第44話「西って最高じゃん!」
西。
俺たちは。
西へ。
歩いている。
「…………」
俺。
笑う。
一歩。
西。
もう一歩。
西。
また。
西。
「…………」
いい。
すごく。
いい。
◇
「先生」
門倉隼太。
「何?」
「先ほどから」
「うん」
「随分と楽しそうですが」
「気のせい」
「左様ですか」
「うん」
俺は。
歩く。
西。
「…………」
やっぱ。
最高。
◇
往路。
毎日。
東。
東。
東。
どれだけ。
歩いても。
東。
地図。
見ても。
東。
次の場所。
聞いても。
東。
俺。
途中から。
東って。
言葉。
嫌いに。
なりかけた。
でも。
今日。
違う。
「門倉」
「はい」
「今、どっち向いてる?」
「西ですが」
「もう一回」
「西です」
「いいね」
「…………」
門倉。
俺を見る。
何。
その目。
◇
測る。
歩く。
止まる。
記録。
また。
歩く。
やってること。
往路と。
同じ。
むしろ。
帰りも。
仕事。
ある。
でも。
気分。
全然。
違う。
だって。
一歩。
歩くたび。
江戸。
近づいてる。
「…………」
一歩。
江戸。
一歩。
江戸。
一歩。
江戸。
俺。
足。
速くなる。
◇
「先生」
宗平。
「何?」
「少々速うございます」
「そう?」
「はい」
俺。
止まる。
後ろ。
見る。
少し。
離れてる。
「あ」
いけない。
測量。
してる。
帰宅。
競争。
じゃない。
「ごめん」
戻る。
◇
測る。
記録。
歩く。
今度。
ゆっくり。
でも。
頭の中。
江戸。
江戸。
江戸。
厚岸。
牡蠣。
江戸。
「…………」
牡蠣。
一個。
混ざった。
◇
しばらく。
進む。
俺。
景色を見る。
「…………あ」
知ってる。
ここ。
来る時。
通った。
あの辺。
歩いた。
こっち。
測った。
「あそこ」
俺。
指差す。
「通ったよな?」
門倉。
見る。
「通りましたな」
「やっぱり!」
嬉しい。
何が。
嬉しいのか。
分からない。
でも。
嬉しい。
◇
さらに。
進む。
また。
見覚え。
ある。
「ここも!」
「はい」
「覚えてる!」
「左様ですか」
「俺、すごくない?」
門倉。
少し。
考える。
「先生は測量の責任者でございますので」
「そういう正論いらない」
◇
でも。
本当に。
覚えてる。
来る時。
ただ。
つらかった。
景色。
見る。
余裕。
ない日も。
あった。
足。
痛い。
寒い。
腹。
減った。
まだ?
そればっかり。
だった。
でも。
ちゃんと。
残ってる。
◇
俺たちが。
測った。
場所。
歩いた。
場所。
泊まった。
場所。
全部。
つながってる。
「…………」
地図。
頭の中にも。
少しずつ。
できてる。
そんな。
感じ。
◇
俺。
歩く。
前より。
楽。
身体が。
慣れた?
