35.レッツ錬金術
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シニストロの樹海から戻って7日目。僕達はようやくアソンの村に帰ってきた。
町長と辺境伯への報告を済ませた僕達は、翌日一日は疲れを取る為に体を休めたり買い物をしてから村に戻る事にしたんだ。
テオ・オヴィーの討伐の褒賞と、素材の買取で懐が潤ったと喜んだパージは、町の商店で珍しい香辛料や、保存のきく干した果物やなんかを大量に買い込んでいた。
大森林への準備だと言っていたけど、すごく楽しそうだったからきっと半分以上は趣味なんだろうな。
アーノンさんは僕にもお金をくれようとしたけど、この世界のお金の遣い方ってよくわからないし、必要なものはパージに頼んで買ってもらう事にして、現金の受け取りは遠慮した。その代わり、村では手に入りにくい上質のスクロール用の紙や、村の鍛冶屋でも手に入れるのは難しい純度の高い鉄や銀を5キロずつ購入してもらった。
草竜が持てるのか心配したけど、草竜はもちろん魔獣というのは常に身体強化をしているようなもので、その証拠に僕とパージを乗せても平気なんだから問題ないと、アーノンさんに教えてもらったので安心した。
帰りももちろんパージの草竜に乗せてもらったのだけど、わざわざシルヴィアが見送りに来たのは僕達との別れを惜しむ為だったんだと信じたい。
僕がパージに抱きかかえられるように草竜に乗る姿を見て、めちゃくちゃ鼻息が荒かったけど。
カイン様は僕達に遅れる事3日後に村に到達した。
残った仕事を片付けたり、お孫さん達や貴族達を説得するのに時間がかかったのだと申し訳なさそうに言ったけど、多分この人無理矢理逃げてきたと思う。
だって「最も重要な仕事はちゃんと終わらせた」って言ってたし。きっとまあまあ重要な仕事はやってないよ。そんな気がする。
村に戻ってカイン様が到着するまでの間、僕は『金属の加工と錬成』に書かれていたことを試そうと思ったんだ。
テオ・オヴィーの死骸は全て研究用にと買い取られたのだけど、尾の皮と骨だけなんとか一頭分を分けてもらう事ができたから、錬成を試してみたいと思う。
テオ・オヴィーは魔力を好むと言う通り、皮も骨も魔力の通りがとてもよかった。
皮は別の用途に使えるかも知れないから置いておいて、試しに骨を使ってみよう。
『金属の加工と錬成』によると、金属と魔獣の骨は比率が重要らしい。
魔獣の骨が多ければ多いほど、魔力を通しやすくなる代わりに、金属が柔らかくなってしまう。その代わり、魔力を通せば通す程強く硬くなるんだそうだけど、そんなのカイン様くらいしか使えないんじゃないか?
理想の比率は鉄3に対して骨1なんだそうだ。それが鉄の強度がギリギリ保てる割合なんだって。それでも、鉄のように強い魔獣の骨だってあって、そういうのを入れると、今度はとても硬くて強い金属になる。
パージ達が狩ってきた魔獣は全て村が買い取ってくれているので手元にあるのはテオ・オヴィーの骨だけだ。
「骨がいるなら適当な奴を狩ってきてやる」
ってパージもアーノンさんも言ったけど、なんでそんなコンビニに行く感覚で狩りに行くんだよ。
テオ・オヴィーの骨はかなりの量があるし、問題ないからって説得したのに、その日の夜にはガーグとサイノスの骨がアーノンさんによって届けられた。
「錬成はしたことないんだろう。リディもよく練習用に欲しがってたからな」
そう言って、村の鍛冶屋でも手に入る質のあまり良くない鉄の塊を一緒に手渡してくれた。
僕にリディさんを重ねて見ているんだろう。アーノンさんの目がとても優しくて、その大きな手を僕の頭に乗せると、くしゃっとひと撫でして部屋を出て行った。
子供相手にするようなアーノンさんの仕草は嫌いじゃなかった。
僕の父親は仕事人間で家族には無関心な人だったから、こうやって撫でられた記憶はない。今年の正月に実家に帰った時も、父さんはゴルフに出ていていなかった。
だから、当たり前みたいに頭を撫でるアーノンさんに初めは戸惑ったけど、今は心地よさも感じている。
年下のくせに、僕を弟みたいに見ているパージもだ。
僕はこの二人を死なせたくないんだ。もちろん僕自身もだけど。
僕が作ろうとしたのは、魔力によって硬化する金属だ。
だからと言って、シルヴィアが付けていたような金属の防具は良くない。
パージ達は、防御力より素早さに重きを置いているから、革の胸当てに小手といった軽装備だ。
よくゲームでは当たり前みたいに革の鎧から、フルプレートのアーマーに装備を変えたりしているけど、実際何の訓練もしていない人間がフルプレートなんて装備したら動けないどころの話じゃない。あれは訓練しているからこそ使いこなせる装備だ。
だから、普段の装備のままで防御力を上げるために僕が考えたのは鎖帷子だ。
フルプレートに比べると断然軽いとは言え、鎖帷子も重いんだけど、身体強化をしている身には大した変わりはない。
それに僕が作ろうとしているのは、魔法金属だ。
軽くて強くて魔力を通すと硬くなるミスリルだ。
昨日一日かけて、アーノンさんがくれた鉄と骨である程度錬成の練習をした僕は、早速ミスリル作りに取り掛かった。
使うのは鉄と銀、そしてテオ・オヴィーの骨だ。
僕は、錬成用の魔法陣を展開して、作業を始めた。魔法陣がなくてもできると思ったけど、繊細な魔力操作で力加減や温度調整が必要な作業なので魔法陣があった方が安定する事が分かった。練習しておいてよかったよ。
まずはテオ・オヴィーの骨を魔力で粉になるまですり潰す。
次に鉄を魔力で包み込んで、高熱を加えて溶かす。
溶けた鉄に魔力を込めながらテオ・オヴィーの骨と銀を入れる。通常なら鉄と銀の融点が違うから合金にはできないけど、テオ・オヴィーの骨が触媒になっているのか、問題なく溶け合っている。これは『金属の加工と錬成』に書いていた事だ。異世界ってすごい。
魔力で包んでいるとはいえ、金属が溶けるほどの高温が僕の手の中にある。ストーブの真ん前にいるくらいの暑さがある上に、今は真夏だから手早く作業を終えないと倒れてしまう。
僕は、慎重に溶けた金属を少しずつ引き出して加工していく。
鎖帷子を一つずつ編むのは時間も体力も根気も持たないので、魔力で作り出した金型に流し込んで作る。3Dプリンタみたいに裾から鎖帷子が編みあがっていく。
慎重な魔力の操作が必要な作業だけど、無事に仕上げる事ができた。
昼前から初めて、4着の鎖帷子が完成したのはパージが夕食を作り始める頃だった。




