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コケて立ち上がったら伊能忠敬でした。歴史に名を残す人は頭のネジが外れてるみたいです。もう俺は歩けません  作者: まろじろう
第一次測量 蝦夷地

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28/85

第28話「地図に名前は残らない」

朝。


目が覚めた。


「…………」


今日も。


歩く。


もう。


それが。


普通になっている。


怖い。


俺。


この生活に。


慣れてきてる。


「先生」


門倉隼太。


来た。


「おはよう」


「おはようございます」


「今日は人、集まった?」


起きて。


最初の質問が。


これ。


以前の俺なら。


今日どれくらい歩く?


だった。


今は。


人。


馬。


案内。


「問題ありません」


「よかった」


俺は。


本気で。


安心した。


「じゃあ行こう」


「はい」


自分から。


言った。


最近。


門倉に。


言われる前に。


言えるようになった。


成長。


してる。


たぶん。


     ◇


歩く。


測る。


記録。


また。


歩く。


海岸。


今日も。


続いている。


「…………」


長いな。


でも。


今日は。


海ばかり。


見ていなかった。


人。


見る。


舟。


見る。


魚。


見る。


家。


見る。


煙。


上がってる。


人が。


暮らしている。


昨日まで。


俺は。


村を見ても。


村。


だった。


地図に。


記録するもの。


でも。


今は。


少し。


違う。


ここに。


人が。


暮らしてる。


     ◇


途中。


人足の一人が。


何か。


話している。


俺は。


聞く。


魚。


漁。


海。


この時期。


何が獲れる。


いつ。


海に出る。


そんな。


話。


「…………」


俺には。


知らないこと。


ばかり。


「大変?」


聞いてみる。


男が。


笑う。


当たり前のこと。


そんな感じで。


答える。


「…………」


そうだよな。


俺には。


大変。


でも。


この人には。


生活。


俺たちの。


測量と。


同じ。


いや。


違うか。


俺たちは。


いつか。


ここを。


去る。


でも。


この人たちは。


ここで。


暮らしていく。


     ◇


昼。


休憩。


食事。


魚。


出た。


俺は。


食べる。


「うま」


やっぱり。


うまい。


この前。


少し。


料理のことを。


教えた。


タイムパラドックス。


増えた。


思い出す。


【タイムパラドックス発生リスク】


あれ以来。


俺は。


余計なことを。


言わないように。


少しだけ。


気をつけている。


少しだけ。


だけど。


「…………」


でも。


料理。


うまくなるくらい。


いいじゃん。


今でも。


思ってる。


ウインドウ。


出ない。


「…………」


聞こえてる?


