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【中断】最強魔法使いは異世界から帰りたい  作者: やまだ ごんた


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45/70

45.アンジェロ先生の魔法講座

お読みいただきありがとうございます

 後先なんて考えていなかった。

 アーノンさんを飛び越えて、氷の塊をアンジェロにぶつけながら、アンジェロに斬りかかった。

 アンジェロの手には魔力で作った氷の剣が握られていて、僕の攻撃を受け止める気だ。

「ふざけんなこの野郎!」

 ククリナイフを握る手に魔力を集中させて振りぬくと、氷の剣は砕け散り、切っ先がアンジェロの左肩から胸にかけて切り裂いた。

 無我夢中だった。

「ほお――」

 傷は浅い。肉を斬っただけだと感触で分かる。

「君は殺せるの?私を」

 再び斬りつけようと構えた僕に、アンジェロの言葉が刺さった。

 殺す――?僕が、人を?

「シゲル!止まるな」

 アーノンさんの声が耳に入ったのは、アンジェロの魔法が僕の左腿を貫いたのと同時だった。

 熱い――刺さっているのは氷の槍なのに、冷たいんじゃなくて熱い――。

「人に刃を向ける時は殺さなきゃ。じゃないと、ほら」

 そう言ってアンジェロは僕の右腿にも、同じように氷の槍を突き立てた。

 激痛が体中を疾り、僕はその場に崩れ落ちた。手に持っていたナイフが転がっているのが見える。

 治癒の魔法を――いや、それじゃ遅い。

 アンジェロが前にやってみせたように、一瞬で治さなきゃ僕は死ぬ。でも、痛みで集中できない。

 僕が倒れたと同時に、カインさんとアーノンさんが飛び掛かったのが聞こえたけど、その直後に以前受けたのと同じ魔力の爆発のような圧力で全員が吹き飛ばされた。

 痛みの中で顔を上げるとアンジェロがゆっくりと近付いてきた。

「君を死なせるのは忍びない。だけど私は少しだけ怒っているんだ。だから自分で治すんだ」

 穏やかな表情と口調で、僕の側に立ったアンジェロが僕を見下ろしている。

 アンジェロが手を振ると、僕に刺さっていた氷が溶けて止まっていた血が激痛と共に一気に噴き出した。

「シゲル――知っているかい?この世界はね、認知と観測によって決定されるんだ」

 何を言っている。

「鳥が空を飛べるのは、鳥が飛ぶことを望み、飛べるという事を理解したからだよ。人が魔法を使えるのは、魔法があると認知したからだ。わかるかい?」

 何を言っているんだ、こんな時に。

「それがそこに存在をするかどうかはわからない。私や君の存在だって誰かに観測され、認知されたからここに在るんだよ。誰かが君という存在を観測し、認知したから君はこの世界に存在している。観測されるまでは君はいるかもしれないし、いないかもしれない。数多の可能性の中から観測されて認知した事実だけがこの世界に存在する」

 哲学かよ。なんだっけ――いや、そんな事を考えている余裕はない。

 血を止めなきゃ。出血の量が半端ない。どのくらい血が流れた?

「魔力は誰しもが持っている。なのに、魔法は誰もが使えない。そこの無駄に魔力を持て余している爺さんだって、魔法は使えないんだ。おかしいと思わないかい?」

 体の下を温かい血が溜まっていく。止血だけでも早くしないと。

「それはね、呪いなんだよ。アベル王子のね。魔法を理解しない愚かな人間たちの為によかれと思って魔法陣をしたためたけど、愚かな人間たちは魔法陣がなければ魔法が使えないと認識してしまった」

 何を――いや、そうだ。仕組みさえわかっていれば……いや、できる事を知っていれば魔法陣を使わずに魔法は使える。仕組みなんか考えなくてもだ。

「だからそこの爺さんは自分の魔力に縛られている。魔力の暴走なんてものに怯えて一生を過ごすハメになるんだ」

 そうだ。僕も初めは何も考えないで魔法を使ったじゃないか。

 でも、スクロールの存在を知って、魔法陣を見て『ロジックを考えてその通りに行使しないといけない』っていつの間にか思ってしまったんだ。

「魔力の根本を感じられることができれば違うと言うのに」

 魔力の根本――魔法の元になるエネルギー。

 そうか。

「気が付いたようだね。さすがだ」

 立ち上がった僕を見て、アンジェロは嬉しそうに紫の目を細めた。

 魔法は魔法だったんだ。ロジックを組まなくてもいい。ただ、怪我をする前の体に戻すと強くイメージすれば、それでよかった。

 そう思った瞬間、僕の傷も痛みも綺麗に消えていた。

「なんでお前は僕に教えた」

 僕は起き上がり際に拾い上げたククリナイフを再び構えた。

「今度は殺す覚悟ができたかい?」

 アンジェロは微笑を浮かべたまま言った。

「殺さなきゃ私は君の大事な誰かを殺すかもしれないよ?」

「殺させないし、僕も殺さない」

 僕ははっきりと言い切った。そうだ。たとえここが異世界だからと言って、人が人を殺していいわけがない。殺されていいわけもない。

「なら、そのナイフは何のために構えているんだ?殺す意思がないのに構えていても、怖くもなんともないよ。怪我などすぐに治せるのは君も身をもって知っているだろう」

 そうだ。なら何のために構えているんだ。さっき斬りつけた傷だってもう綺麗に治っているじゃないか――そんなのわかっている。怖いからだよ。

 アンジェロと出会うのは3回目だ。だけど初めて会った時からずっと怖かった。

 悪意も害意もないのに、平気で人を傷つけるこの綺麗な顔をした男が怖いんだ。

「お前は――一体何なんだよ」

「私は私さ。アンジェロ・バロッティだ」

 紫の瞳が僕を捉えたまま離さない。殺気なんか感じないのに、少しでも動いたら死ぬんじゃないかと思う。

 指先が小さく震えているのがわかる。チリチリと痛みすら感じる。

「気が変わった」

 僕が動けないでいると、アンジェロは両手を開いてみせた。

「君達は先に進むといい。そこできっと私の力が必要になるだろう。そこで私を呼ぶといい。そうしたら助けてあげるよ」

 何を言っているんだ。

「ただ見逃してあげるのは癪だからね。少し趣向を凝らさせてもらう」

 そう言うと、アンジェロは黒い髪を揺らして振り返り、氷で作った足場を蹴ってあっという間に空へと駆けて行った。

 ――ああやって移動していたのか、あいつ……。

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