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【中断】最強魔法使いは異世界から帰りたい  作者: やまだ ごんた


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55.バロッティの血筋

お読みいただきありがとうございます

 アベル王子が分けた魂のうち一つは、この世界に留まっていた。

 そして、王国の片隅に住む夫婦の子供として生を受けた。

 夫婦は自覚はしていなかったものの、魔力に耐性のある人間だった為、アベル王子の持つ膨大な魔力を受け入れる事ができた。その為、アベル王子に選ばれたのだ。

 生まれた子はアダムと名付けられたが、子を望まなかった貧しい夫婦からは決して大切に育てられたわけではなかった。

 それでも、飢えながらも順調に育ったアダムは、その魔力を見出されて7歳で王宮に召し上げられた。ジュノアの新しい弟子として。

 売られるように王宮に連れてこられたアベルだったが、先にジュノアに師事していた3歳違いのセツとすぐに打ち解け、仲のいい兄弟弟子となった。

 帝国が滅び、脅威が消え去った王国は平和だった。

 魔法使いの恐ろしさを目の当たりにした他国は、王国に攻め入る考えを捨て、友好的な関係を望んだ。

 トバル王子が望んだ平和な世界がそこにはあった。

 しかし、トバル王が即位して3年目――アベル王子の魔力暴走から15年。

 10歳になったばかりの皇太子が、体調に異変を訴えた。

「父さま……なんだか胸が苦しいのです」

 皇太子がそう訴えた数日後、小さな体は冷たく変わり果てていた。

 一人息子を失った悲しみに沈む間もなく、王妃が皇太子と同じ症状を訴え、やはり数日のうちに逝去した。

 それを皮切りに、王国内に謎の病が広がった。

 いや、王国のみならず、帝国の跡地を挟んだ隣の大陸でも、同じような症状で死んでいく者が多発していると報告を受けていた。

 大臣たちはもちろん、ジュノアもその病の原因を突き止めるべく奔走していたが、トバル王にはわかっていた。

 ここ数年の間に感じていた懐かしい魔力――アベル王子の魔力に。

 ジュノアでさえ気が付かない程の魔力にトバル王が気付いたのは、彼がアベル王子の兄だからに他ならない。

 子供の頃からずっと一緒に育ち、肌で感じていた魔力だ。

 それがこの世界にゆっくりと広がっている。

 自分がそう(まじな)いをかけた。そうなるようアベル王子を帝国に売り渡した。

 そしてこの結果だ。

 魔力に耐性のない人間は、魔力を感じると不調をきたす。その為、魔力の制御ができなかった幼いアベル王子は両親と触れ合う事ができず、唯一アベル王子の魔力に耐性のあったトバル王が幼少からアベル王子を気遣い、可愛がってきたのだ。

 アベル王子の魔力は、トバル王にとって空気と同じほどに身近で当たり前のものだった。

 そして、注意深く観察を続けていたからこそ、わかるのだ。

 これは、アベル王子の魔力によるものだと。そして、彼が全てを知ってそうしている事も。

 ただ一つの誤算は、人間が魔力に対してここまで弱いとは思っていなかった事だ。

 あの箱庭で、草木やトカゲはアベル王子の魔力によって急速に進化を遂げた。人間もそうだと思っていた。しかし、そうではなかったのだ。

 その誤算はトバル王の唯一の息子を殺し、妻を殺し、そして恐らく確実に民をも殺すのだろう。

 トバル王は、全てはアベル王子の命を奪い、この世界を望んだ罰なのだと全てを受け入れた。

 

 後継者を無くしたトバル王は、皇太子にアベル王子の子であるセツを指名した。本来であればアベル王子こそがこの国の王となる存在だったのだと、トバル王は考えていた。自分が命を奪わなければ――だから、せめてもの償いにこの座をアベル王子の息子に渡そうと。

 セツを皇太子に定めると、トバル王は自分の役割を終えた事を理解した。

 トバル王は、恐らくそばにいるだろうアベル王子に言った。

「ずっと――守ってくれていたのだな」

 トバル王の周りには、慈しむようなアベル王子の魔力がいつもあった。まるで自分を守るように。

「私はお前を策に嵌めた。お前がどのような仕打ちを受けていたのかは、あの醜い皇帝から全て聞いていた――なのに、私はお前を救うどころか、どこか安堵していたんだ――私はお前が怖かった」

 トバル王は続けた。

「類稀なる魔力を持ち、貴族や臣下からも慕われていたお前に、私は劣等感を抱いていた。いつかお前が私の立場を脅かすのではないかと恐れていた。だから――国の為だ、戦争を終わらせるためだと言い訳を用意してお前を見捨ててしまった」

 誰もいない部屋で独り言のように、しかし、アベル王子が生きていた頃と同じように、トバル王は弟に話しかけた。

 そして、肌身離さず指に嵌めていた印璽を外すと、机の上にそっと置いた。

「息子が死に、妻が死に、国民が死んでいく。これは全て私の罪だ――お前を見捨て、歪んだ理想を押し付けた私の罪に他ならない。すまない。アベル――私の弟」

 そう言うと、トバル王は懐から小さな包みを取り出すと、その中身をあおる様に口に入れた。

 苦味が口の中一杯に広がり、吐き出したくなるが、水差しから水を一口啜り流し込んだ。

「私の命で償えるとは思わない。しかし、このような形で終える事を許してくれ。私はもう――これ以上は――」

 最後まで言い終えないうちに、トバル王は絶命した。

 魔力を介してトバル王を見守っていたアダムは、彼の最後の言葉を理解していた。

 賢く、心優しいトバル王は自分の行った行為の結果が、戦争以上に人を殺す事となった事実に怯えていた。

 そして、これ以上人が死ぬことを恐れていたのだ。(まじな)いをかけた自分が死ねば、この現象が終わると考えての事だった。

 しかし、トバル王の予想とは異なり、トバル王の(まじな)いはアベル王子の魔力と絡みつき、呪いへと変わっていた。

 (まじな)いは願いだ。願った人間が死ぬと、その願いは継続する人間がいない限り天に還る。しかし(のろ)いは違う。対象が無くならない限り、永遠にあり続けるのだ。

 そして、その対象はこの世界であり、アベル王子であった。

 アダムは人知れずトバル王の亡骸の前で涙した。そして、トバル王の死は謎の病によるものだと公表した。

 セツが王になると、セツの強い望みでアダムは補佐官として王宮に残る事となった。

 そして、セツの子孫を――王国を守るために自らも子孫を残す選択をした。

 妻を娶り、生まれた子達には魔法を教え、アベル王子の魔法が失われないよう、代々受け継ぐ事を約束させた。

 アダムの子のうち一人は、司祭となり神殿でアダムから教えられた魔法陣を生涯かけて描き残した。

 別の子はアダムから得た知識を基に、錬金術を作り上げた。

 セツの血は王族として絶えることなく受け継がれ、アダムの血は王国の内外に散ってしまったが、それでも絶えることなく受け継がれていた。

 その一人がバロッティだった。

 オシュクール公国の独立の際、武功を挙げて伯爵位を賜ったバロッティ家は、公国が王国の属国と化した後も狡猾にその地位を守る事に成功していた。

 アダムの死後から数千年が経過し、アダムの血はかなり薄くなっていたが、それでも時折魔力を持った子が出現していた。

 それがパウロであり、アンジェロだった。

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