第26話「日本測るのに六人?」
朝。
目が覚めた。
「…………」
眠い。
昨日。
昼。
地面を測った。
夜。
宇宙を測った。
そして。
寝た。
今。
朝。
「…………」
早くない?
夜から。
朝まで。
もっと。
時間あっても。
よくない?
俺は。
布団の中で。
真剣に考える。
誰に。
文句を言えば。
夜を。
長くしてもらえるんだろう。
「先生」
来た。
門倉。
「…………」
無視。
「先生」
「…………」
無視。
「出立の支度を」
「門倉」
「はい」
俺は。
布団から。
顔を出す。
「昨日、何時に寝た?」
「さて」
「今日、何時に起きた?」
「夜明け前には」
「…………」
聞いた俺が。
悪かった。
◇
準備。
始まる。
俺は。
ぼんやり。
周囲を見る。
門倉。
宗平。
秀蔵。
吉助。
長助。
そして。
俺。
「…………」
俺は。
もう一度。
見る。
門倉。
宗平。
秀蔵。
吉助。
長助。
俺。
「…………」
待て。
眠い。
頭。
回ってない。
もう一回。
指を。
使う。
一。
二。
三。
四。
五。
六。
「…………」
六?
俺は。
門倉を見る。
「門倉」
「はい」
「俺たち何人?」
「六人ですが」
「…………」
六。
やっぱり。
六。
「最初から?」
「はい」
「江戸出た時から?」
「はい」
「…………」
俺は。
周囲を見る。
蝦夷地。
広い。
めちゃくちゃ。
広い。
昨日。
昼。
地面。
夜。
宇宙。
測った。
海岸線。
長い。
進捗。
二十三パーセント。
そして。
測量隊。
六人。
「…………」
少なくない?
◇
「門倉」
「はい」
「確認なんだけど」
「何でしょう?」
「俺たち」
「はい」
「日本の地図作るんだよな?」
「まずは蝦夷地の測量です」
「最終的には?」
「先生は、そのおつもりなのでは?」
「…………」
そうだった。
俺。
伊能忠敬だった。
でも。
違う。
今は。
そこじゃない。
「六人?」
「はい」
「日本を?」
「…………」
門倉が。
少し。
考える。
「今後のことは分かりませぬが」
「少なくとも今は六人?」
「はい」
「…………」
俺は。
頭を抱えた。
「町内会の旅行じゃないんだぞ!」
門倉が。
首を傾げる。
「町内会?」
「忘れて!」
◇
出発。
今日も。
現地の人たちの。
助けを借りる。
案内。
人足。
馬。
いる。
でも。
測量隊そのものは。
六人。
俺は。
歩きながら。
何度も。
後ろを見る。
「…………」
六人。
少ない。
やっぱり。
少ない。
現代だったら。
どうだ?
日本地図を。
作る。
巨大プロジェクト。
専門家。
何人?
技術者。
何人?
事務。
何人?
車。
コンピューター。
衛星。
GPS。
「…………」
ここ。
六人。
紙。
筆。
測量器具。
足。
星。
以上。
「無理だろ」
「先生?」
「規模がおかしい」
「何がでしょう?」
「全部!」
◇
測る。
歩く。
記録。
また。
測る。
俺は。
みんなを見る。
門倉。
仕事。
してる。
宗平。
記録。
確認。
秀蔵。
動いてる。
吉助。
長助。
それぞれ。
やること。
ある。
「…………」
六人。
でも。
六人だから。
一人でも。
欠けたら。
大変なんじゃないか?
「門倉」
「はい」
「誰か体調崩したら?」
「程度によります」
「歩けなくなったら?」
「その時に考えます」
「…………」
出た。
その時に。
考える。
この測量隊。
事前に。
諦めるという。
選択肢。
ないの?
「じゃあ」
俺は。
さらに聞く。
「器具壊れたら?」
「直します」
知ってる。
もう。
見た。
「道分からなかったら?」
「現地の者に聞きます」
これも。
見た。
「川増えたら?」
「渡れる方法を探します」
これも。
やった。
「寒かったら?」
「袷を」
「暑かったら?」
「単衣を」
「…………」
俺は。
止まった。
門倉も。
止まる。
「先生?」
「お前ら」
俺は。
真顔で。
言った。
「何があったら諦めるの?」
「…………」
門倉が。
少し。
考える。
「測量が不可能であれば」
「それ以外は?」
「可能な方法を探します」
「…………」
俺は。
空を見る。
出た。
また。
出た。
これだ。
こいつら。
◇
歩く。
測る。
記録。
俺は。
考えていた。
人数。
少ない。
道。
ない。
器具。
壊れる。
天気。
変わる。
川。
増える。
寒い。
暑い。
夜。
星。
それでも。
毎回。
どうする?
