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コケて立ち上がったら伊能忠敬でした。歴史に名を残す人は頭のネジが外れてるみたいです。もう俺は歩けません  作者: まろじろう
第一次測量 蝦夷地

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19/85

第19話「地図あるじゃん!」

虻田。


俺たちは。


また。


新しい土地へ来た。


昨日。


門倉に言われた。


「虻田方面へ向かいます」


そして。


俺は。


思った。


何があるんだろう。


少しだけ。


楽しみだった。


「…………」


本当に。


変わったな。


俺。


最初は。


目的地を聞くたび。


遠い?


何日?


歩くの?


それしか。


考えていなかった。


今は。


知らない土地の名前を聞くと。


少し。


気になる。


どんな場所?


どんな人がいる?


何を食べてる?


そして。


何がある?


「先生」


門倉隼太が。


声を掛ける。


「何?」


「こちらへ」


「うん」


俺は。


門倉についていく。


すると。


そこに。


あった。


「…………」


俺は。


止まった。


もう一度。


見る。


紙。


そこに。


描かれているもの。


「…………」


待て。


俺は。


近づいた。


「これ」


門倉を見る。


「はい」


「地図?」


「左様です」


「…………」


俺は。


地図を見る。


門倉を見る。


また。


地図を見る。


「地図?」


「はい」


「蝦夷地の?」


「東蝦夷の図です」


「…………」


数秒。


頭が。


止まった。


そして。


理解した。


「地図あるじゃん!」


声が出た。


かなり。


大きな声が。


     ◇


「門倉!」


「はい」


「地図ある!」


「ございますな」


「あるじゃん!」


「はい」


「なんで!?」


「何故と言われましても」


俺は。


地図を指差す。


「俺たち何してるの!?」


「測量です」


「地図あるじゃん!」


「ございます」


「じゃあ帰ろう!」


「帰りません」


「即答!」


待て。


おかしい。


俺が。


伊能忠敬になってから。


どれだけ。


歩いた?


