第32話「晴れたら仕事増えるじゃん!」
朝。
目が覚めた。
「…………」
厚岸。
俺は。
思い出す。
牡蠣。
目が。
覚めた。
「よし」
起きる。
今日は。
早い。
自分でも。
驚く。
「先生」
門倉隼太が。
来る。
「起きてるよ」
「…………」
門倉が。
止まった。
「何?」
「いえ」
「なんだよ」
「珍しいこともあるものだと」
「失礼だな!」
でも。
否定は。
できない。
◇
支度。
終わる。
外へ。
出る。
「門倉」
「はい」
「今日も厚岸方面?」
「はい」
「よし」
俺は。
東を見る。
昨日まで。
あれだけ。
嫌だった。
東。
今は。
違う。
東。
つまり。
厚岸。
厚岸。
つまり。
牡蠣。
「行こう!」
「先生」
「何?」
「随分とやる気ですな」
「俺だってやる時はやる」
嘘。
牡蠣。
食いたいだけ。
◇
測量開始。
歩く。
測る。
記録。
進む。
海岸線。
曲がる。
また。
測る。
「…………」
遅い。
今日は。
やけに。
遅く感じる。
昨日までなら。
普通だった。
でも。
目的地が。
できた。
厚岸。
牡蠣。
そう思うと。
一歩が。
遅い。
「門倉」
「はい」
「もう少し速く」
「測量しておりますので」
「…………」
そうだった。
俺たち。
旅行じゃない。
◇
歩く。
測る。
また。
歩く。
「…………」
俺は。
海を見る。
この辺り。
全部。
測る。
岬。
入り江。
川。
地形。
一つずつ。
記録する。
目的地だけを。
見て。
真っすぐ。
進めない。
分かってる。
昨日も。
同じこと。
聞いた。
でも。
今日は。
言いたい。
「海岸線さ」
「はい」
「もう少し真っすぐにならない?」
門倉が。
俺を見る。
「誰に仰っているのです?」
「…………」
確かに。
誰に。
言えばいいんだ?
幕府?
違う。
自然。
「神様?」
「先生?」
「何でもない」
◇
昼。
休憩。
俺は。
飯を。
食べる。
魚。
うまい。
でも。
俺の頭。
牡蠣。
「…………」
牡蠣。
焼く。
うまい。
蒸す。
うまい。
鍋。
うまい。
生。
「…………」
いや。
この時代。
生は。
ちょっと。
怖い。
やめよう。
「先生」
宗平が。
俺を見る。
「何でしょう?」
「いや」
「先ほどから随分と嬉しそうですが」
「…………」
顔に。
出てた?
「厚岸が楽しみで」
「厚岸が?」
「うん」
「何かございましたかな?」
「…………」
牡蠣。
とは。
言えない。
この時代の。
厚岸で。
牡蠣が。
どう扱われてるか。
俺。
知らない。
「なんとなく」
「左様ですか」
便利。
なんとなく。
◇
午後。
測量。
再開。
歩く。
測る。
記録。
また。
歩く。
空。
少しずつ。
変わる。
夕方。
近い。
「…………」
今日は。
結構。
進んだな。
俺は。
思う。
足。
痛い。
身体。
重い。
でも。
厚岸。
近づいた。
「よし」
今日。
終わり。
飯。
食う。
寝る。
明日。
また。
厚岸へ。
完璧。
◇
「先生」
門倉。
「何?」
「今夜は空の具合がよろしいようです」
「…………」
俺は。
空を見る。
雲。
少ない。
星。
見えそう。
嫌な。
予感。
「それが?」
一応。
聞く。
門倉が。
答える。
「天測ができます」
「…………」
出た。
俺は。
空を見る。
綺麗。
本当に。
綺麗。
星。
見えそう。
現代なら。
最高。
写真。
撮りたい。
でも。
今。
俺にとって。
晴れた夜。
意味。
違う。
仕事。
増える。
◇
夜。
星。
出た。
俺たち。
外。
いる。
「…………」
寒い。
俺は。
測量器具を見る。
次に。
空。
