第33話「牡蠣あったぁぁ!」
朝。
目が覚めた。
「…………」
身体。
重い。
昨日。
昼。
測量。
夜。
天測。
五十五歳。
頑張った。
「…………」
休みたい。
本音。
出る。
でも。
思い出す。
厚岸。
「…………」
牡蠣。
起きた。
◇
「先生」
門倉隼太が。
来る。
「起きてる」
「本日も早いですな」
「目的があるから」
「西別ですか?」
「…………」
違う。
いや。
違わない。
最終的には。
西別。
でも。
今は。
違う。
「厚岸」
「厚岸?」
「うん」
門倉が。
不思議そうな。
顔をする。
「昨日から随分と厚岸を気にされますな」
「気のせい」
「左様ですか」
絶対。
気づかれてる。
◇
出発。
今日も。
東。
でも。
もう。
文句。
言わない。
厚岸。
近づいてる。
歩く。
測る。
記録。
また。
歩く。
「…………」
俺は。
前を見る。
どこだ。
厚岸。
どこだ。
牡蠣。
いや。
違う。
厚岸。
「先生」
「何?」
「先ほどから前ばかり見ておりますが」
「気のせい」
今日。
二回目。
◇
測る。
進む。
止まる。
記録。
確認。
また。
進む。
「…………」
遅い。
測量。
遅い。
当たり前。
分かってる。
海岸線。
測ってる。
旅行じゃない。
「門倉」
「はい」
「あとどれくらい?」
「厚岸までですか?」
「うん」
答え。
聞く。
「…………」
まだ。
ある。
「分かった」
歩く。
◇
少しして。
また。
「門倉」
「はい」
「あとどれくらい?」
「先生」
「何?」
「先ほどお答えしましたが」
「進んだじゃん」
「…………」
門倉が。
俺を見る。
「子供の旅ではありませぬ」
「分かってるよ!」
五十五歳。
怒られた。
◇
昼。
飯。
俺は。
魚を。
食べる。
うまい。
いつもなら。
満足。
でも。
今日は。
違う。
「…………」
牡蠣。
宗平が。
俺を見る。
「先生」
「何?」
「魚、お嫌いでしたか?」
「好きだよ」
「では、なぜ残念そうな顔を?」
「…………」
顔。
出すぎ。
俺。
「もっと好きなものがあるだけ」
「ほう」
宗平。
食いついた。
「何がお好きで?」
「…………」
牡蠣。
言う?
いや。
やめる。
もし。
厚岸着いて。
牡蠣。
なかったら。
恥ずかしい。
「秘密」
「はあ」
五十五歳。
好きな食べ物。
秘密にした。
◇
午後。
また。
測る。
歩く。
測る。
歩く。
そして。
門倉が。
言った。
「先生」
「何?」
「厚岸が近うございます」
「!」
俺。
顔。
上げる。
「本当?」
「はい」
疲れ。
消えた。
気がする。
足。
痛い。
でも。
動く。
「よし!」
「先生」
「何?」
「測量を」
「分かってる!」
分かってる。
だから。
測る。
ちゃんと。
測る。
早く。
厚岸へ。
行くために。
ちゃんと。
測る。
矛盾。
してる気も。
する。
◇
そして。
ようやく。
着いた。
厚岸。
「…………」
俺は。
周囲を見る。
ここ。
厚岸。
現代でも。
知ってる。
名前。
俺が。
知ってる場所。
江戸時代の。
厚岸。
「おお……」
少し。
感動する。
現代と。
全然。
違う。
当たり前。
でも。
同じ場所。
二百年以上。
前。
俺。
そこに。
立ってる。
「…………」
すげえ。
牡蠣。
一瞬。
忘れた。
本当に。
一瞬だけ。
◇
「先生」
門倉の声。
現実。
戻る。
「何?」
「本日の記録を」
「ああ」
仕事。
残ってた。
俺たちは。
必要なことを。
済ませる。
記録。
確認。
話。
聞く。
宿。
決める。
俺も。
動く。
そして。
ようやく。
一息。
「…………」
さて。
俺は。
周囲を見る。
厚岸。
来た。
つまり。
次。
俺の。
個人的な。
任務。
牡蠣。
◇
でも。
問題。
ある。
どうやって。
聞く?
「牡蠣あります?」
普通に。
聞けばいい。
でも。
俺。
昨日から。
牡蠣。
牡蠣。
頭の中。
牡蠣。
もし。
ない。
って。
言われたら。
精神的。
ダメージ。
でかい。
「…………」
いや。
聞こう。
俺は。
近くの人に。
声を。
かける。
海の。
食べ物。
魚。
貝。
そういう話を。
する。
自然に。
自然に。
「この辺りでは」
俺は。
聞く。
「貝なども獲れるのか?」
「はい」
来た。
心臓。
ちょっと。
速い。
いくつか。
名前。
出る。
俺は。
待つ。
そして。
「…………」
出た。
牡蠣。
「あるの!?」
声。
大きくなった。
相手が。
驚く。
門倉も。
見る。
「先生?」
「いや!」
ある。
牡蠣。
ある。
この時代にも。
当然。
いる。
生き物なんだから。
当たり前。
でも。
嬉しい。
「食べる?」
俺は。
聞く。
◇
そして。
俺の前。
牡蠣。
「…………」
来た。
ついに。
来た。
江戸時代。
蝦夷地。
厚岸。
牡蠣。
俺は。
見る。
現代みたいに。
店。
ない。
メニュー。
ない。
牡蠣小屋。
ない。
観光。
ない。
でも。
牡蠣。
ある。
「…………」
いただきます。
食べる。
「…………!」
うまい。
海。
濃い。
味。
広がる。
「うまっ」
思わず。
声。
出る。
「先生」
門倉が。
見る。
「随分とお気に召したようで」
「うん」
これは。
うまい。
ここまで。
歩いた。
足。
痛い。
昼。
測った。
夜。
星。
測った。
五十五歳。
働いた。
全部。
一瞬。
報われた。
気がした。
「…………」
厚岸。
最高。
◇
ウインドウ。
現れる。
【第一次測量 蝦夷地】
【測量進捗率:24%】
「…………」
今。
出る?
俺は。
牡蠣を見る。
次。
ウインドウ。
見る。
【24%】
「今日はいい」
【24%】
「許す」
【24%】
「牡蠣うまいから」
【…………】
初めて。
進捗率に。
勝った。
気がした。
◇
夜。
俺は。
横になる。
満足。
した。
厚岸。
来た。
牡蠣。
食った。
「…………」
明日も。
ここ?
そうなら。
いい。
もう一回。
食べたい。
そんなこと。
考えていた。
外。
声。
聞こえる。
門倉たち。
何か。
話している。
今後の。
行程。
俺は。
耳を。
傾ける。
厚岸。
この先。
さらに。
東。
ノコベリ別。
そして。
姉別。
その先。
西別。
「…………」
そうだった。
牡蠣。
食って。
終わりじゃない。
俺。
地図。
作ってる。
ウインドウ。
もう一度。
出る。
【測量進捗率:24%】
「…………」
分かったよ。
でも。
今日は。
言わせて。
俺は。
目を閉じる。
「牡蠣うまかった……」
伊能忠敬。
五十五歳。
厚岸到着。
日本地図。
まだ。
完成していない。
西別。
まだ。
遠い。
でも。
今日は。
牡蠣を。
食べた。
だから。
いい。
明日から。
また。
歩こう。
「…………」
できれば。
朝も。
牡蠣。
食いたい。




