06 密告
夜になって夜会が始まりました
ここでも始まるお見合い交戦
ウンザリしながらも私は王女の態度で笑顔で受け答えしました
そして今回も始まるダンス
順番にダンスをこなしていきます
楽ではないのです
疲れます……けどそこは王女、頑張ります
何人目かとのダンスの時です
私は相手の殿方に小さな紙を渡されました
どうやらメモのようです
「王女さまに人身売買について聞いていただきたいことがあります。後程メモをご確認ください。」
彼は誰にも気が付かれないようにそれだけ言うと、何事もなかったかのようにダンスを踊りきり、静かに去っていきました
私はダンスに一区切りついたところで、誰にも分からないように渡されたメモを確認しました
そこには奴隷売買の拠点としている場所を知っている事と、待ち合わせて案内したい旨が書かれていました
私は再びそのメモをしまいました
お見合い会……もとい夜会が終了し、私は客室に戻りました
もちろん護衛のノルディカさんも一緒です
部屋に入って私はメモをノルディカさんに見せました
「先程のダンスの最中に相手の方から渡されました。」
メモを読んだノルディカさんは思案顔です
「さて、これは密告者からの直訴なのか、はたまた私達の動きを怪しいと感じた者の罠か……」
「どちらにしても行かなければ話が始まりませんわ。」
「王女さまが行く必要はないのでは?危険すぎます。」
「もし密告者ならそれで良し。罠でもノルディカさんが一緒なら大丈夫でしょ。」
私がノルディカさんにそう答えると、ノルディカさんは獰猛な笑みを浮かべて言いました
「そうですね。頼りにしてください。」
深夜になり、私とノルディカさんは暗闇で目立たない服装に着替えました
メモに書いてあった場所に向かうと、やはり目立たない姿で待っている男性を見つけました
あの時ダンス中にメモを渡してきた男性です
男性はこちらに気がつくと、静かに話しかけました
「私のメモを信じてくださり、ありがとうございます。私は領主様の下で財務官をしておりますラングと申します。」
「あの時のメモについて知りたく伺いました。一緒に来たのは護衛のノルディカさんです。」
「私は王国副騎士団長のノルディカだ。メモを拝見したがあれは事実なのか?」
ノルディカさんは魔獣の眼光でラングさんを見ました
ラングさんはノルディカさんの眼光に狼狽えますが、気持ちを奮い立たせて話します
「はい、事実です。私は民を犠牲にして上位階級の方々が利益を得ている今のこの街の状況が許せないのです。今回の視察を絶好の好機と思いお伝えいたしました。」
「こんな事をして、もし領主殿に見つかったら貴方はただではすまないぞ。ましてや私達が領主殿と既に内通しているかもしれないぞ?」
ノルディカさんは語気を強めて言いますが、ラングさんは微笑みながら答えました
「そうなったらそれで仕方がありません。私は覚悟の上でこの場に来ています。」
ノルディカさんはしばらくラングさんの目を見ていましたが、やがて目を離して言いました
「なるほど、貴方の目からは強い覚悟が分かリました。さっそく案内していただこう。」
「わかりました。」
そう言うと、ラングさんは街の裏路地に入っていきました
しばらく進むと古い建物が並んでいました
そのうちの1件の建物を差しラングさんは言いました
「あの建物です。あの建物の地下室に鍵をかけた部屋があり、その中に子供たちが捕らえられています。何人かの見張りが常にいるようです。」
「ラング殿は事情に詳しいようだが何故かな?」
ノルディカさんが疑うように聞きます
「私はひとりではありません。有志で貧民層の住民に炊き出しを行っている仲間がいるのです。私達が何とかまともな食事だけでも提供しようと活動している中、生き抜いてる子供たちを連れ去っていくのです。許せるはずがありません。私と思いを同じにする者が敵地に潜伏し、子供たちの食事などの世話をする者、建物の清掃をする者などに紛れて情報を集めています。そしてその者たちの情報によりますと、今夜捕らえられた子供達が連れて行かれるようなのです。」
私は彼の話を聞いて怒りがこみ上げてきましたが、何とかそれを飲み込むと、
「つらいお気持ち察します。ではここでしばらく様子を伺いましょう。」
と、提案しました
「王女、大丈夫ですか?」
ノルディカさんが私を心配してくれますが、私には事実を確認する義務があります
「大丈夫です。私も見届けます。」
そう言って私は右手の指輪を握り祈ります
「タイヨー様……私を守ってください……」
深緑の森では……
