64.どうしてなんだ
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「シゲル。ついて来い」
飛び込んできたのはエイクだった。
「どうしたの?エイク。久しぶり」
「挨拶なんかいいから!早く来い」
エイクは僕の腕を掴んで立たせると、乱暴に戸を開けて裏庭に引きずるように連れ出した。
裏庭には草竜がいて、エイクは僕を放り投げるように草竜に乗せると、草竜を走らせた。
草竜はさっきやっと戻ってきた大森林に向かっている。
「ちょっと……エイクどこに……」
嫌な予感がした。聞きたくないけど確かめないといけない。
「アーノンさん達が捕まった」
「どういうこと!なんでアーノンさん達が!」
助けに行かないと。なんでエイクは僕を大森林になんて連れて行くんだ。
「アーノンさんの指示だ。俺に魔力で知らせてきた。お前を連れて大森林に逃げろって」
「なんで僕には何の知らせもないんだよ」
アーノンさんなら僕に知らせるはずだ。
「ハンターだけにわかる合図があるんだ。お前はまだ知らないはずだ」
そんなのがあるなんて知らない。
僕はずっとアーノンさんかパージと一緒にいたから、教える必要がなかったのかもしれないけど。
草竜はあっという間に大森林に到着し、さっき来た道を速度も落とさずに走っている。このまま行くと二の小屋だ。そこに向かってるのか?
「アーノンさん達になんかあったらお前を連れて大森林に逃げるという話はずっと前からしてた。詳しい話は後でいいか。ここから少し道が険しくなる」
そう言うとエイクは手綱を引いて、草竜の方向を変えた。
エイクの宣言通り、草竜は獣道というに相応しい道を駆けていった。
草竜の背には鞍があるとはいえ、険しい道を遠慮なく全力で走る草竜の背は大きく揺れて、口を開くと舌を噛みそうだった。
そして夕陽が完全に沈み、辺りが暗くなった頃に到着したのは、一軒の山小屋だった。
「入れ」
草竜を小屋の横に繋ぐと、エイクは小屋の扉を開けて僕を促した。
古びているけれど結界もちゃんと動いてる。なのに、所々破損した箇所があり、たいした補修もされないまま放置されていたようで、長い事人が使っていなかった事が窺える。
「ここは?」
「アーミットの小屋だ」
エイクが答えて、早く入れと言うように顎で促す。
僕は言われるがまま小屋に入った。
部屋には、古びたテーブルと椅子が置かれていて、栗色の長い髪を三つ編みにした金茶色の瞳をした男が座っていた。
「キール……」
久しぶりに見る顔はとてと険しい。
「ジェインが様子を探りに行ってる」
釣り上がった切れ長の目を伏して、僕から目を逸らす。やましいと言うのではなく、いたたまれないという感じに見える。
そうだ――。
「アーノンさん達が捕まったって……どう言うことだよ」
キールの向かいに腰を下ろして尋ねる。
「村長の家が襲撃された」
「アンジェロにか?」
キールは首を横に振った。
「憲兵だ。お前らはコローニィー辺境伯家を襲い、カイン・エスクード元侯爵を誘拐したそうだ」
なんだって?
「僕たちは辺境伯からの依頼でシニストロに行ったんだぞ?」
「そのシニストロの町長と辺境伯が口を揃えて言ってんだとよ。犯人は黒髪の男とハンターの一行だったってよ」
ジェインの声が入口から聞こえてきた。
「久しぶりだな。シゲル」
挨拶をしてくれたのはジェインだけだった。
村長からの返事がなかったことで、村に何かあったのかも知れないと察したアーノンさんは家に行く途中、エイクの家に立ち寄った。その時に、念の為に村長宅の様子を窺うよう依頼していたらしい。
何かあったらすぐに僕に知らせるように、そして以前から打ち合わせていたようにここに連れてくるようにって。
「お前の事はそれなりに噂になってんだよ。村長が箝口令を敷いていても、噂ってのは漏れるもんだ。アンジェロって奴だけじゃなくとも、お前の魔力を利用したがるお偉いさんは山ほどいるから、アーノンさんもかなり前から警戒していたんだ」
エイクが説明してくれた。
この小屋は魔獣溢れの後、アーノンさん達がエイク達と修繕して、この辺りの討伐をする時に時折使っていたらしい。
他の人達には知られていない場所なんだそうだ。
だから、何かあったらここに来ることはずっと前から決めていたことなんだってキールが教えてくれた。
知らなかった。
「アーノンさんが村長の家に入って少ししてから憲兵が押し入ったんだ」
ジェインが重々しく口を開いた。
憲兵が入ってすぐに、小さな魔力がエイクに飛ばされたらしい。
それでエイクは僕を迎えにきたんだそうだ。
「アーノンさん達は拘束されてた。村長もだ。カインさんは――ぐったりして憲兵に抱えられてた」
カインさんが?見た目はあんななのに化け物みたいに強いんだぞ?
「薬かなんか盛られたんだろ。奴らはお前のことも探してたみたいだ」
「むしろ狙いはシゲルだろうな」
キールが言うと、ジェインは同意するように肩をすくめた。
「アーノンさん達はどこに連れて行かれたんだよ」
「通常なら一番近くならクシンって町の収容所だけど、貴族を襲撃した罪なら、もしかしたらロワイヤかも知れない」
「公国の首都だ」
ジェインの話にキールが捕捉してくれた。
「ここから獣車で3日ほどだ。草竜なら2日ほどかかるところにある」
「助けないと」
「どうやってだよ」
エイクが口調を荒げた。怒ってるんだ。
「憲兵が来たってことは、お前もアーノンさん達も犯罪者として手配されたって事だ。もし助け出したとしても、見つかったら何度でも捕まえられるし、その分罪状は重くなる」
「だ……だったら無実を証明すればいい。カインさんが証言すれば一発だろ?」
僕の言葉にエイクは腕を組んでため息をついた。
「そのカインさんは今どこにいるんだ」
「わかんねー。獣車は村の外に向かっていったけどな」
「追いかけなきゃ」
僕は居ても立っても居られなくなって立ち上がった。
「バカか」
エイクが僕の肩を掴んで椅子に座らせた。肩に指が食い込むほど力が込められている。
「村にはまだ憲兵がいる。お前の顔は割れてなくても、お前の見た目は特徴的すぎるんだ。すぐに捕まるぞ」
「でも――」
「捕まらないにしても、憲兵相手に立ち回りをした時点でお前は犯罪者だ。ちょっとは考えろ」
「エイクの言う通りだ」
キールが静かに言った。
「だからってこのまま隠れてろっていうのかよ」
「俺達が何のためにここにいると思ってんだ」
ジェインがいつも通りの明るい口調で言った。
「さすがにこの状況は想定外だけど、万が一の場合には備えてたんだ。けど、今はまだ動くな。何の情報もない状態で動くほど悪手はないからな」
「それに、お前はこの村のことだけじゃなく、この国のこともよくわかってないだろ。そんな状態でどうやってアーノンさん達を助けるっていうんだよ」
キールの言う通りだ。
僕は自分の無力さを痛感して、ただこぶしを握り締めるしかできなかった。
ぼちぼちラストに向けて動き出します




