42.カインさんの過去
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僕には魔力を吸収する能力なんてない。
カインさんの魔力を吸収する魔道具は、空の魔石にカインさんの魔力を吸収させる仕組みだった。魔力を使い切った魔石は通常なら魔力を吸収しない。
それは、魔石の中に僅かに魔力が残っているからで、僅かでも魔力が残っていると魔石は魔力を吸収しない。
そのかわり、全く魔力が無くなると、魔石は触れただけで魔力を吸収するようになってしまうそうだ。
この魔道具はその僅かな魔力を仕込まれた魔法陣で使い切らせて、完全に魔力を無くした状態にすることで、魔力を吸収させているんだと、旅の途中で教えてくれた。
カインさんの魔力を吸収した魔石は、アーノンさんとパージの剣に使われていて、そのせいなのか、二人の魔法剣は更に威力が増していたような気がするけど、多分気のせいだと思いたい。
カインさんは十分量の魔石を持ってきたとは言っていたけど、通常7日に一度魔力を吸収させるのに、この旅では10日目でようやく魔力を吸収させていた。
カインさんは防御の魔法や身体強化で魔力を消費しているからだって言っていたけど、無理をしているのがよくわかる。多分、魔石の数が不安なんだと思う。
1回の吸収に必要な魔石は、うずらの卵よりもふた回り大きい物が10個。腰にぶら下げたポーチには5回分の魔石が入っているって言っていた。
往復40日を予定しているこの旅なら、ギリギリ大丈夫な量だ。
けど、不慮の事故なんかで行程がずれてしまったら――そんな不安を抱えているのに、魔力を解放しろなんて、カインさんからしたら何言ってんだって話だよね。
それでも、カインさんは何度も魔力を解放しようと努力をしている。僕をアベル王子の所に連れて行くために。
僕だってそれなりに戦えるようになったような気はする。でも、それは飽くまでアーノンさんとパージ、そしてカインさんが前衛で戦ってくれているからだ。
ここでは僕は、一人じゃ何もできない。
こんな考え方はエゴでしかないけど、僕には彼らが必要なんだ。
だから、カインさんが安心して旅を続けられるようにするには、魔力の問題を何とかしないといけない。
僕が亡くなった奥さんみたいに魔力を吸収出来たらいいんだけど。
自分の不甲斐なさに溜息をつきながら、カインさんを見た。
カインさんの魔力は、なんというかとても純粋だ。
普通の人とは違って、混じりっ気のない魔力って言ったらいいのかな。普通の人の魔力が何か混じっているわけではないんだけど、個性みたいなものがカインさんの魔力にはほとんどない。
カインさんは僕の魔力を自然にある魔力と同じだと言ったけど、カインさんだってとても近いものがあると思うんだ。
外見が綺麗だと魔力も綺麗なのか。ちくしょう。
だけど、その中に揺らぎが見えたような気がした。何だろう。
「随分熱っぽい視線を送ってくれる」
カインさんは僕を見たまま苦笑いを浮かべている。
「変な言い方しないでくださいよ。カインさんの魔力を見てたんですよ!」
「冗談だよ」
屈託なく笑うカインさんの顔は、やっぱりシルヴィアに似ていて、ふと彼女を思い出させる。
「似ていますね。シルヴィア……さんに」
「シルヴィアでいい。あの子が許可したんだ。――そうだな。あの子は私にというより、亡くなった私の母によく似ているんだ」
「お母さんにですか」
「母はとても美しい人だったんだが、魔力が少なくてね。私が子供の頃に亡くなった」
カインさんは遠くを懐かしむように見つめている。
「お母さんも魔力が――じゃあ、カインさんのお父さんも魔力が少なかったんですか?」
僕の質問に、カインさんは一瞬目をぱちくりとさせて、それから吹き出すように笑い出した。
「父が?まさか。僕が生まれるまでは父こそが王国で一番の魔力の持ち主と言われたほどの人だ。父が亡くなったのだってほんの3年前だ。それほどの魔力量の持ち主だったんだよ」
「そうなんですか。じゃあ、カインさんが生まれたのは奇跡みたいなもんなんですね――って、あ、でも奥さんもカインさんとの間にお子さんがいるんですよね」
って事は二世代続けて奇跡が起きたのか?すごいな、エスクード侯爵家。
僕が能天気に笑って言うと、さっきまで屈託なく笑っていたカインさんの顔が一気に曇った。
「母が僕を身籠ったのは、命と引き換えに一時的に魔力を増やす魔法を使ったからだ。――だが、それは呪いだったんだ」
カインさんのお母さんとお父さんは政略結婚ではあったけど、大恋愛だったらしい。
だけど魔力の釣り合いで子供ができなかった事から、子供を産ませるために愛妾を持つよう周りに勧められると、追い詰められたお母さんは、何とか子供を身籠る方法を探して、数年かけてアベル王子が作った魔法を見つけ出した。
その魔法はアベル王子が妃と子供を作る為に使ったもので、一時的にアベル王子の魔力を妃に渡すものだったらしい。
だけど、それはミケロ・バロッティの罠で、お母さんに使われた魔法陣は改ざんされており、お母さんの残りの寿命を使って魔力を増やす呪いになっていた。そして、その呪いはカインさんにも受け継がれ、お母さんと触れ合う毎に命を削り魔力を増やされる事になったそうだ。
「それに気付いた母は、私を遠ざけるようになった。自分が憎まれてでも、母を恋しがって近寄ってこないように、非常で冷徹な母親を演じて、演じ切ったまま亡くなったんだよ」
カインさんの青い瞳が赤みを帯びているのは、きっと灯りに照らされているからだと思う事にした。