見る。
そして。
門倉。
見る。
「なあ」
「はい」
「昼」
「はい」
「結構歩いたよね?」
「歩きましたな」
「測ったよね?」
「もちろんです」
「仕事したよね?」
「はい」
「じゃあ」
俺は。
空を。
指差す。
「なんで夜も仕事してるの?」
門倉が。
俺を見る。
「星が見えるからですが」
「理由になってない!」
いや。
理由には。
なってる。
めちゃくちゃ。
なってる。
だから。
腹立つ。
◇
天測。
始まる。
星。
見る。
測る。
記録。
俺も。
動く。
「…………」
前より。
分かる。
何を。
してるのか。
どこを。
見るのか。
どう。
記録するのか。
俺。
本当に。
覚えてる。
でも。
覚えたから。
楽。
とは。
限らない。
むしろ。
仕事。
増えた気がする。
「先生」
「はい」
返事。
した。
普通に。
「こちらを」
「分かった」
動く。
確認。
する。
記録。
見る。
「…………」
俺。
完全に。
働いてるな。
◇
しばらくして。
俺は。
空を。
見上げる。
星。
綺麗。
本当に。
綺麗。
街の明かり。
ない。
電気。
ない。
真っ暗。
だから。
星が。
すごい。
「…………」
これは。
ちょっと。
得したかも。
そう。
思った。
次の瞬間。
「先生」
「何?」
「まだ続きます」
「…………」
前言。
撤回。
◇
天測。
終わる。
俺は。
座り込む。
「終わった……」
昼。
歩いた。
測った。
夜。
星。
測った。
昨日も。
似たようなこと。
した。
その前も。
やった。
「…………」
改めて。
思う。
伊能忠敬。
五十五歳。
これ。
やってる。
「…………」
俺。
今。
五十五歳の身体なんだよな。
急に。
怖くなる。
「門倉」
「はい」
「俺、五十五だよね?」
「先生?」
「五十五歳だよね?」
「左様ですが」
「…………」
俺は。
自分の。
足を見る。
今日。
歩いた。
かなり。
歩いた。
昼。
測量。
夜。
天測。
「五十五歳ってこんな動ける?」
門倉が。
不思議そうな。
顔。
する。
「先生は普段から歩いておられますので」
「そういう問題?」
「何がでしょう?」
「…………」
本物。
やっぱ。
おかしい。
◇
ウインドウ。
現れる。
【第一次測量 蝦夷地】
【測量進捗率:24%】
「…………」
俺は。
見る。
昼。
働いた。
夜。
働いた。
五十五歳。
「なあ」
【…………】
「これで二十四?」
【24%】
「昼夜働いたよ?」
【24%】
「残業だよ?」
【24%】
「深夜勤務だよ?」
【24%】
「労基!」
【…………】
「ないわ!」
自分で。
言って。
自分で。
気づいた。
ここ。
江戸時代。
労働基準法。
ない。
「…………」
帰りたい。
一瞬。
本気で。
思った。
◇
宿。
戻る。
俺は。
横になる。
疲れた。
目。
閉じる。
頭の中。
厚岸。
牡蠣。
でも。
さっきまでより。
少し。
遠く感じる。
「…………」
牡蠣のために
俺は。
呟く。
「ここまで働く必要ある?」
誰も。
答えない。
もちろん。
牡蠣のためじゃない。
日本地図。
作るため。
分かってる。
でも。
今は。
牡蠣。
そう思わないと。
やってられない。
「…………」
厚岸。
待ってろ。
俺は。
行く。
昼。
地面。
夜。
星。
それでも。
行く。
牡蠣。
食えるか。
分からないけど。
「…………」
食えなかったら。
俺。
泣くかもしれない。
伊能忠敬。
五十五歳。
今日も。
昼夜。
働いた。
そして。
明日も。
東へ。
向かう。
理由。
日本地図。
あと。
ちょっとだけ。
牡蠣。




