第13話「過去との決別、双剣の誓い」
鋭い金属音が洞窟の壁に反響し、火花が散る。
男の振るう短剣は、力任せではなく計算し尽くされた軌道でルミナスの急所を狙ってくる。
男が振り下ろす刃の軌道を見極めながら、ルミナスの脳内では極めて冷徹な計算が弾き出されていた。
鎖骨下動脈から中枢神経までの距離。
刃を三ミリ滑らせれば運動機能を完全に奪える。
かつて組織で延髄の構造を解剖させられた記憶が、現在の剣さばきと皮肉なほどに重なり合っていた。
「なぜだ。なぜお前は、その力を捨ててまで生き延びようとする。我々のような日陰者は、奪うことでしか存在を証明できない。光の当たる場所など、お前には最初から用意されていないのだ」
男が刃を押し込みながら、苛立たしげに吐き捨てる。
ルミナスの脳裏に、あの温かい厨房の光景がフラッシュバックする。
湯気を立てるスープ。
美味いと笑ってくれる冒険者たち。
そして、不器用な手つきで芋の皮を剥こうとしていた、太陽のような金髪の男。
「用意されていなかったから、どうしたというんだ」
ルミナスは双剣の片方をひねり、男の刃を外側へ弾き飛ばした。
がら空きになった男の胸元へ、もう片方の剣の柄を叩き込む。
鈍い衝撃音とともに、男の体が大きくよろめいた。
双剣の柄で打ち据えたと見せかけ、ルミナスは男の頸動脈に自作の特殊な毒針を浅く突き立てていた。
「右腕の尺骨神経を叩いた。お前のその手は、もう二度と短剣を握れない。お前たちが剣の素振りをしている間、私は数千の毒の調合式と人体構造を脳に焼き付けた。筋肉の動き、血流の速度。私から見れば、お前たちは中身の透けた肉の袋に過ぎない。勝てるとでも思ったか」
ルミナスは床に這いつくばる男を見下ろし、感情の消えた声で告げた。
底知れぬ知識の差を突きつけられ、男の瞳に初めて明確な恐怖が浮かんだ。
「命を育む力で作った植物毒は、組織の解毒剤では中和できない。三日に一度、私が調合する茶を飲まなければ全身の血管が破裂する。組織には、標的は谷底へ落ちたと報告しろ。この街には、アークライトには近づかないと誓え。そうすれば、私は何も見なかったことにする」
冷徹に告げ、ルミナスは双剣を鞘に収めた。
男はしばらくの間、ルミナスと視線を交わらせていた。
やがて、彼はゆっくりと立ち上がり、弾き飛ばされた短剣を拾い上げた。
「甘いな、ルミナス。その甘さが、いつかお前の命を奪うぞ」
男は背を向け、洞窟の奥へと歩き出す。
倒れていた他の暗殺者たちも、リーダーを追うようにして影の中へ消えていった。
気配が完全に遠ざかるのを見届け、ルミナスはその場にへたり込んだ。
限界だった。
全身の筋肉が悲鳴を上げ、手首の傷からは再び血がにじんでいる。
冷たい洞窟の床に手をつき、荒い呼吸を繰り返す。
終わった。
これで、レオンハルトの街を守ることができた。
その安堵感に包まれた瞬間、背後から足音が近づいてくるのに気づいた。
暗殺者ではない。
重く、確かな足取り。
そして、陽に焼かれた乾いた樹皮の匂いが、洞窟の冷気を塗り替えるように広がってくる。
ルミナスが振り返ると、松明の光を背にしたレオンハルトが立っていた。




