22.パージの過去
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パージが騎士に?
シルヴィアが来ていた銀色の胸当てや剣を構えているパージを想像すると、あらやだイケメンすぎる。めちゃくちゃかっこいい。
「なんでならなかったの?」
「お前さっきまで泣いてたんじゃなかったのかよ」
食い気味に僕が尋ねると、呆れたように顔をしかめてパージは僕を睨む。
だって、なんか気になるじゃない。
我ながら単純だけど、パージに慰められたのと、びっくり発言で引っ込んじゃったよ。ごめんね、単純で。
「単純どころじゃねえだろうが……」
溜息をつきながら、パージは串焼きを手に取ると残りの肉とパンを口に突っ込んだ。口の中がいっぱいだから喋れませんってか?
「パージ程の魔力量と実力だったら騎士になれたんじゃないの?――あ、それともこの世界じゃ騎士は貴族じゃないとなれないとか?」
「――そんな事はない」
観念したように口の中のものを飲み込んで、パージは口を開いた。
「貴族は12歳からある程度の職業について修行を始めるんだ。騎士なら騎士の元に修行に行く。そして15歳で仕事に就く。――平民の場合は、騎士になる場合は15歳になったら神殿で修行するんだ」
2本目の串焼きを食べながらパージは続けた。
「そして18歳で試験を受け、受かれば見事下級騎士だ。俺も、そのつもりだった。――けど、7年前のあの事件で全てが変わった」
7年前……アーミットの村を襲った魔獣溢れ。
「あの時死んだのはあの村の人間だけじゃないんだ」
パージの話し方は淡々としている。感情が乗っていない。
そういう時って、辛い時だっていうのを僕は知っている。感情を殺さないと話せない程辛い時。
「俺の母親があの村の近くにいた。母さんは強い人だった。父さんと一緒に狩りに出るほど強い人だったんだ。母さんはマリーとリディの様子を見に時々アーミットに行ってた」
「そこで魔獣に――?」
僕の問いかけにパージは答えなかった。幼馴染の女の子と、錬金術の本の持ち主のリディさんの事だとわかる。
「母さんの腹には俺の弟か妹がいたんだ。それで、俺達の遠征にはついてこなかった。腹の子に何かあると困るからって」
いつの間にかパージの手はテーブルの上で固く握りしめられていた。
「残ってたのは喰い散らかされた体の一部と、この剣だけだった」
あの雷の魔法剣はお母さんの形見だったのか。
「どう戦ってどう死んだのかもわからない。俺は子供の頃から魔獣と戦ってた。父さんと母さんの背中を見て育ったんだ。だから、母さんがどれだけ強いのかも知ってる。その母さんがあんなに無残に魔獣達に食われたなんて考えられない。それほどまでに、大森林は恐ろしい場所なんだ。王国にいるだけの騎士じゃ村を守れない――だから、俺は……」
「騎士ではなくハンターの道を選んだんだね」
言葉を詰まらせたパージの代わりに僕が言うと、パージは力なく頷いた。
「騎士になれば大事なものを守れると思ってた。でも、俺達を守るのは騎士じゃなかった。遠く離れた王国にいる騎士がやってきたのは7日も経ってからだ」
僕は何も言えなかった。パージはいつも通りの表情で淡々と話している。それでも、パージから悔しさや悲しみが伝わってくる。
「ごめん。つらい事を話させて。僕――何も知らなくて」
「いや――いいんだ。あれは俺の八つ当たりみたいなもんだ。騎士を諦めたのは俺自身の判断だったってのに、目の前に何の苦労もなく能天気に騎士になりたいって言う奴がいて、その上そいつの為に無駄な時間を……ってな。すまない」
「私からも謝るわ」
突然聞こえてきた声に驚いて振り返ると、いつの間にか僕達の背後にいたシルヴィアが、その綺麗な顔を涙でぐしゃぐしゃにして立っていた。
「アーノンに聞いたのよ。パージならここにいるんじゃないかって。失礼な態度をとっちめてやろうと思って追いかけてきたの」
僕達の向かいに座ったシルヴィアは、お嬢様らしくもなくチュニックの裾で涙を拭きながら言った。その綺麗な顔で鼻かまないで……。
「あなたにそんな過去があったなんて知らなかったのよ。ごめんなさい。――でもね、私がお嬢様の気まぐれで騎士を目指してるなんて思わないでほしいの」
涙を拭いて顔を上げたシルヴィアが真剣な顔で僕達を見た。
「貴族の娘の役割は何かわかる?」
「結婚――だろ」
パージが眉間に皺を刻みながら答える。
「そうよ。貴族は皆平民とは比べ物にならない魔力を持っているわ。だからこそ、魔力量の釣り合う貴族同士でなければ血を継ぐ事が出来ない。だから、貴族の娘は結婚して子供を産む事が一番の、そして唯一の役割なの」
確かに、シルヴィアの魔力量はアーノンさんにも引けを取らないほど大きい。――でも、魔力の釣り合う者同士じゃないと血を継げないってどういう事?
「夫婦の魔力量の釣り合いが取れないと、たとえ結婚しても子供ができないんだ。子供の魔力は両親から受け継がれる。腹の中で母親の魔力と父親の魔力が混ざり合わないといけない」
僕の疑問を察してくれたのか、パージが教えてくれた。
シルヴィアは一瞬眉をしかめたけど、気にせず続けた。
「私の魔力はひいおじい様譲りよ。お兄様を除いて一族の誰よりも大きいわ。それをただ子供を継ぐためだけに使えというの」
「それがあんたの役割だろうがよ」
「私の魔力と釣り合うのなんてお兄様くらいよ」
パージの言葉にシルヴィアはテーブルを叩いた。――テーブル叩くの好きな子だなぁ……。
「私は自分の魔力の大きさを理解しているわ。だから正しく使いたいの。その為に子供の頃からずっとひいおじい様に剣術を教わっていたのよ。おじい様は遊びのつもりだったみたいだけど、それでも私は一人でずっと鍛錬を続けていたの。いつか、この国を守る剣になるんだって」
「あんたが守らなくても、王国には騎士も兵士もいるだろうよ」
パージの声が冷たい。シルヴィアはパージの目を見据えて言った。
「その騎士達はアーミットの村を守れなかった。そして、今この王国内で起きているシニストロの樹海すらもよ。私はそんな状況を変えたいの。なのに、有り余る魔力を持っていても、女ってだけで黙って見ている事しかできない」
その目はとても真剣で、辺りが暗くなった今、屋台の灯りがその瞳を照らしていた。吸い込まれるような空の青が、暗みを帯びてサファイアのような美しさに見える。
「あんたが何を考えようが俺には関係ない。俺の気持ちは俺の問題だ。依頼とは別だ」
グレーの瞳がシルヴィアを捉えて離さない。口は悪いけど、パージもちゃんとシルヴィアの想いを受け取っているのがわかる。
「見ているだけは嫌なの。この国の貴族として、この国の者達を守るのが私の使命よ」
「好きにしろよ」
そう言うと、パージは席を立って僕の手を引いてその場を後にした。
パージに手を引かれながら、ちらりと振り返ってみると、シルヴィアはその場で両手で口元を押さえて悶絶しているように見えた。目線はしっかりと僕の手を握っているパージに集中している。
あ、そうだ。あの子お腐れ様だったんだ。




