02 光明
スミス王への説明と王女の寝室に行っていたために、ノルディカは城外に夕食を食べに行く時間が無くなってしまいました
なので普段はあまり利用していない王城の食堂に向かう事にしました
どうにもノルディカが王城の食堂に行くと他の兵士が委縮してしまうので、普段は外食にしているのです
今は仕方ないので食堂に入り、食事を受け取って空いている席に着きました
すると業務を終えた兵士の話声が聞こえてきました
「ん?あいつは確か王女が帰ってきたときに門兵をしていた者だな。」
そう思っていると、気になる……いや、かなり気になる会話が聞こえてきました
「いや、凄かったんだって!馬車いっぱいに巨大な狼の魔獣が山積みだぞ。しかも氷魔法で氷漬けにして。魔獣にもびっくりだけど、それだけの氷魔法が使えるなら魔法師団でもやっていけるだろうにねぇー」
「……おまえ……その話、詳しく聞かせてもらえるか?」
ノルディカは、はやる気持ちを抑えて兵士に尋ねました
猛獣の眼光をしたノルディカの前に、若い兵士は一瞬固まってしまいましたが向き直り姿勢を正しました
「食事中に邪魔をしてすまないな。先程話していたことについて詳しく教えてくれないか。」
ノルディカの質問に兵士は緊張しながら答えます
「は!じつは王女が帰還した後、しばらくして若い男性と少年の行商人が入ってきまして。それが巨大な狼の魔獣を凍らせた状態で大量に運び込んできたのです。なんでも王都に向かっている途中で襲われたので倒したそうで。せっかくだから王都まで持っていって売るつもりで運んできたと言っていました。」
ノルディカは鼓動が速くなるのを感じました
「その者たちは名乗ってはいなかったか?」
兵士は言いました
「少年は金の身分証を持っていました。プレートにはタイヨーと書いてありました。」
金の身分証……
王家から直々に渡される特別な身分証
それに刻まれたタイヨーの文字
その返答に、こみ上げる思いを押し殺しながら、ノルディカは食堂中に聞こえるように指令を出しました
「全員聞け!今から緊急重要案件の指令を出す!王都にタイヨーという少年が来ているはずだ!見た目は少女にも見える中性的な少年だ!彼は本日帰還した王女の窮地を救った可能性がある。是非見つけ出してほしい!」
このようなノルディカ副騎士団長の行動は誰も見たことが無く驚きました
そして指令は続きます
「ただ彼はとんでもなく強い。絶対に敵対するな!丁重に……必ず丁重に対応してくれ!彼を見つけたら即、私に報告しろ!私はここで待機している!とにかく情報が欲しい!よろしく頼む!」
「「「はっ!」」」
前例のない突然のノルディカの指令でしたが、そこにいた兵士全員が力強く答えました
ノルディカは、かつてない興奮にジッとしていることが出来ませんでした
やってくれた!タイヨー君が!
森の管理者である精霊様の弟子!私の攻撃が通用しない少年!
早く会いたい!早く確認したい!
そして王女の命の恩人が、ぜひ彼であってほしい!
しばらくすると、該当する行商人らしき人物が店で食事をしているという報告が入りました
ノルディカは、はやる気持ちを抑え、きわめて冷静を装いその店に向かいました
食事中のタイヨー君とジロさん
2人は今日の出来事を話していました
「あの大きな馬車の人達は無事逃げられたのかな?」
「どうだろうねぇ。見た感じでは馬車の中までは被害を受けてはいなそうだったけどね。」
2人は今日の出来事を話しながら食事をしていると、何やら店の入り口の方が騒がしくなりました
そちらを見ると何やら見覚えのある人が……
ノルディカはタイヨー君を見つけた途端、凶暴な猛獣が獲物を見つけたような鋭い眼光と笑みを浮かべました
そしてその猛獣はタイヨー君のところに向かって一直線
他のお客さんがササーッと道を開けます
「やぁタイヨー君、こんなところで偶然だな。」
「いやいや、とても偶然とは思えない登場ですよ?いったいどうしたのですか?今日は誰とも揉め事は起こしていませんよ?」
タイヨー君は以前、ちょっとした行き違いから王都の衛兵部隊を戦闘不能状態にしてしまい、その場をノルディカさんに仲裁してもらったことがあったのです
「心配無用だ。せっかくの偶然の再開だからな、ちょっと話がしたいだけだよ。でもそうだな、少し店を騒がしくしてしまったな。店を変えようか。ジロさんも是非ついてきてください。」
ノルディカはそう言って用意した馬車に2人を乗せ、店を出ました