夕食後にジロさんとノンビリ雑談していたタイヨー君は、ロキシー王女の指輪の反応に気が付きました
「どうも王女さまに何かあったみたい。危険な状態ではないけど……何か緊張しているのかな?指輪に無事を願ったようなんだよ。」
タイヨー君が以前プレゼントした指輪にはタイヨー君が祝福したことによって、王女さまに危険が訪れると知らせが届く機能が付いていました
「ちょっと様子を見てくるよ。まだ何かが起きたわけでは無さそうだけど気になるからね。」
「それでは私もご一緒しましょう。」
「私もお願いいたします。」
紅炎とユキが申し出てきました
「え?僕ひとりで大丈夫だよ?」
「いえ。タイヨー様が無事なのはわかりますが、今王女さまがいるその場所が無事で済むかが心配です。」
紅炎がそんな事を言います
「僕はそんなに暴れません!」
タイヨー君は文句を言いますがユキが諭します
「タイヨー様。何も起きなければ問題ないのです。あくまで私達は念のために付いていくだけですよ。」
ユキは微笑みながら言います
タイヨー君は、わかったよ……と言いました
こうしてその場からタイヨー君と2体のドラゴン様は姿を消しました
人身売買の拠点という場所の様子を、私とノルディカさんとラングさんが見ています
しばらくすると、馬車が2台やってきました
そのうちの1台はとても大きな馬車です
建物から大柄な男が出てきました
「お待ちしておりました。」
すると小さめの馬車からも男が出てきました
私はノルディカさんに聞きました
「あれは……どう見ても領主様ですよね?」
「……そのようですね。何というか……まったく隠す気が無いようですが。」
するとラングさんが言いました
「隠す必要など無いのですよ。この街の中心部では誰もが知っていながら見ていない振りをしている日常の光景ですから。」
私は驚きました
「この人身売買を、この街の人は見て見ぬ振りをしているのですか?」
「その通りです。だからこの街の上流階級の方々は潤っているのです。」
ラングさんは残念そうに言いました
「街ぐるみで暗黙の了解とは……中々腐った街だな。」
ノルディカさんが嫌そうな顔で呟きました
しばらくすると、建物の中から子供たちがぞろぞろと出てきて、馬車の中に入れられました
子供たちは皆、不安そうな顔をしています
泣き出した子もいましたが、大柄な男が怒鳴りつけて静かにさせました
それを見ていた領主様が言いました
「おい!大事な商品に怪我などさせるなよ!」
「大事な商品とはどういう事かな?領主殿。」
いつの間にか領主様の後ろにノルディカさんが移動していました
「わ!誰だ!お前は!?」
領主様、驚いて腰を抜かしました
「王国副騎士団長ノルディカだ。ところで先程の返答をよろしいかな?領主殿。」
「それについては私からお答えいたしましょう。」
そう言うと、馬車の中からもうひとり男が出てきました。
「お前は何者だ?」
ノルディカさんが聞くと男は、
「私は領主の執事でございます。我が領主がとても失礼な物言いをして申し訳ありません。子供たちに対して商品などと言ってはいけないと、いつもご注意致しているのですが、中々聞き入れてもらえず苦労しているのです。」
「なるほど。でこのような夜更けに子供たちを何処に連れて行くつもりなのかな?」
「はい。本日、街の外れにある孤児院の方に移動させるつもりだったのですが、視察が長引いてしまったためこの様な時間になってしまいました。」
男は薄い笑みを浮かべて言いました
「……なるほど。ではせっかく来た視察だ。その孤児院とやらも見せてもらってよろしいかな?」
「もちろんです……そちらにいる王女さまもご一緒にいかがですか?」
あの男には私が潜んでいた事もお見通しでした
「気が付いておられましたか。そうですね。では私も視察に伺いましょう。」
私とラングさんが馬車の方に出ていきました
「……なるほど。ラング財務官もご一緒だったのですね。せっかくですから貴方もご同行いただきましょう。いろいろ疑いがあるようなので。」
執事はそう言うと、子供達と私達を大きな馬車に乗せました
どうやら、もう1台の馬車は既に満員のようです
執事が申し訳なさそうな顔をして言いました
「王女さま。大変申し訳ありません。こちらの馬車のほうが広いので子供たちとご一緒に乗ってください。」
そう言って馬車の扉を閉めました
すると馬車はゆっくりと走り出しました
馬車の中はランプで明るくなっています
広い車内は、ぐるっと一周回るように座れるようになっています
王女さまは子供たちに話を聞くことにしました
「ちょっとお話してもいい?」
