23.魔法剣の秘密
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宿屋に戻ると、アーノンさんは酒場にいたハンター達に囲まれていた。
絡まれているのかと思って助けに行こうとしたらパージに止められた。
「父さんは有名なんだ。いつもあんな感じだ」
だからさっきの男達もアーノンさんの事を知っていたし、みんなが窺うようにこっちを見ていたのか。
その後、やっと解放されたアーノンさんは僕達を怒るでもなく、僕達は宿屋に備え付けられた共用の浴室で旅の汚れを落として、部屋で明日からの樹海での調査について話し合っていた。
「テオ・オヴィーの目撃情報は複数ある。直近は樹海近くのマーヴの牧場だ」
アーノンさんが地図を見ながら説明してくれた。
国境地帯の山脈の裾野に広がる広大な樹海は、大森林程でなくとも魔力の濃い場所で、様々な魔獣が生息している。
もちろん、地元のハンターが管理しているおかげで魔獣溢れが起きる心配はない。
それが30日程前から森に入ったハンターが戻らない事が増えていた矢先に、マーヴの農場が襲われる事件が起きた。
オヴィーは通常は体長1mほどの小型の魔獣だ。立ち上がっても120cmほどしかない。足跡も20cmほどで子供の足跡程度だけど、十頭前後の群れで狩りをする。
比較的知能が高く、魔力を好む性質だけど、森から出て人間を襲うようなことはしない。森から出てしまうと人間の方が数が多い事を理解しているからだ。
だから、オヴィー達は森の中で狩りをする。その対象は人間だけじゃなく、自分達より大きい魔獣ですらターゲットになる。
だけど、農夫が見たというオヴィーは倍ほどもある体をしていたという。その証言を裏付けるように残された足跡も30~40cmもあり、中型から大型の魔獣と見て問題はないだろうとアーノンさんの見立てだった。
「オヴィーの行動範囲は広い。巣から半日ほど離れた場所でも移動する。まずは樹海でオヴィーの痕跡を探す事からだが、同時に罠を張る」
アーノンさんは地図を見ながら、罠を張る地点を確認している。僕は地図なんか見てもわからないからお任せするしかないんだけど、それ以前に僕戦えませんけどね。
身体強化はできるようになったものの、大森林に入ったのもあの日きりだし、ましてや武器すら持ったこともないんだからね。それをいきなり実践とか酷くない?なんなら行きたくない。
そんな僕の思惑を感じ取ったのか、アーノンさんは僕をじっと見て微笑んだ。
「お前は戦力じゃない。ただ、大森林に進む前に魔獣との戦いとはどんなものかを見ておいてほしいだけだ」
「そ、その為だけに4日もかけてここまで連れてきたんですか?」
開いた口が塞がらないとはこの事だよ。それなら大森林でよかったじゃないか。
「ここまで来たのはついでだ。突然の依頼だったしな」
「それに、お前ひとり村に置いて行けないだろ。どうやって生活するんだよ」
パージがアーノンさんに続く。――うっ。確かに。
お恥ずかしながら、僕は料理もできないし、村で買い物すらしたことがない。箱入り異世界人だ。一人であそこに置いて行かれても生活できる自信なんてない。
「お前は自分の身を守る事に専念していればいい。その代わり、俺達から絶対に離れるな」
僕の頭にポンポンと手を置いて、アーノンさんは優しく笑ってくれた。
前も思ったけど、アーノンさんの手はとても大きくて暖かい。
僕の父親は大学まで一緒に住んではいたけど、仕事人間で僕達家族には無関心で、一緒に過ごした記憶すらない人なんだけど、父親に頭を撫でられるってこんな感じなんだろうか。
言ってる事はめちゃくちゃなんだけど、手の暖かさに胸の奥がじんわりと暖かくなるのを感じて、僕は何も言えずに頷いた。
アーノンさんが地図を見ている間、パージは剣の手入れをしていた。
砥石を使って刃を研ぎ、仕上げに錆止めのオイルを塗る。
口で言うと簡単だけど、これが中々手がかかる。
手が塞がっているアーノンさんの剣にパージが手を伸ばした時に、ふと脇に置かれたパージの剣を見てみた。
威力が弱いとはいえ、魔法を発せられる剣なんてロマンじゃないか。
エイク達といた時はまともに見れなかったけど、なんとなく気になる箇所があったのを思い出して、パージの許しを得て剣に描かれた古代語を読み解く。
分子を振動させてその摩擦で電気を発生させる術式だ。それだけじゃなく通す魔力量によって強さをコントロールできるようになっている。
おかしい。だったらパージの魔力量を考えると、かなりの威力が出てもおかしくないのに、僕が見たのはせいぜい狼たちをスタンさせる程度だ。――いや、それでもすごいんだけど。
更に指向性だって決められる。全体攻撃か個体攻撃かを選べるんだ。つまり本当にちゃんとした魔法が描かれているのに、なんであんな程度しか使えないんだろう。
古代語はブレイド部分に描かれているけど、グリップやその先のポンネルにまで魔力を通す回路のようなものが描かれている事に気が付いた。
「――あれ?ここ、グリップから通した魔力が魔石の魔力と衝突して減衰している」
思わず呟いたのを、パージもアーノンさんも聞き逃さなかった。
「どういうことだ」
「あの――ですね。魔力の回路が間違えてるんですよ、これ」
僕の言葉に、「俺のも頼む」と、アーノンさんの剣も渡された。確認するアーノンさんの剣も同じようにグリップで魔力が衝突するようになっている。
本来なら持ち手の魔力がスイッチ兼コントローラーになって、魔石の魔力を使って魔法を発するはずが、魔石からブレイドに送られないといけない魔力が一度グリップに戻って持ち手の魔力と拮抗しちゃっている。
「本来ならこれ、魔法すら発動しませんけど、パージやアーノンさんの魔力がバカみたいに強いんで漏れた魔力でギリ発動しちゃってた感じですね」
「だから威力が弱かったのか……」
僕の言葉にパージもアーノンさんもがっくりと肩を落とした。
なんか、申し訳ない事見つけちゃったな。
「と、とりあえず直しておきますね」
翌日、僕はこの言葉を後悔する事になるとは、この時点では夢にも思わなかったよ。




