26.一日目は無事終了
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昼には一旦狩猟小屋に戻り、道中に狩った魔獣を捌いたり肉を保管庫に入れたりしながら、昼食をとった。
昼食はもちろんさっき狩ったバラヌスだ。
きっと僕達が1週間くらい樹海に閉じ込められても大丈夫なくらい、バラヌスの肉は沢山あった。そりゃあんだけ大きいんだから当然だよな。
パージは手慣れた様子で器用に捌くと、荷物に一緒に入れていた塩と香辛料を使って手早く調理してくれた。時間がもったいないからと焼くだけだったけど、すごく美味しい。肉自体は淡白でささみのような感じだけど、噛めば噛むほど旨味が出ると言うか、癖になる味だ。見た目はバカでっかいトカゲなのに。
狼の肉は人間はとても食べられたものじゃないけど、草竜にとってはご馳走らしく、みんな美味しそうに食べていた。
草竜って肉食なんだね。草竜って言うから草食だと思っていたよ……。
「正確には雑食だな。草でも食うから草竜だ」
昼食を終えて、草竜の食事風景を眺めながら独り言を言った僕の隣に、いつの間にか来ていたパージが教えてくれた。
「もう少し休憩したら出発だ。今度は反対側を探すぞ」
そう言って、ゴブレットに入った冷たい水を出してくれた。
この小屋には水道は来ていないしあの水瓶もない。なのになぜ冷たい水があるかって?
この旅の途中で僕が作ったんだよ。旅の間、水の補給は井戸か川だ。つまりは生水。
さすがに川の水は皮や布を合わせて作った簡易的なろ過フィルターがあるんだけど、わざわざ火を起こして煮沸させた水を作るのは手間らしくそのまま飲むって聞いて、現代人の僕は断固として反対したよね。
なんで普段衛生的な生活してるのに、外に出たら衛生観念ぶっ飛ぶんだよ。
僕はアーノンさんとパージの水袋に水瓶と同じ魔法陣を仕込んでやったんだ。これで道中も最低限の衛生的な水を飲むことができる。
そして冷たい水が出先でも飲めてアーノンさんも嬉しそうだった。
昼食後は午前中捜索した反対側を探したけど、目ぼしい痕跡を見つけることはできなかった。
それでも、古い足跡は発見する事ができたのと、群れの数は十頭未満だろうという事が分かった。
そこでも僕は魔法を何度か使わされて、日が暮れる前には僕達は狩猟小屋に戻った。
狩猟小屋は小さいものの、簡単に仕切られた部屋が2つとトイレはもちろんお風呂もあった。
午後は魔獣にはほとんど遭遇しなかったけど、水辺の近くにチコルというキャベツのような白菜のような草と、ヤマモモみたいな木の実を見つけたので、採って帰ったおかげで、晩ご飯は豪華だった。
チコルとバラヌスの肉のスープは、肉のうまみと野菜のうまみがちょうどよく絡み合って、コンソメスープのような味わいだったし、ヤマモモはぶどうのような甘さで疲れた体を癒してくれた。
「シスルもあったから飲んでおけ」
そう言ってゴブレットにシスルの花の茶を淹れてきたパージに、僕もシルヴィアも非難の目を向けたのは仕方がないと思う。
「なんで?美味しい――」
渋々口をつけたシルヴィアがゴブレットから顔を上げてパージを見ると、パージは得意げに笑っている。
僕も続いてみると、確かに美味しい。
あのシナモンを煮詰めたような臭みがなくて、ほんのりと甘い。
「あの木の実の皮を一緒に煎じたんだ」
「美味しいよ!こないだはあんなにまずかったのに」
「昔シスルの花の茶が嫌いで飲むのを嫌がってた時に、母さんが蜂蜜を入れてくれたのを思い出したんだ」
そう言ったパージの目が優しく潤んだ。アーノンさんも優しい顔でシスルの花の茶を飲んでいる。
「蜂蜜はさすがに見つけられなかったけど、この実も蜜のような甘さだしな。試しにやってみたんだが、うまくいったな」
よし。種を持って帰ってアソンの村に植えよう。これ以上シスルの犠牲者を出さないためにもこの実は世に広めるべきだ。
「それはそうと、シゲルはなんであんな魔法を使えるのよ」
僕がこの世界の人達の事を思い遣っていると、シルヴィアが我慢できないといったように口を開いた。
「シゲルは元々錬金術師だ」
僕がなんて答えようか考えていると、アーノンさんが代わりに答えてくれた。
そうだ。そう言う設定にしようとしていたんだ。
「海の向こうの大陸から来た。古代語を研究しているうちに、大森林に興味を持ってハンターの修行を始めた変わり者だ」
え?そんな設定なの?
「海の向こうの大陸――なるほど、だから黒い髪なのに顔つきはこの辺りの人間とは違うのね。古代語を研究しているっていうけど、スクロールも魔法陣も使わずに魔法を使えるのは、古代語を解読できたからなの?」
アーノンさんの説明に納得したのか、それでも質問が後を絶たない。
「こ――古代語はその……雰囲気で?魔法陣は、出してた……よね?」
「嘘よ」
「シルヴィア」
アーノンさんの冷たい声がシルヴィアを制する。敬語でこそないものの、ずっとシルヴィアを尊重するように接してきたアーノンさんの冷たい声に、さすがのシルヴィアもハッとなって口をつぐんだ。けど、目線は僕を責めているようだ。
でも多分本当の事言っても信じないでしょ?
「僕、薪でも割ってくるよ」
いたたまれなくなって小屋から出ると、パージが一緒についてきた。
「気にすんな」
そう言うと、薪割台に丸太をセットして斧を持った。
「どうせやった事ないだろ」
そう言うと、軽々と斧を振り下ろし、見事丸太を真っ二つにして見せた。やだ、イケメン過ぎませんか、パージさん?
「身体強化――してないよね」
「薪割りくらいでやってられるかよ」
そう言って手早く丸太を4つに割ると、一つを僕に寄越した。そして、脇に置いてあった小さい手斧と、割れた丸太を持つと「見てろ」と言って、先端に手斧を刺して見せた。
「割れて――ないよ?」
「お前は力がないだろ?こんなでかい斧振り回したって疲れるだけだ。手斧でもこうやって」
そう言って、パージは手斧が刺さったままの木片をひっくり返すと、手斧の背を薪割台に叩きつけた。
すると、あら不思議。びっくりするくらい簡単に真っ二つに木が裂けた。
「手斧の背を叩きつけると、木は簡単に割れる。一回で割れなかったら2~3回叩いたら大抵割れる」
教えられた通りにやってみると、びっくりするくらい簡単に薪を割る事ができた。
「すごい!」
「焚きつけ用にはこうやって木を削って毛羽立たせればいい」
そう言いながら、器用に手斧で木を削って見せてくれた。
「帰ったら僕も薪割りするよ」
「じゃあお前用の斧を買わなきゃだな」
パージのグレーの目が小屋から漏れる明かりに照らされて優しく揺らいでいるように見えた。
僕を心配してくれているのがわかる。僕の方が年上なのに、情けないな。
でも、いつもありがとうね。