店を変えようか……と言いながら、何故かノルディカと2人を乗せた馬車は王城へと入っていきました
ロキシー王女は寝室で目を覚ましました
目を覚ましたからと言って起きた事実は夢ではありません
再び襲いかかる罪悪感に私は涙を零します
私は今感じているこの気持ちを、これからも背負い続けなければいけないと思いました
決して忘れてしまわないよう日記に記しておきます
侍女に日記帳と筆記用具を取ってもらいページを開きます
私は思い出します
視察の帰り道で魔獣に襲われた事
護衛の騎士達が戦うも、魔獣の爪と牙は馬車を傷付けていった事
そこに現れた自分と同じ年頃の男の子を囮にして逃げ出した事……
ありのままを記していきます
日記帳にポタポタと涙を落としながら
やがて日記が書き終わると、私は嗚咽を漏らし再び泣き崩れました
その時、部屋のドアがノックされ父のスミス王が現れました
お父様は部屋に入ると私の側に寄りました
泣き崩れている娘を優しく抱きしめる父
「つらい思いをさせてしまったな。しかしロキシーに会ってもらいたい人がいる。すまないが少しだけ時間をくれないか。」
そう言って私を静かに抱き起こし優しく支えながら、2人は会議室へと向かいました
違う店……と言われながら王城の会議室に到着したちょっと不機嫌なタイヨー君と、それを見て苦笑いのジロさん
「まぁそう不貞腐れないでくれ。じつはタイヨー君に一度会ってもらいたい人がいるのだ。人助けだと思って少し付き合ってくれ。」
そう言ってノルディカはタイヨー君に笑いかけます
しばらくして会議室のドアがノックされました
ドアが開かれ一同はそちらに目を向けます
そこに立つのはスミス王とロキシー王女
王女の顔は泣き疲れた様子でした
スミス王に抱きかかえるように、なんとか立ててる状態です
その光景にさすがのタイヨー君も理由がわからず動揺しました
スミス王は、
「客人、待たせてすまなかった。」
と言って会議室に入るなり、タイヨー君を見て驚きました
「君はタイヨー君。そしてジロ殿ではないか。ノルディカよ、まさか彼達が?」
「はい。おそらくは。王女に確認していただかないと確かなことは言えませんが、彼等ならすべてに合点がいきますし、何より王女が救われるかと。」
ノルディカはそう言うと、今にも倒れそうな王女のところに行き、日頃の彼女からは想像できない程の優しい声で話しかけました
「ロキシー王女。貴方を助けてくれたのは、この方々ではないですか?」
ノルディカに言われた王女は疲れ切った顔をあげ、力も光も消えた目をタイヨー君に向けました
ロキシー王女は泣き腫らして赤くなった目を大きく見広げました
そしてその目には少しずつ光が戻り、瞬く間に涙が溢れ出しました
「……あなたは……あなたですね……無事だった……私はあなたに謝罪を……よかった……ごめんなさい……本当に……」
ロキシー王女はそこまで言うと、意識を失ってしまいました
ノルディカは慌ててロキシー王女を抱きかかえます
そしてタイヨー君に深く御礼を言いました
「ありがとう。君が……本当に君がその場にいてくれて良かった。君が助けてくれた馬車にはこのロキシー王女が乗っていたのだ。」
タイヨー君とジロさんは驚きました
「え!?あの魔獣達に襲われていた馬車は王女さまの馬車だったんですか!?」
そしてタイヨー君は安堵し言いました
「僕が通りかかったのは本当に偶然でした。ですが王女さまを助けることが出来て本当に良かったです。」
するとスミス王がタイヨー君の手を握り頭を下げました
「タイヨー君……本当にありがとう。君は娘の命の恩人だ。この恩は決して忘れないぞ。」
その表情はまさに父親のものでした
ノルディカはタイヨー君に頼みました
「タイヨー君。王女は君たちを囮にして逃げ出した事をとても悔やんでいるのだ。そして君たちを見殺しにして生き延びたと思い憔悴しきっているのだ。申し訳ないが、もう少し王城に留まっていてはくれないか?ぜひ君の声で無事なことを伝えて元気づけてあげてほしい。」
「僕などでお役に立てるのなら喜んでお手伝いいたします。」
タイヨー君は微笑みながらそう言ってくれました
ロキシー王女の寝室で……
どれほど時間が経ったでしょうか……
私は寝室で目を覚ましました
「私は……そう……ですね……夢を見ていたのですね……何という都合のよい夢を……」
私は自嘲気味に笑うと、ふと声が聞こえました
「お目覚めになられましたか?王女さま。」
