精霊の導き
私は、目の前の光景に愕然とした。
こんなに吃驚したことは、今までの人生で一度もないと思う。
半開きの口からコポリと空気が漏れ、慌てて口を閉じた。
掴んでいた腕が引っ張られ、唖然とした顔で沈んでいくクロード様に気づき、慌てて“バブルバリア”の魔法を使う。
バブルバリアの中で、クロード様がゴホゴホと飲んでしまった水を吐き出した。
私は、クロード様の背中を擦りながら、もう一度目の前のモノに目を向けた。
今日は、やり直しプロポーズの時にきた大森林の中の泉に、ピクニックに来ていた。
ここはいつ来ても、スタープラティアが咲き誇り、緩やかな風が気持ちいい。
敷物をしいて、お茶を飲みながらゆっくり読書をし、穏やかな休日を過ごしていた。
少し散歩をしようと、泉の側を歩いていた時、不意にクロード様が泉に落ちた。
流石の私も慌ててしまい、思わず泉に飛び込んでしまったのだ。
沈んでいくクロード様の腕を掴み、引き上げようと腕を掴み、顔をあげると、そこには《人ならざるモノ》がいた。
ゆらゆらと水中に差し込む光は、半透明の美しい人型の何かを照らしていた。
水に溶け込むように全身が碧いその何かを、私は《精霊》だと認識した。
膝丈までありそうな豊かな髪は水中でもわかるほど美しく揺蕩い、壮麗な顔と体躯は性別を感じさせず、見たことの無い衣装を着るその姿は、畏敬の念を起こさせる。
「コホッ…アンジー、あの、あの方は、精霊…?」
「たぶん。人でも魔物でもないのは確かです」
クロード様が小声で問い、私も小声で答える。
《精霊》は、私達を仔細に眺め、微かに微笑むと、泉の底へと向かう。途中で振り返ると、私達に手招きをした。
私とクロード様は、目を合わせると頷きあった。
「行きましょうか」
「うん、なんか気になる」
私達は、《精霊》に付いて行くことを選んだ。
思っていたよりも深かった泉を、ゆっくりと進む。
大きな岩や巨大な倒木をくぐり抜けると、目の前に横穴が現れた。
《精霊》は、迷いなく横穴へ進む。
私達も、真っ暗な横穴へと進んだ。
暫くすると、碧い光がポツポツと見え、更に進むと、そこには碧く光る美しい水晶の洞窟が広がっていた。
「美しい…」
「きれい…」
余りの美しさに、ほぅとため息が漏れる。
「こんな素晴らしい景色が泉の中にあったなんて」
「付いてきて良かったね!」
私達がキョロキョロと景色を眺めて感動していると、《精霊》は音もなくクスクスと笑い、ついっと手を振った。
30センチ程の美しい六角柱の水晶が三本、ふわっと動き、私の目の前に浮かぶ。
「こちらを頂いて宜しいのですか…?」
私は、《精霊》に恐る恐る尋ねた。
《精霊》は、目を細めて微笑み、頷いた。
そして、振り返ると水に溶けるように姿を消した。
手の中にある三本の水晶を見つめ、唖然とする。
「アンジー、その水晶貰ったの?」
「はい、そのようです。しかし、これは国王陛下に報告しなければいけません」
「えっ?なんで?」
「これは、浄化水晶です。このサイズは見たことがありませんが、間違いないでしょう」
「ええ!?え、まさか…ここの光は全部…?」
「浄化水晶だと思います。あの泉の周辺に魔物が近寄らないのは、ここの水晶の影響だと思われます」
「もしかして、ものすごい発見…?」
「そうですね。でも、ここは秘匿しなければいけません。《精霊》の導きがなければ、来てはいけない場所なのだと思います。勝手に水晶を盗れば、どうなるかわかりませんよ」
「わ、わかった!言わない!」
また来れるかわからない、美しい水中洞窟を堪能してから、私達は地上へ戻った。
「くちゅんっ!くちゅんっ!」
クロード様の可愛らしいくしゃみが森に響く。
「ああ、私達濡れたままでしたね。急いで帰ってお風呂に入りましょう」
温かいお湯に、二人で浸かる。
広い浴槽で伸びをして、ため息を吐いた。
「すごい体験したね〜」
「精霊っていたんですね」
「次に行くときは、何かお供えした方がいいかな?」
「確かに。よく聞くのは、お酒か花でしょうか?」
「両方試そうか」
「そうですね」
チャプチャプと浴室に響く音を聞きながら、天井を見つめぼーっとする。
「ねえ、アンジー」
「なんでしょう?」
「あのね、あの水晶なんだけど、たぶん、結婚祝いだと思う」
「は?」
「ほら、あそこでプロポーズしたじゃない?あれを精霊がみてたんじゃないかな」
「なるほど?それはロマンチックな解釈ですね」
「うーん、たぶん正解だと思うな〜」
精霊(あの子、また来てる。ああ、やっと番ったのね。お祝いしましょう)
クロード大正解!
実は、アンジーは以前から精霊のお気に入り。
精霊の加護を持ってるけど、人にはわかりません。
今回は接触があったけど、実は各地で精霊がオマケくれてます。
狂った幸運値の理由は今後も判明しないよ!




