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コケて立ち上がったら伊能忠敬でした。歴史に名を残す人は頭のネジが外れてるみたいです。もう俺は歩けません  作者: まろじろう
第一次測量 蝦夷地

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20/85

第20話「やっぱ蝦夷地広いわ」

朝。


目が覚めた。


「…………」


俺は。


身体を起こす。


足。


痛い。


腰。


痛い。


肩。


重い。


「…………」


いつも通り。


もう。


この状態を。


いつも通りと思っている時点で。


何かがおかしい。


でも。


今日は。


少しだけ。


機嫌がいい。


昨日。


地図を見た。


既にある。


東蝦夷の図。


最初は。


思った。


地図あるじゃん!


じゃあ帰ろう!


でも。


違った。


既にある地図。


現地の人たちの情報。


そして。


俺たちが。


実際に歩いて。


測った記録。


それを。


比べる。


直す。


繋げる。


そうやって。


地図を作る。


俺たちが歩いた場所が。


線になる。


その線が。


いつか。


日本になる。


「…………」


ちょっと。


見てみたい。


俺たちが作った。


日本地図。


そんなことまで。


思うようになった。


「俺」


呟く。


「結構、伊能忠敬してない?」


自分で言って。


少し。


笑った。


     ◇


「先生」


門倉隼太が来た。


「おはよう」


「おはようございます」


俺は。


立ち上がる。


「門倉」


「はい」


「ちょっと聞きたい」


「何でしょう」


「俺たち」


「はい」


「結構歩いたよね?」


門倉が。


俺を見る。


「歩いておりますな」


「だよね!」


江戸を出た。


歩いた。


ひたすら。


歩いた。


船にも乗った。


酔った。


蝦夷地に着いた。


測った。


夜。


星を測った。


象限儀。


壊れた。


直した。


また。


測った。


夜十一時半過ぎまで。


星を測った。


雨。


降った。


川。


増えた。


渡った。


死ぬかと思った。


七月なのに。


寒かった。


袷を着た。


次の日。


暑かった。


単衣になった。


そして。


地図まで。


写した。


「…………」


思い出すだけで。


疲れる。


「相当進んだよね?」


「進んではおります」


「だよね!」


俺は。


ちょっと。


嬉しくなる。


もしかして。


俺。


思っているより。


頑張ってる?


「じゃあさ」


俺は。


聞いた。


「蝦夷地の測量」


「はい」


「あとどれくらい?」


門倉が。


少し。


黙った。


「…………」


嫌な沈黙。


最近。


分かる。


門倉が。


こういう顔をした時。


大体。


ろくな答えが返ってこない。


「門倉」


「はい」


「あとどれくらい?」


「まだ先はございます」


「…………」


俺は。


笑った。


「いやいや」


そんな。


曖昧な。


答えじゃなくて。


「結構進んだじゃん」


「はい」


「蝦夷地に入ってからも、かなり歩いたじゃん」


「左様ですな」


「じゃあ」


俺は。


期待する。


「もう半分くらい?」


「…………」


門倉が。


俺を見る。


「何?」


「先生」


「何?」


「参りましょう」


「待て」


逃げた。


今。


絶対。


逃げた。


「門倉」


「はい」


「今の質問に答えて」


「道中で」


「今!」


     ◇


結局。


出発した。


歩く。


測る。


記録する。


また。


歩く。


でも。


今日は。


集中できない。


「…………」


あと。


どれくらい?


気になる。


ものすごく。


気になる。


俺の感覚では。


かなり進んだ。


そりゃ。


蝦夷地は。


広い。


知ってる。


現代の。


日本地図でも。


北海道は。


でかい。


でも。


俺。


かなり歩いたよ?


