第23話 馬いるじゃん!
朝。
俺は。
昨日のことを。
思い出していた。
道が。
分からない。
だから。
現地の人に。
案内してもらう。
最初は。
思った。
地図を作る人間が。
道を知らないって。
どうなんだ?
でも。
考えてみれば。
当たり前だった。
知らないから。
測る。
知らないから。
地図を作る。
そして。
土地のことは。
そこに暮らしている人に。
聞けばいい。
「…………」
俺。
ちょっと。
賢くなった気がする。
「先生」
門倉隼太が来た。
「おはよう」
「おはようございます」
「今日も案内してもらうの?」
「はい」
「よし」
昨日。
学んだ。
知らない道を。
知ったふりして。
進む必要はない。
聞けばいい。
「それから」
門倉が言った。
「本日は人足と馬を借ります」
「…………」
俺は。
止まった。
「人?」
「はい」
「借りるの?」
「はい」
「馬も?」
「はい」
「…………」
俺は。
少し。
考えた。
そして。
笑った。
「人数増えるじゃん!」
◇
いた。
人。
いる。
馬。
いる。
俺は。
嬉しかった。
ものすごく。
嬉しかった。
今まで。
六人。
俺。
門倉。
宗平。
秀蔵。
吉助。
長助。
六人。
そこに。
人が。
増えた。
馬まで。
いる。
「…………」
ついに。
ついに。
俺たちにも。
増援。
来た。
俺は。
馬を見る。
そして。
人足を見る。
「門倉」
「はい」
「今日は楽できそうだな」
「何故でしょう?」
「何故って」
俺は。
馬を指差す。
「いるじゃん」
「おりますな」
「乗れるじゃん」
「荷を運びます」
「…………」
俺は。
人足を見る。
「人もいるじゃん」
「おります」
「測ってくれるじゃん」
「先生方が測ります」
「…………」
俺は。
もう一度。
馬を見る。
荷物。
もう一度。
人足を見る。
荷物。
そして。
自分を見る。
測量器具。
「…………」
俺は?」
「測量を」
「増援じゃなかった!」
◇
出発。
歩く。
俺。
歩く。
門倉。
歩く。
宗平。
歩く。
みんな。
歩く。
馬。
荷物を。
運ぶ。
「…………」
俺は。
馬を見る。
羨ましい。
「なあ」
門倉が。
俺を見る。
「はい」
「あの馬」
「はい」
「俺、乗ったら駄目?」
「測量ができません」
「移動中だけ」
「荷があります」
「ちょっとだけ」
「先生」
「何?」
「参りましょう」
「はい……」
最近。
この一言に。
弱い。
◇
歩く。
測る。
記録。
人足が。
荷物を運ぶ。
案内も。
してくれる。
馬も。
荷を運ぶ。
「…………」
でも。
確かに。
違う。
俺たち。
六人だけの時より。
明らかに。
楽。
測量器具。
食料。
荷物。
全部。
自分たちだけで。
持っていたら。
もっと。
大変だった。
「…………」
そりゃそうか。
地図を。
作る。
測る人だけじゃ。
できない。
道を。
知っている人。
荷物を。
運ぶ人。
馬を。
扱う人。
泊まる場所を。
用意してくれる人。
飯を。
用意してくれる人。
いろんな。
人がいる。
「伊能忠敬一人で日本地図を作った」
現代にいた頃。
なんとなく。
そういう。
イメージだった。
でも。
違う。
俺は。
測っている。
でも。
俺一人じゃ。
ここまで。
来られない。
◇
昼。
休憩。
俺は。
人足たちを見る。
普通に。
飯を食っている。
当たり前だ。
この人たちにも。
生活がある。
家族が。
いるかもしれない。
仕事も。
ある。
その中で。
俺たちの。
測量を。
手伝っている。
「…………」
俺。
知らなかったな。
教科書には。
伊能忠敬。
全国を測量。
日本地図を作る。
それくらい。
でも。
その一行の。
裏側。
何人。
いたんだろう。
俺たちに。
