33.カイン様のご乱心
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「アンジェロの君への執着は異様だ。あの者が言った通り、君の魔力は私でも通常ではないと感じられる。私が生きてきた中で君のような魔力を持つ者に会った事はない。――もう一度聞く。君は何者なんだ」
表情は優しいものの、口調は厳しいカイン様の問いに、僕はどう答えればいいかわからなくてアーノンさんとパージを見た。
「シゲルは――アベル王子の現身と言われています」
あ、言っちゃっていいの?でも違うよ?何度も言うけど僕はアベル王子なんかじゃないし。
「では、君が公国に突然現れたという少年か」
カイン様はアーノンさんのその言葉だけで理解したように、目を見開いて僕を見た。
「待ってください。そもそも僕は少年じゃないですから。26歳で立派な大人です」
みんなして僕を子供扱いしてるけど、僕は大人ですからね。
「26歳――には見えんな」
「え……私てっきり同じくらいだと思っていたわ」
ずっと黙って僕達の話を聞いていた辺境伯とシルヴィアが声を上げる。
「そりゃ僕は頼りないかも知れませんし、元の世界でも童顔な方ですけど、さすがに10代はないですって」
「元の――世界?」
しまった。
カイン様は眉間に皺を寄せて僕を睨むように見ている。
アーノンさんに助けを求めて見たけど、アーノンさんは黙って首を左右に振っている。
……僕のせいですよね。はい。
僕はこの世界に来た事と、村長に聞いた太古の預言者の話を洗いざらい喋った。
「だから魔法陣を使わずに魔法が使えるのね」
僕が古代語が読めると言った事でやっと納得がいったというように、シルヴィアが漏らした。
異世界から来たのなら何でもありって考え方は、ここでも元の世界でも同じなんだろうか。
「なら、アンジェロも異世界から来たんですか」
「いや。それはないだろう」
僕の問いかけに村長が答えた。
「アンジェロの母はアンジェロを産んで亡くなっているが、バロッティの直系だ。父も直系の血筋だったようだから、現存する直系で最も血が濃いのがアンジェロである事は間違いない」
ノクトの村に閉じ込められたバロッティ一族は、近親婚を余儀なくされていたせいで血が濃く、その為奇形や早世する人が多く、70人ほどいた一族も現在では20人ほどにその数を減らしているそうだ。それでも、中には僅かに残っていた先住民と結婚して、村に溶け込んでいる人たちもいて、現存する直系の子孫はアンジェロと、年老いた数人だけなのだと言う。
「アンジェロが崩落事故で死亡した事で、バロッティの血は途絶え、ようやく忌々しい歴史を閉じる事ができたと思われていたのに」
バロッティの一族は厳重に監視され、管理されているから、間違いない。
町長の言葉が事実なら、なんでアンジェロは僕と同じように魔法陣を使わずに魔法が使えるんだ。
「それについてはわからない。だが、必ず答えがあるはずだ」
僕の独り言のような問いかけにカイン様は僕を見て強い口調で言った。
「そう言えば、魔力の本質がどうのって言ってました。それに、僕の魔力も――」
「確かに、君の魔力が特別だとあの者は言っていた。確かに君の魔力は私のものとも違う。――しかし、異質だとは感じないな」
カイン様が静かに言った。
僕はアソンの村の人達や、カイン様達しか知らないから、そこまで魔力の質には詳しくないけど、100年近く生きてるカイン様が言うならその通りなんだろう。
「あの、カイン様から見て僕の魔力ってどうなんですか?」
「君の魔力は――そうだな。森の中や木々の側で感じる魔力に近い」
うん。わかるようなわからないような。
「君も知っている通り、我々の魔力は魂と対になっている。つまり、人によって魔力の質が異なるんだよ」
カイン様は丁寧に教えてくれた。
人の外見や性格がそれぞれ異なるように、魔力も人それぞれ異なり、全く同じ魔力と言うのはないのだそうだ。
確かに、人間と魔獣の魔力も違う。それくらいはわかるよ。
簡単に言うと、テレビのチャンネルを思ってくれればいいかも知れない。
同じ帯域の電波だけど、周波数が違うからチャンネル毎に番組が違うでしょ?
結界もその特性を利用していて、魔獣の魔力に合わせてジャミングする電波――じゃなくて魔力を作り上げている。それに触れると魔獣の魔力が減衰するから、魔獣は近寄れないんだ。
って、話が逸れたけど、つまり人は人の魔力の質というのがあって、それぞれ個性的に分別されているのだけど、僕にはそれがないらしい。強いて言えば、大気中にある魔力そのものなんだそうだ。
「確かに、シゲルの魔力は大森林や樹海の魔力と似ているかもしれない」
アーノンさんが納得したように頷いた。隣でパージも頷いている。
「一説によると、今ある魔力の全ての源はアベル王子だ。アベル王子の魔力が世界を包み込み、長い年月をかけて人や大地に溶け込んだのだとも言われている。シゲルがアベル王子の現身だとすると、その魔力にも合点がいく」
カイン様の言葉に僕以外の全員が頷いた。合点がいっていないのは当の本人だけだっていうの?
魔力の質だなんだ言っても、僕はアベル王子の現身とかじゃないし。
って、思ってても言い出せる雰囲気じゃない。
「大森林にはいつ行くつもりだい」
「今回の一件で、シゲルは十分戦えることがわかりましたので、戻って準備が出来次第出発しようと思っています」
カイン様の質問にアーノンさんは事前に準備していたかのように答えた。
確かに、前回の山狼の時は無我夢中だったけど、今回は意識的に魔法を使って魔獣を倒すことができた。十分とはいかなくても、なんとかやっていけるんじゃないかとは思う。
正直言って、まだ怖いしできれば行きたくない。でも、元の世界に帰る為には怖いとか言ってられないんだ。
それに、アーノンさんやパージも一緒に行ってくれるって言ってるんだし。
僕がそう肚を括った時だった。
「そうか。なら――私も同行させてはもらえないかな」
カイン様の発言に驚いたのは僕だけじゃなかった。




