第43話「鮭、強えな」
「地図、鮭に負けてんじゃん!」
言った。
俺。
言っちゃった。
門倉隼太。
俺を見る。
「先生?」
「いや」
違う。
違わない。
でも。
言い方。
悪い。
「なんでもない」
俺は。
海を見る。
鮭。
強い。
◇
考える。
幕府。
測量。
日本地図。
根室。
行きたい。
でも。
人。
いない。
船。
ない。
理由。
鮭漁。
「…………」
やっぱ。
強い。
俺の中で。
鮭の。
評価。
爆上がり。
◇
「門倉」
「はい」
「鮭漁ってそんなに大事?」
聞いてみる。
門倉が。
答える。
この辺りでは。
重要な。
仕事。
多くの人。
動く。
船。
使う。
人手。
必要。
俺は。
聞く。
「なるほど」
そりゃ。
測量隊に。
人。
回せない。
◇
俺は。
昨日。
聞いた。
話を。
思い出す。
鮭。
網。
漁。
この土地。
生きる人。
俺たち。
江戸から。
来た。
地図。
作る。
大事。
たぶん。
ものすごく。
大事。
未来の。
俺。
知ってる。
伊能図。
歴史。
残る。
でも。
今。
ここにいる人。
未来の。
教科書。
知らない。
伊能忠敬。
歴史上の。
偉人でも。
ない。
ただ。
江戸から。
測量しに。
来た人。
◇
一方。
鮭。
今。
獲らないと。
いけない。
仕事。
金。
食べ物。
暮らし。
「…………」
そりゃ。
鮭だわ。
俺は。
また。
思う。
でも。
今度は。
笑わなかった。
◇
地図。
大事。
鮭。
大事。
比べるもの。
じゃない。
俺たちは。
俺たちの。
仕事。
する。
この人たちは。
この人たちの。
仕事。
する。
その結果。
根室。
行けない。
それだけ。
「…………」
なんか。
俺。
最初より。
分かるように。
なったな。
蝦夷地。
来た頃。
だったら。
絶対。
言ってた。
「幕府の命令だぞ」
「人出してよ」
たぶん。
そう。
思ってた。
今。
違う。
◇
俺は。
周りを見る。
ここまで。
来る間。
何人に。
助けてもらった?
分からない。
六人で。
始めた。
でも。
六人だけじゃ。
絶対。
無理。
道。
知ってる人。
荷。
運ぶ人。
馬。
出す人。
船。
出す人。
飯。
作る人。
泊める人。
いろんな。
人。
いた。
俺たちは。
その人たちに。
助けてもらって。
ここまで。
来た。
だったら。
人が。
出せない時。
「出せ」
なんて。
言えない。
◇
「門倉」
「はい」
「根室は諦めよう」
門倉。
少し。
止まる。
「すでに、そのように」
「分かってるよ!」
俺が。
決めた感。
出したかった。
◇
門倉。
少し。
笑った。
「では、戻る支度を」
「うん」
戻る。
その言葉。
いい。
すごく。
いい。
俺は。
立つ。
「西?」
「西です」
「西だよね?」
「西でございます」
「もう東じゃない?」
「戻りますので」
「…………」
俺。
笑う。
「西!」
◇
支度。
始める。
荷。
確認。
測量器具。
確認。
記録。
確認。
俺も。
動く。
もう。
何を。
するか。
だいたい。
分かる。
「宗平」
「はい」
「こっち確認した?」
「済んでおります」
「じゃあこれは?」
「まだです」
「俺やる」
「お願いいたします」
普通。
普通に。
会話。
した。
◇
俺は。
作業。
しながら。
ふと思う。
最初。
俺が。
何か。
やろうとすると。
みんな。
心配。
してた。
俺。
伊能忠敬。
なのに。
中身。
何も。
知らなかった。
今。
違う。
俺が。
「やる」
って。
言ったら。
「お願いします」
返ってくる。
「…………」
嬉しい。
ちょっと。
だけ。
◇
準備。
終わる。
いよいよ。
西別。
出る。
俺は。
西を見る。
帰る。
その先。
姉別。
ノコベリ別。
厚岸。
牡蠣。
さらに。
西。
ずっと。
西。
函館。
そして。
江戸。
「…………」
帰るぞ。
◇
歩き出す。
一歩。
二歩。
三歩。
俺。
止まる。
振り返る。
西別。
「先生?」
門倉。
呼ぶ。
「いや」
俺は。
見る。
ここ。
来るまで。
長かった。
本当に。
長かった。
途中。
何回。
帰りたい。
思った?
