03 恋心
馬車の襲撃からしばらく経った頃
私は精神的なダメージから回復し元気を取り戻しました
時々タイヨー様の事を思い出してボーッとしてしまう事もありますが、そのタイヨー様の存在も私の回復を早めた大きな要因ではないでしょうか
きっとそうに違いありません!
朝食を終えた頃、ノルディカさんが私のもとにやってきました
「タイヨー君が王都に来ており今から会いに行くのですが、王女も一緒に行きますか?」
それを聞いて私は浮かれた気分になってしまいましたが平静を装い、
「はい。ぜひご一緒させてください。」
と答えました
ノルディカさんはその様子を見て微笑んでいましたが気にしません
馬車を出してもらい王都の入り口まで行きました
私は、はやる気持ちを抑えてタイヨー様がいると言う門兵さんの控え室に向かいます
控え室のドアを開けると、驚いた顔をしたタイヨー様がいました
「タイヨー様!お久しぶりです!」
嬉しさのあまり声が大きくなってしまいました
恥ずかしい……
でも会えたことが、とても嬉しかったのですから仕方がないのです
「これはロキシー王女。お久しぶり……というほどでもないですよ。」
とタイヨー様は笑いながら言いました
私はますます恥ずかしくなりました
「そ、それもそうでした。ところで今日はどうなされたのです?」
「いや、それは僕のセリフですよ。王女さまこそ門兵さんの控え室にどうされたのですか?」
すっかり浮足立ってアタフタしてしまいました
いつもの私はもっと落ち着いているのです!
「それはタイヨー君に会いたくてしょうがなかったからだよ。」
私の後から部屋に入ってきたノルディカさんがとんでもない事を言います
「そ!それは!違います!……いや違いませんけど……」
私は顔をうつむいてしまいました
きっと真っ赤な顔をしていることでしょう
……恥ずかしいです
するとタイヨー様はニコニコしながら言いました
「それはうれしいです。僕もお会いしたかったから。とても元気な姿を見ることができてよかったです。」
それを聞いて私はパッと顔をあげて答えました
「私もうれしいです!すかっり元気になりました。」
私は満面の笑みを浮かべていたことでしょう
「あーー、角砂糖を口に詰め込まれたような甘々なところ申し訳ないが、そろそろいいかな?」
ノルディカさんがニヤニヤしながら話に割り込んだきました
ジロさんもにやけています
恥ずかしいです……でも、もういいです!
「行商の品を仕入れに来たと言うのでな、どこに向かうのか聞いておきたくてな。」
ノルディカさんが、そうタイヨー様に聞きました
タイヨー様とジロ様は行商のお仕事で王都に来たようです
「え?行商先って皆さん確認を取っているのですか?」
タイヨー様がノルディカさんに聞きました
「そんな訳なかろう。無自覚な最強戦力が移動するのだ。どこに行くのか確認したいだけだ。」
「ノルディカさんがひどい!」
笑いながら失礼なことを言うノルディカさんにタイヨー様が言い返しています
私はそのやり取りが面白くてクスクスと笑ってしまいました
「失礼失礼。まあ何処に行くのかを知りたかったのは事実だよ。」
ノルディカさんの問いには、ジロさんが答えました
「今回は北部まで行くつもりです。タイヨー君の希望は、世界のいろいろな物を観察することですからね。」
それを聞いて、タイヨー様が精霊様に見聞を広げるよう言われて旅に同行していると言う話を思い出しました
そのおかげで私の命は救われたのですから
北部と聞いて、なるほど……とノルディカさんが言いました
「では、私が知っている北部の現状を伝えよう。」
ノルディカさんは北部の情報をタイヨー様に伝えるようです
実は今、北部の街では漁場を巡って人間の漁師とセイレーン達で対立しているらしく王城に陳情が届いているのです。
まだそれ程問題は大きくなっていないのですが、この争いにウンディーネ様が関わってくるとなると話は変わります
ましてやタイヨー様の話ですと白氷竜さまも実在するそうです
もしも白氷竜さまが北部の街を襲う事態になったら、どれほどの被害になるのでしょうか
私は身震いしてしまいました
ノルディカさんから北部の話を聞いたタイヨー様は、
「わかりました。何か気が付いたことがあったら報告しますね。」
と言いました
とても危険なことではないのでしょうか?
