04 指輪
今日は王妃主催のお茶会の日です
お茶会と言っても、王家主催のそれは娯楽などではなく立派な公務になります
よって来賓も公爵家や伯爵家の御婦人や御子息御令嬢がいらっしゃいます
私は、もてなす側として来賓の方々をお迎えしました
そして御令嬢の方々とテーブルを囲み、談笑しながら情報交換を行います
ご令嬢の中には既に婚約者がお決まりになっている方もおります
「今日の髪飾りは先日ユーリ様から頂いたものですわ。」
そう言うのはフェノム公爵令嬢
私と同じ年の彼女には既に婚約者様がおり、こうしていただいたプレゼントを持ってきては自慢されます
そのフェノム様が私の右手に注目しました
「あら?ロキシー様の右手に何やら光るものが見えますが?」
タイヨー様にいただいた指輪に気が付かれました
「王女が身に着ける物としては……何というか少々地味ではありますね。」
少し嘲笑しているようです
しかし私にはまったく関係ありません
「この指輪は魔獣の襲撃から私を守ってくれたお方からいただいた、命の恩人からの大切な指輪です。私の一番の宝物です。」
そう言って私は愛おしそうに指輪を撫でました
「それはひょっとして今噂になっていますスワンズで御一緒されてました殿方ですか?」
「はい……そうです。」
途端に私は恥ずかしくなってしまいました
「どちらかの貴族のご子息様ですか?いよいよご婚約ですか?」
何やら話がおかしな方向に盛り上がっています
「いえ、彼は平民ですよ。時々行商のお手伝い等をしていますね。」
途端に皆が落胆しました
「王女が平民からもらった指輪を身につけるというのはいかがなものでしょうか。」
不満気な声が聞こえましたが私は答えます
「確かに平民ですが……平民でしょうか?……ともかく、彼は森の管理者様の弟子であり、北の海の白氷竜さまとウンディーネ様とも懇意にしておられ、私の父もノルディカ副騎士団長様もその実力をお認めになっているすごいお方ですわ。」
それを聞いて震え上がる者、より興味を示す者、皆の顔色は様々でした
「そのお話、私も詳しくお聞きしたいですわ。」
そう言ってきたのは、私の母のブルーモリス王妃でした
テーブルに訪れたブルーモリス王妃に、皆は席を立ち貴族の礼をしました
私も同じように礼をし、王妃が席に着くのを待ってから一同席に着きました
王妃は私の窮地を精霊様の弟子であるタイヨー様に助けられた事は知っています
なので、タイヨー様と街の雑貨店に行った際に私が気に入ったこの指輪をプレゼントしてくれた事、更に後日タイヨー様が白氷竜様、ディーネ様と共に来られた時にノルディカさんも一緒にスワンズでケーキを食べた事を話しました
「まぁ!噂になっているスワンズのお話で出てくる美女は白氷竜さまとウンディーネ様だったのですね。するともう一人の美しい少年と言うのがタイヨー様ですか。残念ですわ……私も是非その場に御一緒させていただきたかったですわ。」
お母様にタイヨー様の事が「美しい少年」と言われた事に、私は自分の事のように嬉しくなりました
そうなのです
タイヨー様はちょっと女性にも見えるような美しい顔立ちをしているのです
何故か目立たないのですが……
こうして皆さまと情報交換を行いつつお茶会は終了しました
参加者の皆様をお送りしたところで、お母様がとんでもない事を言いました
「そう言えば、今タイヨー様がスミス王とお話しているそうですよ。」
私はビックリしてお母様に聞きました
「ええ!?いつからいらっしゃるのですか?まだおられるのですか?いえ!こうしてはおれません!」
私は急ぎ城内に戻りました
その様子を見てブルーモリス王妃は可笑しそうに笑います
「まぁ、ロキシーったら。恋してるようですけどまだまだ子供ね。」
私は城内に駆け込むと、急ぎお父様のいる執務室に向かいました
そして扉を開け放ち、その場にいたノルディカさんに問い掛けました
「ノルディカさん!タイヨー様が来ていたとお母様から聞いたのですが!?」
「ええ。先程まで話を伺っていたところです。」
ノルディカさんはサラッと言いました
「そんな……私もお話したかったのに。」
私は力なく肩を落としました
「王女は大事なお茶会があったではないですか。お茶会は公務ですから抜け出す事はできませんよ。」
「それはそうですが……」
ガッカリしました
なんてタイミングの悪いことでしょう
しかしノルディカさんは話を続けます
「タイヨー君も王女に会えなくて残念そうでしたよ。次に来た時は必ずお連れいたしますから南部地方からの帰りを待ちましょう。」
私はその言葉を聞いて一転嬉しくなりました
タイヨー様も残念がってくれてた……
今はその言葉で満足です
この夜、寝室で広げた日記帳に書くことは決まっています
タイヨー様とすれ違いお会いできず、とても残念だった事です
でもそのタイヨー様も私と会えなくて残念がっていたとノルディカさんが言っていました
これを聞いて私は嬉しくなりました
またお母様もタイヨー様に興味を示されました
残念と喜びを記し、私は日記帳を閉じました
数日後、南部地方の行商からタイヨー様とジロさんが帰ってきました
今度はとってもカッコいい殿方を連れて
あのノルディカさんさえ見惚れています……いや、警戒してる??
