08 断罪
東部の街の領主館
そこに応援の調査隊が入りました
ここでは着々と証拠集めが行われています
ラングさんと思いを同じにする同志が領主館内にもおり、彼らが協力してくれたため、隠されていた裏帳簿など証拠品が次から次へと出てきました
領主館には隠し部屋もあり、そこからはたくさんの隠し資産が出てきました
また増援を得た事で、人身売買の拠点としていた建物にも調査が入りました
ここには、さらってきた子供達の帳簿がありました
帳簿には子供達の名前はなく番号で記され、個々の年齢性別、健康状態や栄養状態と金額が記されていました
そうした中、騎士達が取り囲む馬車の中から声がしてきました
「ん?ここはどこだ?確か王女達と子供どもを魔獣の巣窟に置き去りにして、領地に戻っている最中だった筈だが……」
領主が氷漬けから目を覚ましたようです
すると同じく目を覚ました執事の男も馬車の外を確認して言いました
「いつの間にか夜が明けています。いったい何があったのか……」
彼らは今馬車がいるのが領主館の敷地内であることに気が付いたようです
外で忙しそうに動き回っているのは王国騎士と文官たち
「いったい何がどうなっている!?」
領主は困惑して執事に聞きますが、執事にも何が何だか分かりません
確かに領主の言う通り、王女と副騎士団長を暗殺するため、馬車ごと魔獣の巣窟に置き去りにしてきた帰り道だったはずです
彼等にはそこからの記憶がありません
それはそうですよね
何しろユキ様に一瞬で馬車ごと氷漬けにされたそうですから
「とにかく外に出て状況を確認しましょう。」
領主と執事は馬車の外に出ようとします
扉を開けると、馬車は騎士達に包囲されていました
「これは……いったい……」
領主は唖然としました
すると指揮官らしき兵士がやってきました
「領主殿。貴方と貴方の執事には人身売買、並びに王女と副騎士団長殺害の容疑がかかっています。」
領主は怒鳴りました
「ここは私の領地だぞ!勝手な真似は許さん!」
しかし指揮官は冷静に答えました
「これはスミス王直々の取り調べです。」
「わしは知らん!王女とも副騎士団長とも会っておらんぞ!大体御二方は何処にいるのだ?」
既に私とノルディカさんが魔獣の餌食になっている事を疑わない領主は少し平静を取り戻したようです
残念でしたね
では颯爽と登場いたしましょうか
「私ならここにおりますわ。領主さま。」
「ロキシー王女!?なぜ!?なぜお前が生きている!?魔獣に襲われて死んだはずだ!」
「領主さま!いけません!」
思わず白状した領主を執事は止めに入りましたが、ちゃんと聞きましたよ
「残念ながら私もノルディカさんも無事ですよ。なぜ無事か教えて差し上げましょうか。私にはとっても強い味方がおりましてね。彼らが魔獣を倒してくれたのですよ。後ろを御覧になってください。」
私が薄く微笑みながら示した先には、3体の巨大なドラゴンが領主達を睨んでいました
「ド!ドラゴン!?」
思わず腰を抜かす領主と執事
「ご紹介いたしますわ。私の友である深緑竜さま、白氷竜さま、獄炎竜さまです。」
伝説のドラゴン……
王国の北部地方の海、南部地方の火山、西に広がる深緑の森
それぞれを支配していると言われるドラゴンが揃って目の前に
さすがにこの光景には驚くでしょう
「もう終わりだ……」
項垂れる領主
しかし執事は隠し持っていた短剣を抜き私に襲いかかってきました
「死ねーー!」
しかし、その短剣が私に届く事はありません
ノルディカさんのレイピアが正確に短剣を射抜いていますから
短剣は執事の手を離れ飛んでいきました
そしてノルディカさんのレイピアは執事の喉元で止まっています
「私も忘れては困るな。」
獰猛な笑みを浮かべたノルディカさん
そして騎士に指示を出します
「再びの王女殺害未遂だ!この2人を縛り上げろ!」
「はっ!!」
またたく間に縛り上げられた領主と執事
「もはや言い逃れはできまい。お前達が次に目覚めるのは王城だ。ではユキ様お願いします。」