私のそんな気も知らずノルディカさんは、
「そうか!そうか!引き受けてくれるか!さすがは精霊様の弟子だな!」
などと上機嫌で言うのです
「本当に大丈夫ですか?とても危険ではないでしょうか……私は心配です。」
私はタイヨー様の事が心配になりました
「うーん……まぁ大丈夫です。こう見えてもいろいろな魔法が使えますからね。危なそうだったらすぐ逃げてきます。」
そう言ってタイヨー様は笑うのでした
そのあと商店街で行商の品を買いに行くというので、少しでもタイヨー様と一緒にいたいと思う私は、お買い物についていくことにしました
王女として街の様子を見る責務が……などと言ってはみましたが、王女にそういう義務はありません
ノルディカさんもニヤニヤしながら私の護衛として付いてきてくれました
「どのような物を北部に売りに行くのか気になってな。興味本位だ。」
とタイヨー様にそれっぽい理由を告げて
タイヨー様はダルベロさんと言う方の雑貨屋さんに用事があっていくそうです
雑貨屋さんの店舗がジロさんの所有物で、なんでも家賃を受け取りに行くとか
私もお店に入ってみました
私とノルディカさんがお店に入ったら、店主さんが驚いて飛び上がっていました
ちょっと可笑しかったです
店内にはいろいろな物が売っています
私はかわいらしいアクセサリが陳列されている場所を見つけました
王女とは言っても、こういった可愛いものは私も好きです
私はその中にある一つの指輪に見とれました
シンプルですが、とてもかわいらしい指輪
しばらくその指輪を見ていると
「何か気になるものでもありました?」
とタイヨー様が言ってきました
私は思わず、
「素敵な品がいろいろ置いてありますね。」
と言ってごまかしました
しかしタイヨー様は私の事をよく見ていたようです
「その指輪が気になりましたか?もし迷惑でなければ僕にプレゼントさせてもらえませんか?せっかくこうして知り合えたので何か贈り物をさせてほしいのです。」
それを聞いて私は顔が真っ赤になっているのを感じました
恥ずかしかったけど、とても嬉しかったのです
「とても嬉しいです。」
私は素直にそう言いました
タイヨー様は指輪を取ると小さな声で呟きました
「どうか王女さまに『守護』を与え守ってください。」
すると指輪は薄く金色に光り、すぐに元に戻りました
私はとても驚き、小さい声で神さまに聞きました
「タイヨー様、今のは?」
タイヨー様は周囲を見回して、他に誰も気が付いていないことを確認してから言いました
「指輪にお願いをしたんだよ。この前みたいな危険が再び王女さまに訪れてもどうか守ってください……ってね。僕は精霊様の弟子だからね、きっと効果があるよ。」
私はあっけにとられて、これくださーい!と言って店主さんのところに行ったタイヨー様を見てました
ニコニコしながら戻ってきたタイヨー様は、周りの皆がニヤニヤしながら見ている中、真っ赤な顔をしている私に指輪をプレゼントしてくれました
いただいた指輪はすぐに右手にはめました
これは絶対に外しません!
タイヨー様と別れ王城に戻った私は夕食後、寝室でいつまでも指輪を眺めていました
そして日記帳を開きました
タイヨー様とお会いできた事
タイヨー様とお買い物をした事
タイヨー様からいただいた初めてのプレゼントの事
そして不穏な話を聞く北部地方から無事に帰ってきてほしいというお願い
それらを書き記し、再び指輪を触りながら私は眠りにつきました
数日後……
タイヨー様が北部から戻ってきたという知らせを受けました
それを聞いた私は、いてもたってもいられずノルディカさんと王都の門に向かいました
はやる心を抑えつつタイヨー様のもとに向かった私は愕然としました
タイヨー様は、2人のとても美しい方を連れていたのです
特にタイヨー様の側で優しく微笑みながら話しかけている女性は、この世のものとは思えない、見たこともないような美女で、同じ女性の私も見惚れてしまう程でした
絶世の美女とは彼女の事を言うのでしょう
私は自分よりも遥かに美しい女性がタイヨー様の側にいる事にショックを受け、落ち込んでしまいました
でも一緒にいたノルディカさんは、私とは全く別の感情を彼女たちに向けておりました
ノルディカさんは彼女たちを激しく警戒しているようです
と、もう一人の美しい方が何かを言おうとしたところで、その女性は慌てたタイヨー様に手で口を塞がれてしまいました
この様子にも私はショックを受けてしまいました……
私達は門兵さんの控え室に入り、彼女たちを紹介していただきました
驚きました
彼女たちは白氷竜さまとウンディーネ様だと言うではありませんか!