とても心地のよい少年にも少女にも聞こえる優しい声
そこにはあの時見た、たくさんの狼の魔獣に睨まれていた男の子が笑顔でこちらを見ていました
私が囮にして見捨てた男の子……
生きていました
確かに生きています
私は再び涙を流し嗚咽しながら彼に謝りました
「ごめんなさい!本当にごめんなさい!私は貴方を囮にして逃げ出しました!」
飛び上がりそうな勢いで謝罪をする私をノルディカさんは優しく抱きかかえました
「王女、落ち着いてください。見ての通り彼は元気ですよ。謝罪をするのなら落ち着いてからするべきですよ。」
私は少し落ち着き、再び布団に横に寝かされました
「私は寝ているわけには……」
私がそう言おうとすると、彼も楽にしてくださいと言いました
「王女さま。落ち着いてください。僕は元気ですし怪我もしていませんよ。それに魔獣の敵意が僕に向くように仕向けたのは僕自身ですから。無事に馬車が逃げることができた事を知って僕も安堵しています。本当に無事で良かったです、王女さま。」
とニコニコしながら少年とも少女とも聞き取れる声で優しく言いました
私は顔が熱くなるのを感じます
ノルディカさんが教えてくれました
「王女は視察に行ってましたからご存じないのも当然ですね。王女が魔獣に襲われていた場所に少年が現れてくれたのはこの上ない幸運でした。彼は森の管理者であられる精霊様の護衛で弟子をしているタイヨー君です。かなり強いですよ。」
そう言ってノルディカさんは、タイヨー様と言う彼にちょっと怖い笑顔を向けました
そんな凄い方が偶然通りかかったというのは本当に私は運が良かったのでしょう。
……通りかかった?
「失礼ですがタイヨー様は、なぜ街道に馬車でおられたのですか?精霊様の護衛でお弟子様との事ですが。」
その事ですか……といいタイヨー様は説明してくれました
「僕は、普段は精霊様の近くで勉強しているのですが、精霊様の勧めもあって、時々行商人の方に同行して人間社会の勉強をしているのです。僕はずっと森で生活しているので精霊様が言うんですよ。常識知らずとか無知だとか。いくら師匠だからってひどいですよねー」
「ウフフ。そうですわね。ひどいですね。」
私は自然と笑いました
「そして怒るときは目を三角にして怒るんですよ。とっても怖いんです。」
震える振りをしておどけて言うタイヨー様に、私はさらに笑ってしまいました
ノルディカさんが私を見て驚いています
私自身も驚いています
こんな風に年相応の笑い方をしたのは何時振りでしょうか……
気付いた頃には私は王族である事を自覚していました
王族の一員であることを常に自分に言い聞かせてきました
たった今、ほんの少し会話を交わしただけです
私は何処かに置き忘れてきた時間を取り戻した気分になりました
だからでしょうか
タイヨー様は、私が少し元気になった事を確認して安心すると、そろそろ退室する旨をノルディカさんに伝えました
その瞬間思わず私は言ってしまいました
「タイヨー様、またお会い出来ますでしょうか?」
再会を願う言葉が口から出てしまいました
「王城ですからね、なかなか僕から会いに来るのは難しいでしょうが、きっとお会いできる機会もあるでしょう。その時は元気な姿でもっとたくさんお話しましょう。」
優しいタイヨー様の言葉に胸が熱くなるのがわかりました
そして退室するタイヨー様にノルディカさんが、
「タイヨー君は金の身分証があるだろ。あれがあればかなり自由に王城に入れるぞ。」
「え?そうなの?初めて聞いたよ?」
と話しているのが聞こえました
静かになった寝室で、私は上体を起こし枕元に置いてあった日記帳を広げました
私は今の気持ちを記していきます
私が囮にしたタイヨー様が無事でいてくれたこと
無事に生きていてくれた事への喜び
しかしそれでも残る罪悪感……
日記に記しているうちに、とても複雑な感情が私の心の中に渦巻いていました
そして再び日記帳に涙を落とします
心に渦巻く複雑な感情
しかしその中から徐々に浮き上がる感情がありました
私はその自分に芽生えた感情と向き合います
「これはタイヨー様への憧れでしょうか。」
目をつむり私はゆっくりと首を振ります
「いえ……違いますね。私は彼が……タイヨー様の事が好きになってしまったようです。」
そして再び日記に記します
私はもっと強くならなくてはいけない
タイヨー様の横に立つのに相応しい相手にならなくてはならないと




