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【中断】最強魔法使いは異世界から帰りたい  作者: やまだ ごんた


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8.ハンターのお仕事

お読みいただきありがとうございます

 草竜から降ろされたけど、1時間近く鞍にしがみついていた僕は足腰が立たなくて、その場にしゃがみこんでしまった。

「なんだ、お前身体強化もできないのか」

 パージさんのゴミを見るような目つきがとても痛いです。って言うか――

「できるわけないでしょう。僕は昨日ここに来たばっかりで魔力とか魔法とか草竜とか、ただでさえ情報量が多すぎてパンクしそうなのに!」

 君達の常識が僕にも通じると思うなよ。

「化け物みたいな魔力量なのに、身体強化もできないなんて宝の持ち腐れだな」

 パージさんのグレーの瞳が僕を責めるけど、知らないもんは仕方ないし、できないものはできない。

「って言うか、なんなんですかここ。なんで僕を連れて来たんですか」

 足に力が入らないから、座り込んだままパージさんを睨む。情けない恰好だけど仕方ない。立てないんだもん。

 パージさんは僕から視線を崩れて草木が生い茂った建物たちに向けて「ここには村があった」と、呟くように言った。

「7年前だ。俺と父さんが依頼の討伐で村を離れていた時に、森から魔物が溢れた。この村は優秀なハンターがかなり長い間不在が続いて、責任範囲の管理が十分にできていなかったんだ。外からハンターを呼ぶのはハンターを抱える村の恥だと、自分達で何とかしようとしていたが、結果的に溢れた魔獣たちに襲われて僅か1日で全滅した」

 パージさんはそう言うと、僕を抱え起こして一番近くの建物まで連れて行った。

 石造りの建物は無残にも土台しか残っておらず、木造部分は焼け焦げて崩れ落ちていた。

「ここには俺の幼馴染が住んでいた。赤毛で生意気な女だったけど、父さんに憧れていて、よく俺達の狩りにもついてきていた。父さんのようなハンターになって、以前のように優秀なハンターのいる村にするんだと言っていたんだ」

 家があったそこには、まるでそれを覆い隠そうとするように草が茂り、若い木が背を伸ばしていた事で、年月を物語っているように見える。

 やっと一人で立てるようになった僕を確認すると、僕から手を離して家の中に数歩入り込んで、膝近くまで伸びていた草を引きちぎった。

「森は常に浸食しようと機会を待っている。ここだってあと数年持ちこたえる事ができれば――いや、俺達が村を離れていなければ間に合ったかもしれない」

 パージさんは背中しか見えなかったし、静かな口調だけど、魔力が揺らいでいる。悲しそうに、悔しそうに。

 そう言えば初めにアーノンさんも、生計を立てる以外に魔獣を間引いて村や国を守るのがハンターの役目だって言っていた。

 それを僕は、僕の世界の常識に当てはめて、娯楽の狩りなんかと比べるような発言をしてしまったんだ。

「お前にこの役割をやらせるつもりはない。ハンターになりたくないならならなくていい。だが、俺達が何を背負ってここにいるのかはわからせたかったんだ」

 そう言って振り返ったパージさんの顔はとても穏やかだった。ただ、グレーの瞳だけは相変わらずゴミを見るような色を浮かべている。――ごめんなさい。


 僕の世界では動物はペットであったり絶滅から守るものであっても、この世界では動物は魔力を持ち、人間を襲うのを虎視眈々と狙っている。

 魔獣は魔力を好むので魔力の濃い森の中にしかいない。そして森は常に人間の領域を浸食してその範囲を増やそうとしている。これがこの世界なんだ。

 僕はそこの最奥にいるアベル王子の元に行かないといけない。元の世界に戻る為に。

 だけど――僕にできるの?喧嘩さえしたことが無い僕が、魔獣なんかと戦えるの?

 パージさんは僕を再び草竜に乗せると、草竜を走らせた。

 来た道と違って、なぜか今僕達は大森林の中にいる。

「ここはお前がこれから進もうとする場所だ。まだまだ浅い場所で魔獣もさほど強くはない。――と言っても、普通の人間ならすぐに食われるがな」

 そう言ってパージさんは草竜の足を緩めた。

「魔獣は魔力を好む。そんな中にお前の化け物みたいな魔力量が目の前にいたらどうなると思う?」

 パージさんの言葉に僕は背中が冷たくなるのを感じた。

 それと同時に、なぜだか周りに不穏な空気が漂う。気のせいか草木がガサガサと揺れている気がする。風なんか吹いていないのに。

 パージさんはチュニックの胸元から一枚の羊皮紙のようなものを取り出すと、僕に手渡した。

「結界のスクロールだ。死にたくなかったらこれを持ってろ」

 パージさんが渡してくれたスクロールは、僕と草竜の周り半径2メートル程を魔力の壁で覆っていた。何もしていないけど、魔力が吸い取られる気がする。僕の魔力を使って結界を張ってるのか?これ。

 パージさんは草竜から降りると、腰に差していた剣を抜いて結界の外に出た。それと同時に、木々の間から狼のような、しかし馬ほどもある大きさの獣がパージさんに襲い掛かった。

 ひえっ!これが魔獣?馬鹿みたいにでかいんですけど?そして怖いんですけど?

 この辺の魔獣は強くないって言ってたじゃないか!めちゃくちゃ強そうじゃないか!

「なんで山狼がこんな場所に!」

 パージさんはそう言って野球のグローブ程ある狼の前足から繰り出される攻撃を凌いでいる。

 あ、やっぱりこの辺にいるような獣じゃないんだね――って安心している場合じゃない。

 山狼って言ってたでかい狼だけなら、パージさんの方が優勢に見えるけど、その後ろから6頭のシベリアンハスキーよりも二回りは大きい狼が飛びかかってきた。

 流石に7匹相手は無理だろ!

 そう思った瞬間、パージさんは大きくジャンプして山狼を飛び越えた。そして空中で剣を振るうと淡く青白く光った剣から稲妻が山狼たちに疾り、狼たちは動きを止めている。――スタンさせた?

 パージさんは着地すると動きを止めた山狼達の首を斬りつけた。

 余裕の表情を浮かべるパージさんだったけど、止めを刺していて気が付かなかったのか、倒れている狼とは別に遅れてやってきたのか8匹目の狼が木の陰からパージさんに襲い掛かったのを、僕は見た。

「パージさん!」

 声を掛けたけど間に合わない。

 僕の目の前で死ぬの?いや待って?パージさんが死んだら僕どうやってアーノンさんの家に帰るんだよ。帰れても絶対アーノンさんから怒られるし、下手したら殺されるだろ。

 そんな下衆な考えが浮かび上がったけど、何より僕の目の前で誰かが死ぬなんて嫌だ!


 ――だったらほら、やってごらん。君ならできるよ。


 あの声が聞こえた気がした。

 気が付くと、僕は結界のスクロールを放り投げて、狼に火の玉を投げつけていた。

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