を。
考える。
無理だから。
帰ろう。
じゃない。
どうしたら。
できる?
「…………」
俺。
こういう奴。
知ってる。
伊能忠敬。
俺だ。
正確には。
この身体の。
元の持ち主。
「…………」
そりゃ。
日本地図。
作るわ。
初めて。
ちょっと。
納得した。
頭のネジ。
外れてるけど。
◇
昼。
六人で。
飯を食う。
現地の人たちも。
いる。
俺は。
自分たちを見る。
少人数。
でも。
それぞれ。
役割がある。
門倉。
平山宗平。
伊能秀蔵。
吉助。
長助。
そして。
俺。
俺は。
名前を。
一人ずつ。
見る。
「…………」
最初は。
誰が誰だか。
分からなかった。
起きたら。
伊能忠敬。
知らない人。
いっぱい。
何?
どこ?
誰?
それが。
今。
違う。
顔。
分かる。
名前。
分かる。
何をする人か。
分かる。
「…………」
六人か。
今度は。
少し。
違って聞こえた。
たった。
六人。
じゃない。
この。
六人で。
ここまで。
来た。
◇
午後。
また。
測量。
一人が。
先へ。
一人が。
記録。
一人が。
確認。
声。
飛ぶ。
動く。
俺も。
動く。
「…………」
なんか。
チームっぽいな。
今さら。
そんなことを。
思う。
俺は。
最初。
この人たちに。
連れてこられた。
正確には。
門倉に。
首根っこを。
掴まれて。
引きずられた。
「…………」
思い出すと。
腹立つな。
「先生?」
「何でもない」
でも。
今は。
自分から。
歩いてる。
自分から。
測ってる。
「…………」
変わったな。
俺。
◇
夕方。
測量終了。
ウインドウ。
【第一次測量 蝦夷地】
【測量進捗率:23%】
「…………」
また。
二十三。
「なあ」
【…………】
「六人で頑張ってるんだから、ちょっとサービスしてくれない?」
【23%】
「二十四に」
【23%】
「ならない?」
【23%】
「…………」
交渉。
失敗。
◇
宿へ向かう。
俺は。
六人を。
見る。
今日も。
全員いる。
「門倉」
「はい」
「俺たち六人なんだよな」
「本日、何度目です?」
「いや」
俺は。
少し笑う。
「少ないと思ってさ」
「はい」
「こんな広いところ測るのに」
「はい」
「たった六人」
門倉は。
何も言わない。
俺は。
続ける。
「でも」
今日。
一日。
見ていた。
六人。
それぞれ。
動く。
現地の人に。
助けてもらう。
できないことは。
できる人に。
頼む。
そして。
自分たちは。
自分たちの仕事をする。
「…………」
案外。
なんとかなるもんだな。
門倉が。
少し。
笑った。
「先生」
「何?」
「まだ二割ほどなのでしょう?」
「…………」
俺は。
止まった。
「なんで知ってる!?」
「先生が昨日から、二十三、二十三と何度も」
「…………」
俺。
声に。
出してたのか。
「門倉」
「はい」
「忘れて」
「難しいかと」
「忘れろ!」
◇
歩く。
六人。
小さい。
蝦夷地は。
でかい。
圧倒的に。
でかい。
でも。
その小さな。
六人が。
今日も。
地図を。
少しずつ。
作っている。
俺は。
前を見る。
「よし」
門倉が。
俺を見る。
「何でしょう?」
「明日もやるぞ」
一瞬。
静かになる。
「何?」
「いえ」
門倉が。
笑った。
「参りましょう」
「うん」
俺も。
歩く。
その時。
ふと思った。
六人。
少ない。
本当に。
少ない。
だからこそ。
一人でも。
欠けたら。
困る。
「…………」
俺は。
みんなを見る。
頼むから。
誰も。
倒れるなよ。
俺も。
含めて。
その願いが。
どれだけ。
難しいことなのか。
この時の俺は。
まだ。
分かっていなかった。




