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コケて立ち上がったら伊能忠敬でした。歴史に名を残す人は頭のネジが外れてるみたいです。もう俺は歩けません  作者: まろじろう
第一次測量 蝦夷地

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21/85

第21話「八月だよね?」

朝。


目が覚めた。


「…………」


俺は。


天井を見る。


そして。


昨日のことを。


思い出した。


【第一次測量 蝦夷地】


【測量進捗率:22%】


「…………」


夢じゃなかった。


たぶん。


残り。


七十八パーセント。


俺は。


布団の中で。


目を閉じた。


「…………」


もう一回寝ようかな。


寝たら。


二十二が。


三十くらいになってないかな。


ならない。


知ってる。


自分で。


歩かなきゃ。


増えない。


「はぁ……」


起きる。


身体。


重い。


足。


痛い。


いつものこと。


「よし」


俺は。


自分に言い聞かせる。


一歩ずつ。


昨日。


決めた。


今日。


全部やる必要はない。


一歩進めば。


一歩分。


地図が完成する。


「行くか」


少しだけ。


格好よく。


言ってみた。


その時。


「先生」


門倉隼太が。


入ってきた。


「おはよう」


「おはようございます」


「今日も行くぞ」


門倉が。


一瞬。


止まった。


「何?」


「いえ」


「なんだよ」


「先生から、そのお言葉を聞くとは」


「俺だって成長するんだよ!」


昨日も。


似たようなこと。


言った気がする。


でも。


いい。


今日は。


やる気がある。


残り。


七十八パーセント。


長い。


でも。


やる。


「準備しよう」


「はい」


門倉が言った。


「本日は冷えますので、袷を」


「…………」


俺は。


止まった。


「何?」


「袷を」


「…………」


また?


