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【中断】最強魔法使いは異世界から帰りたい  作者: やまだ ごんた


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38/70

38.やってきました大森林

お読みいただきありがとうございます

 綿密な打ち合わせと、計画によって大森林に挑戦して10日目。

 僕達は予定より3日早く最後の狩猟小屋を後にしていた。

 全行程の三分の一を超えたあたりだ。

 アーノンさんが言った通り、僕達は野営をしているんだけど――。

「シゲルの魔法は凄いねぇ。こんなに快適に過ごせるとは思ってもみなかったよ」

 アーノンさんのたっての希望で、テントにはエアコンの魔法を施していたものだから、カインさんも大喜びだ。

 そして、大森林の奥にはとんでもなく強い魔獣がいるって話だったんだけど、化け物みたいに強いカインさんはもちろん、魔法剣の機能を遺憾なく発揮できるようになったアーノンさんとパージもバカみたいに強かった。

「以前ここに来た時はそれこそ死にそうになってたんだがな」

 アーノンさんは魔法剣を眺めながら、満足そうに吐息を漏らしている。

「僕も正直ここまで来れるとは思っていませんでした」

 パージも剣の手入れをしながら珍しく笑顔だ。

 アーノンさんは若い頃、この地点からも7日程進んだ所まで行った事があるんだそうだ。

「カトプレバスを追って迷い込んだんだ」

 アーノンさんはそう教えてくれた。

 カトプレバスはその辺の森にもいてる鹿のような外見の魔獣らしいんだけど、大森林のカトプレバスは魔力を多く含んでいて、毛皮は輝くような毛艶なんだそう。

 上位種なのかと思ったけど、そうじゃないんだって。

「母さんへの結婚の申し込みの贈り物を狩りに来たんですよね」

 パージの言葉にアーノンさんは少しだけ頬を緩めた。

「アソンの村の習慣かい?」

「それもあるが、妻はロンベル家の者だったからそれなりの物でないといけなかった」

「ロンベル――もしかして君の奥方はミケイラかい?」

 アーノンさんの言葉に、カインさんの顔が明るくなった。

「ミケイラをご存知で?」

「ああ。子供の頃に侯爵家に行儀見習いにやってきたんだ。行儀見習いなんてせずに、騎士隊に混じって剣を振っている子だったよ。――3年くらいいたかな。帰る頃には騎士隊の誰よりも強くなっていた。……そうか。あの子が」

 カインさんは嬉しそうだったけど、ふと悲しそうな表情になった。

「言われてみれはパージには面影がある。ミケイラは確か」

「ええ。7年前の魔獣溢れで」

 アーノンさんの代わりに、パージが答えた。

「そうか」

 カインさんが視線を落として、パージもアーノンさんも黙っている。しんみりとした雰囲気になってしまった。

 ロンベル家ってのは、よくわからないけど多分貴族なんだろう。侯爵家に行儀見習いに行くくらいなんだから、そこそこ有力貴族なんじゃないかな。

 で、そのミケイラさんと結婚してパージが生まれたって事は、パージは貴族の血を引いているって事?

 そう思ってパージの顔を見ると、ただのイケメンじゃなくて、どことなく気品すら感じられる気がする。

 僕の視線に気が付いたのか、パージは無言で嫌そうに僕を睨んだ。


 ロンベル家ってのは公国の中でもかなり力のある伯爵家だそうだ。

 公国は王国の属国って扱いだから、侯爵はいなくて伯爵が実質貴族の最高位って事になる。

 その娘であるミケイラさんは、ハンターになると言って家を飛び出してアソンの村にやってきてアーノンさんと出会って恋をしたそうだ。

 若い時のアーノンさんはきっとパージをもっとごつくした感じなんだろうけど、そもそもイケメンだしな。わかる気がする。

 二人は順調に愛を育んだけど、貴族と平民は基本的には結婚できない。

 と、言うのも、魔力が釣り合わないからだ。

 アソンの村は大森林に最も近いところにあるからか、村人は全員魔力が大きい。

 魔力は血統にもよるらしいけど、貴族と平民では雲泥の差で、平民の魔力は貴族のそれと比べ物にならないほど小さいんだって。

 アーノンさん達はともかく、エイク達も結構な魔力量だったのはアソンの村の人間だからだそう。

 だってシニストロの町長より魔力大きいもの。

 その中でもアーノンさんの魔力は飛びぬけていた事もあって、無事ミケイラさんと結婚という事になったそうだ。

 家を飛び出しているとはいえ、王国の家系図――この世界での戸籍みたいなもので、貴族は王国に家系図を届出る必要があるらしい――に名前を連ねているミケイラさんと勝手に結婚するわけにはいかなかったアーノンさんは、ロンベル家への贈り物として、カトプレバスを狩りに大森林に入った……ってのが、顛末らしい。

「それで、カトプレバスは狩る事ができたんですか?」

「いや。あいつはとても警戒心が強くて素早くてな。追い詰めたものの逃げられた」

 アーノンさんでも狩れない獲物があるのか。

「あれ以上進むのは危険だったし、戻ろうとした時に、ライオウに出くわしたんだ」

 何か強そうな名前だと思って、特徴を聞いてみると虎だった。

 厄災の魔獣とも呼ばれていて、普段は大森林の奥で生息しているライオウは、なんと雷の魔法を使う。

 大抵の魔獣は身体強化くらいなんだけど、中には魔法を使う魔獣も存在するらしく、そのうちの一頭がライオウなんだそうだ。

 近付くと鋭い爪、離れると雷撃が飛んでくる中、アーノンさんは逃げたけどライオウは執拗にアーノンさんを追いかけてきて、5日間もの間寝食を奪われながらアーノンさんは逃げ続けたらしい。

「流石に覚悟を決めたんだがな。ただ、戦っているうちに次第にライオウの動きや考えている事が読めるようになっていてな」

「それが、その時の傷なんですね」

 僕が言うとアーノンさんは少しだけ唇の端を上げて、いつものように僕の頭をポンポンと撫でてくれた。

「ロンベル伯が散々自慢していたあの見事なライオウの毛皮は君が贈ったものだったんだね」

 カインさんが感嘆の溜息をもらして微笑んでいる。

「あの時は一人だったから苦戦したが、今はこの剣もあるしお前らもいるからな。――楽しみだ」

「え?」

「私もあの見事なライオウの毛皮は手に入れられなかったからね。いい機会かもしれない」

「カインさん?なに言ってんですか?」

「何言ってんだ。この先に進むって事は、ライオウに遭う事もあるだろうが。この先はライオウの縄張りだぞ」

 パージの言葉に、僕は背中に冷たいものが流れるのを感じた。

 この人達、僕をネタに大森林で狩りをしたかっただけじゃないのか?

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