第24話 いつ休むの?
朝。
俺は。
荷物を見ていた。
「…………」
多い。
改めて見ると。
多い。
測量器具。
記録。
紙。
筆。
食料。
着替え。
その他。
いろいろ。
そして。
それらを。
運ぶための。
人。
馬。
「…………」
昨日。
俺は。
馬を見て。
喜んだ。
乗れる。
そう思った。
乗れなかった。
荷物を。
運ぶためだった。
今日も。
馬がいる。
俺は。
馬を見る。
馬も。
俺を見る。
「…………」
乗りたい。
「先生」
「何?」
門倉隼太が。
俺を見る。
「乗れませんよ」
「まだ何も言ってない!」
◇
出発準備。
これが。
意外と。
終わらない。
荷物を。
まとめる。
確認する。
積む。
人足と。
話す。
案内を。
確認する。
馬に。
荷を積む。
「…………」
俺は。
腕を組んで。
見ていた。
「門倉」
「はい」
「毎回これやるの?」
「何がでしょう?」
「移動するたび」
俺は。
荷物を指す。
「これ」
「もちろんです」
「…………」
そうか。
宿。
出る。
次の土地。
行く。
泊まる。
また。
荷物。
まとめる。
次。
「…………」
旅行じゃないな。
いや。
知ってたけど。
完全に。
移動する。
仕事場だ。
「俺」
呟く。
「地図作ってるんだよね?」
「はい」
「引っ越し業者じゃないよね?」
「何のことでしょう?」
「こっちの話」
◇
ようやく。
出発。
歩く。
測る。
記録。
進む。
馬。
荷物。
運ぶ。
人足。
荷物。
運ぶ。
俺。
測る。
「…………」
やっぱり。
俺だけ。
楽になってない。
でも。
昨日より。
分かってきた。
この馬が。
いなかったら。
この荷物。
俺たちが。
持つ。
この人たちが。
いなかったら。
もっと。
時間がかかる。
「…………」
大事だな。
馬。
乗れないけど。
大事。
俺は。
馬を見る。
「ありがとう」
馬が。
歩く。
「でも一回くらい乗せて」
「先生」
門倉の声。
「何?」
「測量を」
「はい」
◇
しばらく。
進む。
すると。
止まった。
「何?」
前を見る。
人が。
集まっている。
荷物。
確認。
何か。
話している。
「どうした?」
門倉が。
確認する。
そして。
戻ってきた。
「荷が少し崩れました」
「…………」
俺は。
馬を見る。
荷物。
傾いている。
「直すの?」
「もちろんです」
「今?」
「もちろんです」
「…………」
止まる。
荷物。
下ろす。
直す。
積み直す。
俺は。
待つ。
「…………」
時間。
過ぎる。
「門倉」
「はい」
「測量は?」
「これが終わってからです」
「…………」
俺は。
頭を抱えた。
「移動だけでもトラブルあるの!?」
「旅ですので」
「旅って便利な言葉だな!」
◇
ようやく。
再開。
歩く。
測る。
記録。
また。
歩く。
そして。
止まる。
「今度は何?」
道。
確認。
案内役と。
話す。
進む。
また。
止まる。
川。
「…………」
俺は。
川を見る。
「また?」
「渡ります」
「知ってた」
もう。
驚かない。
いや。
少し。
嫌だけど。
渡る。
人。
渡る。
荷物。
渡す。
馬。
渡す。
測量器具。
濡らさないように。
気をつける。
「…………」
俺は。
向こう岸に着いて。
振り返る。
全員。
渡り終わるまで。
待つ。
「…………」
門倉」
「はい」
「現代ってすごいぞ」
「げん……?」
「あ」
危ない。
「何でもない」
橋。
道路。
車。
宅配。
ホテル。
全部。
当たり前だった。
でも。
ここには。
ない。
移動。
それだけで。
仕事。
「…………」
俺。
今まで。
旅行するとき。
移動時間。
無駄だなって。
思ったことあったな。
今なら。
謝れる。
電車。
ありがとう。
車。
ありがとう。
道路。
ありがとう。
橋。
本当に。
ありがとう。
◇
昼。
ようやく。
休憩。
俺は。
座り込む。
「疲れた……」
まだ。
一日。
終わってない。
測量。
ある。
移動。
ある。
そして。
夜。
「…………」
俺は。
嫌なことを。
思い出した。
「門倉」
「はい」
「今日」
「はい」
「天測は?」
「天候が良ければ」
「…………」
俺は。
空を見る。
晴れてる。
「曇れ」
「先生?」
「ちょっとだけ曇れ」
「何故でしょう?」
「人間には休息が必要だから」
宗平が。
笑っている。
笑うな。
本気だ。
◇
午後。
また。
歩く。
測る。
記録。
移動。
荷物。
馬。
人足。
案内。
全部。
一緒に。
動く。
俺は。
少しずつ。
分かってきた。
測量隊。
という言葉。
俺は。
測る人たち。
そう。
思っていた。
違う。
測るために。
移動する。
測るために。
泊まる。
測るために。
食べる。
測るために。
人を借りる。
測るために。
馬を借りる。
測るために。
荷物を運ぶ。
全部。
測量。
なんだ。
「…………」
大変すぎない?