それも。
ある。
でも。
たぶん。
それだけじゃない。
最初。
何も。
分からなかった。
測量。
知らない。
道。
知らない。
人。
知らない。
次。
何するか。
知らない。
全部。
知らない。
今。
少し。
分かる。
◇
止まる。
測る。
記録。
確認。
「先生」
宗平から。
記録。
渡される。
見る。
「ここ」
俺。
指差す。
「さっきのと合ってる?」
宗平。
確認。
「はい」
「じゃあ大丈夫」
返す。
普通に。
やる。
そのあと。
俺。
気づく。
「…………」
今。
俺。
何も。
聞かなかった。
自分で。
確認した。
◇
ちょっと。
嬉しい。
でも。
言わない。
門倉。
気づいたのか。
俺を見る。
「何?」
「いえ」
「何?」
「何も」
絶対。
何か。
思った。
◇
昼。
休む。
飯。
食う。
俺は。
西を見る。
「…………」
あっち。
江戸。
正確には。
ずっと。
ずっと。
先。
海も。
ある。
でも。
方向。
合ってる。
それだけで。
いい。
◇
「門倉」
「はい」
「帰りってさ」
「はい」
「どれくらいかかる?」
聞いた。
瞬間。
後悔。
した。
俺。
最近。
学んだ。
日数。
聞く。
大体。
ろくな。
こと。
ない。
門倉。
答える。
俺。
聞く。
「…………」
長い。
やっぱり。
長い。
◇
「まあ」
俺。
飯。
食う。
「いいけど」
門倉。
少し。
驚く。
「よろしいので?」
「帰ってるから」
俺。
言う。
自分でも。
驚いた。
前なら。
絶対。
文句。
言った。
今。
長い。
でも。
帰ってる。
だから。
歩ける。
◇
午後。
また。
進む。
西。
西。
西。
俺。
もう。
方向。
確認。
しない。
ちゃんと。
分かる。
「…………」
帰ってる。
◇
そして。
見覚えの。
ある。
土地。
近づく。
俺。
気づく。
「門倉」
「はい」
「あれ」
見る。
「あれって」
「姉別でございますな」
「…………」
姉別。
俺。
止まる。
◇
姉別。
三日。
船。
待った。
海。
見た。
鳥。
船と。
間違えた。
波。
船と。
間違えた。
暇。
すぎて。
仕事。
探した。
そして。
夜。
天測。
「…………」
嫌な。
思い出。
いっぱい。
◇
でも。
今。
見ると。
違う。
「帰ってきた」
俺。
呟く。
門倉。
「はい」
「本当に戻ってきた」
「左様です」
俺。
笑う。
すごい。
来る時。
姉別。
次。
西別。
まだ。
東。
だった。
今。
姉別。
次。
もっと。
西。
◇
「よし!」
俺。
歩く。
姉別へ。
入る。
前。
ここで。
思った。
船。
早く。
来い。
歩かせろ。
今。
思う。
「船待たなくていいよね?」
門倉。
答える。
「戻りは陸路を進みます」
「…………」
俺。
止まる。
陸路。
つまり。
歩く。
俺。
少し。
考える。
昔の。
俺なら。
嫌。
今。
俺。
笑う。
「いいじゃん」
門倉。
見る。
「歩こう」
◇
言った。
俺。
自分から。
歩こう。
門倉。
何も。
言わない。
でも。
ちょっと。
笑った。
気がする。
「何?」
「いえ」
「なんだよ」
「何もございませぬ」
絶対。
何か。
ある。
◇
夜。
俺は。
姉別で。
横になる。
前。
ここで。
寝た時。
船。
船。
船。
頭。
いっぱい。
だった。
今日。
違う。
明日。
歩く。
測る。
西へ。
進む。
「…………」
楽しみ。
そこまで。
思って。
俺。
止まる。
「…………」
待って。
今。
明日。
歩くの。
楽しみって。
思った?
◇
起き上がる。
俺。
大丈夫?
五十五歳。
毎日。
歩いて。
測って。
夜。
星まで。
見て。
それで。
明日。
歩くの。
楽しみ?
「…………」
完全に。
染まってる。
俺。
頭。
抱える。
伊能忠敬。
怖い。
◇
ウインドウ。
出る。
【第一次測量 蝦夷地】
【測量進捗率:25%】
「…………」
二十五。
まだ。
分からない。
でも。
今日は。
いい。
俺は。
ウインドウを見る。
「明日も西?」
【25%】
「西だよな?」
【25%】
「よし」
消す。
数字。
増えなくても。
今日は。
気にならない。
だって。
俺。
知ってる。
進んでる。
◇
布団。
入る。
目。
閉じる。
明日。
また。
歩く。
測る。
西へ。
「…………」
俺は。
小さく。
笑う。
第一次測量。
復路。
始まった。
そして。
俺は。
ようやく。
気づき始めていた。
進捗率が。
増えなくても。
人間は。
ちゃんと。
前に。
進めるらしい。