出ない。


よし。


     ◇


俺は。


飯を食べながら。


周囲を見る。


測量隊。


現地の人。


一緒に。


飯。


食べてる。


「…………」


教科書。


思い出す。


伊能忠敬。


日本全国を測量し。


精密な日本地図を。


作った。


たぶん。


そんな感じ。


だった。


でも。


そこには。


書いてなかった。


何を。


食べた。


誰に。


道を聞いた。


誰が。


荷物を運んだ。


どこで。


笑った。


どこで。


困った。


「…………」


当たり前か。


全部。


書いたら。


教科書。


分厚くなる。


でも。


今。


俺は。


その。


書かれない部分に。


いる。


     ◇


「門倉」


「はい」


「地図が完成したらさ」


「はい」


「この人たちのこと、残る?」


門倉が。


俺を見る。


「どういう意味でしょう?」


「今日」


俺は。


人足を見る。


「俺たちを案内してくれた人」


「はい」


「荷物運んでくれた人」


「はい」


「飯を用意してくれた人」


「はい」


俺は。


地図を。


指差す。


「ここに名前、載らないだろ?」


門倉が。


少し。


黙る。


「そうでしょうな」


「…………」


やっぱり。


そう。


地図に。


残るのは。


海岸線。


山。


川。


村。


道。


でも。


作るのを。


手伝ってくれた人。


一人一人の。


名前までは。


残らない。


「なんか」


俺は。


呟く。


「もったいないな」


     ◇


午後。


また。


測る。


案内役が。


先へ進む。


俺たち。


ついていく。


道。


教えてもらう。


危ない場所。


教えてもらう。


川。


教えてもらう。


そして。


俺たちが。


測る。


「…………」


俺は。


記録を見る。


数字。


並ぶ。


これが。


地図になる。


でも。


その数字の。


裏。


人が。


いる。


「…………」


俺。


今まで。


地図って。


紙だと思ってた。


線。


記号。


数字。


それだけ。


でも。


違う。


この一本の線を。


引くために。


俺たちが。


歩いた。


案内してくれた人が。


いた。


荷物を。


運んでくれた人が。


いた。


飯を。


作ってくれた人が。


いた。


泊めてくれた人が。


いた。


「…………」


地図って。


人が。


作るんだな。


今さら。


そんな。


当たり前のことに。


気づいた。


     ◇


夕方。


今日の。


測量終了。


俺は。


ウインドウを見る。


【第一次測量 蝦夷地】


【測量進捗率:23%】


「…………」


また。


二十三。


さすがに。


言った。


「お前さ」


【…………】


「最近、仕事してる?」


【23%】


「俺は仕事してるぞ」


【23%】


「めちゃくちゃしてるぞ」


【23%】


「昼も夜も」


【23%】


「人まで借りて」


【23%】


「…………」


変わらない。


俺は。


ため息。


でも。


今日は。


少し。


思った。


この数字。


俺たち六人だけの。


数字じゃない。


ここまで。


助けてくれた。


たくさんの人。


その人たちの。


二十三パーセントでも。


ある。


「…………」


そう考えたら。


ちょっと。


重いな。


一パーセント。


     ◇


今日。


手伝ってくれた人たちと。


別れる。


俺は。


頭を下げる。


「ありがとう」


向こうも。


頭を下げる。


たぶん。


もう。


会わない。


俺は。


明日。


次へ。


行く。


そして。


また。


知らない人に。


助けてもらう。


その繰り返し。


「…………」


日本地図。


何人で。


作ったんだろうな。


六人?


違う。


絶対。


違う。


数えられないくらい。


たくさん。


いたんだ。


     ◇


宿へ。


向かう。


俺は。


門倉に。


聞いた。


「なあ」


「はい」


「俺たち」


「はい」


「まだ東へ行くんだよな?」


「もちろんです」


「…………」


俺は。


海岸線を見る。


ずっと。


続いてる。


「どこまで?」


門倉が。


答える。


目的地。


その名前を。


俺は。


聞く。


「…………」


知らない。


現代人なのに。


分からない。


「それ、どこ?」


門倉が。


説明する。


もっと。


東。


まだ。


東。


「…………」


俺は。


固まる。


待て。


北海道。


蝦夷地。


俺の頭の中に。


ぼんやり。


現代の北海道が。


浮かぶ。


函館。


ここまで。


来た。


そして。


まだ。


東。


「…………」


門倉」


「はい」


「俺たちさ」


「はい」


「最終的に、どこまで行くの?」


門倉が。


俺を見る。


そして。


答えた。


「西別を目指します」


「にしべつ?」


聞いたこと。


あるような。


ないような。


「どの辺?」


話を。


聞く。


東。


さらに。


東。


俺の。


頭の中の。


北海道。


その位置を。


想像する。


「…………」


え。


待って。


そこ。


もしかして。


「道東じゃん」


「どうとう?」


「あ」


俺は。


口を。


押さえる。


また。


やった。


でも。


それどころじゃない。


俺は。


今まで。


歩いてきた方向を見る。


そして。


これから。


向かう方向を見る。


遠い。


めちゃくちゃ。


遠い。


ウインドウ。


【測量進捗率:23%】


「…………」


なるほど。


俺は。


ようやく。


納得した。


二十三が。


全然。


増えない理由。


「まだ東行くの!?」


俺の声が。


今日も。


蝦夷地に。


響いた。

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