28.まさかの実戦
お読みいただきありがとうございます
魔獣が僕達に到達するより早く、僕は結界を展開した。以前スクロールを使ったおかげで、今回はスクロールを使わなくても発動できる。ただ、咄嗟だったから範囲を間違えて僕とシルヴィアだけじゃなくて近くにいたパージ達も入れてしまった。
「何やってんだ」
パージは僕を睨んだけど、まだ慣れてないんだから仕方ないでしょうが。
結界の手前で恐竜――もとい、テオ・オヴィー達は立ち止まり、こちらの様子を窺っている。
「7体か」
アーノンさんが短く呟いた。
僕達の前には2体。その奥に4体。そして奴らが飛び出してきた灌木の手前に、遠くからでも一際体格のいい1体がこちらを窺っている。
多分、あれがこの群れのリーダーなんだろう。
「シルヴィアはここに。シゲルも結界から出るな。お前はシルヴィアを守れ」
そう言うと、アーノンさんは結界から飛び出し、パージも後に続いた。
手前の2体をアーノンさんが、それを飛び越えて奥の4体にパージが斬りかかる。
アーノンさんの剣から炎が噴き出して、テオ・オヴィーとアーノンさんの間に腰ほどの高さの炎の境界線を作り上げた。同時に、パージの剣から稲妻が疾り、テオ・オヴィー達の動きを止めた。
一瞬の隙をついて、アーノンさんとパージは結界の前から、それぞれテオ・オヴィー達の両翼に展開し、挟み撃ちするように位置取った。
稲妻ではテオ・オヴィー達をスタンさせることができなかったのか、奴らはすぐに二人を負うように散開して、立ち止まることなく攻撃を躱しながらも反撃する二人に翻弄されているように見える。
「統率が取れないように、不規則かつ効果的に攻撃を入れている――」
僕の隣でシルヴィアが小さな声で呟くように、感嘆するように声を出した。
その青い瞳は、目の前の戦いを一つ残らず記憶しようとしているように、小さく忙しく動き、いつの間にか腰の剣は手に持たれていた。
「シルヴィア、駄目だよ。ここにいて」
「二人がもし危なくなったら私が出るわ」
「二人が危なくなるほどの相手なら僕達が出ても勝てっこないよ」
「なら、ここであなたの魔力が尽きるまで結界を張り続けるって言うの?」
僕を一度も見ずに言うシルヴィアの言葉は確かに間違えていない。
僕がろくに戦えないという事は、残る戦力はシルヴィアだけだ。――でも、二人が負けるなんて考えられない。
アーノンさんとパージは大森林に臨むアソンの村で一番のハンターだ。言い換えれば公国で一番のハンターなんだ。魔獣相手なら負ける事はない。
そう。魔獣相手なら――。
フラグってのは本当にあるんだなと思ったよ。
俺、この戦いが終わったら故郷に帰って結婚するんだっていうくらいわかりやすいフラグって言うの?
僕のせいなの?
テオ・オヴィー達は強かった。
炎の魔法も、雷撃の魔法も通じてはいるけど決定打にはならず、動きが早く皮が固いため剣での物理攻撃も有効打程度にしかならない。
その上、翻弄されているとはいえ、徐々に統率の取れた動きを取り戻してきていて、徐々にアーノンさん達を押し始めた。
それでも、アーノンさんの出した火の玉が1体の眼球を焼き、動きを止めた隙に襲い掛かるもう1体の喉元を斬りつけ絶命させ、パージもまた、襲い掛かる1体の攻撃を身をかがめて避けながら足を斬りつけて、動けなくした。
やっぱり二人は強い。
あんなに大きくて動きの速い魔獣相手に、数の不利なんて感じさせないほどの動きを見せつけてくれる。
シルヴィアも二人の動きを見て、驚きで目を見開いている。
ほらね。二人は凄いでしょ?
僕がシルヴィアの隣でこっそりドヤ顔を決めた時だった。
突然、どこかから氷の槍が飛んできたかと思うと、アーノンさんの左脇腹を貫いた。
「父さん!」
パージとアーノンさんの距離は10mほど。
片膝をつきそうになるも、アーノンさんは踏みとどまるとすぐ手前に迫り来たテオ・オヴィーの鋭い爪を剣で受けた。
しかし、テオ・オヴィーは1体だけじゃない。
もう1体が、動きを止めたアーノンさんの右肩に爪を食い込ませる。
隣にいるはずのシルヴィアの悲鳴がどこか遠くに聞こえた。
何が起きているんだ。
アーノンさんを助けようと動きが乱れたパージの左肩に、後ろからテオ・オヴィーの鋭く尖った牙が食い込むのが見えた。
僕は叫んでいたと思う。
喉が痛いもの。指先もチリチリと痺れるように痛い。目の奥も焼けるように熱い。
僕が助けなきゃいけないんだ。そう思う前に、僕は結界から身を踊り出し、魔法を発動させていた。
炎も稲妻も効かない、剣での物理攻撃も効きにくいのなら、もっと鋭いもので貫けばいいんだ。
ゲームやアニメでよく見たじゃないか。
この世界にやってきた時にもやってみせた。だから絶対にできる。
僕は、テオ・オヴィー達が立っている地面だけに範囲を絞って、土の槍を作り出した。同時に、アーノンさんを貫いたのと同じ氷の槍を降らせる。二人には当てない。
轟音と共に地面から隆起した土の槍と、降り注いだ氷の槍に体を貫かれて5体のテオ・オヴィーは一瞬で絶命した。
僕は急いでアーノンさんの元に駆けつけると、まだ息がある事を確認した。
よかった。まだ間に合う。
僕は急いで治癒の魔法陣を展開した。
「シルヴィア!手伝って」
パージだって傷が深いはずだ。早く行かなきゃ。
結界からシルヴィアが駆け寄ってきたのを見て、僕は魔法陣をシルヴィアに預けた。彼女の魔力量なら問題なく治せるはずだ。
「治癒の術式は完成しているから、魔力だけ流してくれればいい」
僕の言葉にシルヴィアも、困惑したようだったけど素直に従ってくれた。
早くパージの所に行かなきゃ。
10mなんて距離、普段なら何とも思わないのに、今はなぜか地平線の果てのように遠く感じる。
早く行かないと――。
「君は何者だ?」
パージの元に向かおうと顔を上げたその先、パージが倒れているその場所に立っていたのは青みがかった黒い髪を肩に垂らして黒いローブを着た、青白い顔をしているけどゾッとする程に綺麗な男の人だった。




