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【中断】最強魔法使いは異世界から帰りたい  作者: やまだ ごんた


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51/70

51.アベル王子2

お読みいただきありがとうございます

残酷な描写があります

苦手な方はお避けください

 目を覚ましたアベル王子は、口の中に違和感を覚えていた。

 焼けるような激痛に加えて、あるべきものがない。

 ――舌を切り落とされたのか。

 アベル王子は、自分が砦ではない場所にいる事に気が付いた。

 石造りの床、そして目の前に見えるのは鉄でできた扉だろうか。

 両手足は鎖で壁に繋がれている。

 ――帝国か。俺は帝国に捕らえられたのか。

 アベル王子は目を閉じた。魔力が練れないのは、毒が残っているからだろうか。

 こんな鎖などさっさと壊して兄とジュノアの元に帰りたいと思っているのに、魔力が練れないとそれも叶わない。

 毒が抜けるのを待つか――いや、あれからどのくらい経ったんだ。あそこから一番近い帝国の砦でも3日はかかる。

 つまり、その間目を覚まさなかったという事は、捕えられてから3日以上は経っていると言う事か。

 刺客に刺された傷を見ると、赤黒く変色して、黄色い膿が滲み出ているのを見ると、7日は経過しているのかもしれない。

 と、なるとここは帝国の首都かもしれない。

 アベル王子は口の中に広がる血の味に、水が欲しいと願った。

 しかし、魔力が練れない今、水を得る事も、体を動かすこともできなかった。

 焼けつく喉に苦しみながら、アベル王子は冷たい石の床に倒れ込んだ。今はこの冷たさが慰めだった。


 目が覚めてから起きた不幸はこれだけではなかった。

 見張りの報告でアベル王子の意識が回復したと知らされると、絹に色とりどりの宝石をあしらった衣を着た、陰湿そうな中年の男がアベル王子の囚われている牢にやってきた。

「貴様のせいで――」

 そう言うと持っていた杖でアベル王子のこめかみを力いっぱい叩きつけた。

「何が魔力だ――魔法だ――貴様がいなければ王国は今頃我が物になっていたと言うのに」

 そう言いながら、執拗にアベル王子に杖を振り下ろし、遂には杖が折れた事に気が付かず、振り下ろされた杖はアベル王子の左肩に深く食い込み、王子は喉の奥から苦痛の叫びをあげて、男は漸くアベル王子が虫の息になっている事に気が付いた。

「魔法が使えぬよう舌を切り落としてやったわ。これで呪文など唱える事もできまい。抵抗できなくて悔しかろう」

 嘲笑うように見下しながら、男はアベル王子の腹を足蹴にした。

 舌などなくとも魔法は使えるのに――と、アベル王子は朦朧とする意識の中で思った。

 今魔法が使えないのは毒のせいだ。こいつらもそれはわかっているだろうが、念には念をと言うところか。

 毒が抜けて魔力が練れるようになればすぐに殺してやるのに。それも叶わずこんなところで殺されるのか。

「すぐには殺さん。貴様には私が味わった屈辱を何倍にもして味わってもらう」

 そう言うと、男は牢を出て行った。

 残されたアベル王子は、激痛のおかげで痺れが和らいで、少しだけ自由が利くようになった体で、魔力を練った。

 そして、ようやくひとすくいの水を集めると、床に貯まったそれを啜り上げ、喉を潤した。


 アベル王子の地獄はその日から始まった。

 すぐに殺すなと命令したのは帝国の皇帝だと、アベル王子に食事を運んできた男が教えてくれた。

 あれだけ派手な衣を着ていたのだ。そうなのだろうと、アベル王子は納得した。

 この体の痺れさえ取れれば、魔力を練る事ができる。そうなれば傷を治してこいつらを皆殺しにして王国に帰ればいい。

 朦朧とする意識で、アベル王子はそう考えていた。

 しかし、魔力はいつまでたっても戻らなかった。

 アベル王子に与えられていた食事や飲み物に毒が仕込まれているというのは、すぐにわかっていた。

 毒は体を痺れさせ、魔力を練れなくなるだけでなく、痛覚も鈍らせてくれる事が分かってからは、食事を拒否する事ができなくなっていた。

 毎日のように牢から出されては繰り返される拷問。アベル王子の傷は癒えることのないまま、新たな傷が刻まれ続けた。

 目が覚めた翌日には、魔法陣を描く事が出来ないようにと、全ての指が根元から切り落とされた。

 切り落とされた指はアベル王子の目の前に無造作に置かれ、ゆっくりと朽ちていった。

 3日目には、逃げ出さないようにと両足の骨が砕かれた。

 鎖でつながれている上に、魔力も練れないのにどうやって逃げ出すと言うのか。

 アベル王子は苦痛を和らげるために、毒の入れられた水を毎日飲んでいた。

 指を切り落とされた手は物を掴むことが出来ず、アベル王子は犬のように這いずって、与えられた食事を口にしていた。体の痺れと共に、苦痛が和らいでいくのが救いだった。

 毎日のように、王は牢からアベル王子を連れだしては、拷問を繰り返していた。

 30日が経過する頃には、アベル王子の腹の傷は膿が渇くことはなく、周辺には蛆が湧き、腐って悪臭が漂っていた。アベル王子の体はもう苦痛も痛みも感じなかった。

 拷問に飽きた皇帝は、やがてアベル王子の存在を忘れたかのようにばったり来なくなリ、思い出した頃にアベル王子を牢から出すと、満足するまでアベル王子を痛めつけては帰って行った。

 ある日、アベル王子を連れだした皇帝はアベル王子を憎々しげに見下ろして言った。

「ええい。王国の小倅が――忌々しい」

 そう言うと皇帝は床に這いつくばったアベル王子の髪を掴んで顔を上げさせた。

「あの美しかった顔も今では見る影もない。せめてこの位はさせてもらわんとな」

 皇帝の愉悦に満ちた言葉はアベル王子の耳には遠く聞こえているような気がした。

 毎日飲まされている毒によって、思考も意識も朧げになっていたからだ。

「腹立ちついでに教えてやろう。何故貴様がここにいるのかを」

 皇帝は掴んでいたアベル王子の髪を荒々しく離すと、アベル王子の体は前のめりに倒れた。

 打ちつけられた床の冷たさが心地いい。

 しかし、アベル王子の体は、牢番たちの手によって再び引き起こされた。

「王国との和平の条件は貴様の身柄を寄越す事だった。わしがそう提案したら、王国の小倅――貴様の兄は喜んで合意したぞ。挙句に貴様の魔力を抑える方法まで進んで教えてくれたわ」

 兄上が――

 朧げだった意識が少しだけはっきりとしたのがわかった。

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