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第29話 兄姉同盟結成

 翌日の放課後、俺は校舎裏に向かっていた。


 女王様からの呼び出しに応じないわけにはいかない。


 窮地は脱したと思うが、まだまだ予断を許す状況ではない。下手すれば俺の学校生活があの投げ銭スクショを晒される前に終わってしまう。ここは気合いを入れて対応しなければならない。


 昨日は家に帰ってから彩音に状況説明を求められたが、週末にすべて報告すると言って部屋にこもった。

  

 そう、まだ問題は完全に解決していないのだ。


「あっ」


 向かっている途中、土屋と遭遇した。


 土屋はにやにやと笑いながら近づいて来た。


「昨日は大変だったみたいだね、佑真君」

「……俺に借りがあるとか言ってたのに、助けてくれなかったな」

「申し訳ないんだけど、相手が氷川さんだと助けられないよ。下手に口を挟めば面倒事になるのは目に見えているから」


 さすがの女神様も相手が女王様だと厳しいか。


 あの女王様を無効化できるのは妹の花音くらいだろうな。逆の立場なら俺も見てみぬフリをしただろう。


「それで、氷川さんは何の用事だったの?」

「別に」

「言えないような内容って……まさか、告白!?」


 土屋の目が輝いた。


 残念ながら違う。というか、死刑執行みたいな顔で連行された俺の姿から恋愛系を想像するのはおかしいだろ。


 素直に内容を教えるわけにはいかない。氷川がシツコンだと他人に知られるとまずい。情報を漏らした俺の身が危険だからな。


「恋愛系じゃない。ちょっと用事があっただけだ」

「教えたくないなら仕方ないか。あっ、氷川さんに関わることは力になれないけど、それ以外なら何でも相談してね。友達として出来る範囲の協力はするから」

「期待してるよ」

「任せて。これでも友達思いなんだから。じゃ、翼ちゃんが待ってるから行くね」


 土屋が去っていく。

 

 後ろ姿をしばし見ながら歩き出した。


「っ」


 一歩目を踏み出したところで近くにある階段から視線を感じたので顔を向けると、そこには疎遠になった幼馴染が立っていた。


 その顔は何だ?


 あいつは信じられないものでも見たような顔をしていた。


「……」


 何を話していいのかわからず、俺は逃げるようにしてその場を後にした。


 ◇

 

 校舎裏に到着した。すでに氷川が来ていた。


「よく来てくれたわね、同志よ」


 勝手に同志認定しないでくれ。それに、来るに決まってるだろ。あの言い方で来なかったら後が怖い。


 しかし同志か。これはお互いにシスコンという意味合いで使ってきたんだろう。不知火の時と違って今回の同志認定はちっともうれしくない。


「あれからわたくしも花音ちゃんと話し合ったのよ。最近はあまり学校での生活について聞いていなかったから、とても有意義な時間だったわ」

「そいつは良かったな」

「花音ちゃんと会話をしてあなたの誤解は完全に解けたわ。確かにあなたは花音ちゃんの友達である神原彩音さんの兄で、あそこで出会ったのは偶然だと確認が取れたの」

 

 氷川は頭を下げた。


「まずは謝罪します。無理に連れ出して申し訳なかったわね、ゴメンなさい」

「いや、謝ってもらえたならそれでいいさ」


 この件に関しては俺も強くは言えない。


 妹に脅されて花音を口説こうとしたのは事実だから。おまけに他の姫にも手を出そうとしている。実際には口説けていないわけだが、不誠実な野郎であるのは間違いない。


 氷川は頭を上げた。


「そう言ってもらえると助かるわ。あっ、それから風評被害のほうは安心して。あなたには生徒会の仕事を手伝ってもらったと伝えておくから」

「ありがたい」


 これで彩音の奴に文句言われなくて済む。


 謝罪が終わったので話は終わりと思っていたのだが、氷川は「さて、それでは本題に入りましょうか」とか言い出した。


「本題?」

「あなたの話を詳しく聞いたわ。妹の神原彩音さんと仲良しで、とても真面目で誠実な人と言っていたわ。あの花音ちゃんが男子を手放しで褒めるのは初めてのことよ。誇りなさい」


 裏で俺を褒めてくれたのか。花音はいい子だな。


「まっ、残念ながらあなたがシスコンだとは見抜けなかったようだけどね」


 シスコンじゃないからね。


「あなたは妹を病的に愛しているシスコン。そうよね?」


 違います。シスコンはおまえだけです。あの妹を可愛がる要素とかゼロです。学校では猫を被っているだけです。


 心の中でそう言いながら。


「その通りだ」


 口から嘘が飛び出した。しかも渋くて良い声で。


 待ってくれ、俺を嘘吐きとか軽蔑しないでほしい。こうでも言わないと女王様の手によって亡き者にされてしまう。命を守るためなら仕方ない。


「あなたは妹である彩音さんの生活を第一に考えており、わたくしの可愛い天使との尊い空間を守りたいと考えている。実は花音ちゃんたちと出会った時、あなたは自分の妹を尾行していた。そうでしょう?」


 全然違いますけどね。


「よくぞ気付いたな。正解だ!」


 他に選択肢はない。この勘違いに乗っかろう。


 俺の返答に気分を良くしたのか、氷川は満足気に大きく頷いた。


「迷いのない返事は好ましいわ。自分がシスコンではないと言い張る輩は気持ち悪いけれど、ここまで潔いと清々しいわね」


 褒められている気は全然しないが、俺は評価されているらしい。


「そんなシスコンの神原佑真君。わたくしと兄姉けいし同盟を結成しましょう」

「同盟?」

「わたくしとあなたは互いに自分の妹を大切に想っている。そして、互いの妹は友人となった。これはめでたいことよね」

「う、うむ」


 全然めでたくないけどな。


 花音みたいな良い子があの腹黒腐れ外道の友達になってしまったのは最低である。それに対しては俺のせいでもあるので、これを咎められるのであれば土下座でもしよう。


「同盟って具体的には何をどうするんだ?」

「二人に近づく障害を排除するの」

「……排除」


 物騒なこと言い出したぞ。


「そうよ。見ているだけで癒されるあの素敵な空間を守るの。それがわたくしたちの使命よ」

「な、なるほど」

「基本的には接触前に注意し、もし接触されたら武力を行使して止めるの。わたくし一人だけではカバーできないところもあったけど、あなたの協力があれば全部上手くいくわ。例えば生徒会の用事でどうしても抜けられない時とかね」


 良いことを言っている風だが、完全にプライバシーの侵害だな。


「わかった。いいだろう」

「同盟結成ね。では、天使たちを一緒に見守っていきましょう」

「お、おう」


 俺と氷川はがっちりと握手をした。


 ……これ、バレた時は地獄だな。

 

 いずれ最悪な事態が訪れるだろうという予感を胸に秘めながら、ここに薄氷の兄姉同盟が結ばれた。

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