第29話「そこ折り返し地点なの!?」
「まだ東行くの!?」
俺の声が。
蝦夷地に。
響いた。
門倉隼太が。
こちらを見る。
「はい」
「はい、じゃない!」
西別。
そこを。
目指すらしい。
名前を聞いても。
最初は。
分からなかった。
でも。
話を聞いて。
だいたいの場所を。
想像した。
東。
まだ。
東。
かなり。
東。
「…………」
俺は。
海を見る。
広い。
何度見ても。
広い。
そして。
海岸線。
長い。
何度見ても。
長い。
ウインドウ。
【第一次測量 蝦夷地】
【測量進捗率:23%】
「…………」
お前。
正しかったんだな。
ちょっと。
疑ってた。
◇
翌朝。
俺は。
地図を。
見ていた。
正確な。
地図じゃない。
だから。
俺たちが。
測っている。
でも。
位置関係くらいは。
分かる。
「ここ」
指を。
置く。
俺たち。
「それで」
指を。
動かす。
西別。
「…………」
遠っ。
いや。
昨日も。
分かってた。
でも。
地図で見ると。
改めて。
遠い。
「門倉」
「はい」
「確認する」
「何でしょう?」
「ここから」
俺は。
現在地を。
指す。
「ここまで」
西別を。
指す。
「行く?」
「はい」
「歩いて?」
「測量しながら参ります」
「…………」
そうだった。
ただ。
歩くんじゃない。
◇
俺は。
考える。
普通なら。
目的地まで。
行く。
それだけ。
でも。
俺たちは。
違う。
海岸。
曲がる。
測る。
川。
ある。
測る。
道。
分からない。
聞く。
人。
必要。
借りる。
馬。
必要。
借りる。
天気。
悪い。
待つ。
器具。
壊れる。
直す。
夜。
晴れる。
星。
測る。
「…………」
西別。
行くだけなら。
まだ。
いい。
測りながら。
西別。
「…………」
俺は。
地図を見る。
「これ、距離だけ見ちゃ駄目なやつじゃん」
門倉が。
首を傾げる。
「何がでしょう?」
「こっちの話」
◇
出発。
歩く。
今日も。
測量。
一歩。
一歩。
進む。
俺は。
今までと。
少し違う。
目で。
海岸を見る。
前までは。
景色。
だった。
その後。
仕事に。
見えるようになった。
そして。
今。
全部。
距離に。
見える。
「あそこまで……」
歩く。
その先。
また。
海岸。
「あそこも……」
歩く。
さらに。
その先。
まだ。
続く。
「…………」
終わらん。
本当に。
終わらん。
◇
測る。
記録。
進む。
俺は。
門倉に聞く。
「なあ」
「はい」
「西別に着いたら」
「はい」
「終わり?」
「何がでしょう?」
嫌な。
返し。
来た。
「蝦夷地の測量」
門倉が。
俺を見る。
「帰らねばなりません」
「…………」
俺は。
止まった。
門倉も。
止まる。
「今」
俺は。
ゆっくり。
聞く。
「何て言った?」
「帰らねばなりません」
「…………」
俺は。
西を見る。
来た方向。
次に。
東を見る。
これから。
行く方向。
そして。
もう一度。
西を見る。
「帰る?」
「はい」
「江戸に?」
「もちろんです」
「…………」
当たり前。
当たり前なんだけど。
完全に。
忘れてた。
◇
「待って」
俺は。
頭を。
整理する。
今。
東へ。
向かってる。
西別。
目指す。
着く。
そして。
帰る。
「帰りは?」
「何がでしょう?」
「測量」
門倉が。
答える。
「必要な測量を行いながら戻ります」
「…………」
俺は。
しゃがみ込んだ。
「先生?」
「ちょっと待って」
俺。
勝手に。
思ってた。
西別。
ゴール。
着いた。
やった。
終了。
違う。
折り返し地点。
「…………」
マラソンじゃん。
いや。
マラソンなら。
道。
決まってる。
給水。
ある。
夜。
星。
測らない。
「マラソンより酷いわ」
「先生?」
「なんでもない!」
◇
俺は。
ウインドウを見る。
【第一次測量 蝦夷地】
【測量進捗率:23%】
「…………」
