10 隕石
私達が村を作ってから半年ほど月日が経ちました
最初は少人数の移住者で始まった農村も、ラング村長の行う貧民層の住人から移住者を募る活動によって人口は更に増えました
反して東部の街からは貧民層の住人が徐々に減っていきました
東部の街では変化が出てきました
王都から新しい領主と文官が送り込まれ、領地運営を根本的に改革されたのです
いや、改革というよりは、正常になったと言うのが正しいでしょう
今まで人身売買を見て見ぬ振りをする代わりに、税制面で破格の融通を受けていた富裕層の住人は、王国の本来の税を納めることになりました
結果、甘い汁を吸っていた商会は前領主の威光も無くなって衰退していき、以前から真っ当な取引きを行っていたが為に前領主から圧力を受けていた商会は、売り上げを伸ばしていきました
住人の減った貧民層の住処も、徐々に再建されていき、新しい建物が増えていきました
健全な商会は売り上げを伸ばし、街も新しくなってきた事で住民も増えていき、富裕層だけが贅沢をしている街から、街全体が活気に満ちた場所へと変化していきました
そしてラング村長の森の村も、人口が増えたことで作物の収穫量が増えていきました
そもそもライア様の祝福を受けた畑です
最初から豊作が約束されているのですから
また、私が生み出した森の恵も順調に成果を上げています
多種の果実が採取され動物達も増えてきた事から、狩りも行われ始めました
さすがは世界樹さまの力です
森の生命力が強いのです
森の生命力は村の住民にも影響し、皆が病気もせず元気に過ごしています
老人まで若返ったように元気です
こうして収穫された森の村の収穫物は、東部の街にも流通し始め、お互いが協力し合う関係にまでなりました
私達は森の村の木の家で、お茶を飲みながら話していました
「ここまで東部の街と森の村が良くなるとは思わなかったよ。」
「そもそも最初が酷すぎたのです。極端な貧富の差に人身売買など、前の領主の自分勝手な領地運営のせいで厳しい暮らしをしていた者が、やっと普通の生活が出来るようになったところです。彼等にはこれからもっと幸せになってほしいですね。」
「そうだね……ん?」
突然、タイヨー君が席を立ち外に出ていきました
私は疑問に思いながらもタイヨー君に付いていきました
外に出たタイヨー君は、空を見上げて険しい顔をしています
「タイヨー君、どうかしましたか?」
私は、普段見ることのないタイヨー君の表情に、不安を感じて聞きました
「うん……なんで今まで気が付かなかったのだろう……ちょっと大変な事になっているかもしれない。」
タイヨー君は少し考えた後で言いました
「皆に話さなくちゃならない事ができたよ。急いで深緑の森の拠点に戻ろう。」
「わかりましたわ。ライア様の指導によって私も木の扉が使えるようになったので、馬車も連れて行きましょう。」
私達はラング村長に用事ができたのでしばらく深緑の森に行ってくることを伝え、木の扉の瞬間移動で急ぎ拠点に向かいました
拠点に戻るとタイヨー君は、皆を世界樹の家に集めました
普段見ないタイヨー君の真剣な面持ちに、皆は、ただ事ではないことを察しました
タイヨー君が口を開きます
「実は僕の知らないうちに、この青い惑星に隕石が向かってきているらしい。」
ドラゴン様達は驚いていましたが、他はいまいち話にピンときていないようです
隕石……
世界樹さまの知識で私は知っています
空高く、この世界の外から落ちてくる異物……
ディーネ様が質問しました
「その隕石と言うものは何ですの?」
それに対してはユキ様が答えます
「隕石というのは宇宙から飛来してくる石のようなものです。流れ星とか流星とか呼ばれていますね。ただ石といってもいろいろあるのですが……大きさはどれぐらいでしょうか?」
「それが実際のところ、わからないんだよ。そこでちょっと様子を見に行ってくるよ。」
「は?」
いつもは落ち着いているユキ様が、間の抜けた声を発しました
「僕は元々は太陽から来ているからね。ちょっと見てくるだけだから、すぐに帰ってくるよ。それからどうするか相談しよう。」
それを聞いて私は心配になりました
「本当に大丈夫ですか?」
「今回は見てくるだけだからね。小さくて大したことがなければ、その場で壊してくるよ。」
そう言うと、タイヨー君の姿は消えました
どうか無事に帰ってきてくださいね
しばらく待つとタイヨー君が瞬間移動で戻ってきました
私は近寄り無事を確認します
「タイヨー君、大丈夫ですか!?」
「うん。僕は大丈夫だよ。それよりも……」
タイヨー君の真剣な表情に、皆にも緊張が走ります
