43.やってみる
お読みいただきありがとうございます
「母の事は、妻が教えてくれたんだ。妻と母のおかげで、僕は今こうして生きていられる」
僕に話しかけているようで、そうではないのがわかる。想いを噛みしめるようなカインさんの声が耳に流れてくる。
「その増幅された魔力が、魔力暴走の原因なんですか」
僕の問いかけに、カインさんは黙って頷いた。
さっき見えた揺らぎ――カインさんの純粋な魔力の中にある澱みのようなもの、もしかしたらあれが増幅された魔力なんだろうか。
カインさんの話を聞いて、エスクード家がバロッティを憎むのも理解ができた。
カインさんがこうやって魔力暴走の危険を抱えながら生きなきゃいけなくなった原因が、バロッティなんだから。
「黒い魔力――と、妻は言っていた。それは私の感情によっても増減するようで、私の制御が及ばないんだよ」
「黒い魔力――」
どうしてカインさんがそんな目に遭わないといけないんだろう。この人は何も悪い事をしていないのに。
「こうやって君と二人で話すのは初めてだね」
カインさんが静かな口調でそう言って、僕もやっとそうだって事に気が付いた。
「そうですね。なんだかずっと慌ただしかったし……なのに、すみません。なんか踏み込んだ話までさせちゃって」
「いや、私も誰かに話したかったんだ」
カインさんはそう言って、灯りを見つめている。
「親友だった者達も10年前に亡くなり、父も3年前に母の元に旅立った。昔の私を知る者はもう誰もいない。おそらく、私はシルヴィアすらも見送る事になるだろうからね」
だから、知っていて欲しかったと、最後は小さな声で呟いたカインさんの表情は見えなかった。
長く生きるという事は、孤独になるという事なのかもしれない。
僕だってこの世界から帰る事ができなかったら、アーノンさんもパージもいなくなったこの世界で一人で生きなきゃいけないんだ。
それはとても寂しく、怖い事だと思った。
カインさんは、今まさにその状況に置かれているんだと思うと、僕は胸が苦しくなった。
沈黙が続き、気まずさが僕を圧し潰そうとしていた。
気の利いた会話で話題を変えようにも、僕にそんなスキルがあるはずもない。
僕はカインさんが話してくれた事を頭の中で反芻していた。
奥さんの魔力吸収――お母さんの呪い――アベル王子の魔法陣――魔法陣?
「そうか」
僕が急に大きな声を出したものだから、カインさんが驚いて僕を振り返った。
「魔法陣ですよ。アベル王子の」
僕は興奮してカインさんにぐっと近寄った。
自分はグイグイ近寄ってくるくせに、僕が近寄ると後ずさるとか、カインさんちょっとひどい。
「アベル王子の魔法陣は、アベル王子の魔力をお妃さまに渡すためだったんですよね?」
「そうだと聞いている」
「だったらそれを使えばいいんですよ」
「な――」
カインさんが後ずさりながら、目を丸くしている。それでも青い目は僕をしっかりと見つめている。
僕は元の場所に座り直して、ロジックを考えた。
魔力の移動。エネルギーの移動。カインさんの魔力を僕に移すんだよ。
でも、僕の方が魔力が大きい。下手をすると僕の魔力がカインさんに流れ込みかねない。
カインさんの奥さんが言った、魔力を外に出して体に巻き付ける――これがヒントだと思うんだ。
パージ達の魔法剣のように、魔力の回路を作り出す。僕の体を通して、僕の体の外に魔力を排出する――僕がカインさんのアースになるんだ。
「カインさん、失礼します」
僕はカインさんの右手を取ると、カインさんが言っていた黒い魔力を探した。
カインさんが元来ある魔力だけなら、カインさんは制御ができるんだ。だったら制御できない黒い魔力を引っこ抜いてやればいいんだ。
僕が見た時は、カインさんの魔力の奥深くにあるように見えた。ゆっくりと探ると、それはカインさんの核に隠れるように、しかし侵食するようにしっかりと根付いていた。
全部抜いてやろうと思ったのに、カインさんの魔力にしっかりと絡みついているとなると、それは無理だと悟った。
だから呪いだと言ったんだな。知ってか知らずか。
でも、黒い魔力は見つける事ができたから大丈夫。
僕はゆっくりとカインさんの手を握った手の中で魔法陣を発動させた。
物凄い量の魔力が流れ込んでくるのがわかる。受け入れる端から魔力を外に流し出す。僕は魔力を持っておく必要はないので、魔力はそのまま大森林の魔力へと還してやる。
大量の魔力が僕を通り過ぎていく中で、なんだろう。悲しさや懐かしさなんて感情も一緒に流れ込んでくる。
これはもしかして、カインさんの感情?
「シゲル……君は……」
カインさんの言葉に我に返って手を放した。魔力を移動させすぎたかもしれない。
「ごめんなさい。体は大丈夫ですか?気分が悪いとかないですか?取り過ぎましたよね」
「いや――」
僕が慌てて謝ると、カインさんは少し額を押さえながら笑ってくれた。
「久しぶりの感覚に驚いただけだ。ジルダの時とは違って一気に持って行かれたしね」
「奥さんはもっとゆっくりと?」
「ああ。半刻もかからなかったが、ゆっくりと魔力を吸い取ってくれていた」
カインさんの言葉に、僕は自分の手を見つめた。
さっき感じたカインさんの感情。もしかして――。
「奥さんは魔力吸収を通して、カインさんを感じていたのかもしれませんね」
「どういうことだ」
カインさんの顔が泣きそうに見える。
「魔力を吸収すると、一緒にカインさんの感情みたいなものが流れてきたんです。もちろん、魔力の圧力を抑えるのも必要だったんでしょうけど、カインさんの気持ちを感じていたのかもしれませんね」
僕が答えると、カインさんは僕から顔を逸らすと、そばにあった服を手に取った。
「ありがとう。君にはなんと礼を言っていいか――しかし、今日はもう疲れただろうし、寝よう」
僕の方も見ようとせず、手早く服を着ると、カインさんはそのままアーノンさんの隣に横になってしまった。
僕、何か地雷を踏んでしまったんだろうか。
不定期の更新になってきましたが、ちゃんと最後まで書きますのでお付き合いお願いします