ノルディカさんは人間の姿になったユキ様に頼みました
「分かりました。私の大切な友を害そうとした愚か者。王城まで大人しくしていなさい。『永久の棺』」
領主と執事は、時間の止まった棺の中に収まりました
ノルディカさんはその場にいる皆に指示を出します
「視察の護衛の者はこれからこの2人を連れて王都に向かう。出発の準備に取り掛かってくれ。応援に来た者は引き続き調査をしてくれ。領主が居ない間の業務は申し訳ないが、しばらく領主の代行として文官が対応をしてくれ。」
「はっ!」
騎士と文官達は力強く答えました
領地視察団の馬車は王都に向かって進んでいます
30名の騎士達もドラゴン様も精霊様も一緒です
過剰戦力どころか世界を支配できる戦力ではないでしょうか
タイヨー様が呟きます
「馬車で帰る必要があるのでしょうか……」
「当然です!」
馬車に同乗している私たち女性陣は、間髪入れず答えました
「そもそも領地の視察に来てるのだ。道中の街に立ち寄る事も重要な役目なのだよ。」
そう説明するのはノルディカさん
「王女の表敬訪問を楽しみにしている国民も多いのだ。それにこれだけの人数だ。それが街に滞在するだけでも大きなお金が動くんだよ。予めスケジュールが組まれているので、準備をしている宿にも立ち寄らなければ迷惑だろ。」
これだけの大所帯の訪問は、立ち寄った街の経済を潤します
「馬車の旅がしたいのです。立ち寄る街も見たいのです。」
ユキ様は元々北部の海にいたのですが、旅をしてみたくてタイヨー様と一緒に来たそうです
でも元々は私とノルディカさんの2人が乗ってきた馬車です
6人乗ると確かに狭く感じますね
私達が会話を楽しんでいると、タイヨー様は何か居心地悪そうにしていました
「私との旅はつまらないですか?」
私は思わずタイヨー様に聞いてしまいました
するとタイヨー様は首を振って答えます
「違うんだよ。王女さまとの馬車の旅なら2人が良いなぁ〜って思っていたんだよ。」
その答えに私は顔が熱くなるのを感じました
「私もタイヨー様と2人で旅してみたいです……」
すると女性陣がワイワイキャッキャとふたりを冷やかします
「あらあら、お二人ともお熱いですわね〜」
「早くも新婚気分ですか〜」
「お熱いことですわね〜」
「氷魔法で冷やしましょうか〜」
タイヨー様は頭を抱えます
「このノリが!いたたまれないんです!」
ここは王城謁見の間……
スミス王は視察団が帰ってきたとの報告を受けたので 待っているところです
「ロキシー が結婚…… タイヨー君と結婚……」
スミス 王は呟いております
宰相は、ため息をつくと言いました
「いい加減に諦めてください、スミス王。娘はいつか誰かのものになってしまうのです。」
それよりも……と宰相は話題を切り替えます
「東部の街の領主と執事も連れてきているそうです。何でも再び執事は王女に短剣で襲いかかったそうです。また人身売買の証拠も揃っているようです。領主についても後任者の選定をしなくてはいけません。」
スミス王は現実に戻りました
「東部の街については根本から改革しなくてはならないな。」
私達は、お父様が待つ謁見の間に到着しました
「ロキシー、東部の町の視察から戻りました。」
お父様は笑顔で迎えてくれました
「王女よ、よくぞ戻った。いろいろと大変だったな。」
続けてノルディカさんが説明をします
「捕らえた領主と執事はこちらになります。」
騎士達が氷でできた箱を2つ持ってきます
中には領主と執事が寝かされています
「これは……生きているのか?」
お父様の質問も当然です
まるで氷で出来た棺桶に、2人とも寝かせれているのですから
「これは白氷竜さまの氷魔法でして、この棺の中は時間が止まっているのです。早速なので魔法を解除してもらいましょう。」
ノルディカさんがそう言うと、ユキ様は頷き魔法を解除しました
「ここは……どこだ?」
領主と執事は周囲を見回して、スミス王のところで目は釘付けになりました
「スミス王……」
ふたりは驚いています