「状況はあまり良くありません。まず隕石だけど、かなり巨大な球状をしていて、直径は10数キロくらいかな。それが、この青い惑星にまっすぐ向かってきています。そして明日にはこの青い惑星に到達してしまうでしょう。もし何もせず地上に衝突したら、この世界の生物は全て絶滅するでしょうね。」
隕石を見てきたタイヨー君の話は衝撃的でした
何もしなければあと1日で生物は全て絶滅してしまう
「重力操作で何とか出来るか……とも考えたけど、すでに青い惑星に近づきすぎているうえに、質量とスピードが大きすぎてね。せいぜい隕石の軌道を僅かに反らせる位しか出来ないかな。軌道を反らせて直撃を免れても、あの巨大な隕石がものすごいスピードで青い惑星の近くを通ったら、地上に大災害を起こしそうなんだよね。」
「何とか……ならないのですか?」
重い空気の中、私はタイヨー君に聞きました
「他にも方法はある事はあるんだけど……」
タイヨー君は言葉を濁します
私はその方法を聞きました
「隕石を僕の『太陽フレア』で狙い撃てば良いんだけど……問題は出力ですね。」
タイヨー君は説明しました
「太陽フレアを全力で放てば、その程度の隕石なら蒸発するでしょう。ただし、この青い惑星も隕石が墜落する前に、海は蒸発し世界は全て燃え尽きちゃいます。」
皆の顔が青ざめました
「そこで出力を抑えて狙い撃つんだけど、地上も少なからず熱の影響は受けるでしょう。そして砕けた隕石の欠片も振ってきます。出来るだけ細かくすれば、大半は大気との摩擦で消失するかと思うけど……」
するとユキ様が言いました
「熱については、私の全力の氷魔法で結界を作り防ぎます。小さな破片からも守れるでしょう。」
「私達は結界を抜けてくる破片を攻撃しながら、援護いたしますわ。」
ディーネ様とライア様が言いました
「では私と紅炎殿は、結界の外側で落下してくる大きな隕石を攻撃して砕き、消滅させていきましょう。」
ゲイル様が言いました
私は何をすればいいのでしょうか?
私には何が出来るのでしょうか?
「私は何をすれば……」
ユキ様が私に言います
「ロキシー様。貴方には私達を助けていただきたいのです。おそらく全力の結界を維持し続けるには、私の魔力では全然足りません。貴方のお力で私達の魔力を回復してください。」
そうです!
私には生命力を与える力があります
疲弊する皆様を回復すればいいのです!
「わかりました!」
私は元気に答えました
タイヨー君が言います
「作戦は決まったね!隕石が少しでも遠いうちに対処した方が地上への影響は少ない。早速行動に移すよ。空にとても大きな爆発の光が見えたら、それは僕が隕石を攻撃したと思って。しばらくすると熱波が届くかもしれないから結界を張ってね。僕は隕石を攻撃しながら戻ってくるよ。ゲイルと紅炎は上空に待機して、近付いてきた隕石を順次撃ち落として。流れ星が見えたら、それが隕石の破片が落ちてきた合図だよ。」
タイヨー君がそう言うと、皆が声を揃えて返事をしました
「了解しました!!」
私はタイヨー君に言います
「絶対に無事に戻ってきて!!」
タイヨー君は私を優しく抱きしめて言いました
「任せてね。行ってくるよ。」
そしてタイヨー君は姿を消しました
私はタイヨー君のぬくもりを抱きしめ無事を祈りました
拠点では、皆が空を見上げていました
時刻は夕方になり、太陽は沈み始めました
私はとても不安になってきました
「どうなってしまうのでしょうか……」
すると、ユキ様が私を抱きしめ言いました
「大丈夫です。この世界でタイヨー様より強い方はいませんわ。私達は私達に出来ることをいたしましょう。」
その時誰かが大きな声で言いました
「あ!空が光った!」
それに反応して皆が空を見上げます
はるか上空で、まるで星が爆発するような光が見えました
そしてその光は、上空を昼間のように照らしました
「『結界』!!」
ユキ様が急ぎ、氷の結界魔法を上空に広く展開しました
「ぐっ!凄い熱量!」
ユキ様の氷の結界が溶けていきます
「援護します!『祝福』」
私が祈ると皆が金色に輝きました
「これならいけます!」
ユキ様が白氷竜の姿になりました
氷の結界は、みるみるうちに強固な物へと変化しました
「さすがロキシー様です!」
「援護は任せてください!」
ゲイル様と紅炎様もドラゴンの姿になりました
「私達も行って参ります。」
そう言うとドラゴンは羽ばたき、勢いよく飛び立ちました
「お願いします!世界を……タイヨー君を!」
私は叫びました
飛び立ったゲイル様と紅炎様が見えなくなってしばらくした後、はるか上空で大量の光線と爆発の光が見えました
ゲイル様達の攻撃が始まったのでしょう
それは激しさを増しながら徐々に近づいてきます
そして近づくほどその規模の大きさがはっきりと分かります
あれは絶対に地上に落としてはいけない!