道を教えた人。
荷物を運んだ人。
馬を貸した人。
飯を作った人。
泊めてくれた人。
「…………」
数えきれないな。
たぶん。
「先生」
宗平が。
呼ぶ。
「何?」
「そろそろ」
「ああ」
俺は。
立ち上がる。
そして。
人足たちを見る。
「午後もよろしく」
少し。
頭を下げた。
◇
午後。
測量。
歩く。
測る。
記録。
また。
歩く。
「…………」
俺は。
気づく。
人が。
増えても。
測量そのものは。
速くなるわけじゃない。
海岸線。
曲がる。
測る。
止まる。
記録。
進む。
また。
測る。
「…………」
地道。
本当に。
地道。
ウインドウ。
現れる。
【第一次測量 蝦夷地】
【測量進捗率:23%】
「…………」
朝。
二十三。
今。
二十三。
「人増えたよ?」
【23%】
「馬も増えたよ?」
【23%】
「もっとこう」
俺は。
手を動かす。
「ドーンって増えない?」
【23%】
「…………」
冷たい。
数字。
冷たい。
◇
しばらく。
歩く。
俺は。
馬を見る。
また。
見る。
「…………」
乗りたい。
ものすごく。
乗りたい。
足。
痛い。
馬。
いる。
乗れない。
「先生」
門倉。
「何?」
「馬を見すぎです」
「見てない」
「ずっと見ております」
「見てない」
「乗れませんよ」
「まだ何も言ってないだろ!」
バレてる。
完全に。
バレてる。
◇
夕方。
測量を終える。
人足たち。
馬。
役目を。
終える。
俺は。
改めて。
礼を言った。
「ありがとう」
今日。
この人たちが。
いなかったら。
もっと。
大変だった。
間違いない。
「門倉」
「はい」
「こうやって」
俺は。
人足たちを見る。
「場所ごとに人を借りていくんだな」
「必要に応じて」
「馬も?」
「はい」
「案内も?」
「はい」
「…………」
俺は。
少し。
考える。
「じゃあさ」
「はい」
「もし」
嫌な。
疑問。
浮かんだ。
「人が集まらなかったら?」
門倉が。
こちらを見る。
「集まらない?」
「みんな」
俺は。
人足たちを見る。
「生活があるじゃん」
仕事。
ある。
漁。
ある。
畑。
あるかもしれない。
「俺たちが来たからって、いつでも手伝えるわけじゃないよな?」
「もちろんです」
「…………」
やっぱり。
「じゃあ」
俺は。
聞く。
「人が必要なのに、人がいなかったら?」
門倉が。
少し。
黙る。
また。
その沈黙。
最近。
本当に。
嫌い。
「その時は」
門倉が言う。
「可能な方法を考えます」
「…………」
俺は。
頭を抱えた。
「出たよ」
「何がでしょう?」
「伊能忠敬のやつ」
「先生は伊能忠敬ですが」
「そうだった!」
可能な方法を。
考える。
できないから。
終わり。
じゃない。
別の方法。
探す。
「…………」
嫌な予感。
するな。
ものすごく。
する。
この先。
人が。
必要。
馬が。
必要。
でも。
人には。
生活がある。
そして。
俺たちは。
測量を。
止めたくない。
「…………」
絶対なんか起きるじゃん。
ウインドウ。
現れる。
【第一次測量 蝦夷地】
【測量進捗率:23%】
残り。
七十七パーセント。
俺は。
今日。
助けてくれた人たちを見る。
そして。
思った。
日本地図。
伊能忠敬が。
作った。
確かに。
そうなのかもしれない。
でも。
たぶん。
それだけじゃない。
名前も。
残っていない。
たくさんの人が。
少しずつ。
この地図を。
作ったんだ。
「…………」
すごいな。
少しだけ。
そう思った。
その横で。
馬が。
歩いていく。
「…………」
やっぱり。
乗りたかったな。
門倉が。
言った。
「先生」
「何?」
「明日も歩きます」
「最後に現実へ戻すなよ!」




