第25話「昼は地面、夜は宇宙」
朝。
目が覚めた。
「…………」
眠い。
ものすごく。
眠い。
昨日。
朝から。
荷物をまとめた。
歩いた。
測った。
荷崩れした。
直した。
川を渡った。
また歩いた。
また測った。
目的地に着いた。
荷物を下ろした。
そして。
夜。
星を測った。
「…………」
俺は。
布団から。
出たくない。
昨日。
門倉に聞いた。
いつ休むの?
答え。
今から。
そして。
今。
朝。
「…………」
短いんだよ。
俺は。
布団を。
頭までかぶった。
「先生」
来た。
「…………」
聞こえない。
「先生」
聞こえない。
「朝です」
知ってる。
「出立の支度を」
「…………」
俺は。
布団から。
顔だけ出した。
門倉隼太。
いる。
「門倉」
「はい」
「相談がある」
「何でしょう」
「今日」
「はい」
「休みにしない?」
「参りましょう」
「相談終わるの早すぎない!?」
◇
朝。
測量開始。
歩く。
測る。
記録。
また。
歩く。
「…………」
眠い。
歩く。
「…………」
眠い。
測る。
「…………」
眠い。
記録。
「…………」
眠い。
「先生」
宗平が。
俺を見る。
「何?」
「大丈夫ですか?」
「眠い」
「左様ですか」
「それだけ!?」
誰か。
休もうって。
言ってくれ。
誰も。
言わない。
◇
しばらく。
進む。
距離。
測る。
方角。
確認。
記録。
俺は。
測量器具を見る。
最近。
少しずつ。
分かるようになってきた。
最初。
これ何?
どうするの?
だった。
今は。
完璧じゃない。
でも。
何を。
やっているのか。
くらいは。
分かる。
昼。
地面。
測る。
距離。
方角。
地形。
そして。
夜。
星。
「…………」
待て。
俺は。
止まった。
「門倉」
「はい」
「今さらなんだけど」
「何でしょう?」
「俺たち」
「はい」
「昼間、測量してるよな?」
「もちろんです」
「夜も測量してるよな?」
「天測を行います」
「…………」
俺は。
指を折る。
朝。
仕事。
昼。
仕事。
夕方。
移動。
夜。
仕事。
「…………」
休みは?」
「先生?」
「いや」
俺は。
もう一度。
考える。
普通。
昼に働く人。
夜。
休む。
夜に働く人。
昼。
休む。
それが。
俺の知っている。
世界。
でも。
俺たち。
昼。
働く。
夜。
働く。
「…………」
これ。
俺は。
真顔になった。
「二交代制を一人でやってない?」
「にこうたい?」
「知らなくていい!」
◇
昼。
休憩。
俺は。
飯を食べながら。
空を見る。
青い。
晴れてる。
いい天気。
昔なら。
思った。
気持ちいい。
今は。
違う。
「…………」
今日も星見えるな。
嫌な。
予測能力が。
身についた。
門倉が。
俺の視線に。
気づく。
「どうされました?」
「今日」
「はい」
「夜、曇ると思う?」
「この空では難しいかと」
「…………」
希望。
消えた。
「先生」
「何?」
「天測がお嫌いですか?」
俺は。
少し。
考える。
嫌い。
と言えば。
嫌い。
眠い。
寒い。
長い。
でも。
「…………」
嫌いっていうか」
俺は。
飯を食べる。
「昼も働いた後にやるのが嫌」
宗平が。
笑った。
「笑うな!」
◇
午後。
また。
測る。
海岸線。
進む。
止まる。
測る。
記録。
俺は。
だんだん。
気づいてきた。
昼に。
地面を測る。
それだけじゃ。
駄目。
夜に。
星を見る。
自分たちが。
どこにいるのか。
確かめる。
昼の測量。
夜の天測。
両方。
必要。
「…………」
分かるよ。
理屈は。
分かる。
正確な。
地図。
作るんだもんな。
でも。
「一日に詰め込むなよ……」
「先生?」
「なんでもない」
◇
夕方。
今日の。
測量終了。
「終わった……」
俺は。
大きく。
伸びをする。
やった。
昼の部。
終了。
「先生」
門倉。
来た。
俺は。
先に言う。
「分かってる」
「何がでしょう?」
「星だろ」
「まだ何も申しておりません」
「どうせ星だろ!」
門倉が。
空を見る。
俺も。
見る。
晴れ。
「…………」
星だな。
◇
夜。
出た。
星。
たくさん。
出た。
「…………」
綺麗だな。
腹立つくらい。
綺麗。
俺たちは。
器具を。
準備する。
測る。
記録。
また。
測る。
「…………」
俺は。
空を見る。
星。
そして。
昼間。
歩いた。
海岸を。
思い出す。
昼。
地面。
夜。
空。
「…………」
なんか。
すごいこと。
やってるな。
ふと。
思った。
自分たちが。
どこにいるのか。
地面から。
測る。
空からも。
測る。
二つを。
合わせる。
そして。
地図にする。
二百年以上。
未来から。
来た俺でも。
普通に。
すごいと思う。
「…………」
伊能忠敬。
俺は。
心の中で。
本物に。
話しかける。
あんた。
すげえな。
でも。
一つだけ。
言わせて。
「スケジュールはおかしい」
「先生?」
「なんでもない!」
◇
天測。
続く。
測る。
記録。
確認。
「…………」
眠い。
やっぱり。
眠い。
感動。
した。
すごいとも。
思った。
でも。
眠いものは。
眠い。
「門倉」
「はい」
「あとどれくらい?」
「もう少しです」
「その『もう少し』信用できないんだよな」
最近。
分かってきた。
この時代の。
もう少し。
長い。
◇
ようやく。
終わる。
「終わった……」
俺は。
座り込む。
空を見る。
星。
綺麗。
今なら。
少しだけ。
素直に。
そう思える。
ウインドウ。
現れる。
【第一次測量 蝦夷地】
【測量進捗率:23%】
「…………」
消えろ。
【23%】
「今日は見たくない」
消えた。
「言うこと聞くんだ……」
そこは。
ちょっと。
驚いた。
◇
俺は。
宿へ。
戻る。
門倉たちも。
一緒。
歩く。
「門倉」
「はい」
「明日も?」
「測量です」
「昼?」
「もちろんです」
「夜?」
「天候が良ければ天測を」
「…………」
俺は。
空を。
見上げた。
明日。
雨。
降らないかな。
いや。
雨は。
測量できない。
進捗。
増えない。
「…………」
駄目だ。
晴れてほしい。
でも。
晴れたら。
夜も。
仕事。
「…………」
詰んでない?
門倉が。
俺を見る。
「先生?」
「晴れてほしいけど晴れてほしくない」
「はあ」
「この気持ち分かる?」
「分かりませぬ」
「だよね!」
宿。
着く。
俺は。
布団へ。
向かう。
今日は。
寝る。
すぐ。
寝る。
その前に。
一つ。
思った。
伊能忠敬。
日本を。
歩いて。
測った人。
違う。
昼。
日本を測って。
夜。
宇宙を測ってる。
「…………」
俺は。
布団に入る。
「仕事量バグってるだろ」
目を。
閉じる。
その時。
門倉の声。
「先生」
「…………」
嫌な。
予感。
「何?」
「明朝ですが」
「早い?」
「はい」
「もう聞きたくない!」
第一次測量。
蝦夷地。
進捗率。
二十三パーセント。
俺は。
今日も。
地面と。
星を。
測った。
そして。
明日も。
測るらしい。
「…………」
伊能忠敬。
やっぱり。
頭のネジ。
何本か。
足りないと思う。