はっきりと分かりました
やがて空一面に流星が流れてきました
あのひとつひとつが隕石の欠片でしょう
ユキ様は結界を張り続けました
私はそれを援護し続けていました
時々結界まで落ちてきた隕石は、ライア様とディーネ様とイフリート様が攻撃魔法で破壊していきます
そうして耐え続けていると、やがて上空が静かになりました
タイヨー君達の攻撃が終了したようです
まだ流星群は収まりませんが、結界まで落ちてくる隕石は減ってきました
「何とかなったようですね。」
「はい!」
ユキ様と私は喜び合いました
そして私が空を見上げたとき、それが目に入りました
ひとつ、大きな流れ星が落ちてきました
それは王都に向かって落ちていきます
その流れ星は、ユキ様の結界を突き抜けるところでした
「だめ!!」
このままではあの隕石は王都に落ちてしまいます
あの大きな隕石が落ちたら王都中の建物、人々すべてが一瞬で消滅してしまうでしょう
それは絶対に防がねばなりません!
世界樹さま!私に力を!!
その刹那、私はその場から瞬間移動しました
少し前の時間……
王都では、夕刻にいきなり明るく光った空に人々が驚きました
そして何度か起こる爆発のような光
皆はその光景に、この世の終わりを感じ恐怖しました
その爆発は徐々に近づき、数も増えていきます
話を聞いたスミス王も、思わずベランダに出て空を見上げました
そこに見たものは、はるか天高く上空で光る、複数の光線と爆発のような炎の光でした
「いったい……何が起きているというのだ……」
しばらくすると、今度は流れ星が空いっぱいに降ってきました
このような光景は今まで見たことがありません
スミス王は恐怖を感じつつも、その光景をとても美しいと思いました
スミス王だけではなく王都の人々も、その光景を美しいと感じていました
その中で、ひと際大きく明るい流れ星が、こちらに向かって落ちてきます
「あれは……」
その流れ星は、天高くに覆われた結界らしきモノにぶつかりました
流れ星は結界に阻まれ一度はスピードを落とすも、すぐに結界を突き破り、王都に向かって落ちてきます
王都の全ての人々が、それを見上げていました
あまりの事にどうする事も出来ず、声をあげることも出来ません
皆が終わりの時を覚悟しました
その時です
「ダメです!!」
突然、その流れ星の前に少女が現れました
空中に突然現れたのです
その少女が『結界』と叫んだ途端、少女の30メートル程前に金色の壁が現れ、流れ星の落下を食い止めました
少女の身体は薄く金色に輝いていました
彼女の背には、白い鳥のような大きな羽根が生えております
それはとても力強く羽ばたいていました
そして彼女の目は、美しく金色に輝いていました
少女が流れ星を食い止めていると、濃い緑色のドラゴンが天空から現れました
そのドラゴンが、少女に向かってドラゴンブレスを吐きました
それを見ていた人々は悲鳴をあげました
しかしドラゴンブレスは少女では無く、正確に流れ星を撃ち抜き消滅させると、再び天高く消えていきました
王都の人々はただ無言で、ひとり空中に残った少女を見上げていました
その少女は王都を見下ろすと、優しげな微笑みを浮かべました
「天使さま……」
「女神さま……」
「いや……あれは……ロキシー王女ではないか?」
「ロキシー王女は天使さまだったのか!?」
「いや!女神さまになられたのだ!」
「とにかく私達は助かったのよ!!」
「ロキシー王女!万歳!」
「ロキシー様!ありがとう!」
大歓声にロキシーは軽く手を振り、王城のベランダに降り立ちました
「間に合って良かった。スミス王も無事で何よりです。」
金色の目をしたロキシーが言いました
「あなたは……生命神さま!」
「はい。お久しぶりです、スミス王。ロキシー様の願いにより参上しましたが、久しぶりの父娘の対面です。ロキシー様に身体をお返しいたしましょう。事の詳細はロキシー様に伺って下さい。」
そう言うと、ロキシーは静かに目を閉じました
すると背の翼が金色に光り、光が収まると共に翼は消えました
そして、再び目を開いた時には金色の目では無く、いつものロキシーでした
そうです
この瞬間、私の身体に私の意識が戻りました
そしてたった今、私の身体で世界樹さまが行った神の奇跡を思い出しました
私はみるみるうちに顔を真っ赤にして、しゃがみ込んでしまいました
「世界樹さま!いくら何でも目立ち過ぎです!」
あ、ロキシー王女だ
スミス王は確信しました