「な、なに?」
子供は明らかに警戒してます
「あなたは、どこからここに来たのか教えてくれるかな?」
私は出来るだけ怖がらせることが無いように聞きました
「えっと、貧民層の人々が集まるところにいたよ。」
「そこでは誰と暮らしていたの?お父さんやお母さんは?」
「親はいないよ。子供たち同士で暮らしていて、炊き出しに並んだり、大人たちから食べ物を分けてもらったり、一緒に食べ物を取りに行ったりしてたよ。平民層の住む辺りのゴミ箱には、まだ食べれるものが捨ててあったりしたんだ。」
思ったよりひどい暮らしをしていたようです。
「そうなんだね。ところでここにはどうして来たの?」
「オジサンが食べ物をあげると言ったから付いてきたよ。それで食べ物をもらっていたんだ。」
どうやら酷い扱いは受けていないようでした
ただ貧富の差があまりにも大きい事はわかりました
他の子達にも聞きましたが大体同じような答えでした
ノルディカさんが難しい顔をして言います
「これだけ聞くと、あの執事の言っている通りに孤児院に連れて行くのなら問題になる事は無さそうですね。」
ラングさんが悲しそうな顔をして言います
「そうですね。このまま孤児院に連れていけばですけど。」
そしてラングさんは話を続けます
「そもそも、この街に孤児院があるなど私は知りません。この馬車は何処に向かっているのでしょうね。」
私達の乗る馬車は速いスピードで進んでいます
進んでいくうちに街の中心部から外れてきました
富裕層の居住地を抜けると平民層の居住地に入りました
そこは至って普通の住居が立ち並んでいます
さらに進むと突然廃墟のような建物が並ぶ場所に出ました
「ここからが貧民層の居住地です。」
ラングさんが言うその場所は酷い有様でした
人々は生きる気力もなく座り込んだり横になったりしています
既に息をしていない者もいるようです
そして死んでいる者を見ても誰もなんとも思わないようです
皆、既に生きながら死んでいるようでした
「酷い……」
私は絶句してしまいました
ノルディカさんも険しい顔をしています
ラングさんが言いました
「これがこの街の現状です。」
馬車は止まらず進みます
「どこまで行くのでしょうか。」
私は思わず呟きました
「このままだと街を出てしまいますね。」
ラングさんが答えます
ノルディカさんが試しに馬車のドアを開けようとしましたが、鍵をかけられてしまったようです
「閉じ込められたようですね。もっともこの程度の馬車なら破壊してしまえばいいのですが。」
ノルディカさんは事も無げに言います
まぁノルディカさんなら可能でしょうが
馬車は結局そのまま街を出てしまいました
どれほど走ったのでしょうか?
馬車は暗い夜道を走り続けています
すると突然馬車が止まりました
そして馬車を引いていた馬から悲鳴のような鳴き声が聞こえました
やがて窓が外から開き、領主様が覗きました
「王女さま。あなた方とはここでお別れです。知らなくていい事を貴方達は知りすぎました。ここで死んでもらいます。ここは砂漠の街道。しばらくすれば馬の血の匂いを嗅ぎつけて魔獣がやってくるでしょう。貴方たちは証拠も残らず食べられてしまうのです。」
領主様はそう言うと高らかに笑い、もう1台の馬車を走らせるのでした
そして静かになったかと思うと、地響きがして魔獣の鳴き声がしました
ノルディカさんはドアを蹴破って外に飛び出しました
すると外には巨大なサソリの魔獣が牙をガチガチ言わせながらこちらを見ていました
ノルディカさんは迷うこと無く巨大なサソリの魔獣にレイピアを構え立ち向かいました
サソリとノルディカさんの戦闘が始まリました
子供たちは泣いて絶望しています
それはそうでしょう
初めてみるであろう巨大な魔獣に、臆さない者がいるはずがありません
でも私は民を守る王女
強くあることを決めたのですから
「みんな!大丈夫です!あのお姉さんはとんでもなく強いのです。さあ、みんなも勇気を出して!」
私は子供たちを集めて抱きしめ、勇気づけました
その時です
ひとりの少年がそれに気が付きました
「サソリが!サソリが入ってきた!」
見ると壊れた馬車の扉から、手のひら大のサソリが入ってきて、こちらを威嚇しています
私は子供たちを庇うように前に立ち、サソリに立ち向かいました
とは言っても、私には武器も何もありません
なんとかサソリを外に追い出せないかと手足をバタバタさせました
そしてサソリを蹴飛ばしたその時です
「……つっ!痛い!」
どうやらサソリに足を刺されてしまったようです
私はその場に倒れ、意識を手放しました




