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コケて立ち上がったら伊能忠敬でした。歴史に名を残す人は頭のネジが外れてるみたいです。もう俺は歩けません  作者: まろじろう
第一次測量 蝦夷地

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15/85

第15話「北海道の夏、話が違う」

朝。


目が覚めた。


「…………」


生きてる。


まず。


それを確認した。


昨日。


朝から測量。


歩いた。


測った。


記録した。


夜。


天測。


終わったのは。


十一時半過ぎ。


そして。


今日。


また。


朝。


「…………」


おかしい。


一日って。


二十四時間しかないよな?


昨日。


俺。


何時間働いた?


考えるのは。


やめよう。


怖くなる。


「先生」


門倉隼太の声。


「…………」


「先生」


「今日は休み?」


「測量です」


「聞くんじゃなかった」


俺は。


身体を起こす。


痛い。


足。


腰。


肩。


全部。


痛い。


でも。


不思議なことに。


動ける。


「…………」


伊能忠敬の身体。


やっぱり。


おかしくない?


五十五歳だぞ?


昨日。


十一時半過ぎまで働いたんだぞ?


「サイボーグ説……」


「先生?」


「なんでもない」


俺は。


草鞋を履いた。


すると。


いつものウインドウ。


【第一次測量】


現在地:大野村周辺


本日の予定:測量継続


史実との差:0日


タイムパラドックス発生リスク:0.010%


「…………」


測量継続。


もう。


驚かない。


歩くんだろ。


知ってる。


「よし」


俺は。


外へ出た。


     ◇


歩く。


測る。


記録する。


また。


歩く。


昨日までと。


同じ。


ただ。


一つ。


違う。


「暑っ……」


俺は。


額の汗を拭った。


「暑くない?」


門倉を見る。


「夏ですので」


「いや」


それは。


分かる。


でも。


俺の中では。


北海道。


イコール。


涼しい。


そんな。


勝手なイメージがあった。


「もっと涼しいと思ってた」


「ほっかいどう?」


「あ」


また。


やった。


「蝦夷地」


言い直す。


「蝦夷地って、もっと涼しいと思ってた」


門倉が。


空を見る。


「日によりますな」


「日による?」


「はい」


嫌な言葉。


なんか。


ものすごく。


嫌な予感がする。


     ◇


進む。


道。


というより。


道らしきもの。


現代の道路じゃない。


当然。


アスファルトなんて。


ない。


平らでもない。


歩きやすく。


整備されているわけでもない。


足元を見る。


石。


土。


草。


ぬかるみ。


「…………」


歩きにくい。


さらに。


測量。


ただ。


目的地まで歩けばいいわけじゃない。


止まる。


測る。


記録。


また。


歩く。


海岸線を見る。


地形を見る。


方角を見る。


「…………」


汗が。


流れる。


「先生」


「何?」


「水を」


「ありがとう」


飲む。


うまい。


でも。


すぐに。


また暑くなる。


「北海道……」


俺は。


小さく呟く。


「夏涼しいって誰が言ったんだよ」


誰も。


言ってない。


俺が。


勝手に思ってただけ。


     ◇


さらに進む。


今度は。


海から。


風が吹いた。


「おお」


涼しい。


「これだよ!」


俺は。


思わず言った。


「これ!」


「先生?」


「北海道!」


「蝦夷地です」


「分かってる!」


気持ちいい。


汗をかいた身体に。


海風。


最高。


「やっぱり涼しいじゃん」


俺は。


笑った。


しばらく。


その風を浴びながら。


歩く。


「…………」


数分後。


「寒くない?」


門倉を見る。


「風がございますので」


「急に?」


さっきまで。


暑かった。


今。


寒い。


「…………」


なんだこれ。


俺は。


腕をさする。


「気温どうなってんの?」


返事はない。


当たり前。


温度計。


今。


持ってない。


「先生」


門倉が言う。


「参りましょう」


「ちょっと待って」


「はい」


「暑い」


「はい」


「風が吹く」


「はい」


「寒い」


「左様ですな」


「また歩く」


「はい」


「暑い」


「そうなりますな」


「…………」


俺は。


空を見る。


「忙しいな!」


天気に。


ツッコむ日が来るとは。


思わなかった。


     ◇


昼を過ぎる。


さらに。


問題。


「門倉」


「はい」


「足」


「はい」


「めっちゃ疲れる」


「歩いておりますので」


「そういう意味じゃない!」


地面。


歩きにくい。


現代なら。


道路。


歩道。


階段。


橋。


人が歩くためのものが。


普通にある。


でも。


ここは。


違う。


地形そのものを。


歩く。


そして。


測る。


「これさ」


俺は。


足元を見る。


「日本全部やるんだよね?」


「その予定です」


「…………」


俺は。


遠くを見る。


日本。


北海道。


本州。


四国。


九州。


頭の中に。


現代の日本地図が浮かぶ。


「…………」


広すぎない?


今さら。


ものすごく。


当たり前のことに気づいた。


日本。


でかい。


地図で見れば。


小さい。


世界地図の中なら。


もっと小さい。


でも。


歩いたら。


とんでもなく。


でかい。


「…………」


俺。


これ。


全部歩くの?


