第28話「地図に名前は残らない」
朝。
目が覚めた。
「…………」
今日も。
歩く。
もう。
それが。
普通になっている。
怖い。
俺。
この生活に。
慣れてきてる。
「先生」
門倉隼太。
来た。
「おはよう」
「おはようございます」
「今日は人、集まった?」
起きて。
最初の質問が。
これ。
以前の俺なら。
今日どれくらい歩く?
だった。
今は。
人。
馬。
案内。
「問題ありません」
「よかった」
俺は。
本気で。
安心した。
「じゃあ行こう」
「はい」
自分から。
言った。
最近。
門倉に。
言われる前に。
言えるようになった。
成長。
してる。
たぶん。
◇
歩く。
測る。
記録。
また。
歩く。
海岸。
今日も。
続いている。
「…………」
長いな。
でも。
今日は。
海ばかり。
見ていなかった。
人。
見る。
舟。
見る。
魚。
見る。
家。
見る。
煙。
上がってる。
人が。
暮らしている。
昨日まで。
俺は。
村を見ても。
村。
だった。
地図に。
記録するもの。
でも。
今は。
少し。
違う。
ここに。
人が。
暮らしてる。
◇
途中。
人足の一人が。
何か。
話している。
俺は。
聞く。
魚。
漁。
海。
この時期。
何が獲れる。
いつ。
海に出る。
そんな。
話。
「…………」
俺には。
知らないこと。
ばかり。
「大変?」
聞いてみる。
男が。
笑う。
当たり前のこと。
そんな感じで。
答える。
「…………」
そうだよな。
俺には。
大変。
でも。
この人には。
生活。
俺たちの。
測量と。
同じ。
いや。
違うか。
俺たちは。
いつか。
ここを。
去る。
でも。
この人たちは。
ここで。
暮らしていく。
◇
昼。
休憩。
食事。
魚。
出た。
俺は。
食べる。
「うま」
やっぱり。
うまい。
この前。
少し。
料理のことを。
教えた。
タイムパラドックス。
増えた。
思い出す。
【タイムパラドックス発生リスク】
あれ以来。
俺は。
余計なことを。
言わないように。
少しだけ。
気をつけている。
少しだけ。
だけど。
「…………」
でも。
料理。
うまくなるくらい。
いいじゃん。
今でも。
思ってる。
ウインドウ。
出ない。
「…………」
聞こえてる?
出ない。
よし。
◇
俺は。
飯を食べながら。
周囲を見る。
測量隊。
現地の人。
一緒に。
飯。
食べてる。
「…………」
教科書。
思い出す。
伊能忠敬。
日本全国を測量し。
精密な日本地図を。
作った。
たぶん。
そんな感じ。
だった。
でも。
そこには。
書いてなかった。
何を。
食べた。
誰に。
道を聞いた。
誰が。
荷物を運んだ。
どこで。
笑った。
どこで。
困った。
「…………」
当たり前か。
全部。
書いたら。
教科書。
分厚くなる。
でも。
今。
俺は。
その。
書かれない部分に。
いる。
◇
「門倉」
「はい」
「地図が完成したらさ」
「はい」
「この人たちのこと、残る?」
門倉が。
俺を見る。
「どういう意味でしょう?」
「今日」
俺は。
人足を見る。
「俺たちを案内してくれた人」
「はい」
「荷物運んでくれた人」
「はい」
「飯を用意してくれた人」
「はい」
俺は。
地図を。
指差す。
「ここに名前、載らないだろ?」
門倉が。
少し。
黙る。
「そうでしょうな」
「…………」
やっぱり。
そう。
地図に。
残るのは。
海岸線。
山。
川。
村。
道。
でも。
作るのを。
手伝ってくれた人。
一人一人の。
名前までは。
残らない。
「なんか」
俺は。
呟く。
「もったいないな」
◇
午後。
また。
測る。