「…………」


半分。


いや。


そこまでじゃなくても。


四割。


三割。


さすがに。


それくらいは。


終わってるだろ。


その時。


目の前に。


ウインドウ。


【第一次測量 蝦夷地】


現在地:虻田周辺


史実との差:0日


タイムパラドックス発生リスク:0.014%


「…………」


俺は。


表示を見る。


「おい」


【…………】


「残りは?」


【表示対象外】


「役に立たねえ!」


本当に。


こいつ。


余計な数字は。


見せるくせに。


知りたいことは。


教えてくれない。


     ◇


昼。


休憩。


俺は。


食事をしながら。


宗平の記録を見る。


「宗平」


「はい」


「今までの行程って分かる?」


「もちろんです」


「見せて」


記録を。


受け取る。


見る。


「…………」


日付。


場所。


距離。


測量。


天測。


いろいろ。


書いてある。


俺は。


最初から。


追っていく。


「…………」


歩いてる。


本当に。


歩いてる。


毎日。


毎日。


毎日。


俺。


頑張ってる。


「すごくない?」


「何がでしょう?」


「これ」


記録を。


指差す。


「こんなに歩いたんだぞ?」


宗平が。


少し笑う。


「まだまだこれからです」


「…………」


俺は。


止まった。


「何?」


「まだまだ」


「はい」


「これから?」


「はい」


「…………」


門倉だけじゃ。


なかった。


こいつら。


全員。


同じこと言う。


     ◇


俺は。


頭の中に。


現代の日本地図を。


思い浮かべた。


北海道。


でかい。


ものすごく。


でかい。


そして。


俺たちは。


海岸線を。


測っている。


ただ。


目的地まで。


最短距離で。


進んでいるわけじゃない。


海岸。


地形。


一つずつ。


追っている。


「…………」


待て。


嫌なことに。


気づいた。


「門倉」


「はい」


「俺たちさ」


「はい」


「真っ直ぐ目的地まで行くわけじゃないよね?」


「測量ですので」


「海岸線に沿うよね?」


「もちろんです」


「…………」


俺は。


頭を抱えた。


「距離伸びるじゃん!」


「当然かと」


「当然って言うな!」


地図で。


見るのと。


実際に。


海岸線を。


歩くのは。


全然違う。


入り組んでいる。


曲がっている。


出っ張っている。


その一つ一つ。


測る。


「…………」


日本。


俺は。


呟いた。


「形、複雑すぎない?」


誰だ。


こんな形にした奴。


自然だ。


知ってる。


     ◇


午後。


測量再開。


歩く。


測る。


記録。


また。


歩く。


俺は。


海岸を見る。


昨日までと。


少し。


見え方が違った。


綺麗。


だけじゃない。


「あそこ」


曲がっている。


つまり。


測る。


「あっち」


また。


曲がる。


つまり。


測る。


「…………」


海岸線。


全部。


仕事に見えてきた。


「最悪だ……」


「先生?」


「景色を純粋に楽しめなくなってきた」


門倉が。


首を傾げる。


「こちらの海岸も測ります」


「ほら!」


また。


仕事。


     ◇


夕方。


少し高い場所から。


海を見る。


俺は。


立ち止まった。


広い。


本当に。


広い。


水平線。


ずっと。


続いている。


その横に。


海岸線。


ずっと。


続いている。


俺たちは。


あれを。


測っていく。


一つずつ。


「…………」


気が遠くなる。


「先生」


門倉が。


隣に来た。


「何?」


「お疲れですか?」


「疲れてる」


即答。


でも。


それだけじゃない。


「門倉」


「はい」


「これ」


俺は。


海岸線を指す。


「全部測るんだよな?」


「はい」


「この先も?」


「はい」


「ずっと?」


「必要な限り」


「…………」


俺は。


ため息をついた。


やっぱり。


伊能忠敬。


頭おかしい。


こんなの。


見たら。


普通。


帰るだろ。


無理。


って。


言うだろ。


でも。


実際の伊能忠敬は。


歩いた。


測った。


続けた。


そして。


地図を。


残した。


「…………」


なんでだろうな。


俺は。


海を見る。


なんで。


そこまで。


できたんだろう。


まだ。


俺には。


分からない。


     ◇


その時。


ウインドウが。


現れた。


【第一次測量 蝦夷地】


現在地:虻田周辺


史実との差:0日


タイムパラドックス発生リスク:0.014%


そして。


その下。


今まで。


一度も。


表示されたことのない。


項目。


【測量進捗率を表示します】


「…………」


俺は。


目を見開いた。


「お?」


来た。


ついに。


来た。


「お前!」


俺は。


ウインドウを見る。


「やればできるじゃん!」


門倉が。


こちらを見る。


「先生?」


「気にするな!」


俺は。


期待する。


結構。


歩いた。


相当。


頑張った。


半分。


いや。


そこまで。


欲張らない。


四割。


それくらい。


行ってても。


おかしくない。


そして。


数字が。


表示された。


【第一次測量 蝦夷地】


【測量進捗率:22%】


「…………」


俺は。


黙った。


もう一度。


見る。


【測量進捗率:22%】


「…………」


目を。


こする。


もう一度。


