ツンデレ師匠
「アンジェ、いま手離せないからちょっと待ってろ」
師匠を待つ間、棚に置かれた魔導具を眺める。
師匠の魔導具は、相変わらず繊細なデザインで美しかった。カオナ王国のダンジョンで採れる魔金や魔銀をふんだんに使っている師匠の魔導具は、ただのランプでも芸術品として扱われる。
師匠は、妥協した作品を世に出さない。
だからか、師匠の作品は、貴族が購入するにしても高額だ。師匠のお客は、かなり限られている。お店で購入した人より、この国の王様が他国への手土産として持参したり、祝いの品として贈られて手に入れた人の方が多いんじゃなかろうか。
防犯の魔導具でガチガチに守られている店は、悪意ある人物は近寄れないし、普通の人でも条件が合わないとお店の存在がわからないらしい。
私がいた時に来店してきた人は、お忍び服のこの国の王様しか見たことが無い。とても気さくな方で、数回来店するまで正体に気づかなかった。
私がこのお店を見つけたのは運命だったと思う。
10歳になって冒険者として旅をしていた時、魔銀目当てにダンジョンに潜ろうと寄ったこの国で、ディスプレイされていた魔導具に魅せられてこの店のドアを開けた。
「なんだ、珍しい客が来たな。小さなお客さん、何が欲しいんだ?ここの魔導具は高いぞ」
カウンターに座っていた師匠は、私がお店に入れたことに驚いた顔をしてから嫌味なニヤニヤ笑いになって声をかけてきた。
私は、そんな不遜な態度の店員に文句も言わず、ディスプレイの魔導具をべた褒めして作成者の紹介を頼んだ。
それは、師匠には想定外のリアクションだったらしく、私の勢いに面食らった顔をして、最後にはバツが悪い顔をしていた。
「お、おう。ここにある魔導具は全部、俺が作ったやつだ。…なんだ、文句あっか!?アァン?!」
作成者は女性だと勝手に想像していた私は唖然としてしまって、師匠にツンギレされた。
そこから褒めて褒めて褒めまくり、ご機嫌の回復に努めた。結果、弟子入りの許可を貰った。
「ああ!もう!しょーがねーから弟子にしてやる!基礎だけだぞ!覚えたらもう来んなよ!」
ツンデレの師匠は扱い安い人だった。
ちょっと心配になるくらい。お店の防犯がガチガチなのも納得した。
意外と教えるのが上手かった師匠は、結局、私が魔導具師資格が取れるまで師事させてくれた。
いくら私が魔法が好きで勉強していたといっても、素人が数ヶ月で資格に受かる程の教え上手なのに、性格がツンデレ過ぎて教師にここまで向かない人がいるとは…いや、私には最高の師匠だけど。
資格に受かった際には、私が一目惚れした師匠の魔導具を贈ってくれた。
「ほら!祝いだ!これ持って帰れ!」
駆け出し冒険者じゃ買えなかった師匠の作品。
私が弟子入りしてすぐにディスプレイから下げられていたから、売れてしまったと思っていたのに。
感激して抱き着いた私に、師匠は抱き返すこともできずにワタワタしていた。
「師匠、ありがとうございます」
「おう。まあ、なんだ、たまには顔出してもいいぞ」
後半はボソボソと小声だったが、私はしっかり聞いた。
それからは、年一回は手土産を持って顔を出している。なんだかんだ歓迎してくれる師匠は、40歳を超えたおじさんなのに可愛い。
「なにニヤニヤしてやがる。終わったぞ」
「昔を思い出していただけですよ。師匠の作品は昔から美しいなって」
「は、はあ!?うっせえ!後で表に出してないヤツも見せてやる!」
私好みの作品、また取っといてくれてるんだ。
…ツンデレは健在だなあ。




