第34話「厚岸もう出るの!?」
朝。
目が覚めた。
「…………」
昨日。
牡蠣。
食べた。
うまかった。
本当に。
うまかった。
俺は。
布団の中で。
昨日の味を。
思い出す。
「…………」
朝も。
牡蠣。
あるかな。
そんなことを。
考えていた。
「先生」
門倉隼太。
来た。
「おはよう」
「おはようございます」
「朝飯は?」
「支度されております」
「牡蠣?」
「…………」
門倉が。
俺を見る。
「昨日から、かきというものを随分お気に召したようで」
「うん」
もう。
隠さない。
好き。
牡蠣。
「ございますかどうかは」
「見てくる」
俺は。
立ち上がった。
五十五歳。
朝。
強い。
理由。
牡蠣。
◇
朝飯。
魚。
汁物。
その他。
「…………」
牡蠣。
ない。
俺は。
食事を見る。
もう一度。
見る。
ない。
「先生?」
「いや」
昨日。
食べた。
いい。
贅沢。
言わない。
俺は。
魚を。
食べる。
うまい。
普通に。
うまい。
でも。
人間。
一度。
贅沢を。
知ると。
駄目だな。
「…………」
牡蠣。
「先生」
「何?」
「本日は厚岸を発ちます」
「…………」
箸。
止まった。
◇
「今日?」
「はい」
「もう?」
「はい」
「昨日着いたよね?」
「はい」
「牡蠣一回しか食ってない」
「かき?」
「いや」
俺は。
頭を。
抱える。
分かってる。
ここ。
観光旅行。
じゃない。
俺たち。
測量隊。
目的。
日本地図。
厚岸。
ゴールじゃない。
でも。
「もうちょっと厚岸楽しんでもよくない?」
「何を楽しむので?」
「…………」
牡蠣。
言えない。
いや。
もう。
バレてる。
◇
支度。
する。
俺は。
厚岸を見る。
現代でも。
知ってる名前。
やっと。
来た。
牡蠣。
食べた。
そして。
もう。
出る。
「…………」
旅行なら」
俺は。
呟く。
「もう一泊するのに」
門倉が。
振り返る。
「先生?」
「なんでもない」
測量。
旅行じゃない。
何回目だ。
これ。
◇
出発。
また。
東。
俺は。
厚岸を。
振り返る。
「…………」
さようなら。
牡蠣。
また。
会えるかな。
帰り。
ここ。
通る?
その瞬間。
俺。
気づく。
「門倉」
「はい」
「帰りも厚岸通る?」
「行程によれば」
「!」
希望。
生まれた。
「じゃあまた牡蠣食える?」
「かきとは何なのです?」
「なんでもない!」
帰り。
厚岸。
牡蠣。
俺の中で。
新しい。
目標。
できた。
◇
歩く。
測る。
記録。
進む。
海岸。
続く。
厚岸。
離れていく。
「…………」
でも。
昨日までとは。
少し。
違う。
西別。
その名前。
前は。
遠すぎた。
どこ?
って。
感じ。
今。
違う。
厚岸まで。
来た。
この先。
ノコベリ別。
姉別。
そして。
西別。
「…………」
近づいてる。
ちゃんと。
近づいてる。
◇
昼。
休憩。
俺は。
飯を。
食べながら。
門倉に。
聞く。
「次どこ?」
「ノコベリ別方面へ」
「その次?」
「姉別」
「その次?」
「行程が順調なら西別へ」
「…………」
俺は。
止まる。
西別。
出た。
前は。
聞くだけで。
絶望した。
でも。
今。
「もうすぐ?」
門倉が。
少し考える。
「まだ測量がございます」
「それは分かってる」
でも。
西別。
見えてきた。
「…………」
折り返し。
俺は。
覚えてる。
西別。
着いて。
終わり。
じゃない。
帰る。
でも。
それでも。
一度。
端まで。
行ける。
「…………」
よし。
◇
午後。
俺は。
いつもより。
少し。
足取りが。
軽い。
「先生」
門倉。
「何?」
「今日は随分と静かですな」
「失礼だな」
「いつもなら海岸線に文句を」
「言わない」
「道にも」
「言わない」
「距離にも」
「言わない」
門倉が。
俺を見る。
「どうされたのです?」
「西別が見えてきたから」
門倉。
少し。
笑う。
「まだ先ですが」
「それ言うな!」
やっぱり。
腹立つ。
◇
測る。
歩く。
記録。
進む。
途中。
現地の人に。
道を。
聞く。
人。
借りる。
助けてもらう。
俺たち。
六人。
でも。
六人だけじゃ。
ここまで。
来られなかった。
最近。
それも。
分かる。
「…………」
西別まで。
あと。
どれくらいの人に。
助けてもらうんだろう。
たぶん。
まだ。
いっぱい。
いる。
俺は。
案内してくれる人に。
頭を。
下げる。
「お願いします」
自然に。
言えた。
◇
夕方。
測量。
終わる。
ウインドウ。
出る。
【第一次測量 蝦夷地】
【測量進捗率:24%】
「…………」
まだ。
二十四。
俺は。
見る。
でも。
今日は。
あまり。
腹が立たない。
「いいよ」
【24%】
「西別近づいてるし」
【24%】
「俺には分かる」
【24%】
「お前が増えなくても」
【24%】
「…………」
なんか。
負け惜しみ。
みたいになった。
◇
夜。
俺は。
今後の。
行程を。
聞く。
ノコベリ別。
姉別。
西別。
頭の中で。
並べる。
厚岸。
もう。
後ろ。
「…………」
本当に。
来たんだな。
ここまで。
江戸。
出て。
蝦夷地。
入って。
ずっと。
測って。
今。
厚岸より。
さらに。
東。
俺。
地図の。
端へ。
近づいてる。
少し。
興奮。
する。
◇
そして。
ふと。
思う。
「門倉」
「はい」
「西別着いたらさ」
「はい」
「一日くらい休める?」
門倉が。
俺を見る。
「状況によります」
「…………」
嫌な。
答え。
「せめて」
俺は。
言う。
「着いた日は休もうよ」
「必要な仕事があれば行います」
「…………」
知ってた。
俺は。
空を見る。
「伊能忠敬って」
「はい?」
「働きすぎじゃない?」
門倉が。
首を傾げる。
俺の。
こと。
なんだけど。
俺じゃない。
説明。
難しい。
「なんでもない」
◇
横になる。
目。
閉じる。
西別。
もう。
ただの。
遠い名前じゃない。
ノコベリ別。
姉別。
その先。
西別。
「…………」
もうすぐ。
折り返し。
そう思うと。
少し。
嬉しい。
でも。
俺は。
まだ。
知らない。
西別へ。
向かう前に。
俺たちが。
待つことになることを。
一日。
待つ。
そして。
また。
待つ。
さらに。
待つ。
俺は。
まだ。
知らない。
「…………」
明日も。
頑張るか。
そう言って。
目を閉じた。
この時の俺は。
まだ。
思っていた。
進まない原因は。
歩くのが。
遅いことくらいだと。




