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【中断】最強魔法使いは異世界から帰りたい  作者: やまだ ごんた


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3.そんなのいいから

お読みいただきありがとうございます

 僕の足元には地面がなかった。

 いや、語弊がある。

 実際には僕は地面から数十センチの位置に浮いていた。数秒だったように思えたけど、多分一瞬だった。

 僕は足元から地面に叩きつけられるように着地した。強打した尻が痛い。

 ちょっと待って、意味が分からない。どういう事よ。

 僕は地面に座り込んだ形で周りを見回した。

 どこかの広場だろうか。土がむき出しになっている敷地の向こうには西洋風?と言えばいいの?なんか古臭い街並みが広がっている。

 なんだこれ。僕はさっきまで自宅までの道を歩いていたのに、なんで今は昼間なんだって――僕の周りに人が集まってくる。

 明らかに僕とは違う服装だ。見た目も一見西洋人だけど、何か違う。金髪とか茶色とかなんだけど、なんか違うんだよ。


「なんだ――こいつは」「空から落ちてきたぞ」「いきなり空中に現れたんだ」

 人が口々に言っているのが聞こえる。日本語じゃない。英語でもない。なのにわかる。

「空中にいきなり現れただと――?王国の手の者か?」

 やたらガタイのいい男が言った瞬間、周囲の人達が気色ばむのが分かった。王国?――なんかこれやばいやつじゃない?

「ちょっと――俺の話も聞いて――」

 相手の言葉がわかるなら僕の言葉もわかるだろ。そんな半分賭けの気持ちで言葉を発して見たものの、周りの気配に押されて二の句が継げない。

 遠巻きに見ていた周囲の人達がにじり寄ってくる。

「こいつの服はなんだ」「見た事ない」「王国の服か?」「――いや、俺が先月王国に行ったときはこんな服を着ている奴はいなかった。……それにこの黒い髪……バロッティ――いや、顔が違う。別の国の人間か?」

 あ、僕スーツだもんね。これは19世紀末期にできた形で、この人たちの服装はチュニックにパンツ姿でどう見ても14世紀辺りのイタリアっぽい感じ。服飾の方面に進むのが夢だったみちるに色々教えてもらったから知ってる。美術館で絵を見たりした時に教えてくれたんだよ。服飾の歴史の本をプレゼントしたら喜んでたな――って、そんな場合じゃない。

「王国とか何の事ですか。それにバロ――何?僕は気が付いたらここにいたんですよ!さっきまで全然違う場所にいたんです」

 夢と思いたい。でも、落ちた時の痛みや、手に触れる踏み固められた土の地面の触感が夢じゃない事を物語っている。

 これ、あれか?流行りの異世界転移とか言うやつか?

「異世界とか普通死んでから行くんじゃないのかよ!そんでなんかギフト的なのくれるんだろ?――いや、そんなんいいから、元の世界に返してくれ!みちるが僕の子供を妊娠してるかもしれないんだ」

 思わず気持ちが声に出てしまった。

 にじり寄る人達の足が止まった。

「訳の分からない事を――どこかの国がついに転移魔法を成功させたのか」

「だとしたら王国はどうなる?公国は――」

 益々誤解が広がる。人々の言葉に不安と畏怖が混じるのがわかる。――違うから!そうじゃなくて……。

「この者を捉えて領主様に――」

「村長が先だ。村長を呼んで来い」

 男達が勝手に僕の処遇について話し合っている。

 お願いだから僕の言い分も聞いてほしい――って言っても無理か。異世界だもんな。

 どこか冷静に状況を分析してしまうのはブラック企業で培われたスキルかも知れない。

 いや、そんなのはどうでもいいんだ。大事なのはそこじゃない。

 僕を捕まえるとか――なんだって?

 冗談じゃない。僕は元の世界に帰らなきゃいけないんだ。みちるをシングルマザーにするわけにはいかない。

 捕まったら何をされるかわからない。生きて元の世界に帰れるとも限らない。

 ――何とか逃げなきゃ……。でも、どうやって?

 周囲の人達が警戒しながらも、手を伸ばせば届きそうな距離までやってきた。

 だめだ。捕まる。捕まったらどうなる?殺されるのか?殺されなくても拷問とか――?嫌だ。痛いのは嫌だし死ぬのはもっと嫌だ。誰か――せめてこの人達から僕を隠してくれ。

 そう思った瞬間、僕の周りの地面が盛り上がったかと思うと、轟音をたてながら僕の周りに半径1mほどの、彼らの背丈ほどの高さの壁を作り出した。

 え?なにそれ。

 そう言えばさっき魔法がどうのって言ってた?もしかして、異世界転移のテンプレで僕も魔法使える的な――?

 いや、そんなんいいから――

「ま……魔法陣を使わずに魔法を使っただと」

 壁の向こうで声が聞こえてきた。――あ、あれか?テンプレ的な無詠唱魔法ってやつか?

「まさか――アベル王子の生まれ変わり」

「そんな」

「いや、しかし魔法陣を展開する事なく魔法を使えたのは、後にも先にもアベル王子のみ――先々代のエスクード侯爵でさえできなかったそうじゃないか」

 なんかよくわからない名前が色々聞こえてくるけど、僕はここじゃない違う世界で生まれたからね?ここの誰かの生まれ変わりとかじゃないと思いますよ!

 土の壁の中でじっと息を殺して周囲を窺うと、ざわめきや動揺が壁越しに伝わってくる。相対して僕は段々と本当の意味で冷静さを取り戻してきた。

 一体、ここは何なんだよ。僕はどうしたって言うんだよ。異世界とか魔法とか要らないから僕を元の世界に帰らせてよ。

 ――そうだ。魔法。魔法が使えるなら元の世界に帰る魔法もあるんじゃないのか?でもどうやるんだ……?

 多元宇宙論?量子宇宙論?五次元――?わからない。でも、転移したって事は、僕の世界とこの世界は実存していて、何かしらで繋がってるんだ。


 ――落ち着いて。ここは君に害をなす世界じゃない事だけは私が保証するよ。


 突然、耳元――いや、頭の中に優しい男の人の声が聞こえてきた。

「誰だよ。あんたが僕をここに連れてきたのかよ!」

――そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。この世界と君の世界は本来は干渉しない。君の思う通り違う次元に存在する。

 声はあくまでも優しく話しかけてくる。どこか安心するような声だけど、今の僕はそんなので安心できるほど

「僕はみちるの所に帰らないといけないんだ。僕がいないとみちるとお腹の子はどうなるって言うんだよ」

――落ち着いて。大丈夫。

「落ち着けるわけないだろ!大事な人なんだ。僕の――僕の大事な人なんだよ」

 ――大丈夫だから。きっと帰すと約束するよ。でも、その為にはまだ力が足りない。

「力――?」

 ――私の。そして君の。

「なんで僕なんだよ」

 ――それはこれから君が知る。大丈夫。君が力をつけたら、君は元の世界に戻れると約束しよう。

 なんだよそれ。それってどういう事なんだよ。僕は今すぐ帰りたいんだよ!

 声はもう聞こえない。怒りなのか悲しみなのかわからない感情が全身を包み込むのを感じる。感情が抑えられない。

 何かが爆発するような感覚がして、僕はそのまま意識を失った。

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