だからか。
俺。
ようやく。
理解した。
二十三。
この数字。
西別までの。
進捗じゃない。
第一次測量。
蝦夷地。
全体。
つまり。
「往復込み?」
【…………】
返事。
ない。
でも。
たぶん。
そう。
行って。
終わりじゃない。
戻る。
その間も。
測る。
「…………」
俺は。
頭を抱える。
「先に言えよ!」
【23%】
「二十三ってそういう意味かよ!」
【23%】
「西別ゴールだと思ってたわ!」
【23%】
無反応。
腹立つ。
◇
昼。
休憩。
俺は。
飯を。
食べながら。
完全に。
遠い目。
していた。
宗平が。
聞く。
「先生、お疲れですか?」
「精神的に」
「はあ」
「ゴールだと思ってた場所が折り返し地点だった」
「まだ西別にも着いておりませんが」
「追い打ちやめて!」
その通り。
まだ。
折り返し地点にすら。
着いてない。
「…………」
俺。
何で。
こんなこと。
してるんだろ。
一瞬。
思う。
でも。
前ほど。
帰りたいとは。
思わなかった。
不思議。
◇
午後。
また。
歩く。
測る。
記録。
一歩。
進む。
また。
一歩。
「…………」
遠い。
西別。
遠い。
帰り。
もっと。
遠い。
でも。
俺たちは。
歩く。
門倉。
宗平。
秀蔵。
吉助。
長助。
俺。
六人。
昨日。
思った。
この六人で。
ここまで。
来た。
今日も。
この六人で。
進む。
「…………」
まあ。
やるしかないか。
最近。
俺。
この言葉。
増えたな。
◇
夕方。
今日の測量を。
終える。
俺は。
足を。
伸ばす。
痛い。
相変わらず。
痛い。
でも。
最初ほど。
騒がなくなった。
「…………」
慣れた?
嫌だな。
こんなものに。
慣れたくない。
ウインドウ。
現れる。
【第一次測量 蝦夷地】
【測量進捗率:23%】
「…………」
俺は。
見る。
二十三。
昨日まで。
腹が立った。
全然。
増えない。
でも。
今日。
初めて。
この数字の。
重さが。
分かった気がする。
往路。
復路。
測量。
天測。
人。
馬。
天気。
全部。
込み。
「…………」
そりゃ。
一パーセント。
重いわ。
◇
俺は。
門倉に。
聞く。
「明日も東?」
「はい」
「明後日も?」
「東でしょうな」
「その次も?」
「おそらく」
「…………」
俺は。
東を見る。
海岸線。
まだ。
続いている。
「どれくらい東行ったら、西に向ける?」
「西別に着けば」
「…………」
分かってる。
聞いた。
俺が。
悪かった。
◇
宿へ。
向かう。
俺は。
考える。
現在。
二十三パーセント。
西別。
まだ。
先。
しかも。
そこは。
ゴールじゃない。
折り返し。
「…………」
伊能忠敬。
あんた。
これ。
最初から。
分かってたんだよな?
分かってて。
来たんだよな?
俺。
知らずに。
来た。
いや。
転んだら。
来てた。
そこは。
大きな。
違い。
「…………」
そりゃ。
覚悟。
違うわ。
でも。
俺も。
今は。
知った。
先が。
長い。
西別が。
ゴールじゃない。
帰りも。
ある。
それでも。
明日。
俺は。
歩く。
「…………」
なんか。
悔しいな。
少しずつ。
本物の伊能忠敬に。
近づいてる気がする。
◇
その時。
ウインドウが。
現れた。
【第一次測量 蝦夷地】
【測量進捗率:23%】
そして。
その下。
新しい。
表示。
【次回進捗更新地点まで――】
「…………」
俺は。
立ち止まる。
「お?」
門倉が。
振り返る。
「先生?」
「待って」
ついに。
出る?
あと。
どれくらいで。
二十四になる?
俺は。
ウインドウを。
見つめる。
文字。
表示。
される。
【次回進捗更新地点まで――】
【測量を継続してください】
「…………」
俺は。
黙った。
そして。
叫んだ。
「そこ教えろよ!」
蝦夷地に。
今日。
何度目か分からない。
俺の声が。
響いた。