江戸を出た。


北へ。


ひたすら。


歩いた。


船にも乗った。


酔った。


蝦夷地。


着いた。


測った。


夜。


星。


測った。


象限儀。


壊れた。


直した。


また。


星。


測った。


夜十一時半。


労基。


ない。


雨。


降った。


川。


増えた。


渡った。


死ぬかと思った。


七月。


寒かった。


袷。


着た。


翌日。


暑かった。


単衣。


着た。


そして。


今日。


「地図あるじゃん!」


「先生」


門倉が。


少し困った顔をする。


「先ほどから何度も」


「何度でも言うよ!」


俺は。


地図を見る。


「最初に見せてよ!」


     ◇


落ち着け。


澤田浩哉。


落ち着け。


俺は。


深呼吸した。


「…………」


地図。


ある。


でも。


俺たちは。


測量している。


ということは。


当然。


理由がある。


「門倉」


「はい」


「これがあるのに、なんで測ってるの?」


門倉が。


地図を見る。


「より正確な図を作るためです」


「…………」


ですよね。


分かってた。


なんとなく。


分かってた。


でも。


聞きたくなかった。


「これ」


俺は。


地図を見る。


「そのまま使えないの?」


「参考にはなります」


「参考」


「はい」


門倉が。


説明する。


既にある図。


現地で得られる情報。


そして。


俺たちが。


実際に測った。


距離。


方角。


天測。


それらを。


照らし合わせる。


「…………」


俺は。


地図を見る。


なるほど。


全部。


一から。


何もないところに。


線を引いているわけじゃない。


既に。


誰かが。


調べたものがある。


誰かが。


描いたものがある。


誰かが。


知っていることがある。


それを。


使う。


でも。


そのまま。


信じるわけじゃない。


「自分たちでも測るの?」


「当然です」


「やっぱり?」


「はい」


「そこだけは変わらないんだな……」


ちょっとくらい。


楽になると思った。


     ◇


東蝦夷の図を。


写していく。


俺は。


それを眺める。


「…………」


不思議だった。


俺の中の。


伊能忠敬。


日本中を。


ひたすら。


歩く。


歩数を数える。


測る。


そして。


日本地図を作る。


そんな。


イメージだった。


でも。


実際は。


違う。


既存の資料。


現地の情報。


自分たちの測量。


星。


全部。


使う。


「…………」


ちゃんとした調査じゃん」


「先生?」


「あ」


俺は。


頭を掻く。


「いや」


何を。


当たり前のことを。


言っているんだ。


でも。


現代にいた俺は。


知らなかった。


教科書の。


ほんの数行。


伊能忠敬。


全国を測量。


日本地図を作成。


それだけ。


「…………」


数行って」


俺は。


呟いた。


「ずるいな」


「何がでしょう?」


「なんでもない」


数行じゃ。


分からない。


歩いた。


それだけじゃない。


測った。


それだけじゃない。


考えた。


調べた。


比べた。


記録した。


修正した。


そして。


また。


歩いた。


「…………」


俺。


伊能忠敬のこと。


何にも。


知らなかったんだな。


     ◇


地図を写す。


俺も。


見ながら。


確認する。


「門倉」


「はい」


「ここ」


「はい」


「俺たちが測ったのと、ちょっと違わない?」


門倉が。


近づく。


宗平も。


記録を持ってくる。


確認。


「…………」


三人で。


見比べる。


既存の図。


俺たちの記録。


「こちらですな」


宗平が言う。


「やっぱり?」


俺は。


少し。


嬉しくなる。


俺にも。


違いが。


分かった。


「先生」


門倉が。


俺を見る。


「何?」


「随分と慣れられましたな」


「…………」


その一言。


ちょっと。


嬉しい。


「まあね」


俺は。


胸を張る。


「俺も伊能忠敬だから」


「先生は伊能忠敬ですが」


「今日は俺から言ったんだからツッコむなよ!」


宗平が。


笑う。


門倉も。


少し。


笑った。


俺も。


笑った。


     ◇


作業を続ける。


地図。


見る。


記録。


見る。


比べる。


「…………」


面白い。


俺は。


気づいた。


歩くのは。


嫌い。


今も。


嫌い。


足。


痛い。


夜。


寝たい。


でも。


こうして。


自分たちが測った数字が。


地図の線になっていく。


それを見るのは。


「…………」


ちょっと。


面白い。


ここを。


歩いた。


ここで。


川に苦労した。


ここは。


寒かった。


ここは。


暑かった。


全部。


俺たちが。


通った場所。


その一つ一つが。


線になる。


「…………」


これ。


完成したら。


どうなるんだろう。


初めて。


そんなことを。


考えた。


日本全部。


測り終わった時。


この紙の上に。


何が。


できるんだろう。


俺は。


現代の日本地図を。


知っている。


形も。


知っている。


でも。


それとは。


違う。


俺が。


歩いて。


俺たちが。


測って。


作った地図。


「…………」


見てみたい。


ほんの少し。


そう思った。


     ◇


その時。


ウインドウが。


現れた。


【第一次測量】


現在地:虻田


既存資料との照合:進行中


史実との差:0日


タイムパラドックス発生リスク:0.014%


「…………」


俺は。


表示を見る。


史実との差。


ゼロ。


順調。


そして。


もう一度。


地図を見る。


「門倉」


「はい」


「これってさ」


「はい」


「俺たちが測ったものを全部まとめたら」


少し。


言葉を探す。


「本当に、日本の形ができるんだよな?」


門倉が。


俺を見る。


当たり前のことを。


聞いている。


そんな顔。


「そのために」


門倉が言った。


「我々は歩いております」


「…………」


俺は。


黙った。


そのために。


歩いている。


今まで。


何度も。


言われた。


測量。


日本地図。


でも。


今日。


初めて。


少し。


実感した。


俺たちが。


歩いた道が。


線になる。


その線が。


繋がる。


そして。


いつか。


日本になる。


「…………」


俺は。


地図を見る。


「そっか」


ちょっと。


笑った。


「じゃあ」


俺は。


自分たちの記録を持つ。


「ちゃんとやらないとな」


門倉が。


一瞬。


止まった。


「何?」


「いえ」


「また?」


「先生が自らそのようなことを申されるとは」


「俺だって成長するんだよ!」


本当に。


失礼な奴だ。


でも。


俺も。


少し笑った。


     ◇


夕方。


作業を終える。


俺は。


地図を。


もう一度見る。


今日。


知った。


伊能忠敬は。


ただ。


歩いていたわけじゃない。


昔の人が。


残したもの。


現地の人が。


知っていること。


自分たちが。


測ったもの。


全部を。


使っていた。


「…………」


俺は。


思う。


地図を作る。


それは。


一人で。


日本を歩くことじゃない。


いろんな人が。


積み重ねたものを。


繋いでいくことなのかもしれない。


そして。


俺たちも。


その一つになる。


「先生」


門倉が。


呼ぶ。


「何?」


「明日も参りましょう」


「うん」


自然に。


返事が出た。


「行こう」


俺は。


立ち上がる。


そして。


少しだけ。


思った。


明日は。


何があるんだろう。


もう。


目的地を聞くのが。


怖いだけじゃない。


知らない場所。


知らない景色。


知らない人。


そして。


知らなかった。


伊能忠敬。


歩けば。


歩くほど。


俺が知っていた。


教科書の中の伊能忠敬が。


少しずつ。


壊れていく。


代わりに。


一人の人間が。


見えてくる。


「…………」


俺は。


その人間に。


なっている。


まだ。


実感なんて。


全然ないけど。


少なくとも。


最初の日よりは。


少しだけ。


分かる。


なぜ。


歩いたのか。


なぜ。


測ったのか。


そして。


なぜ。


残したのか。


でも。


俺は。


まだ知らない。


この第一次測量が。


どれほど。


長いのか。


俺は。


かなり進んだつもりでいた。


明日。


それを。


思い知ることになる。

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