     ◇


俺は。


外へ出た。


「寒っ!」


冷たい風。


俺の身体を。


抜けていく。


「…………」


待て。


待て待て待て。


この感じ。


知ってる。


つい最近。


経験した。


「門倉」


「はい」


「今、何月?」


「八月です」


「…………」


七月ですら。


なくなった。


八月。


夏。


ど真ん中。


「寒いんだけど」


「ヤマセ風ですな」


「ヤマセ?」


「はい」


「何それ?」


「東より吹く、冷たい風です」


「…………」


俺は。


風を見る。


当然。


見えない。


でも。


腹が立つ。


「お前か」


「先生?」


「こいつが犯人か」


また。


風が吹く。


「寒っ!」


俺は。


身体を縮める。


「袷をお召しになった方が」


「着るよ!」


もう。


学んだ。


寒いのに。


意地を張る必要はない。


俺は。


袷を着る。


「…………」


暖かい。


悔しい。


でも。


暖かい。


「門倉」


「はい」


「昨日まで暑かったよね?」


「暑い日もございましたな」


「それで今日これ?」


「蝦夷地ですので」


「その言葉万能すぎるだろ!」


     ◇


測量開始。


歩く。


測る。


記録。


また。


歩く。


風。


吹く。


「寒っ!」


歩く。


測る。


風。


「寒っ!」


記録。


風。


「寒い!」


宗平が。


俺を見る。


「先生」


「何?」


「先ほどから寒いとしか申されておりません」


「寒いからな!」


事実を。


言っているだけだ。


「八月だぞ」


俺は。


歩きながら。


ぶつぶつ言う。


「現代だったら夏休みだぞ」


海。


プール。


かき氷。


冷房。


蝉。


そういう。


季節。


のはず。


俺。


今。


袷。


着てる。


「…………」


意味。


分からん。


     ◇


ウインドウが。


現れる。


【第一次測量 蝦夷地】


現在地:虻田周辺


史実との差:0日


タイムパラドックス発生リスク:0.014%


そして。


昨日から。


増えた項目。


【測量進捗率:22%】


「…………」


俺は。


見る。


二十二。


「まだ二十二か」


当然。


朝から。


そんなに。


歩いていない。


でも。


一度。


数字が見えるようになると。


気になる。


ものすごく。


気になる。


「なあ」


【…………】


「あと何歩で二十三?」


【表示対象外】


「そこ教えろよ!」


門倉が。


振り返る。


「先生?」


「なんでもない!」


俺は。


歩く。


二十二。


二十二。


二十二。


「…………」


ゲームだったら。


経験値バー。


あるのにな。


あと。


どれくらいで。


レベルアップ。


分かる。


でも。


こいつ。


パーセントだけ。


「中途半端にゲームっぽくするなよ……」


     ◇


しばらく。


測量を続ける。


冷たい風。


吹く。


海岸。


歩く。


測る。


記録。


そして。


また。


歩く。


「…………」


俺は。


ふと。


気づいた。


文句は。


言っている。


めちゃくちゃ。


言っている。


でも。


足は。


止まっていない。


最初の頃なら。


寒い。


帰る。


無理。


そんなこと。


言っていた。


今は。


「寒っ!」


言いながら。


測ってる。


「…………」


慣れって。


怖いな。


     ◇


昼。


風を避けられる場所で。


休む。


食事。


温かいものを。


口に入れる。


「うま……」


身体が。


温まる。


やっぱり。


寒い時の。


温かい飯。


強い。


俺は。


周りを見る。


門倉。


宗平。


秀蔵。


吉助。


長助。


みんな。


食べている。


「…………」


六人。


俺たち。


六人しか。


いないんだよな。


昨日。


広い海岸線を見た。


残り。


七十八パーセント。


そして。


今。


改めて見る。


六人。


「…………」


待てよ。


俺は。


箸を止めた。


「門倉」


「はい」


「俺たちって」


「はい」


「何人?」


門倉が。


不思議そうな顔をする。


「六人ですが」


「だよね」


数える。


俺。


門倉。


宗平。


秀蔵。


吉助。


長助。


六。


間違いない。


「…………」


俺は。


昨日見た。


海岸線を思い出す。


広い。


めちゃくちゃ。


広い。


【測量進捗率:22%】


そして。


六人。


「…………」


門倉」


「はい」


「これ」


俺は。


周囲を指す。


「六人でやる仕事?」


沈黙。


「先生?」


「いや」


急に。


ものすごく。


気になった。


日本。


測る。


蝦夷地。


測る。


六人。


「少なくない?」


「現地で人足などの助力も得ます」


「そうなの?」


「はい」


「…………」


よかった。


さすがに。


全部。


六人じゃない。


俺は。


安心する。


でも。


次の瞬間。


思う。


現地で。


人を借りる。


つまり。


その人たちが。


いないと。


進めない?


「門倉」


「はい」


「その人たちって、いつでも借りられるの?」


「それは土地や時期によります」


「…………」


嫌な言い方。


覚えた。


俺。


門倉の。


嫌な言い方。


分かるようになってきた。


「つまり?」


「必要な人数を得られぬこともあるでしょう」


「…………」


俺は。


食事を再開した。


聞かなかったことにした。


今。


考える必要はない。


たぶん。


そのうち。


困る。


絶対。


困る。


     ◇


午後。


再び。


歩く。


測る。


記録。


冷たい風。


相変わらず。


吹いている。


「寒っ」


でも。


歩く。


その時。


ウインドウ。


【測量進捗率:22%】


「…………」


まだ。


二十二。


俺は。


少し。


ムッとする。


「結構歩いたぞ」


【22%】


「測ったぞ」


【22%】


「寒い中頑張ってるぞ」


【22%】


「…………」


腹立つ。


数字に。


感情なんて。


ない。


分かってる。


でも。


腹立つ。


「先生」


門倉が。


呼ぶ。


「何?」


「参ります」


「うん」


歩く。


また。


一歩。


さらに。


一歩。


その時。


表示が。


変わった。


【測量進捗率:23%】


「…………」


俺は。


止まった。


「お」


二十三。


たった。


一。


増えただけ。


でも。


「上がった」


ちょっと。


嬉しい。


「先生?」


「二十三になった」


「何がでしょう?」


「こっちの話」


俺は。


笑った。


昨日。


二十二。


今日。


二十三。


たった。


一パーセント。


でも。


進んだ。


「よし」


俺は。


前を見る。


「行こう」


「はい」


また。


歩く。


     ◇


夕方。


今日の測量を。


終える。


俺は。


空を見る。


まだ。


寒い。


「…………」


八月。


なんだよな。


何度。


確認しても。


八月。


「門倉」


「はい」


「明日は?」


「何がでしょう?」


「暑い? 寒い?」


門倉が。


空を見る。


「分かりませぬ」


「…………」


だよね。


もう。


期待しない。


俺は。


袷を見る。


「明日の服」


「はい」


「起きてから決めるわ」


門倉が。


少し。


笑った。


俺も。


笑う。


蝦夷地。


暑い。


寒い。


雨。


風。


何が来るか。


分からない。


そして。


残り。


七十七パーセント。


「…………」


長いな。


本当に。


長い。


でも。


昨日より。


一パーセント。


進んだ。


それで。


いい。


俺は。


宿へ戻ろうとする。


その時。


門倉が。


言った。


「先生」


「何?」


「明日以降ですが」


「うん」


「道中、現地の者に案内を頼むことになるかと」


「案内?」


「はい」


「…………」


俺は。


昼の会話を。


思い出した。


現地。


人足。


助力。


「門倉」


「はい」


「まさか」


俺は。


嫌な予感がして。


聞いた。


「道、分からないの?」


門倉は。


普通に答えた。


「分からぬ場所もございます」


「…………」


俺は。


固まった。


地図を。


作っている。


俺たちが。


これから。


通る道を。


知らない。


「…………」


そりゃそうか。


地図。


ないんだもんな。


俺は。


頭を抱えた。


「今さらだけど!」


門倉が。


こちらを見る。


「何でしょう?」


「俺たち!」


声が。


大きくなる。


「道が分からないのに地図作ってるんだよな!?」


「左様ですが」


「怖っ!」


残り。


七十七パーセント。


その先に。


道があるかどうかすら。


俺は。


知らない。

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