ウインドウが。


出た。


【史実との差:0日】


「…………」


答え。


出すなよ。


分かってる。


     ◇


午後。


今度は。


雲が増えてきた。


「…………」


俺は。


空を見る。


嫌な予感。


「門倉」


「はい」


「天気」


「変わりそうですな」


「やっぱり?」


風。


さっきまでとは。


また違う。


「…………」


現代なら。


スマホ。


天気予報。


雨雲レーダー。


何時から雨。


降水確率。


全部。


分かる。


今は。


空を見る。


風を見る。


雲を見る。


それだけ。


「不便すぎる……」


俺は。


呟いた。


でも。


門倉たちは。


普通。


空を見る。


風を見る。


そして。


判断する。


「先生」


「何?」


「少し急ぎましょう」


「雨?」


「降るやもしれません」


「分かった」


俺は。


歩く速度を上げた。


測る。


記録。


進む。


また測る。


「…………」


俺は。


門倉の背中を見る。


天気予報。


ない。


道路。


ない。


GPS。


ない。


スマホ。


ない。


それでも。


進む。


「…………」


この人たち。


本当に。


すごいな。


     ◇


しばらくして。


ぽつ。


「…………」


頬に。


何か。


当たった。


ぽつ。


また。


「雨」


来た。


「先生!」


「分かってる!」


記録。


濡らすな。


道具。


守れ。


荷物。


まとめる。


急に。


全員の動きが変わった。


「こっち!」


「はい!」


俺も。


動く。


さっきまで。


疲れた。


暑い。


寒い。


文句を言っていた。


でも。


今は。


そんなこと。


言ってられない。


雨。


強くなる。


地面。


濡れる。


滑る。


歩きにくい。


「うわっ!」


足を取られる。


「先生!」


門倉が。


腕を掴む。


「大丈夫!」


立て直す。


進む。


「…………」


怖い。


ちょっと。


本気で。


怖い。


現代なら。


雨。


傘を差す。


車に乗る。


建物に入る。


それだけ。


でも。


ここでは。


雨一つで。


測量そのものが。


危険になる。


     ◇


しばらくして。


雨が。


弱くなった。


「…………」


俺は。


息を吐く。


びしょ濡れ。


疲れた。


足元。


泥。


最悪。


「先生」


「何?」


「大丈夫ですか?」


「なんとか」


俺は。


空を見る。


さっきまで。


暑かった。


そのあと。


風で寒くなった。


さらに。


雨。


「…………」


北海道の夏。


俺が。


思ってたのと。


全然違う。


「門倉」


「はい」


「明日は?」


「測量です」


「天気は?」


「明日にならねば」


「…………」


そうだよね。


天気予報。


ないもんね。


俺は。


深く。


ため息をついた。


その時。


ウインドウ。


【第一次測量】


本日の測量:継続


史実との差:+0.001日


タイムパラドックス発生リスク:0.011%


「…………」


雨で。


少し。


遅れた。


【0.012%】


「おい」


俺は。


ウインドウを見る。


「これは俺のせいじゃないだろ」


【0.013%】


「天気に言えよ!」


「先生?」


「俺じゃない!」


【0.014%】


「なんで上げるんだよ!」


雨。


降った。


俺。


悪くない。


「自然現象だろ!」


【0.015%】


「理不尽!」


門倉が。


首を傾げている。


でも。


俺は。


ウインドウを睨む。


今まで。


人と話して。


上がった。


休んで。


上がった。


魚を美味しくして。


上がった。


それは。


まだ。


分かる。


俺が。


何かした。


でも。


雨。


「俺、天気まで責任持つの!?」


誰も。


答えてくれない。


     ◇


俺たちは。


再び歩き始めた。


雨は。


まだ。


少し降っている。


足元は。


悪い。


身体も。


重い。


でも。


進む。


少しずつ。


測る。


記録。


歩く。


俺は。


思った。


地図を作る。


今まで。


簡単に。


考えていた。


歩いて。


測れば。


できる。


でも。


違う。


暑い。


寒い。


雨が降る。


風が吹く。


道がない。


足場が悪い。


川もある。


山もある。


海もある。


それでも。


測る。


「…………」


自然。


全部。


敵じゃん。


その時。


門倉が言った。


「先生」


「何?」


「明日は川を越えます」


「…………」


俺は。


止まった。


「川?」


「はい」


「橋は?」


門倉が。


俺を見る。


「…………」


嫌な沈黙。


「門倉」


「はい」


「橋は?」


「明日になれば分かります」


「その答えやめろ!」


俺の声が。


蝦夷地の道に響く。


雨。


風。


暑さ。


寒さ。


そして。


次は。


川。


「…………」


俺は。


空を見る。


日本地図完成まで。


まだ。


とんでもなく遠い。


どうやら。


俺が戦う相手は。


タイムパラドックスだけじゃ。


ないらしい。


一番。


厄介なのは。


たぶん。


この国そのものだ。

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