25.シニストロの樹海
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初めて武器や防具を装備して、これから本格的な狩りに出るんだって事を自覚させられた。昨日の夜は樹海の入口だったし、僕は結界の中でじっとしていただけだったからね。
心なしか、パージもアーノンさんも楽しそうだ。シルヴィアは無言でアーノンさん達に遅れないよう付いて行っている。
「シルヴィア――さんも緊張しているの?」
僕はそっとシルヴィアに声をかけた。シルヴィアは驚いたように僕を見たけど、すぐにアーノンさん達の背中に顔を向けた。
「シルヴィアでいいわよ。それより、あなたも平気なの?この樹海の魔力の濃さ」
ああ――なるほど。
大森林ほどじゃないにしても、シニストロの樹海の魔力も相当なものだ。特にここまで奥に来るとアーミットの村くらいの魔力の濃さはあるかもしれない。
でも、パージに連れられて行った大森林は息苦しさを感じるほどの魔力の濃さだったし、それに比べると大したことはない。
「アソンの村のハンターって化け物揃いなの」
僕が肩をすくめてみせると、シルヴィアは不機嫌を隠そうともせずにブツブツと文句を言っている。
緊張しているんじゃなくて、魔力の濃さに圧されていただけなのが分かって僕は少し残念な気持ちになった。彼女も僕と同じ初めての狩りだと思ってたんだ。
「王国の周辺ではよく狩りをしていたのよ。森にも入ったわ。でもここまでの濃さじゃなかった。――大森林はもっと濃いのね」
「そうだね。ここ程奥まで行った事はないけど、息苦しさを感じるくらいの濃さだった」
「――いつか行ってやるわ」
舌打ちするようにシルヴィアは歯を食いしばってる。負けず嫌いなんだろうな。かわいい。
――いや、僕はみちる一筋だよ?浮気とかじゃなくて、一生懸命で可愛いなって思ったんだよ。彼女は16歳だし、僕よりも背が小さいし、妹みたいな可愛さってやつだからね。誤解しないでよね。
一刻も経たないくらいで、アーノンさんはテオ・オヴィーと思われる足跡を発見した。
水地に近い場所で、地面が柔らかい場所だったのもあるけど、落ち葉や枯れ木が落ちている場所で動物の痕跡を見つける事ができるとか、ハンターって本当にすごい。
「大きさは違うがオヴィーのものと考えて間違いない」
「テオ・オヴィー……ですね」
足跡を覗き込みながらアーノンさんとパージが話し合っている。
そして、やおら動き出すと辺りを丁寧に探し出した。
「なにしてるの?」
僕が尋ねると、パージは立ち止まって手招きした。
「あった――見ろ。テオ・オヴィーの糞だ」
パージが指さしたそれは、土塊なのか糞なのかわからないほど崩れている。
「こっちにもあった。こっちは新しい」
反対側でアーノンさんの声が聞こえた。
「足跡は複数あった。頭数もそうだが、古い足跡も見られた。つまりここは奴らの通り道と考えていい。そして糞があるという事はこの辺りは奴らの縄張りであるという事だ」
早口で言うとパージはアーノンさんの元に駆け出した。
縄張りって――と、いう事はこの辺りではどこでテオ・オヴィーに遭遇してもおかしくないって事?
僕は慌ててシルヴィアを振り返った。――よかった。ちゃんといる。
さっきまでの辛そうな表情は消えて、周囲を警戒しているのがわかる。
アーノンさんとパージも、調べながら魔力が探るように周囲に滲み出ている。ぼんやりしていたのは僕だけだったんだ。
「シゲル、来い」
アーノンさんに呼ばれて行くと、アーノンさんは落ちていた木の棒を僕に差し出した。
「これに火をつけろ。なるべく強く魔力を込めて一瞬で燃やせ」
「こ、この棒をですか?」
僕が尋ねるとアーノンさんは黙って頷いた。
「一瞬で燃やすなんて、王宮の魔導士でも無理よ」
「いいからやれ」
シルヴィアの言葉をパージが遮るように言って、僕は木の棒を見つめた。
着火の呪文を高温をイメージして出力全開でやったら大丈夫かな?
僕は木の棒をアーノンさんから受け取ると、魔力を思いっきり込めて燃やした。
言われた通り、僕の手の中で一瞬で消し炭になったけど、シルヴィアは唖然とした顔で見ている。
「でき――ちゃったね」
笑って誤魔化せるかなと思ったけど、シルヴィアの表情は厳しい。何か言いたげだったけど、アーノンさんが先を急ぐと言うので僕達はその場を後にした。
その後も、同じような事を続ける事5か所。
アーノンさんは流石公国で一番のハンターの呼び声も高いと言われるだけあって、的確にテオ・オヴィーの行動範囲を絞り込んでいた。
「目撃情報や、調査に入ったパーティの情報から割り出した」
って言っていたけど、アーノンさんが地図で絞り込んだ場所は間違いなくテオ・オヴィーの縄張りでだった。
だけど、巣だけはその日一日かかっても見つける事は出来なかった。
道中で、狼やバラヌスって言うコモドオオトカゲをでっかくしたような魔獣に襲われたのだけど、アーノンさんもパージも意に介さずといった感じであっさりと切り捨てていた。
狼は前も見たけどバラヌスは初めてで、狩猟小屋に戻る道中にあった水辺に近寄った瞬間、音もなく近寄ってきたと思ったら、いきなり襲い掛かってきたんだよ。
なのに、パージは当たり前みたいに見えないほどの速さで剣を抜くと、剣に魔力を通して雷の魔法を発動したかと思うと、的確にバラヌスの目と目の間に細い電撃を落として一瞬で絶命させてみせた。
「これは皮が固くて鎧の素材になるからいい値で売れるし、肉もうまいんだ」
嬉しそうにそう言ってバラヌスを担いで歩くパージを見て唖然と目を見開いていたシルヴィアを眺めて、僕は何とも言えない気持ちになった。
イケメンが嬉しそうに爬虫類を担いで歩く姿って、確かになんとも言えない……よね。