何回。
文句。
言った?
何回。
「まだ?」
言った?
たぶん。
数えられない。
でも。
着いた。
◇
本当なら。
根室まで。
行く予定。
だった。
でも。
行けない。
だから。
ここ。
今回の。
一番。
東。
「…………」
西別。
俺。
忘れない。
たぶん。
一生。
忘れない。
だって。
俺が。
初めて。
自分で。
「ここまで来た」
って。
思えた場所。
だから。
◇
「先生」
門倉。
もう一度。
呼ぶ。
「行きますか?」
俺は。
頷く。
「うん」
西別に。
背中。
向ける。
そして。
西へ。
歩く。
◇
「…………」
西。
いい。
なんか。
いい。
帰ってる。
一歩。
歩く。
江戸。
近づく。
また。
一歩。
江戸。
近づく。
「…………」
最高。
俺。
歩く。
速い。
門倉。
見る。
「先生」
「何?」
「随分と足取りが軽いですな」
「気のせい」
「左様ですか」
「うん」
気のせい。
じゃない。
帰ってる。
から。
◇
しばらく。
歩く。
測る。
止まる。
記録。
また。
歩く。
「…………」
俺。
止まる。
「門倉」
「はい」
「ちょっと確認」
「何でしょう?」
「帰りも」
俺は。
測量器具を見る。
「これ、ずっとやるんだよね?」
「もちろんでございます」
「…………」
そうだった。
四十話で。
聞いた。
知ってた。
でも。
実際。
始まると。
違う。
◇
「帰るだけじゃ駄目?」
「測量でございますので」
「来る時測ったじゃん」
「必要な測量を行いながら戻ります」
「…………」
俺は。
空を見る。
帰ってる。
確かに。
帰ってる。
でも。
仕事。
終わってない。
「…………」
まあ。
いい。
西。
だから。
今は。
許す。
◇
ウインドウ。
出る。
【第一次測量 蝦夷地】
【測量進捗率:25%】
「…………」
俺は。
見る。
昨日までなら。
文句。
言った。
でも。
今。
この数字。
意味。
分からない。
距離。
じゃない。
日数。
でも。
ない。
何か。
別の。
二十五。
「…………」
まあ」
俺は。
言う。
「そのうち分かるだろ」
【…………】
「今は帰る」
【25%】
「西!」
【25%】
「江戸!」
【25%】
「牡蠣!」
【…………】
最後。
違う。
◇
歩く。
測る。
歩く。
測る。
でも。
往路とは。
気持ち。
違う。
見たこと。
ある。
景色。
出てくる。
「あ」
俺。
止まる。
ここ。
覚えてる。
「ここ通ったよな?」
門倉。
頷く。
「通りましたな」
「やっぱり!」
なんか。
嬉しい。
◇
また。
進む。
見覚え。
ある。
場所。
ある。
「ここも」
「はい」
俺。
覚えてる。
自分でも。
驚く。
あれだけ。
毎日。
似たような。
海岸。
歩いたのに。
覚えてる。
◇
俺は。
後ろ。
振り返る。
西別。
もう。
見えない。
でも。
いい。
今度は。
前。
見る。
西。
俺たちが。
一度。
通った。
道。
「…………」
帰ろう。
俺は。
歩く。
そして。
ふと。
気づく。
「…………」
俺。
普通に。
歩くって。
言ったな。
自分から。
帰ろう。
って。
思った。
誰にも。
言われてない。
「…………」
まあ。
いいか。
◇
伊能忠敬。
五十五歳。
第一次測量。
西別。
折り返し。
根室。
断念。
理由。
鮭漁。
俺は。
今日。
一つ。
覚えた。
地図は。
未来に。
残る。
でも。
人は。
今日を。
生きてる。
だから。
地図より。
鮭が。
大事な日も。
ある。
「…………」
でも。
俺は。
少し。
笑う。
それでも。
やっぱり。
言いたい。
「鮭、強えな」
そして。
俺たちは。
西へ。
歩き始めた。