理解は。
深まった。
感想は。
変わらなかった。
◇
夕方。
ようやく。
今日の目的地。
「着いた……」
俺は。
座りたい。
でも。
まだ。
終わらない。
荷物。
下ろす。
測量器具。
確認。
記録。
整理。
泊まる準備。
「…………」
俺は。
その場に。
立ったまま。
見ていた。
「先生?」
「門倉」
「はい」
「聞いていい?」
「何でしょう」
「いつ休むの?」
「支度が済みましたら」
「そのあと天測だよね?」
「天候次第では」
俺は。
空を見る。
綺麗。
ものすごく。
綺麗。
星。
見えそう。
「…………」
今日だけは」
俺は。
空を睨む。
「綺麗な夜空が憎い」
◇
そして。
夜。
「先生」
来た。
門倉。
来た。
聞きたくない。
「何?」
「星がよく見えます」
「…………」
知ってる。
見れば。
分かる。
満天。
星。
綺麗。
現代だったら。
写真。
撮る。
SNS。
載せる。
すごい。
綺麗。
感動。
でも。
今。
俺にとって。
星が見える。
イコール。
「天測するんだよね?」
「はい」
「だよね!」
◇
昼。
地面。
夜。
星。
移動。
荷物。
人。
馬。
川。
道。
全部。
終わって。
さらに。
星。
俺は。
測量器具の前に。
立つ。
「…………」
門倉」
「はい」
「これ」
俺は。
真剣に。
聞いた。
「仕事何時から何時まで?」
「何時?」
「…………」
聞いた。
俺が。
悪かった。
この時代に。
勤務時間。
聞いた。
俺が。
悪かった。
「もういい」
俺は。
空を見る。
星。
綺麗。
本当に。
綺麗。
そして。
腹立つ。
「測るか」
「はい」
俺たちは。
星を。
測り始めた。
◇
夜。
天測を。
終える。
俺は。
完全に。
疲れていた。
ウインドウ。
【第一次測量 蝦夷地】
【測量進捗率:23%】
「…………」
俺は。
無言で。
見る。
朝から。
荷物。
積んだ。
歩いた。
測った。
荷物。
崩れた。
直した。
川。
渡った。
歩いた。
測った。
目的地。
着いた。
荷物。
下ろした。
夜。
星。
測った。
そして。
【23%】
「…………」
俺は。
ウインドウに。
言った。
「今日一日、何だったの?」
【23%】
「…………」
分かってる。
進んでる。
数字が。
変わらないだけ。
分かってる。
でも。
言わせて。
「一パーセント重すぎるだろ!」
声が。
夜の蝦夷地に。
響いた。
門倉が。
こちらを見る。
「先生」
「何?」
「お休みになられますか?」
「寝る!」
即答。
今日は。
もう。
何も。
したくない。
布団。
入りたい。
目。
閉じたい。
俺は。
歩き出す。
その時。
門倉が。
言った。
「明朝も早く出ます」
「…………」
俺は。
止まった。
振り返る。
「門倉」
「はい」
「俺たち」
「はい」
「いつ休むの?」
門倉は。
少し考えて。
答えた。
「今からです」
「短いんだよ!」