それを見てタイヨー様は控室を貸してくれるよう門番に頼んでいました
既に控室はタイヨー様との面会室みたいになってきています
部屋に入るなりタイヨー様が私に話しかけてくれました
「王女さま。すっかり元気になられて良かったです。」
「ええ。こうして元気でいられるのもタイヨー様のお陰です。」
「王女さま。」
「タイヨー様。」
「おほん。そろそろ良いかな?タイヨー君。」
ノルディカさんは無神経です
もう少しタイヨー様と甘い時間を……
ゴホンゴホン
タイヨー様がノルディカさんに向き直りました
「どうしましたか?ノルディカさん。」
「どうしたかではなくてな……まぁよい。新しい顔ぶれを紹介していただけないだろうか。」
タイヨー様は誤魔化したいようですが、実は私も気になっています
どなたなんでしょう?
「……彼は南部で知り合い、護衛をしてもらった紅炎です。」
「はじめまして。紅炎と申します。」
「こちらこそ。私はノルディカ副騎士団長です。で、横におられるのはバートン王国第2王女ロキシー様です。」
「王女閣下、お初にお目にかかります。紅炎です。」
「あ、あの、はじめまして。ロキシーです。」
とてもカッコいい方です
直接目が合うとさすがに照れてしまいますが……でもこの感じ……ユキ様と似ているのですが?
「で、タイヨー君。紅炎殿は何者かな?まさか、ただの人間とは言わせないぞ。」
ノルディカさんが怖い顔で聞きます
「……獄炎竜さまです。」
あーやっぱり
ユキ様と同じ雰囲気な訳ですね
伝説のドラゴン様達は人間の姿になると美男美女のようです
「そんな事より、今回はピンチの時に助けてもらったり、いつもお世話になっているノルディカさんに、僕とジロさんからプレゼントを持ってきました。気に入ってもらえると良いんですけど。」
あ、タイヨー様、強引に話題を切り替えましたね
「これはドワーフの村で偶然手に入れたレイピアです。」
そう言ってタイヨー様がノルディカさんに渡したのはとても美しい剣でした
「こ、これは……とんでもない代物だぞ。」
ノルディカさん、チョロいです
「ちなみに素材は、はるか昔に私と勝負を引き分けた剣士に譲った私の牙だ。」
え!?獄炎竜さまの牙で作られた剣ですか?
さすがに武具に詳しくない私でも、その貴重さぐらいは分かります
ノルディカさん
チョロいなんて思ってごめんなさい
とても喜び、すぐにでも剣を交えてみたいと言うノルディカさんに、紅炎さまは応えてくれました
「では早速試してみましょうか。お相手は私がいたしましょう。その剣の持ち主に相応しい御方か見定めましょうぞ。」
ノルディカさんが凄い笑みを浮かべてます
怖いです
でも王国最強と言われるノルディカさんと、伝説のドラゴン、獄炎竜の紅炎さまの模擬戦は私も絶対に観たいです
その為にノルディカさんは騎士団演習場を貸し切る事にしました
喜びで興奮しているノルディカさんに反論できる人なんて誰一人いません
そして皆は騎士団演習場に移動しました
私もお父様を誘って観に行きます
騎士団演習場はノルディカ副騎士団長の模擬戦とあって、既にたくさんの兵士が見に来ています
「ノルディカと対峙している、あの男性が獄炎竜さまと言うのは本当かね……」
お父様がタイヨー様に確認しています
「大きな声では言えませんが事実です。今は人の姿に変化しています。あ、そろそろ始まりそうですよ。」
タイヨー様がそういった途端、紅炎さまとノルディカさんの姿がフッと消えました
剣の心得がない私には何が起きているのか分かりません
剣の撃ち合う音と土埃がアチラコチラで舞い上がっているので御二人が戦っているようですが全く姿が見えません
そして突然2人の姿が見えた時には、ノルディカさんの剣が紅炎さまの心臓の位置に、紅炎さまの剣がノルディカさんの首の位置に、それぞれあと少しで当たると言うところで止まっていました
やがて2人が構えを解いた時、周囲から大きな喝采が起こりました
「ノルディカ副騎士団長様さすがです!」
「こんな凄い戦いを見たのは初めてです!」
「副騎士団長様と渡り合うあの男は何者だ?!」
スミス王も驚いていました
私も凄い戦いに目を輝かしています
「ノルディカの動きがいつも以上に冴えていた……いや、もはや人外の動きだぞ。紅炎殿もとても人間とは思えない動き……いや、こちらは本物の人外……ん?ん〜?」
混乱してます
お父様、しっかりしてください
お二人ともすごい人なんです!
あ……人ではない……?
私も混乱してきました
演習場では、戦い終えた2人が握手をしています
「紅炎殿。こんなに素晴らしい戦いは生まれて初めてです。ありがとうございました。是非またご教授願います。」
「こちらこそ楽しかったぞ。こんな素晴らしい戦いはいつぶりだろう。是非またお手合わせ願いますぞ。」
ノルディカさんが見たことない顔をしています
あれは照れてますね
今度冷やかしてあげましょう
いつもの仕返しです
後で忘れないように日記に記しておきましょう
その夜、私は私室にて日記帳を開きました
ノルディカさんの戦いや照れていた姿などを思い出し、笑いながら記しました
そしてふと思います
とても素敵な紅炎様の事を
え?違いますよ?私はタイヨー様ひと筋……
ゴホンゴホン
紅炎さまにしても、ユキ様にしても、ライア様やディーネ様だってタイヨー様の周りには強く美しい人ばかり
少し落ち込みますが負けません!
私も私にできる事で強くなると決めたのですから!
決意を新たに私は日記帳を閉じました
この時の私は、まだ自分がこの強者と同等以上の存在になるとは全く思っていませんでした……




