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【中断】最強魔法使いは異世界から帰りたい  作者: やまだ ごんた


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49/70

49.アンジェロの罠

お読みいただきありがとうございます

『精神を操る魔法

 標的の魔力を織り込む事で、魔法をかけられた者の感情――思慕または憎悪――を操る事ができる。

 魔法をかける対象は人に限らず、魔獣をも操る事が可能である。

 但し、この魔法は禁忌であるため詳細の記載は省くものとする。』


『魔法陣の研究』に書かれていた言葉。

 人に限らず魔獣をも操る事ができるって――。

 僕達が結界の外を振り返った時には、辺りは魔獣で埋め尽くされていた。

「パージ!アーノンさん!」

「シゲル!待つんだ」

 僕が飛び出そうとしたのを、カインさんに羽交締めにされた。

「離してください!パージ達が」

「結界を張っているなら大丈夫だ。まずは落ち着け。飛び出したところでこの数を相手にどうするつもりなんだ」

 そんなの――みんな蹴散らして――いや。無理だ。

 大型の魔獣の隙間を埋めるように、小型の魔獣がひしめいている。

 奴らは結界に触れないギリギリの場所に陣取ってこちらを窺っている。

 パージ達は大丈夫なのかよ――と苛立ちを抑えきれなくなったその時、体に魔力の塊が降り注ぐ感覚があった。

『俺達は大丈夫だ。シゲルは落ち着いて行動を』

 魔力と共に流れ込んできたパージからのメッセージ。――これが魔力通知ってやつか。

 驚きで逆に冷静さを取り戻したものの、魔獣の数は100や200じゃきかない。

 この辺りの魔獣が全て集まってきているんじゃないかと思う程、灯りに浮かび上がった魔獣達の影が暗闇に浮かんでいる。

「昼間は見向きもしなかったのに」

 僕が言うと、カインさんは僕から体を離して首を左右に振った。

「昔、一度だけ同じような状況に陥った事がある。――あの時とは比べ物にならない数だが」

「まさか、それもバロッティの仕業――ですか」

「ああ」

「じゃあ、これも」

「奴の仕業だろうな」

 カインさんは脇に置いていた剣を手にしたけど、だからと言ってどうすることもできない。

 パージとアーノンさんの魔力ならすぐに結界が切れる事もないだろうけど、だからってこの魔獣達がいつまでいるかもわからないし、何よりずっと籠城なんてできるはずがない。

 ちくしょう。あの時のアンジェロの言葉はこの事だったのかよ。

「僕がアンジェロに助けを求めたら――」

「それはすべきじゃない」

 僕の言葉を遮って、カインさんが言った。

 だったらどうしろって言うんだ――。

 僕とカインさんが言い争っている間、パージ達の結界の方向から、時折さっきの衝撃音が響いてきている。

 目を凝らすと、雷撃や炎の玉が魔獣達を襲っていた。

 パージ達が戦っているんだ。ダメだよ。そんな大技ばっかり出してたら、すぐに魔力が尽きちゃう。

「パージ!アーノンさん!やめてくれ!」

 僕の声は多分届かない。――そうだ。魔力を飛ばせばいいんだ。

「私がやる」

 僕の肩を掴んで、カインさんが前に出た。

 カインさんの体から、一塊の魔力が飛んで行ったかと思うと、しばらくして衝撃音は鳴りやんだ。

「シゲル、私は君に会えてよかったと思っているよ」

 僕を振り向かずにカインさんはそう言って剣を僕に差し出した。

「カインさん、剣――」

「君が持っていてくれ。シルヴィアに渡してくれると嬉しい」

 何を言っているんですかって言いたいのに声が出なかった。

「私はこのためにここに来たのだと思う」

「カイン――さん?」

 カインさんの魔力の中から、黒い魔力が溢れてきている。

 さっき魔力を吸収したのに……なんで。いや、それよりも。

「カインさん。ダメです。魔力が溢れています。危険ですから魔力を吸収します」

 僕が触れようとすると、カインさんは僕の手を弾いて、初めて振り返った。

「前も言っただろう。私の昔を知る者はもういない。妻が死んだときは親友がいてくれた。親友を見送った時には父がいてくれた。だが、今はもう誰もいない。今の私を知る者もいずれまたいなくなる――私はあとどのくらい生きればいいのだろうと、ずっと悩んでいた。目的もなく、ただ有り余る魔力を抱えて魔力暴走に怯える日々をどのくらい繰り返すのだろうとね」

「何言ってるんですか。僕がいます。昔のカインさんを知らなくても、今のカインさんを知って、これから先何百年でも今日の事話しますよ」

 僕が言うと、カインさんは驚いたように目を丸くした。

 そして、一歩後ずさるとこれまで見た事もないような柔らかい笑顔になった。

「ありがとう。我が友よ」

 ダメだってば!

 カインさんの手を掴もうとしたけど、それより早くカインさんは結界の外に飛び出していた。

 カインさんの魔力が体から渦を巻いて溢れている。そしてその渦はカインさんの体をすっぽりと覆い尽くすと、勢いを増して広がっていった。

 魔獣達はカインさんの魔力の圧力に次々と倒れていく。そして、その亡骸を踏みつけながら、他の魔獣がカインさんをめがけて魔力の渦に突撃していく。

 魔獣達はカインさんを狙っているんだ。――だけどいったい何故?

 ――その時、僕は思い出したんだ。

 カインさんがさっきまで言ってた言葉。

 バロッティがこっそり奪い取っていた、カインさん魔力を練り込んだ魔法陣でイレリアさんを操っていた魔法の事を。

 そして、あの時――シニストロの町長邸を襲撃したアンジェロは何をした?

 カインさんの魔力を吸収したと言ってなかったか。あいつはカインさんの魔力を手に入れてた。

 つまり、この魔獣達は全てアンジェロによって操られ、カインさんを目指してここまで来たというわけなのか。

 知ってか知らずか、カインさんは自分を犠牲にしようとした。

 僕はカインさんの手を掴めなかったのか。それとも掴まなかったのか。

 分からない。でも、僕を友達だって言ってくれたカインさんを死なせたりしたくない。

 カインさんを死なせたりしたら、シルヴィアが泣いちゃうじゃないか。

 あの意地っ張りで負けず嫌いで、頑張り屋なシルヴィアが泣くなんてダメだ。

「帰ったらシルヴィアの稽古を付けてやるって言ったじゃないか!」

 僕は結界を解除すると、カインさんの溢れ出た黒い魔力に手を伸ばした。

 こんなものがあるからいけないんだ。カインさんもお母さんも奥さんも、イレリアさんだって、みんなバロッティのせいで苦しんでいるんだ。その象徴がこの黒い魔力なんだ。

「いつまでカインさんを苦しめるんだ!バロッティのクソ野郎が!」

 僕は黒い魔力を根こそぎ吸収すると、僕の体を核にその魔力を全ての魔獣にぶつけるように爆発させた。

 もちろん、カインさんやパージ達は結界で守った。

 でも、僕自身は守れなかったんだ。

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