36.太古の預言者
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「これまでも鎖帷子はあったが、ここまで細かくて動きやすいのは初めてだ」
到着したカイン様に鎖帷子を手渡すと、さっそく試着してくれた。
アーノンさんとパージも同じように喜んでくれたから、カイン様にも喜んでもらえてよかったよ。
「大森林では何があるかわかりません。この鎖帷子は、魔力を込めると硬くなりますし、金属自体に僕の魔力を沢山入れていますから、魔法に対する防御力も上がっています」
シニストロの樹海でアーノンさんとパージが怪我を負った事が、僕の中でどうしても許せなかった。
あの氷の槍でアーノンさんを攻撃したのはアンジェロだ。
治癒魔法の腕を見てもわかる。アンジェロは僕より魔法の扱いに長けている。
でも、魔力の質で言えば僕の方が絶対的に上なんだ。
シニストロの町長の家で受けたあの襲撃で、すぐに動けたのはカイン様と僕だけだった。
だったら、僕の魔力を使えばアンジェロの魔法を防ぐことができるんじゃないかと思ったんだ。
その予想は概ね合っていたようで、到着したばかりだと言うのに、カイン様は鎖帷子の性能を確認すると言って、アーノンさんとまた打ち合いを始めてしまったからだ。
アーノンさんの魔法剣も使っての打ち合いで、鎖帷子はアーノンさんの炎を受けても打ち消す程だったけど、まだ僕で試してないのに何かあったらどうする気だよ……。
「素晴らしいな、これは。ぜひ王国の騎士隊にも導入したいものだ」
一通りのテストを終えて、カイン様はとても嬉しそうに言ったけど、4着でも大変なのに騎士隊の分なんて作れっこないだろ。何言ってんだ。
「冗談だよ。君がいないと作れない装備など意味がない」
僕の表情を見てカイン様はケラケラと声を上げて笑った。
なんだろう。シニストロの町で会った時と違って、とても活き活きしている気がする。
「同じものはできませんが、似たようなものなら誰でも作れると思います。――基本的な作り方は『金属の加工と錬成』に書いてますから」
テオ・オヴィーの骨以外にも魔力との親和性の高い魔獣の骨があれば、そこそこの物が作れると思うしね。
僕の返答にカイン様は満足気に頷いてくれた。
「ありがとう。大森林から戻ったら王宮の錬金術師に伝えてみよう。それから、私に敬語や遠慮はいらないよ。私達はパーティだ。パーティに上下関係はないんだよ」
いや、それは流石に無理ですよ。何言ってんだこの人。
その夜、パージの作った夕食を食べた後、地図を広げて大森林の遠征計画を話し合った。
「伝承によれば、アベル王子は捕えられて帝国の首都に連れて行かれたそうだ。帝国の首都はこの辺りだと言われている」
そう言って、カイン様――カインさんが指差したのは大森林の中央よりやや西側だった。
この世界の文明は帝国が滅亡してからしばらくの間失われていたらしく、正確な書物や遺跡は残っていないらしい。なのに、なぜカインさんが帝国の首都があった場所を知っているのか。
「ここに記されている」
カインさんはここに来る前に村長の家に寄って、古の預言者のあの本を借りてきたそうで、手元にはあの古い緑の革で装丁された本があった。
僕には貸してくれなかったのに、カインさんには貸したのかよ。
「おそらく、この本を書いたのは私の先祖であるジュノアだからね」
僕が不満を漏らすと、カインさんはそう言って笑った。
「なんでそんな事わかるんですか?」
「魔力がね、私とよく似ているんだよ」
カインさんはそう言うと、僕にその本を手渡してくれた。
本からは確かに、シルヴィアやカインさんに似た魔力が薄っすらと感じられた。
「確かに、ジュノアでなければ無理だろうね。アベル王子の魔力が溢れている大森林の中央に行くなんて」
「で、でもそれが書かれたのはアベル王子の死後100年くらいだって村長が言ってましたけど……」
僕は言いながらカインさんを見て思い出した。この人もあと100年は生きるって言われてるんじゃないか。
「アベル王子の死後100年経っても生きていただろうね。ジュノアは370歳まで生きたと言われているしね」
そうだった。この世界は魔力が大きければ大きいほどご長寿なんだ。
でも、その時代に書かれたのなら、古代語なんじゃないの?誰も読めないはずの文字をなんでカインさんが読めるんだ?
僕は手渡された本をパラパラとめくって気が付いた。
古代語で書かれた箇所の中に、一部だけ今この世界で使われている文字で書かれている文字がある。どういう事なの?
本には、綺麗な文字で太古の預言者が綴った文章が記されていた。
『王子の肉体はそこには無く、しかし魂はその場所に捉われたまま御座した。王子は私に申された。異世より現れるその身が王子を解き放つと』
村長が言っていたのはこの事なんだろうか。
それ以外にも大森林を旅した記録や大まかな図が所々に記されていて、カインさんはそれを読んで目的の場所を推察したそうだ。
カインさんは読めていないと思うけど、パラパラと捲ったその中には、明らかにジュノアさんだとわかる記述があった。
『王子の死後、世界は魔力に包まれ、魔力に適応できない者は死に絶えた』
『王を止められなかった私に唯一できるのは、魔力の根源たる王子を止める事』
ジュノアさんがなぜ大森林に入る事になったのか、何故文明が滅んでしまったのかが分かった。