じつは北部の海で起きていた漁師とセイレーン達のトラブルをタイヨー様が解決して北部の海に平穏が戻ったので、せっかくなので一緒に旅に同行して地上の世界を見物したいという白氷竜さまのお願いだそうです
北の海を支配するドラゴン、白氷竜さま
北の海を管理する精霊、ウンディーネ様
その脅威度は深緑の森の深緑竜さまと肩を並べる伝説のドラゴン
存在すら確認されていない全てを凍らすと言われる白氷竜さまを前にして、私は恐怖よりも憧れを抱きました
強く……とても強く、そして誰よりも美しい白氷竜さま
とても憧れるのと同時に、自分ではどうしても勝てない魅力的な女性だということを思い知らされました
私はますます落ち込んでしまいました
そして彼女に聞かずにはいられませんでした
「白氷竜さま。お伺いしてもよろしいでしょうか。あの……白氷竜さまとタイヨー様とはその……どういったご関係で……」
私はここまで言うので精一杯でした
あとは下を見てうつむいてしまいました
すると白氷竜さまは微笑みながら私に近付いて耳元で囁きました
「王女さま。私はタイヨー様を敬愛していますが、それは恋愛感情とかではありません。貴方のような可愛らしいお嬢様がタイヨー様のお近くにいられるのはとても嬉しく思います。これからもタイヨー様と仲良くしてくださいね。」
私は瞬時に嬉しさが込み上げてきて思わず飛び上がりそうになったのを抑えて白氷竜さまに、
「はい!」
とお返事しました
その後、白氷竜のユキ様とウンディーネのディーネ様の希望で喫茶店のスワンズに入りました
もちろんタイヨー様も一緒です
なんでもここはケーキが美味しいそうで、ノルディカさんのお気に入りのお店だそうです
ノルディカさんは、意外と乙女な一面を持ち合わせているのです
ノルディカさんが予約してくれたおかげで、貸切の店内はとても落ち着いていて素敵な空間でした
ユキ様とディーネ様は初めてケーキを食べるということだったので、5人で同じイチゴのショートケーキと紅茶を注文しました
ケーキを待つ間、私はユキ様とお話しました
ユキ様はタイヨー様についてお話してくれました
もちろんタイヨー様には聞こえないようにヒソヒソと
「タイヨー様は深緑の森でほとんど人と接触することなく過ごしていたそうです。ですから今のようにいろいろな人とお話するようになったのはごく最近の事なのですよ。ましてや同じ年頃の女性のお知り合いは王女さまだけではないでしょうか?」
「え?そうなのですか?」
私は意外に感じました
だってタイヨー様はどなたとも親しく話されていますから
「そうなのですよ。」
と言ってユキ様は微笑みます
微笑む姿もとても美しいです
「ですからタイヨー様は人々を大切に思う事はあっても、恋することは全く知らないようです。しかし貴方はタイヨー様にいろいろな表情を見せてあげたそうですね。自分を責める苦しげな姿、無事であったことを心底喜ぶ姿、謝罪する姿、そしてお会いして喜び微笑む姿……それらの全てがタイヨー様にとって初めて見る表情で、いろいろな表情を見せる貴方をとても愛おしく思っているのです。」
私は顔が真っ赤になるのを感じました
「なので貴方にはこれからもタイヨー様の側にいてほしいのです。しかしこれは簡単なことではありません。」
私はユキ様の目を見ました
ユキ様も私の目を見つめて話します
「タイヨー様は私とディーネが崇める特別な存在です。その側に立つことは大変な困難が待ち受けています。そのご覚悟が必要なのです。」
私の答えは決まっています
「タイヨー様に救われたこの命です。私の決意は変わりません。」
ユキ様はとても優しい表情で私を見つめ言いました
「貴方の事はこの私、白氷竜のユキが応援いたしますわ。」
「ありがとうございます。とても嬉しいです。」
私も笑顔でお答えいたしました
夕食後、寝室に戻った私は日記帳を開きました
そして今日の出来事を記します
タイヨー様が北部より無事に戻って心から安心した事
でもタイヨー様がお二人の美女を連れており、悲しい気持ちになった事
特にユキ様にはそのあまりの美しさに絶望を感じましたが、ユキ様が白氷竜さまと知って驚いた事
そして、そのユキ様がタイヨー様に好意を寄せてる私のことを応援してくれるといった事
どんな困難が待ち受けていても私はタイヨー様の隣に立つ覚悟を決めた事
日記を記し終えた私はページを戻し、タイヨー様と出会った時のページを開きました
「涙で紙がヨレヨレになっていますわ。字もこんなに滲んでしまって……」
少し笑ってしまいました
しかしそこには絶対に忘れてはいけないことが書かれています
あの時の絶望
あの時の後悔
あの時確かに救われた私の心
そして私は新たに決意します
私はこの命ある限りタイヨー様の側にいます
側に立てる存在になってみせます
私は思いを強くし日記帳を閉じたのでした