見る。


【測量進捗率:22%】


変わらない。


「…………」


俺は。


計算する。


百。


引く。


二十二。


「…………」


七十八。


残り。


七十八。


「…………」


俺は。


門倉を見る。


「先生?」


「門倉」


「はい」


「俺たち」


「はい」


「結構歩いたよね?」


「はい」


「川も渡ったよね?」


「はい」


「夜十一時半まで星測ったよね?」


「左様ですな」


「寒かったよね?」


「はい」


「暑かったよね?」


「はい」


「地図も写したよね?」


「はい」


俺は。


ウインドウを見る。


【測量進捗率:22%】


そして。


叫んだ。


「まだ七十八パーセント残ってんじゃん!」


俺の声が。


蝦夷地の海岸に。


響いた。


     ◇


俺は。


その場に。


座り込んだ。


「無理」


久しぶりに。


出た。


この言葉。


「無理」


もう一回。


「先生」


「無理」


「先生」


「俺、頑張ったよ?」


「はい」


「めちゃくちゃ頑張ったよ?」


「はい」


「二十二って何!?」


門倉には。


見えない。


でも。


俺の絶望だけは。


伝わったらしい。


黙って。


待ってくれている。


「…………」


二十二。


俺は。


ウインドウを見る。


たった。


二十二。


逆に言えば。


七十八。


これから。


今までの。


三倍以上。


まだ。


ある。


「…………」


俺。


今まで。


何してたんだろ。


いや。


測量だ。


知ってる。


「これで二十二……」


俺は。


海を見る。


長い。


ものすごく。


長い。


この先。


まだ。


知らない土地が。


続いている。


そして。


第一次測量が。


終わっても。


日本地図は。


完成しない。


俺は。


それも。


知っている。


「…………」


考えるな。


それ以上。


考えたら。


本当に。


動けなくなる。


     ◇


しばらく。


座っていた。


波の音。


聞こえる。


俺は。


自分の足を見る。


痛い。


ずっと。


歩いてきた足。


「…………」


二十二パーセント。


少ない。


めちゃくちゃ。


少ない。


でも。


ゼロじゃない。


俺が。


伊能忠敬になった日。


あの日は。


ゼロだった。


歩きたくない。


無理。


帰りたい。


門倉に。


首根っこを掴まれて。


引きずられた。


そこから。


二十二。


俺たちが。


歩いた分。


俺たちが。


測った分。


ちゃんと。


進んでいる。


「…………」


二十二か。


今度は。


少し。


違って見えた。


まだ。


七十八。


じゃない。


もう。


二十二。


「先生?」


門倉が。


声を掛ける。


俺は。


膝に手を置く。


そして。


立ち上がった。


「行こう」


自分でも。


少し。


驚いた。


以前なら。


駄々をこねた。


帰りたい。


歩きたくない。


引っ張られて。


連れていかれた。


でも。


今。


残りを。


知った。


七十八パーセント。


絶望した。


それでも。


「行こう」


もう一度。


言った。


門倉が。


少しだけ。


笑う。


「はい」


俺は。


一歩。


踏み出した。


その瞬間。


ウインドウ。


【測量進捗率:22%】


変わらない。


「…………」


当たり前か。


一歩で。


一パーセント増えたら。


苦労しない。


でも。


俺は。


思った。


俺の一歩なんて。


小さい。


本当に。


小さい。


蝦夷地全部から見れば。


何でもない。


でも。


一歩。


進めば。


一歩分。


地図が。


完成に近づく。


今日。


七十八パーセント。


全部やる必要はない。


明日。


全部やる必要もない。


一歩ずつ。


測ればいい。


そうすれば。


いつか。


二十二が。


二十三になる。


五十になる。


九十になる。


そして。


百になる。


「…………」


それなら。


俺にも。


できるかもしれない。


俺は。


海岸線を見る。


長い。


本当に。


長い。


「門倉」


「はい」


「やっぱりさ」


「何でしょう?」


「七十八パーセントは長すぎない?」


「何のお話でしょう?」


「こっちの話!」


俺たちは。


また。


歩き出した。


第一次測量。


蝦夷地。


【測量進捗率:22%】


まだ。


七十八パーセント。


残っている。


でも。


俺は。


初めて。


残りの長さを知った上で。


自分から。


次の一歩を。


踏み出した。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


第20話まで来ました。


歩いて。


測って。


夜遅くまで星を見て。


川を越えて。


寒さにも暑さにも振り回されて。


ようやくここまで来た浩哉。


そして――


第一次測量・蝦夷地、進捗率22%。


まだ78%残っています。


作者も調べながら思いました。


やっぱ蝦夷地広いわ。


でも「もう歩きたくない」と言っていた浩哉も、少しずつ変わってきています。


第一次測量はまだまだ続きます。


この先も史実に振り回される浩哉と、一緒に笑っていただけたら嬉しいです。


面白かった、続きが気になると思っていただけましたら、コメント・ブックマークもよろしくお願いします!


皆さんの反応が、作者の励みになります。


それでは第21話へ。


浩哉、頑張れ。


歩くのは君だから。

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