浄化水晶
次の日、朝からアルフォンス殿下の執務室にクロード様と一緒に向かった。
「陛下に謁見の申込みをしたいのです。少々込み入った話になるので、アルフォンス殿下にも同席願いたいのですが」
「それは厄介事ということか?」
「いえ、厄介事ではないと思います」
「わかった。本日の午後一に時間を取って貰えるように私から言っておく。アンジェリーナがここに来てから向かうから遅れないように」
「かしこまりました」
師団長に仕事を抜ける許可をとり、昼食を魔術師団の食堂で食べて、アルフォンス殿下の執務室に急ぐ。
執務室の前には、既にアルフォンス殿下とクロード様が待機していたので、合流して国王陛下の執務室に向かう。
「「失礼します」」
「よく来た。急ぎの要件があるらしいの」
「はい。ハルトン伯爵夫妻からお話があるそうです」
「お時間を頂きありがとうございます。申し訳ございませんが、人払いをお願いします」
「ほう。わかった」
少しだけ気安い空気をしていた国王陛下が、私の言葉を聞くと目を細め、威厳ある空気に変わった。
陛下が手を上げると、部屋にいた侍従や侍女、護衛が部屋を出て行く。
残ったのは、陛下と宰相閣下、国王陛下専属の近衛騎士隊長だけだった。
「これでいいか。何があった?」
「昨日、夫のクロードと外出した先で、《精霊》に遭遇いたしました。その際、《精霊》より下賜された物がございます」
「何?《精霊》だと?」
「またお前達は予想の斜め上を行くのか…」
目を丸くして驚く陛下と、ため息を吐き顳顬を抑えるアルフォンス殿下、宰相閣下と近衛騎士隊長は声を出さなかったが、驚愕の表情を隠せていない。
「それで何を貰ったのだ?」
「浄化水晶です」
「何!?浄化水晶だと!?」
「はい。こちらで出して宜しいでしょうか?」
確認をとり、空間魔法から美しい六角柱の浄化水晶を一本とりだした。
「これは…なんと美しい…」
「これ程大きい浄化水晶は見たことがない」
陛下と殿下が浄化水晶を手にとり、感嘆のため息を漏らす。
浄化水晶は、かなり貴重な品である。
今まで見つかったのは、どれも偶然だ。川や湖などの水辺で拾われて、献上された過去があるだけだった。
たぶん、見つかった場所には、水の精霊がいるのだろう。あの泉のように、水晶の洞窟があるかはわからないが。
そして、今まで見つかった浄化水晶は、大きさが10センチから15センチ程の丸い小石の形をしていた。
30センチもある六角柱の浄化水晶など、聞いたことがない。
浄化水晶は、“奇跡の石”とも呼ばれている。
確認されている効果が凄いのだ。
一つ、魔物を寄せ付けない。
泉の周りに魔物がでなかったように、浄化水晶を献上された領主の領地で、魔物被害が減少した記録が数多くある。
一つ、瘴気を浄化する。
死者は火葬し弔うものだが、死体が放置された場合は、その土地の魔素の影響でアンデッドとなることがある。
過去に、戦場でアンデッドが大量発生し、戦場とその周辺がアンデッドの放つ瘴気で汚染された。
暗く淀んだ霧につつまれ、草木が枯れた不毛の地は、浄化水晶を祀った社を建てたところ、数年で復活したそうだ。
一つ、病を癒やす。
流行り病が村を襲い、沢山の人が寝込んでいた時に、川に行った幼い少年が浄化水晶を拾って、村の精霊の社にお供えした。数日で流行り病が終息したそうだ。
この記録を元に、各国では流行り病の地に、国が保管している浄化水晶を祀るようになった。
後は、献上せずに手元に置いていた商人の商売が成功したとか、武器の装飾にした冒険者が成功したなんて噂もある。
「この水晶を《精霊》から貰ったのか?」
「はい。実は、同じサイズの物を三本頂きました」
「は!?これを三本だと!?」
「おいおい…確かに厄介事ではない。ないけども…」
「何故、貰うことになった?」
「それは…」
私は言葉に詰まった。本当になんでだろう。
「失礼します。発言をお許し下さい。《精霊》に遭遇した場所は、アンジェリーナが気に入って、昔から何度も訪れている場所でした。そして、結婚前に私が改めてプロポーズした場所でもあります。
今回、私達は結婚してから初めてその場所に訪れました。浄化水晶は、《精霊》からの“結婚祝い”かもしれません」
クロード様、それ言っちゃうの…?
確かに貰った理由はわからないけど、それはないと思うよ?
「“結婚祝い”…?」
「ちなみにどこだ?」
「クローマ大森林です」
「お前等、本当に、どこまでいってんだ!」
「…そうか、《精霊》からの“結婚祝い”か。フハハ!相変わらず面白いな!確かにアンジェリーナなら有り得そうだ!」
殿下は呆れた顔をしている。陛下は突然笑い出した。
なんか、スミマセン。
「それで、アンジェリーナはこれをどうするのだ」
「はい。二本は献上したいと思っております」
「そうだな。全ての献上は辞めた方がいいだろう。贈ってくれた《精霊》に悪い。しかし、ハイエンドル公爵家やロウウェル伯爵家に渡さなくていいのか?」
「ロウウェル伯爵家は、育成している魔馬への影響が不明なので必要ありません。何かあれば、私の分を貸出します。ハイエンドル公爵家には、私の分から切り分けるつもりです」
「これを切り分けるのか!?それなら、一本はそのまま残し、一本を献上、一本を切り分け用にしなさい」
「なるほど。ご配慮頂きありがとうございます」
「では、この一本はいますぐ献上の手続きをしよう。宰相、頼むぞ」
「承知しました。ハルトン伯爵、こちらへ」
無事に浄化水晶一本の献上が終わり、私とクロード様はほっとして肩の力が抜けた。かなり緊張していたようだ。
「アンジェリーナの狂った幸運値が仕事し過ぎだ…」
殿下が疲れた声でぼやいてる。
アルフォンス殿下、ごめんなさい。でも、不可抗力です。
陛下「やっぱりアンジェリーナは面白い!」
宰相「ドラゴンの次は精霊かよ…」
隊長「精霊の話、もっと聞きたかったな」
アンジーもクロードもボロが出ないように洞窟や泉の話は一切してません。特にクロードはお口チャック!