お父様と宰相さんも驚いています
ノルディカさんは怒気を強めて言いました
「王の御前だぞ。控えろ。」
領主と執事は慌てて膝をつきました
お父様は心を落ち着かせてから領主と執事に話しました
「領地での所業については報告を受けている。証拠もそろっている。しかも現行犯だ。言い訳の余地も無かろう。追って沙汰を申し付ける。ふたりを牢に入れておけ。」
東部の街に居たはずが、突然スミス王の御前で断罪されるふたり
呆然としたまま騎士に連れて行かれました
「白氷竜さま。お力を貸していただきありがとうございました。」
お父様はユキ様にお礼を言います
続けてユキ様に聞きます
「私共に何かお礼できることはありますでしょうか?」
あ、ユキ様が少し悪そうな笑みを浮かべました
「そうですね。では私からひとつ提案があります。」
そう言うとユキ様が話を続けました
「今回の事件で東部の街の富裕層は、かなり堕落している事が判りました。かと言って罪を犯していた訳ではありません。見て見ぬ振りをしていたのです。その見返りに領主から優遇されていました。このまま領主を変えたところで改善されるとは思えません。」
お父様は話を真剣に聞いています
それを確認し、ユキ様は続けます
「そこで、東部の街から少し離れた場所に農村を作るのです。農地などは私共が作りますのでご安心を。そこにラング財務官を村長に据えて貧民層の住人を受け入れ、彼らを自立させるのです。そうすれば東部の街も人身売買から手を引かざるおえなくなり、真っ当な商いで街を発展させるでしょう。既に富裕層には街を再建する財力はあるはずですから、こちらから支援する必要もないでしょう。」
お父様は頷きました
「なるほど。東部の街を粛清し、貧民層の住人を救済するご提案ですね。で、農地の改革とは……どのように行うのですか?」
「何も心配はいりません。何しろここには創造神と生命神がいるのですよ。あっという間に豊作が約束された広大な農園が完成しますわ。そして2柱の神は自然豊かな村で平和に暮らすのでした。おしまい。チャンチャン。」
「……平和に暮らす2柱の神……とは?」
「もちろんタイヨー様とロキシー様ですわ。」
ユキ様も世界樹さまも、いつも直球で話します
これが強者の風格でしょうか?
お父様の顔がピクピクしてます
「まだ2人の仲を認めた訳ではありません。」
あ、謁見の間の空気が凍りつきました……いや、実際にアチコチ凍り始めてますよ
「……なるほど。スミス王は私達ドラゴン3体と上位精霊2体が祝福するお二人を、祝福できないと申すのか?」
ユキ様は微笑んでいます
なのにとても怖いです
お父様と宰相さまはガタガタ震えが止まりません
「いえ……そういう訳では……」
「簡単なことです。ロキシー王女の命の恩人に、王女が王位継承権を返上して嫁ぐだけの事です。それとも2人で駆け落ちして他国に移り住み、私達もそれに追従して他国に移り住む未来をお望みと?」
ユキ様がとんでもない事を言います
でも駆け落ち……なんて魅惑的な響き……
ゴホンゴホン
冷静になりましょう
何しろお父様は顔面蒼白です
「仰せのままに〜!!」
お父様は首をブンブン振って言いました
すると一気に室内の冷気が消え失せました
ユキ様が微笑んで言いました
「これらを理解していただけた事を、私はお礼として受け取ります。」
ユキ様は美しい笑みを浮かべました
一同が退室した後の謁見の間では……
「これで良かったのだろうか……」
スミス王が呟きます
「王女とタイヨー君、ドラゴン3体、精霊様2体……これらが他国に渡ったら、この国の損失だけの話で終わりません。世界の終焉が訪れるかも……」
宰相は身震いしながら答えました
「そうだな。ロキシーも好いてるようだし、正直なところタイヨー君以上の相手がいない事も事実。命の恩人との結婚と言うのも理由としては申し分ないだろう。ここは素直に喜ぶとしよう。」
スミス王は天を仰いで呟きました
「……しかし……私はとても疲れたぞ。」
「奇遇ですね。私もです。」




