらましています。

要は──世間的には失踪扱いです」


とか、爽やかな笑顔でとんでもないことを言い始めたよ!


「いやいやいや!失踪って!?え!?」


僕も相当驚いて、意識せず声が裏返ってしまう。


「主は……風真様も知っての通り、死に場所を求めておりました。

誰にも邪魔されぬよう、大精霊との契約ののちに家ごと『大精霊の庭』に移しました。

人知れず……静かに消えようとしていたのです」


リリーの言葉に僕は黙ってしまう。

覗き見てしまった聖明の日記を思い出す。

間違いなく彼は死のうとしていた。

でも、堕天使であるが故に死ぬことは叶わなかった。


聖明はどんな気持ちで、三年もの間、生きてきたんだろう。

リリーもどんな気持ちで、そんな彼を見続けてきたのだろう。


きっと──僕には想像もできない辛い日々があったんだと思う。


「でも、風真様が現れた」


その言葉に俯きかけていた顔を上げる。


「どんな理由であれ、風真様と出会い、主は変わりました。

死んだように生き続けるのではなく、風真様を助けるため、妹君を救うため再び立ち上がった。


私は感謝しているのです。

風真様のお陰で再び”彼”の笑顔を見ることが叶った。


今の主は仕事を復帰するために、過去に向き合い、旧友を頼り、奮闘している真っ最中です」


リリーの言葉に再び聖明を見る。

すると通話を終えたのか、僕と目が合いニコっと笑ってくれる。


聖明も過去を乗り越えて、頑張ろうってしてるんだ。


僕は気合を入れるために自身の頬を両手で軽く叩いた。


「──よし!僕も頑張らなくちゃね!リリー!今日もよろしくね!」


リリーは柔らかく微笑んだ。


「では、今日からは五大要素を基本とした応用を練習します。

午前中に主から学んだ魔法を順に試してみましょう」


「はい!」


僕たちはそれぞれできることをやっていく。

それがきっと、今できる最善なのだと信じて。

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