案内役が。
先へ進む。
俺たち。
ついていく。
道。
教えてもらう。
危ない場所。
教えてもらう。
川。
教えてもらう。
そして。
俺たちが。
測る。
「…………」
俺は。
記録を見る。
数字。
並ぶ。
これが。
地図になる。
でも。
その数字の。
裏。
人が。
いる。
「…………」
俺。
今まで。
地図って。
紙だと思ってた。
線。
記号。
数字。
それだけ。
でも。
違う。
この一本の線を。
引くために。
俺たちが。
歩いた。
案内してくれた人が。
いた。
荷物を。
運んでくれた人が。
いた。
飯を。
作ってくれた人が。
いた。
泊めてくれた人が。
いた。
「…………」
地図って。
人が。
作るんだな。
今さら。
そんな。
当たり前のことに。
気づいた。
◇
夕方。
今日の。
測量終了。
俺は。
ウインドウを見る。
【第一次測量 蝦夷地】
【測量進捗率:23%】
「…………」
また。
二十三。
さすがに。
言った。
「お前さ」
【…………】
「最近、仕事してる?」
【23%】
「俺は仕事してるぞ」
【23%】
「めちゃくちゃしてるぞ」
【23%】
「昼も夜も」
【23%】
「人まで借りて」
【23%】
「…………」
変わらない。
俺は。
ため息。
でも。
今日は。
少し。
思った。
この数字。
俺たち六人だけの。
数字じゃない。
ここまで。
助けてくれた。
たくさんの人。
その人たちの。
二十三パーセントでも。
ある。
「…………」
そう考えたら。
ちょっと。
重いな。
一パーセント。
◇
今日。
手伝ってくれた人たちと。
別れる。
俺は。
頭を下げる。
「ありがとう」
向こうも。
頭を下げる。
たぶん。
もう。
会わない。
俺は。
明日。
次へ。
行く。
そして。
また。
知らない人に。
助けてもらう。
その繰り返し。
「…………」
日本地図。
何人で。
作ったんだろうな。
六人?
違う。
絶対。
違う。
数えられないくらい。
たくさん。
いたんだ。
◇
宿へ。
向かう。
俺は。
門倉に。
聞いた。
「なあ」
「はい」
「俺たち」
「はい」
「まだ東へ行くんだよな?」
「もちろんです」
「…………」
俺は。
海岸線を見る。
ずっと。
続いてる。
「どこまで?」
門倉が。
答える。
目的地。
その名前を。
俺は。
聞く。
「…………」
知らない。
現代人なのに。
分からない。
「それ、どこ?」
門倉が。
説明する。
もっと。
東。
まだ。
東。
「…………」
俺は。
固まる。
待て。
北海道。
蝦夷地。
俺の頭の中に。
ぼんやり。
現代の北海道が。
浮かぶ。
函館。
ここまで。
来た。
そして。
まだ。
東。
「…………」
門倉」
「はい」
「俺たちさ」
「はい」
「最終的に、どこまで行くの?」
門倉が。
俺を見る。
そして。
答えた。
「西別を目指します」
「にしべつ?」
聞いたこと。
あるような。
ないような。
「どの辺?」
話を。
聞く。
東。
さらに。
東。
俺の。
頭の中の。
北海道。
その位置を。
想像する。
「…………」
え。
待って。
そこ。
もしかして。
「道東じゃん」
「どうとう?」
「あ」
俺は。
口を。
押さえる。
また。
やった。
でも。
それどころじゃない。
俺は。
今まで。
歩いてきた方向を見る。
そして。
これから。
向かう方向を見る。
遠い。
めちゃくちゃ。
遠い。
ウインドウ。
【測量進捗率:23%】
「…………」
なるほど。
俺は。
ようやく。
納得した。
二十三が。
全然。
増えない理由。
「まだ東行くの!?」
俺の声が。
今日も。
蝦夷地に。
響いた。




